(う"ーーーーー・・・・・)
小屋から村への道すがら、ミルフィーはラードにどう報告しようか困っていた。しかも、その日の夕方には帰ると言ってあったにもかかわらず、一夜明けてしまっている。
行きは軽やかに馬を駆っていたミルフィーだったが、帰りはなんとも遅速で進んでいた。別にやましいことはしてはいないし、その出来事は、シモンが根っからの悪人ではない事の証拠にもなる、とミルフィーは思っていた。が・・・説明方法が見つからない。話せば誤解を受けそうだった。
そんなことをあれこれ考えながら進んでいたミルフィーは、茂みを抜ければ村の入口が見えるところまで来ていた。
「ミルフィー!」
不意に横から呼ばれ、ミルフィーはびくっとして馬を止める。
「な、なんだ、ラード、どうしたの?」
「なんだじゃないよ!いいから、こっち!」
「なーに、どうしたの?・・・村へ帰るんじゃないの?」
何事があったのだろう、と不思議に思いながら、ミルフィーはラードの後をついていく。
「少し先にある山小屋でセイタも待ってるから。」
「待ってるって、村で何かあったの?」
「『あったの』じゃーねーよ!」
「ど、どうしたの、ラード?」
何やらただごとではないようなラードの雰囲気に、ミルフィーは黙ってついていく。
「で、どうしたの?」
小屋の中にいたセイタににこっと微笑むと、その横に座り、ミルフィーは、テーブルを挟んだ真向かいに座ったラードを見つめる。
「どうしたの、じゃねーよ。・・あんた・・・守護騎士だって言うじゃないか?しかも銀龍の?」
「え?・・だ、誰がそんなことを?」
「隣村の村長から使いが来て、昨日の夕方から村中大騒ぎになってるんだよ。」
「そ、そうだったの?」
「『そうだったの』って・・・だから、夕べ帰って来なかったんじゃなかったのか?」
「あ・・・・、あ、う、うん・・・使いがきてるってことまでは知らなかったけど、なんとなく帰らない方がいいような・・・・」
ミルフィーはその話に便乗することにした。
「感ってやつか?・・なるほどな。一応昨日よりは騒ぎも落ち着いてるけど、村へ入ればすぐ長老クラスが出てきて捕まっちまうぞ?あんた、それがいやで向こうの村から逃げてきたんだろ?」
「あ、ええ、まーね。」
それは本当だった。
「で、何か分かったのか?」
「え?」
シモンの事だよ!とラードのきつい視線は言っていた。
「あ、ああ・・・・その事ね。それなら・・・やっぱり彼は悪人じゃないわ。」
「証拠は?」
「え?証拠?・・・証拠は・・・私の感・・じゃ・・だめ?」
「感?」
「そう、私が彼と会って肌で感じた感。」
「会ったのか?奴に?」
「あ・・そ、そうなの。やっぱり沼の近くにいてね。それで少し彼と話してみて、そう感じたんだけど。」
「なんだよ、それ?そんなんでオレが納得すると思ってるのか?」
シモンが悪人ではないということは、実際に身を持って感じた事・・であることには違いなかったが・・・何があったのかは恥ずかしくてミルフィーには言えなかった。それに話せば余計悪い方へとラードには勘ぐられるとも思った。
「でもね、ラード・・・彼は・・・」
一晩意識の無かった私を介抱してくれたと言おうとして、ミルフィーは口を閉じる。
「彼は・・・なんだよ?」
−ズズズ・・・−
ラードが睨みながら問いただしたとき、鈍い地響きが辺り一帯を襲った。
「な、なんだ?」
「何事?」
揺れが続かないということは地震ではない、と判断し、2人は小屋の外へ飛び出した。
「何もないようね?」
「・・・・入口が・・・」
「え?」
2人の後に小屋から出てきたセイタが小さく呟く。
「入口が・・って?セイタちゃん?」
「セイタ!入口がどうしたんだ?まさかドワーフの村の?」
−ふわり−
「え?」
「何?」
セイタの胸にかけてあった黄水晶のペンダントがふわりと浮かんできた。それは、殺された男が持ってきたセイタの祖父が常に肌身離さず身に付けていたペンダント。
「こっち。」
何かに操られているかのようにセイタがそのペンダントが指す方向へと足を進めていた。
「しっかりしろ、セイタ!」
慌ててラードはセイタを抱き留めると、彼女はすうっと意識を失った。
「ラード・・」
「あ、ああ・・・・」
セイタが倒れたにもかかわらず、ペンダントは一方向を指して浮かんでいた。
セイタの身体の向きを変えてもペンダントの指す方向は変わらない。
「そっちにドワーフの村への入口がある?」
そして、自分たちを呼んでいる。そう判断したミルフィーとラードは、馬に飛び乗るとペンダントが指す方角へ馬を飛ばした。
「あ、あの地割れは?」
前方の岩場に地割れを見つけると、浮いていたペンダントはパタッと落ちた。
「つまり・・・あそこが入口?」
ミルフィーとラードは顔を見合わせると、そこへ近づいていった。
「入口の封印が解けないんで無理矢理穴を開けたってとこだな。」
「らしいわね。」
地割れの近くに封印された洞窟の入口があった。大岩で密閉されたその前に蔦に覆われた慰霊碑らしい彫像があった。
「ラード、入れそう?」
「いや・・・おそらく穴を開けた張本人がここから入った後、崩れたんだろ?下へ続く小さな穴はあるが、とてもではないが入れそうもない。」
地割れから下り、下の様子を調べに行ったラードが残念そうに答える。
−つんつん!−
「ん?セイタ、気付いたのか?大丈夫か?」
服の裾をセイタに引っ張られ、ラードは彼女に心配させまいと微笑んで聞く。
「これ。」
ペンダントを首から外し、セイタはラードに差し出しながら笑みを返した。
「今ね、夢の中におじいちゃんが出たの。これをあの像の胸のくぼみに填めるんだって。」
「これを?」
「うん。彫像の胸の部分に、石のないペンダントを象ったところがあるから、そこに填め込めば封印が解けるっておじいちゃんが。」
からみついた蔦を払い避けて彫像のペンダントの部分を捜す。
「これだ!」
が、ペンダントをそこに填め込んでも変化らしいものはない。
「で、どうしたらいいんだ?」
ミルフィーとラードが見つめ合っている真ん中を、セイタがすっと通り、その大岩の前に立った。
「こんにちは、大岩さん、いつもあたしたちドワーフの村を守っていてくれてありがとう。」
「へ?」
大岩に話しかけぺこりとお辞儀するセイタを、ミルフィーもラードも呆気にとられて見つめていた。
「今日はご用があるので中へ入りたいんだけど、入らせてもらえますか?」
−ゴゴゴゴゴ・・・−
「う、うそだろ・・・・・?」
ラードはゆっくりと開いていく大岩を指さして口を開けていた。
「ど、どうなってるの?」
勿論、ミルフィーもこれには仰天。
「前一度おじいちゃんと来たときにね、おじいちゃんが封印をといてから、あたしが大岩さんに頼んで入口を開けてもらったの。セイタ、どういうわけか忘れてたけど、おじいちゃんと夢の中で会って思い出したの。」
「な、なるほど・・・・。」
「封印はね、大岩さんを眠らせておく為のものなの。頼まれても聞こえないようにって。」
「た、頼まれてって・・・」
どう考えたら大岩に開けてくれるよう頼む人間がいるというのだろう?とラードもミルフィーも思った。普通、力任せに破壊しようとするものである。
「この大岩さんは、生きてるから絶対壊れないっておじいちゃん言ってたの。世界一固い石の意思があるから絶対なんだって。」
「ぷっ・・・」
『石の意思・・・』吹き出しそうになったラードは、真剣なセイタに悪いと思って必死になって我慢した。
それはおそらくヤイタの寒い駄洒落なのだとラードは確信していた。
「だから、頼んで開けてもらわないと誰も入れないんだって。」
「そ、そうか。」
ミルフィーと苦笑いを交わしてから、彫像からペンダントを外しセイタの首に賭けると、ラードは彼女を抱いて中へと入った。
−ゴゴゴゴゴ・・・ズン!−
「真っ暗ね。」
「あ、ああ。確かランプが・・・」
ごそごそと荷袋の中のランプを捜していると、セイタがぽんぽん!とラードの肩を叩く。
「なんだ?」
「あのね、それも頼むの。」
「は?」
「うふ。」
セイタはくるっとその場で回ると、洞窟の奥へ向きお辞儀をする。
「洞窟の奥深く眠ってる火の精霊さん、あたしの声が聞こえたら、明かりを分けてくださいな。あたしたちが転ばないように。あなたの眠りを邪魔しないように。」
−ぽわっ、ぽわっ、ぽわっ・・・・・−
洞窟の壁に点々とあったと思われる燭台に火が灯っていった。
「す、すごい・・・・」
まるで手品でも見ているかのような光景だった。
「セイタ、まだ何かあるのか?」
思わずラードは目を輝かせて、それ以外にも何か仕掛けがあるのか?とセイタに聞く。
「ううん。もうないわよ。」
がくっ・・・、当たり前かとも思いながら、ラードは一応ずっこけてみた。
「そうそうあるわけないよな?」
ははは、と軽く笑いながら、ラードはセイタを連れ、ミルフィーと共に奥へと足を向けた。
そして、・・・・
「セイタ?」
細い通路が終わったところに来ると、急にセイタが真っ青になって震えはじめる。
「どうしたんだ?」
「・・・恐い・・・火が・・・・・真っ黒な火の精霊さんが・・・・・・」
「真っ黒な?・・セイタ!しっかりしろ!何もいやしないぞ?!」
ぎゅうっとラードはセイタを抱きしめていた。
「ミル・・お姉ちゃん・・・」
「セイタちゃん?」
慌ててミルフィーはラードに抱えられているセイタに寄って、差し出した彼女の手を握る。
「地龍が・・・闇の炎が・・・闇・・龍の・・・・・」
「あっ!おいっ!セイタ?」
「セイタちゃん?!」
ふっと気を失ったセイタに、2人は不安と戸惑いを覚えていた。
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