
その9・銀龍の示した道(2)
−ズズズ・・・・− 「預かってと言われてもだな・・・ミルフィー・・・」 当然、シモンは戸惑う。黄金龍の剣など手にできるわけはない。お飾りならまだしもそれは、本物の神剣。 「私、いやなのよ、そういうの。」 「し、しかしだな・・・・」 神龍である銀龍に直接手渡されたと言っていいその剣を、他の者が手にすることなどできるはずはない、とシモンは焦る。例え使うのではなく、預かるのだとしても。 「私は今の剣で十分だし、これを持ってると認めてしまったような気がしていやなのよ・・。」 腰にさしている剣を指さしてミルフィーは不機嫌そうに言う。 「自分が金龍の騎士だってことをか?」 「そう。」 「いいじゃないか?」 「私のガラじゃないのよ、そういうの。」 つかつかっとシモンに近づくと、ミルフィーは彼の手をぐっと握って短剣のサイズとなった黄金の剣を握らせようとした。 「熱っ・・・」 「え?」 その途端、刺すような熱さを感じ、シモンは勢い良く手を引く。 「熱い?」 「だから・・・金騎士しか持てないんだろ?」 熱さを感じた手をさすりながら、シモンは小声でミルフィーに文句を言う。 「そんなものなの?」 「たぶんそうだろう。父から聞いたが、金騎士と銀騎士の剣は本物と、そしてそうでなく飾りというか、それでも名刀中の名刀だが、騎士という印としての剣があるということだった。残念ながらオレが父から受け継いだ剣は後者の方でな、本物は名を受け継いだ騎士が本物の騎士として神龍に認められたとき与えられるとかだったぞ?」 「そうなの?」 ミルフィーには熱さなど少しも感じられなかった。金色に光る綺麗な短剣、そうとしか目に写っていない。 「少しは自覚しろよな、ミルフィー?」 ラードが呆れたように言う。 「あんたは間違いなく神龍に選ばれた騎士なんだよ。しかも創世龍の金龍の!」 「だって・・・」 『だってもさってもないっ!』 不服そうな顔でそれでもまだ否定しようとしたミルフィーを、シモンとラードが睨んで同時に叫んでいた。 「・・・・し、しかたないわね・・・・・私しか持てないんじゃ・・・・」 小声でブツブツ文句を言いながら、ミルフィーは短剣に布を巻き付けて腰袋にいれ、そんな彼女をシモンとラードはため息をついて見ていた。誰もが憧れる神龍の騎士、そして、本物の神龍の剣。それを邪魔扱いする剣士がいようとは。 「で、これからどうする?」 「う〜〜ん・・・・・」 ドワーフの洞窟の入口に戻っていた彼らは、今一度入ろうとしたが、いくらセイタが祈っても大岩はびくともしなかった。眠ってる・・それがセイタの感じた今の大岩の状態。ヤイタならなんとかできるかもしれない、と気づいたセイタは必至になって心の中で呼びかけてみたが応答はなかった。 「ともかく、銀龍の剣を探すこと・・か?」 「どうやって?」 「世界各地にあると言われている創世龍の子供である残りの神龍の神殿を探し当て、彼らと会ってみる・・とかかな?」 「銀龍の神殿は?」 「残念ながらオレが知っていた神殿は、闇龍の最初の目標にされてな、主がいなかったせいもあり無惨な有様だ。」 「そこにはないの?」 「ああ・・・おそらくな。」 「あと、闇龍の情報も手にいれるべきだろ?」 シモンとミルフィーの会話に、ラードが口を挟む。 「敵情視察は必至だぜ?」 「そうね。」 「ああ。そうだな・・それはオレに任せてくれないか?」 シモンが自信ありげに提案する。 「さっきも言ったように裏世界には少しは顔がきくんでな。」 「だよなー、シモン=ラスダルードっていやー、ギャングのボスでも盗賊や海賊のボスでも一目置いてる殺し屋だもんな。狙った獲物は逃がさない。殺しは任せておけば100%間違いない。邪魔者を消すにはもってこいの悪党だが、狙われたら最後、こんな恐い相手はいないってな。」 「ラード!」 言い過ぎだと感じたミルフィーは思わずラードを睨む。 「事実だぜ?そうだろ?」 が、ラードはそう言って当たり前だという顔でシモンを見、シモンは苦笑いのような自嘲の笑みをみせる。 「そうだな・・・事実だ。」 「まさか銀龍の騎士のなれの果てだとは思いもしなかったぜ?・・剣の腕はなるほどな、とは思うけどな。」 「ラード!」 「・・・・・・」 過去とあの洞窟での真実は分かったが、それでもラードはまだ完全に許す気にはなっていなかった。 「それにまだあの説明はしてもらってなかったよな?」 『あの』とは、シモンが闘っていたセイタの母親にそっくりだった僧兵のことである。 「あ、ああ・・あの僧兵か?あれは・・・あいつが爆薬で侵入したのをみかけたんでな、オレは後を付けただけだ。あいつが誰なのか何が目的だったのかは知らん。・・ただ・・・あまりよくない感じはしたが。」 確かに僧兵の気は、あまりいい感じはしなかった、とラードもミルフィーも思い出す。しいていえば、禍々しい闇の気、そんな感じがした。 「・・・似てたけど、かあさんじゃないわ・・あんな怖い人、かあさんじゃ・・・」 その禍々しい気はセイタも、いや、こういったことは人一倍彼女は強く感じる。 「セイタ・・・」 その時を思い出したのか、小刻みに震え始めたセイタをラードはぎゅっと抱きしめた。 「ともかく、オレは別行動を取る。」 「逃げるんじゃないだろうな?」 「金騎士様との賭に負けたんだ。約束を反故にしたらどんな目に遭わされるかわかったもんじゃないからな。」 「どういう意味よ、シモン、それ?」 「銀龍とあれだけぽんぽん言い合うくらいだ。睨まれたらたまったもんじゃない。」 「シモン?!」 「大丈夫だ、連絡は取るし、時には顔も出す。」 わははははっ!と勢い良くごまかし笑いをすると、シモンは一人ミルフィーたちの元を去っていった。 その笑顔は、己自身を含んだ全てをそして道を見失い、自暴自棄になっていたシモンのものではなかった。 ようやく心の暗闇から脱出し、目の前に見つけた道。自分の存在の意義とそれまでに取った行動に対する償いの道。ミルフィーが、金龍の騎士が指し示してくれた道を行こうとシモンは決心していた。たとえ、その先に待つのが死であろうと。 が、ミルフィーはすっかりその気なのだが、果たして信用してもいいだろうか?と、ラードはまだ完全に信用したわけではなかった。 それはともかく、銀龍の示した道を進まないわけにはいかない。極めて不透明で不確かな道だが、ラードにはその道を進むことが彼の父やヤイタの行方の回答に繋がると感じていた。 それにしてもなにかとんでもない大事の中心に携わってしまった、とラードは不安そうなセイタに大丈夫だと笑顔を見せ、未だ銀龍に怒っているようなミルフィーを見つめていた。 (しっかし、金龍の騎士か・・・・・・銀龍がミルフィーに甘いのはそのせいか?) 金龍に弱いからその騎士にも弱いというか、だからあんなにぽんぽん言い返しても怒りもしない。 (普通、あんな口きいたものならその瞬間に神の怒りで消滅だよな?) 事実、銀龍は恐ろしいほどの威圧感を持ってそこにいた。それをものともしないミルフィーにも、そしてそんなミルフィーに寛容すぎる銀龍にも、驚いた。 (シモンが銀騎士だったってことも驚いたけどなー。やっぱミルフィーの方がすごいや。) どうすごいのか?つまりそれは、ミルフィーと銀龍とのやりとりのあまりにもの意外性になのである。 「ね、ラード?」 「なんだ、セイタ?」 「ミルお姉ちゃんが金騎士なら、銀騎士はお姉ちゃんの恋人になるのかしら?」 「さ、さー?どうなのかな?」 「きっとそうよ。でもってきっとすっごくかっこいい剣士なのよ、きっと。」 夫婦龍である創世龍の金龍と銀龍。そのことから思ったのか、夢みるようにうっとりとして言ったセイタの言葉にラードは思わず苦笑いする。 木にもたれ今後の行動を考えている目の前のミルフィーから、相当な腕の持ち主であり男でなければ、恋人になど、いや、近寄らせてはくれないだろうとラードは感じる。 「まさか、ミルフィーが合格と判断した奴が銀騎士っていうことになるとか?」 まるでその全権をミルフィーに任せたというような感じを、ラードは銀龍の言葉の端々から感じていた。 「それってひょっとして、普通に剣士としての腕や性格なんかで選ぶより、難しいんじゃないか?」 ミルフィーから合格点をもらえる人物、そんな者がこの世にいるのだろうか?なぜだかそんな気がした。 普段は朗らかで気さくだが、鉄壁の剣士、目の前のミルフィーからは、そんな気が漂っていた。 たとえ腕は認めさせられる人物が現れたとしても、男としてミルフィーの心に入っていくのは不可能に近いような感じがした。 |