−キーン!−
「どうしても死にたいのなら、私を倒して自分で自分の胸を突きなさい。私はいやよ。卑怯者の手助けなどしたくないわっ!」
「くっ・・・・」
大きくはじき飛ばされ、開いた距離を保ったまま、ミルフィーとシモンは激しくにらみ合っていた。
「それにね、死んだって楽になるわけないわ。それほどまでの想いなら、それからは死んでも逃れられないわ。ずっとその苦しさを背負っていくのよ。ずっと。」
「煩い・・・煩いってんだ!」
−キン!−
再び剣を交え、にらみ合う。が、シモンから勢いは消えかけていた。
「シモン、この世界はあなたを必要としてるわ。」
「そんなバカな・・・オレは・・・」
「少なくとも私には必要なの。」
「あんたに?」
「そう。」
「はは・・最後に色気できたってか?無理無理、オレにそんなものは通用しないぜ?」
ぐっと剣に力を入れ、シモンは薄ら笑いを浮かべる。
「そう思った?悪いけど、お色気作戦って私、一番苦手なのよ。」
「じゃーなんだってんだ?」
「勝負しない?」
「勝負だって?・・今してるだろ?」
睨み付けながらもシモンは呆気にとられる。今現在命を懸けてこうして剣を交えているのに何を言っているのだろう、と。
「そう。剣士としての渾身の力を込めた一撃で勝負。」
「どういう意味だ?」
「守護騎士同士の戦いでは、どちらか弱い方の剣が折れるって聞いたことがあるわ。」
「ふん!守護騎士でなければ意味ないじゃないか。オレは守護騎士なんかじゃないんだからな。」
「私も守護騎士じゃないわ。」
しばらくそのまま見つめ合っていた2人は、お互いふっと笑って剣を握る手から力を抜いた。
「後悔しても知らないぜ?オレが勝ったらオレのしたいようにさせてもらう。」
「いいわよ。じゃー、私が勝ったら、私のいうことを聞いてもらうわよ。」
「いいだろう。」
そして、再び剣を構え見つめ合う2人の間には、息もできないほどの緊迫感が張りつめ、ラードは瞬きをすることも忘れ、セイタをぐっと抱きしめたまま、2人を見つめ続ける。周囲を覆ったその緊張感が、当事者でもないラードに喉の渇きをも覚えさせる。
−キーン!−
数分、いや、数十分とも思えたその張りつめた沈黙を破り、激しく剣がぶつかり合い、光がぶつかり合ったそこからほとばしる。
「ちょっと・・・やばいかもしれない・・・・」
「や、やっぱり本物か?でなきゃ・・・オレの剣がこうも簡単に押さえられるわけが・・・」
シモンもミルフィーも、もしかしたら自分の方が負けるかもしれない、そう感じながら、そして、それでも諦めずあらん限りの力を剣に込める。力とそして、真剣な思いを。
−ピシシッ・・・・−
どっちの剣なのか分からなかった。が、ともかく亀裂の走る音が耳に飛び込んできた。だが、力を抜くことができない。どちらか一方でもそして、一瞬でも早く抜けば、2人とも大けがを負うことになる。かといえ、かけ声をかけて力を抜くというわけにもいかない。
『ミルフィー・・』
「え?」
「うぉぅっ?!」
−ズザザッ・・・−
「痛ぅ〜〜・・・・・・」
不意に力を抜いた、しかもどうやったらそんなに上手く抜けるのかと思えるほどタイミングも、そして引く方向もよくミルフィーは剣と、そして、その体勢から力と身を同時に引いていた。
おかげでまともに顔から床に突っ込んでいった形になったシモンは、激痛を顔面に直に受けていた。
「あ・・ご、ごめんなさい、シモン。」
「い、いや・・・・しかし・・上手く避けたものだな。」
顔を押さえつつ、シモンは苦笑いをする。
「あ・・・そ、そうね。」
どうやって引こうか、お互い困っていたことは分かっていた。勝負は亀裂の音がした時点でついていたのだから。結果はお互いの剣を見ればわかる。
「やっぱり、あんたが本物ってことか?」
転がった自分の剣の刃に亀裂が入っているのを見て、シモンは笑う。
「でも、私のにも入ってるわよ。」
「は?」
お互いの剣を見せあい、そして、2人はため息と共に見つめ合う。
多少、ミルフィーの亀裂の方が小さいようにも思えたが・・・さほど変わりはない。双方ともほんの少し。
「ぶっ・・・ばはははは・・・・」
「あはははは・・・・結局、2人とも力不足ってこと?」
「ははは・・・ど、どうやらそうらしいな。」
「力不足ってことはないだろ?偶然2人とも強さが一緒くらいだったってことなんじゃないのか?」
最後の様子に呆れ返ったような笑いをみせながらラードが2人に近づいてくる。
「でも、ミルお姉ちゃんの勝ちよね?」
「え?」
3人はセイタの顔を不思議そうに見つめた。
「だって、シモンおじちゃん、転んじゃったもん。ミルお姉ちゃんの勝ちよ。」
「ぶっ・・・そ、そうだな・・・そう言われれば・・そうだ。オレの負けだ。がははははっ」
「さすが、セイタだ・・・名審判だな、お前って。はははっ・・」
「だけど、ホントに上手いこと引いてくれたな・・・」
一息全員で笑ってからシモンが思い出したようにミルフィーを見つめる。
「あんな余裕あったとは思わなかったが?」
「あ、私も・・・まさかあんな風になるとは思わなかったわ。・・・・ただね・・ただ・・・」
「ただ?」
いかにもその先を聞きたそうに見つめる3人を前に、ミルフィーは一人その時の事を思い出して赤くなっていた。
(ふっと、知ってる人が私を呼んだ気がして振り返ったなんて・・・言っても・・信じてくれないわよね?・・でもどうして・・・よりによってあの場面でカルロスなのよ?)
「はは〜〜ん・・」
「な、何?そのいやらしげな笑いは?」
にやりとしたシモンの意味ありげな顔に、ミルフィーはぎくっとする。
「恋人にでも助けられたか?名前でも呼ばれた気がして振り返ったんじゃないのか?」
「な、何おかしな事いってるのよ?・・私とカルロスはそんなんじゃ・・・・」
焦った勢いで思わず出てしまったセリフに、ミルフィーは慌てて口を押さえる。が、口から出てしまってからでは遅いというもの。
「ほほ〜・・・銀騎士様の恋人はカルロスと言うのか。きっとかなりの使い手だろうな?」
予想があたったと満足げにシモンはミルフィーを見つめてからかう。
「そんなこと言ってないでしょ?勝手に決めつけないでよ!」
ますます赤くなって訂正させようとするミルフィーを、シモンとラードはにやにやしながら見ていた。
「ちょっと・・い、今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ?と、とにかくシモン、一応私が勝ったんだから、私の言うことを聞いてもらうわよ。」
「ああ、どうにでもしてくれ。なんだかあんたと一緒ならもう少しこの世と付き合うのも悪くない気がしてきた。」
そう言いながらも、まだにやにやしているシモンをキッと睨むと、ミルフィーはすっくと立ち上がる。
「で、さっき、あなたと戦っていたのは?」
そのミルフィーの質問は、おもしろ可笑しくからかっていたムードを一気に消滅させるに十分な話題だった。
「話せば長くなるが・・・・・」
ミルフィーの言葉で、思い出したようにびくっとしてラードにしがみついたセイタをちらっと見てから、シモンは言いにくそうに口を開いた。
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