「なんだって・・・あ、あんたが銀龍の騎士?・・あ、あんたが?」
目を丸くしてラードが驚く。
ここにこうしている理由とシモン自身のことを話してほしいというミルフィーの言葉に暫しの沈黙後、ようやく少しずつ話し始めたシモンの話は、信じられない事実だった。
できるのならば話したくはなかった。が、話さないですむ相手でもないとシモンは観念した。そう、ミルフィーがいい加減な説明・・とまでではないにしろ、中途半端な説明で納得して解放してくれるとは思えなかったのである。
「そうは言っても過去のことだ。それにオレは・・・正式に銀龍から騎士と認められたわけじゃいない。オレは騎士としてはまだまだ未熟だった・・なのに・・・」
「・・・あなたに殺されたってわけね。」
2人と視線をあわせるのが苦痛で、何もない虚空を見つめながら話していたシモンの肩が、ミルフィーの言葉でびくっと震えた。
「納得されて殺されたっていう感じもするけど・・・・それって銀龍の身勝手よね?」
「身勝手?」
ラードが不思議そうな表情でミルフィーを見つめる。
「だってそうでしょ?自分が死ねばそれでいいなんてその場しのぎの身勝手な行動よ。そのおかげでどれだけシモンが苦しむことになるのか、世界が大変なことになるのか考えなかったのかしら?」
「そ、それはそうだな。」
「銀龍って神らしくないところがあるから。」
ちょっと変わった神龍、ミルフィーは最初銀龍に出会ったときの事を思い出していた。
「神らしくない?」
「そう。その事だってそうでしょ?・・・本当なら倒されるような相手じゃなかったのに・・・・あ、ごめん・・・。」
そこまで言ってミルフィーはシモンに謝る。彼の腕を卑下したようでミルフィー自身自分のその言葉に嫌悪感を感じた。
「いや、いいさ。本当のことだ。」
「・・・シモン・・・・」
「ともかくオレは、神龍を手に掛けたことと、ユミナの死と、そして、何の役にも立たないのに、のうのうと生きているオレ自身がたまらなかった。オレのとった行動と、オレの存在が許せなかった。」
「そんな、何の役にもたたないなんてこと・・・」
「気休めはいらん・・・。」
「シモン・・・」
悲しげな自嘲とともに、ミルフィーを振り返ったシモンに、彼女は言葉を無くす。何か言いたいのだが、適切な言葉が見つからず、ミルフィーはただ悲しげな表情でそこに立っていた。
「神龍の騎士としては不十分だったとしても、普通の剣士としてはこんなオレでもまずまずの腕だったんでな・・・落ち込みヤケになっていた時につけこんできたというか・・・そうだな、オレ自身どうでもよかったんだ。本当にこの世界が神龍によって創られ守られているなんて信じてる人間は少ない。話してみたところでおとぎ話にのせた作り話で一笑されるのがオチだし、・・・いや、信じている者はいないと思っていても、その事を口にすることが恐ろしかった。守り手を失った世界がどうなるのか・・・他の神龍でそれは保てるのか。信仰心を無くしてしまった人間を果たして彼らが守ってくれるのか?いろいろな考えが常にオレを責めた。オレは、どうしたらいいか分からず・・・まとわりつく罪悪感と不安を払いたくて、手を貸すことが悪事に荷担する事になるとはっきりわかっていても、そうせずにはいられなかった。何かをしていなくてはオレ自身が気が狂いそうだったんだ。」
「シモン・・・」
再び背中を向け、一言一言かみしめるようにそして苦しそうに言うシモン。
「いや、狂気に走れるならその方がましだ。いっそ狂えてしまえれば・・・死んでしまえれるのなら、どんなにか楽か・・・と。」
「で、6年前、ここ、つまりこの地龍の神殿とドワーフの村で何があったんだ?」
話の途中で黙り込んでしまったシモン。その背中からはやりきれなさからくる悲しみがにじみ出ていた。何をどう聞こうかと考えたのだが、その背中に言葉も思考もなくなっていまったように黙って見つめていたミルフィーの代わりに、ラードが口を開く。
ふっと笑い、シモンはラードを見つめ、その瞳の中のやりきれなさの狂気とも感じられる表情をみつけ、ラードはぞくっとする。
狂人の瞳ではないが、自暴自棄に陥った苦痛にもがく表情がそこにあった。
「何を思ったのか、神龍の騎士としては不相応というか完全に失格なのだが、そんなオレの夢枕に銀龍が立って、オレに命じたんだ。」
「銀龍が?」
「そうだ。地龍の神殿へ行け。闇龍の具現化を阻止しろ、と。」
「闇龍の具現化?」
ラードはシモンの視線にとらえられ、まるで熱に浮いたように単調に聞き返す。
「そうだ。騎士としては不確かだったが、それでも形式的とはいえ一応銀龍の騎士の座を受け継いだからだろうな。この世界での命を無くした銀龍だが、オレの波長は読みとれるといったところだろ?・・・ま、他にコンタクトが取れる人物がなかったということなんだろうが・・・・。」
ちらっとシモンはミルフィーに視線を流す。
その時にはあんたはまだ銀龍と出会ってなかったんだよな。シモンの視線はそう言っていた。
「それまででオレはどっぷりと裏の世界に浸かってしまっていた。今更とは思ったが、銀龍の言葉に操られてでもいるようにオレの足は地龍の神殿へ向かっていた。・・だが、そこまでだった。闇龍をこの世に誕生させた闇魔導師の力は、オレなど到底たちうちできるものではなかったんだ。地龍の神殿、その奥まった祭室、地龍が鎮座するその台座でその儀式は行われていた。」
「地龍の鎮座する台座?」
「人の世は神龍の存在を忘れていた。そして、矛盾しているんだが、闇龍は受け入れられていた。我欲を満たしてくれる闇龍はな。」
「で、その闇龍と地龍との関係は?」
シモンはラードからそう聞いたミルフィーへと視線を移した。
「闇龍は、魔導師の儀式によりその力を一時的に束縛された地龍から産まれた。」
「え?」
「地龍は、黄金龍と銀龍の長子・・・最初の子供でな、子供の中でもっとも黄金龍に近い存在なんだ。」
「近い・・って?」
「つまり、黄金龍に替わる存在にもなりうるということだ。」
「黄金龍に替わる?」
「その気ならなんだが・・・・そうだな、普通ならそんなことはあり得ないが、人々の思惑と魔導師の存在が闇龍を産む結果となったんだ。」
「それで、地龍は?」
「さてな・・・身体を突き破るようにして地龍の背中から出てきた闇龍だ。後は・・・抜け殻と言った感じだといえばわかってもらえるか?」
「そ、そんな?・・・地龍から誕生したのなら子供じゃないの?」
「子供?・・いや、そんなものじゃない、あれは・・そうだな、分身?それとも人々の悪意と憎悪を吸収した地龍の変わり果てた姿?・・そうだな、そうとも言えるかもしれん。オレがその祭室へ駆け込んだときはまさに地龍をずたずたに引き裂きながら出てくる闇龍の誕生の場だった。その憎悪と悪意が凝縮された瞳に、オレは恐怖して立ちすくんでいた。」
その時の光景を思い出し、シモンはぶるっと大きく震える。その恐怖は忘れようとしても忘れることができないほど、強大で絶対なものだった。
「オレの姿を見ると魔導師はにやっと笑って何か呪文を唱えた。その途端、オレの目の前から巨大な闇龍も、そして魔導師も消え失せたんだ。地龍の姿もなかった。そして神殿が崩壊してしまうのかと思うほどの振動が続いたあとの衝撃でオレは気を失った。」
「それってここへ飛ばされた時の衝撃?」
「ああ、たぶんな。おそらく地龍は最後の力を振り絞って闘ったんだろう。だが、ただでさえ弱り果てているんだ。強大な力を持って生まれ出た闇龍にはかなわず、この地へ神殿ごと飛ばされたんだろうな。毒沼と変わり果てたこの湖底に。」
「で、その地龍は?」
「ああ・・神殿中を探してはみたんだが、みつからなかった。その代わりオレが出会ったのは・・・」
『神殿を飛ばした闇龍の息で、闇に支配されてしまったドワーフ一族の狂気。』
「え?」
「セイタ?・・い、いや、じーさんか?」
ラードがそしてミルフィーとシモンはじっと後ろで話を聞いていたセイタを見つめる。彼女の意識はなく、そこにいるのは、祖父のヤイタであった。
「そうだ、あんただ。」
セイタを、いや、ヤイタを苦しげな表情で見つめシモンは続ける。
「手に武器を持ち、口々に闇龍を褒め称え彼らは、ほんの数名神殿に残っていた神官を殺し、そしてオレに襲いかかってきた。オレはなんとか彼らを正気に戻そうとしたんだが、彼らを救うには死しかないとあんたが言ったんだよな?」
シモンはヤイタに話を振り、ミルフィーとラードはヤイタの意思を宿したセイタを見つめる。
『一族は闇に完全にとらわれていた。もはやどのような方法をとろうとも、正気に戻れる状態ではなかった。後は彼らの魂を救う・・・残されたことはそれだけだった。』
「魂を闇から解放する為には、全ての邪を焼き払う地龍の炎、つまり神殿の地を裂いて燃え立っている炎で焼くことだったんだ。」
セイタからシモンへと再び視線を戻した2人は、恐怖を感じていた。
「そ、それで村ごと・・・ドワーフたちを焼き尽くしたのか?」
ごくん、とつばを飲みこみ、ラードが聞いた。
「そうだ。それまでもオレは罪もない人の命を殺め、無茶苦茶な事をしてきていた。だが・・・さすがにためらった・・・・・。」
「・・・・」
『闇からの解放こそは彼らの求めていた事だった。』
「ふっ・・そうだな、あんたはあの時もオレに言ったよな?オレが自分の責を果たすまで死ねないってな?オレの責とはなんなのだ?オレに世界を救えとでも言うのか?銀龍の命を絶ったオレに?」
シモンの悲痛なまでの叫びがそこにこだましていた。
「オレは神龍の騎士とはほど遠い出来損ないの・・いや、すっかり悪事に手をそめてしまった極悪人なんだぞ?」
『それでも魂までは染まってはおらん。お前さんは・・・道を間違えたとはいえ、銀龍の騎士ぢゃ。』
「そんなばかなっ!銀龍の騎士は、彼女じゃないのか?」
『いや、その座は誰にも譲られてはおらん。現状では間違いなくお前さんが銀騎士ぢゃ。』
ミルフィーを指さしながら叫んだシモンに、ヤイタは静かに言った。
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