その8・銀騎士2人(1)

 

 『地龍、闇の炎、闇龍・・・・・』
2人はそっと横たえたセイタを見つめて、彼女が口にした言葉の意味を考えていた。
「そういえば、ドワーフの一族は地龍の守人だとか聞いたことがある。」
「地龍の守人?」
ラードが呟いた言葉をミルフィーが反復して聞く。
「そうだ。黄龍とも呼ばれている地龍。」
「確か黄金龍と銀龍の子供である守護龍だったわよね?地龍、水龍、火龍、風龍の4頭で、別名、黄龍、青龍、紅龍、緑龍と呼ばれている?」
「そうだ。だけど闇龍というのは、聞いたことがないな。」
「『闇』・・か・・・・。もしかして、あってはならない存在・・。」
「そうだな。そう考えるのが正しいんだろ?」
(世界を闇が覆い始めた、その元凶が闇龍の出現・・・)
ミルフィーはラードとの会話に、その結論を出していた。
(そして、たぶんそれが、銀龍が私に倒して欲しい敵。)
最終目的が分かった気がした。が、それにはどうすれば、どこへ行くべきなのかは、全く分からない。
「現状から行くと、この洞窟を調査すべきなのよね?」
「そういうことなんだろうな。」
じっと洞窟の奥を見つめて呟いたミルフィーに、ラードも頷く。
「ここへの侵入者も気になるし。」
「ああ。」
侵入者は果たして敵か味方か。そして、何のために封印がしてあったここへ侵入したのか、それを知ることが闇龍への大きな一歩になるような気がしていた。
「・・・親父たちの連絡がなくなったのも・・・」
もしかしたらこの事と関連があるのかもしれない、とラードは思った。

「セイタちゃん?」
不意に起きあがったセイタにミルフィーは驚いて声をかけた。が、2人が見つめる中、うつろな目をしたセイタの口から出た声は、老人の声。それは紛れもなくセイタの祖父、ヤイタの声だとラードは感じる。
「奥へ進むのだ。毒沼の底に沈んだ地龍の神殿へ。そこで・・・」
「『そこで?』」
ラードが聞き返したと同時に、セイタの瞳に光が戻り、彼女ははっとしたように叫んだ。
「おじいちゃんが呼んでる!」
「ヤイタじいさんか?」
「うん!」
驚いて聞き返したラードに、セイタは元気良く答えると同時に奥へと向かって歩き始めた。
「おい!ちょっと待てよ、セイタ!おいっ!」
ラードとミルフィーは慌ててスタスタと歩き始めたセイタを追う。

「こっちよ。」
セイタはまるでそこを知っているかのようにどんどん奥へと進んでいく。
黒く焼けこげたあとを残す住居跡を抜け、その奥に続く細い通路を進んだそこは、真っ赤なマグマが地底から顔を覗かせている広い洞窟。
「うおっ?!」
「暑ぅ〜〜・・・・・」
その熱気に圧倒されながら、ミルフィーとラードは、平気な顔で赤黒く燃え立つマグマが顔を覗かせている穴と穴に囲まれた細い道を進んでいくセイタの後についていく。

「ここって・・・祭壇?」
道は円形のホールのような空洞で行き止まりとなっていた。正面に祭壇らしきものと龍の像が飾ってある。
その像の前に立ち、じっと見上げているセイタを2人はじっと見つめていた。

「ミルお姉ちゃん。」
「え?なーに、セイタちゃん?」
じっと見上げていたセイタが不意にミルフィーに視線を移しながら呼んだ。
「このペンダントだけじゃ奥への通路は開かないって。おじいちゃんがね、お姉ちゃんが銀龍の爪を持ってるから貸してもらいなさいって。」
「え?お、おじいちゃんが?」
セイタは驚いた表情のミルフィーにこくんと首を縦に振った。
銀龍の爪を持っていることは誰にも話していない。セイタの祖父のヤイタはいったいどんな人物だったのか、と考えながらもミルフィーは腰袋からそれを取り出す。
「ぎ、銀龍の爪って・・・違うとか言いながら、あんた、やっぱり銀龍の騎士じゃないか?」
「違うわよ。」
銀色に輝くそれをセイタに渡しながら、ミルフィーは驚いて目を丸くして自分を指さしているラードに笑みをみせる。
「本物だろ、それ?」
「そうね。それは間違いないわ。」
「じゃー・・・・」
ラードとミルフィーが話している間に、セイタはそれを自分のペンダントと一緒に握りしめ、呪文らしい言葉を小さく唱えた。
−ギギギギギ・・・・・−
龍の彫像が横に移動した後には、ちょうど人一人通れるくらいの通路がぽっかりと口を開けていた。
−ひゅ〜〜・・・−
「な、なんだ、この臭いは?」
銀龍の騎士の剣でミルフィーと言い合っていたラードは、奥から風に乗ってきた異様な空気と臭いにひとまずその話題を忘れる。
「毒沼の臭いと同じだな・・・・。入るのか?」
「急がなきゃ。地龍が完全に消滅しちゃわないうちに助けなくちゃいけないの!」
「地龍が完全に消滅?」
「うん!」
「それもおじいちゃんが?」
「うん!頭の中におじいちゃんの声が聞こえるの。頼むって!」
「よ、よし、毒消しならたんまりあるし・・・い、行くぞ!」
セイタの肩を抱えるようにして話しているミルフィーの横をすっととおり、ラードは通路の奥を睨みながら1歩足を入れる。
「う・・」
身を切られそうな空気に、ラードは思わず立ち止まる。
「お世辞にでも気持ちがいいとは言えないわね。」
「あ・ああ・・・・」
ラードのすぐ後について通路に足を踏み入れたミルフィーもそれを感じていた。
精神力が弱ければ、ずたずたに引き裂かれて狂ってしまうかもしれない、と2人は感じていた。
「セイタちゃん?」
「セイタは?」
2人は同時にまだ幼いセイタを案じ振り返ったが、彼女はにこやかに微笑んでいた。
「あたしなら大丈夫よ。これがあるから。」
黄水晶のペンダント。さっきから大活躍のそのペンダントは、やはり単なるアクセサリーではなかった。首にかけたそれを見せながらセイタは2人の傍に歩み寄る。
「はい、お姉ちゃん、銀龍の爪。」
「あ、うん。」
ミルフィーがその爪を手にした時だった。
−ほわ〜〜・・・・−
「え?」
銀の爪が輝き始め、それは一筋の光の束となって通路の奥へと伸びていった。
「行け、ということだよな、これって。」
「そうよね。」
ラードと目配せし、うなずきあうとミルフィーは先に立って通路へ足を踏み入れた。

「光が・・・・」
通路に入ると、銀龍の爪から伸びた光は、まるで3人を闇の気から守るとでもいうように、全身を覆った。
「おおーー!銀の鎧ってか?これでオレも銀龍の騎士・・・な〜〜んちゃって・・・」
おどけたように冗談を口にしたラードは、呆れたようなミルフィーの視線に、ばつの悪そうな表情で頭をかく。
そして、再び真剣な表情に戻ったラードと共に、ミルフィーとセイタは奥へと進んでいく。

−キン!ガキン!・・・ガッ!−
「え?」
「な、なんだ?」
到底普通人では入れそうもないようなそこに、人の気配と、戦っている剣の音が聞こえ、3人は走った。
曲がりくねった通路をひたすら駈け、ついたところは礼拝堂のような感じのドーム状の広い部屋。
「シモン?!」
「あ・・・・・・」
そこで、シモンと黒衣を纏った僧兵のような格好の人物が戦っていた。
−ガキン!−
シモンはミルフィーに負けたとはいえ、その腕はかなりのものであることは確かである。が、その僧兵は全くひけをとってはいない。いや、押しているようにも思えた。
「母さん!」
「え?」
「何?」
セイタの叫びにラードもミルフィーも驚いて彼女を見つめ、その僧兵もびくっと身を震わせた。
−シュッ!−
一瞬気を抜いたその瞬間に、シモンの鋭い太刀が、僧兵を襲っていた。
「きゃああ!!」
セイタの悲鳴が木霊する。
シモンの剣は確かに僧兵の右肩からその身体を寸断する勢いでとらえたはずだった。が・・・
「かあ・・さ・・ん?」
斬られると同時にその身体はまるで幻だったかのようにふっと消え失せていた。
そして、不意に相手を失ったシモンの意識は、慌てて僧兵に駆けつけようとしたセイタをとらえていた。
「いけないっ!」
不意に相手を失ったからだけではなさそうだった。明らかにシモンは闇の気に充てられていた。視点が定まっていない。
−ガキッ!−
その大太刀がセイタの上へ振り下ろされる直前、ミルフィーの剣によってそれは制止された。
「シモン!目をさましなさい!」
−キン!−
が、ミルフィーの声はシモンの耳に届いていないようである。セイタからミルフィーに注意を移すと、シモンは再び剣を大きく振り上げる。
「シモン!しっかりして!」
−ガキン!−
そのシモンの剣を受けながら、ミルフィーはラードがセイタをしっかり抱いて後方へ下がったことを確認する。
「仕方ないわね・・・荒療治になるけど・・・かんべんしてよね。」
−キン!−
「うぉっ?!」
太刀と共に、ミルフィーは勢い良くシモンを弾く。
−ちゃっ!−
剣をぐっと持ち直し、シモンを睨みながら意識を集中する。

「す、すげぇ・・・・」
剣の先から銀の光がほとばしり始め、それは瞬く間に刀身全体を包んでいく。全身に銀の光を纏っている今、どこから見ても完全なる銀騎士だった。
「や、やっぱりミルフィーは・・・・」
「お姉ちゃん・・・すごい・・・・」
驚きのあまり、呆然としている2人の目の前で、銀騎士が華麗に舞っていた。
シモンの振り下ろす大太刀をまるで遊んでいるかのように簡単に避けている。が、そのつもりなら十分できる攻撃をしなかった。
「どうしたんだ、ミルフィー?なぜ殺っちまわないんだ?」
未だ殺人鬼としてしかシモンのことは見ていないラードは、なぜとどめをささないのだ、と不思議に思い呟く。

「シモン!」
−ギン!−
「いい加減に目を醒ましなさいっ!」
−ガキーーっン!−
何度目かの交差だろう。シモンがその力の限り振り下ろした剣をミルフィーが渾身の力で受け止めたその時・・・
−キン!−
剣の音ではなかった。それは、2人の剣が交差したところからほとばしり出た銀の光。
「う・・・・・?」
「やっぱり・・シモン、あなた・・・・」
ミルフィーの銀の光を帯びた剣に共鳴し、一瞬ではあったが、シモンの剣が光を放った。
その光にシモンは正気に戻る。

が・・・・・
−キン!ガキン!−
「どうしたの、シモン?正気に戻ったんじゃないの?」
変わらぬ攻撃に、ミルフィーは焦る。
−ギン!−
瞳をみれば確かに正気に戻ったのだとわかった。が、シモンは正気を失っていたときと同様激しく攻撃してくる。
「シモン・・・・」
「どうした・・この程度か、銀龍の騎士なんてのは?」
「何言ってるの。銀龍の騎士はあなたでしょ?」
「何をトチ狂ったことを言ってるんだ?オレは血に飢えた殺人鬼さ。」
「ううん。違うわ。私の剣に呼応したわ。あなたの剣は銀騎士の剣よ!」
−キン!−
「銀騎士を殺って奪った代物かもしれないぞ?」
「そんなはずないわ。例え銀龍自ら渡した剣ではないにしても、あなたの今手にしている剣は普通の人間では扱えないはずよ。まして・・・刀身から光など出るはずないわ。」
−ザッ−
「オレが・・オレが銀騎士であるはずないだろう?」
瞬間的に間を取ってから、シモンは持てる全ての力を太刀に込め、ミルフィーに斬りかかっていった。
−ギン!・・・ギリリリリ・・・−
が、ミルフィーはシモンの心を読み、余裕を持ってその剣をとめる。
「だめよ、シモン。今のあなたから殺気は感じられないわ。」
「何を余裕ありげに言ってるんだ?本気を出さないと後悔する羽目になっても知らないぜ?」
「私がそんな言葉に乗せられて、あなたを殺すとでも思ってるの?」
「はっ・・そんな甘い事言ってていいのか?」
「甘い事言ってるのはあなたの方よ。」
「オレの・・方だと?」
「そうよ。何があったか知らないけど、私に倒してもらって楽しようなんて、たとえ銀龍が許しても、私は許さないわ。」
「な、何?」
「逃げるなんて卑怯者のする事よ。私は絶対許さない!」
「あんたにオレの何が分かるってんだ、え?」
「分からないわ。わからないけど・・・自分から死ぬなんて・・・私は許せないのよっ!」


ヤイタに憑依されたセイタちゃん。
顔つきもかわって・・・・/^^;
COSMOSさんからいただきました。
ありがとうございました。m(_ _)m




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