遙かな昔、空間と呼ぶには空間でもなく、光も闇も音も存在しない無があった。いや、無と呼ぶにもそれが果たして『無』なのか『無という有』なのか、比較するものがなにもないそこでは、判断する事もできなかった。
その無の中で何かの意識が目覚め始める。
その太古の意識は静寂の中で己を考え始める。
時の流れもないそこで、その意識の誕生は時を産んだ。
だが、その意識はそんなものを感じることなく、考える。
「わたしはなんなのだ?・・・・ここはなんだ?・・・・どうしてここにいる?」
光があるわけでもなく闇があるわけでもないそこでは、自分自身の姿さえ見えない。意識はただ己がそこに浮遊していることと、そして何もないことに気づく。
それに気づいた事が、もう一つの意識を呼んだ。いや、産んだというべきだろうか。
ぽっとその意識の横に光が現れ、太古の意識は初めて『見る』ということを知った。
その意識の横に、光の花が咲いていた。
徐々に大きく成長していくその花は周囲を照らしはじめていく。小さな空間から大きな空間へと光を広げ。
その光に照らされ太古の意識は己を知る。
黄金に輝く花の輝きを弾いて銀色に輝く己自身の姿。
「銀龍・・わたしの守人・・」
「『銀龍』・・それがわたしの呼び名か?」
不意に呼びかけられた意識は呟く。
「わたしが銀龍ならが、黄金色(こがねいろ)に輝くお前は金龍か?」
「いえ、わたしはあなたのような龍にはなれませんでした。」
「いや、形こそ違えど、お前はわたしと同じ者だ・・・感じるのだ、お前は同じ存在、同じ龍。」
それから長い時の流れの中、銀龍と金龍は共にその空間で呼吸していた。なにをするでもなく、ただお互いを見つめそっと寄り添い続けた。
ある時、その静かな時の流れの中の銀龍と金龍を邪悪な意識が襲った。金龍を欲したその邪悪な意識と銀龍は闘う。
そして、その戦いが今少しで終わろうとていた時、邪悪な意識は、銀龍の一瞬の隙をつき金龍の中へその花びらの中へ飛び込んだ。
「金龍!」
「大丈夫です・・・わたしは・・あなたがいてくださる限り・・」
邪悪な意識が花の中へ飛び込んだその瞬間、金色の輝きは消滅し、辺りは太古のように何も見えなくなった。が、それはほんの瞬間のできごと。再び光を取り戻した金龍は、驚く銀龍に微笑む。
そして、再び以前のような静けさが戻った。
が、しばらくして変化をし始めた金龍に銀龍は驚く。
光でしかなかった金龍は闇を知り、その身に命を育む母と変化し始めていた。
ゆっくりと開いた金色の花びらの中から現れたのは、同じように輝く金色の球体。
「銀龍・・・わたしの中に、この球体の中に一つの世界が産まれたわ。」
「世界?」
「そう、わたしたちの世界。あなたとわたしとで守っていくべき幾千、幾万の命の大地となる世界。」
「世界・・か・・・。」
銀龍と金龍は心を合わせ、黄金の球体の中に自分たちの子供と言える龍を誕生させた。
最初に地龍・・・それはそこに大地を成し、次に送った水龍・・・それはそこに水を降らせ、大地を剔り、川を成しそして大海を成していく。
そして、その大地に芽吹いた植物が遠くまで命を広げることができるようにと風龍を、次に産まれ出た生命が寒さに震えるのを見て、炎龍をその地へ送った。
「金龍・・・」
一つの世界をその身の中に成した金龍は、満足したかのようにゆっくりと眠りにはいっていく。それまでの疲れを癒すべく安らぎの眠りに。
銀龍は、そっと金龍をその全身で包み込み、彼女を、世界を見守る。
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COSMOSさんからいただいた神龍のイラストにほんの少し手を入れました。
銀龍と金龍、龍の形になりきれないまま生を受けた金龍は、花の形をしています。
彼らは心と心で会話し、お互いを認識します。
イラスト、ありがとうございました。m(_ _)m |
世界は、銀龍の守りの中で平和に時を刻んでいた。
だが、その中に邪悪な存在も芽吹いていた。その邪が世界を脅かすほどの勢いを持ったとき、銀龍は己の代わりとなってその邪を払う人物の必要性を感じた。やすらかな金龍の眠りを妨げないようにと、銀龍は騎士となるべく人物を捜す。
意識を可能な限り飛ばし、その意識に応えてくれた人物、銀龍はその者に邪を払うことを命じ、異世界で見つけたその剣士は快くそれを引き受けた。
それが銀龍の守護騎士の誕生である。その初代銀騎士であるエルフィーサは、邪悪なる者の根絶とともに守護騎士の名を世界に広めた。
それにならい、銀龍と金龍の子供である地龍、水龍、風龍、炎龍もそれぞれ守護騎士となりうる人物を捜し、世界の守護を任じ、名実共に守護騎士の名は世界に浸透していったのである。
神龍である世界の守護龍とそれらの神殿の守護一族、そして、守護騎士の働きで、世界は再び平和で静かな時を刻んでいく。
その世界で、守護騎士の名は創世神話と共に人々に語られていく。
その筆頭である銀龍の守護騎士は、大地を瞬時にして破壊することもでき、また大海原に大地を出現させることもできると言われた。
そして、創世龍の子供である神龍たちの守護騎士も又、そこまでの力はないにしても、その類い希な剣の腕と共に伝説化されていく。
それは、普段守護騎士としての顔は伏せておく彼らの所以である。その人物を知る者は、神龍の神殿を守る守護一族の中心人物のみ。そしていざというとき、神龍の光と共に姿を現す守護騎士は、その剣の腕と共に語り継がれ、神龍の守護騎士あるいは龍騎士という呼び名で人々のあこがれとして、剣士の目標として存在していた。
長いときの流れの中、神龍への信仰心は薄れ、忘れ去られがちとなっていったが、その強さ故、守護騎士、あるいは龍騎士の名は、幼い頃伝説として聞かされ、人々から忘れられることはなかった。
そしてその中で、銀騎士がいるから金騎士もいるだろう、そしてその腕は銀騎士と同様か、さもなくば、その上?と人々から思われていた。
が、実際は、金龍の騎士はそれまでに該当者がなく、実はミルフィーが初めてなのである。故に、それぞれの神龍の身体の一部分から創ったと言われる守護騎士の剣は、当然それぞれの騎士に渡されるべきなのだが、不在である金龍の騎士のものは、地龍に預けてあった。
それは、ひとえに、銀龍の気に入る剣士がいなかったという極めて単純な、そして納得できる理由からである。
なぜかというと、守護騎士と神龍は心を通わせお互いを知り会話をする。銀龍としては、たとえ守護騎士だとしても自分以外の男と金龍の心を通わせたくはなかったからなのである。俗世で言うところの妬きもちなのだが、ともかく、銀龍は、自分自身とも心を通わせることが出来、且つ金龍ともそれが可能であり、剣士としても十分満足いく腕のある女を望んでいた。
その理由から銀龍のお眼鏡にかなう人物がそれまでになく、そしてようやくかなったのがミルフィーだったわけだが、特にミルフィーは、その気性が銀龍に金龍を思い起こさせた。
そこに金龍がいる、ふとそんな気にさせてくれるミルフィーに、銀龍は満足し、そして甘いのである。そう、なぜか甘くなってしまうのである。別にミルフィーに心を移したわけではないが、いや、そんなことは断じてあり得ないが、ともかく、銀龍はミルフィーを通して金龍との再会を心待ちにしていた。
そんなわけで、世界を違えてしまった銀龍と金龍の心を結ぶ媒体。その媒体であるミルフィーには、どうしても甘くなってしまうのも、仕方のないことなのかもしれなかった。ただこれは、銀龍の心の中のみの考えである。誰も知らない。
・・・金龍でさえ?