「おはよ♪」
「あ、ああ・・・・おはよ・・・。」
なかなか寝付かれず明け方近くでようやく寝たラードは、半分寝ぼけた顔で奥の部屋から出てきた。
「朝飯、作ってくれたのか?」
「勝手に、だけど。」
面白くないとでもいうような表情のラードに、ミルフィーは微笑む。
「それはいいけど・・・・」
そして、テーブルに皿などを並べているミルフィーの腕をじっと見つめていた。
「あのさ・・・えっと、ミルフィーだったか?」
「そうよ。」
「不思議なんだけどな・・。」
「何が?」
皿を並べ終わり、コップを置いていたミルフィーは、その手を休めてラードを見る。
「その細い腕で、なんであんなに力が出せるんだ?」
「え?」
「まるで、大の男のような力だったぞ。」
「ああ、昨日の事ね。」
「オレだって同い年ぐらいの男には負けない自信があったんだ。それを・・・」
「そうね。いい体格してるもんね。お父さんに剣でも習ってた?」
「ああ、まーな。」
「そう。」
ふふっと笑うとミルフィーはイスに腰掛ける。
そして、同じように腰掛けたラードに、ミルフィーはパンを差し出す。
「あ・・ああ。」
パンを受け取っても食べようともせずじっと自分を見ているラードに、ミルフィーはゆっくりと話し始めた。
「そうね。理解してもらえるかどうかわからないけど・・・これはね、内から保護、補強してるっていったらいいかしら?」
「内から保護、補強?」
「そう。コーティング、と言ってもいいのかな?・・・外部からの衝撃に身体の内側から気を集め見えないコートを張って、同時に筋肉を数倍もの強さにする。オーラで強化といった方がいいのかな?・・・巧く説明できないけど。」
「どうやって身につけたんだ、そんなの?」
「そうね、強いて言えば、一度死んだからできたというべきなんでしょうね。」
「死んだ?」
驚いて目を丸くしたラードに、ミルフィーはくすっと笑う。
「もっとも私が私じゃなかった時だけど。」
「は?」
「無くした肉体の代わりに自分の気を物質化させて新しい身体を作り上げる。実体化っていうんだけど、私がしているのはその応用。自分の肉体を、見えない肉体で覆って、その力を何倍にもするの。」
「な、なんか、分かったような、分からないような・・・・」
「そうね。経験しないと分からないわよね。」
「ラード・・おはよ。」
セイタの声に、2人は彼女の方へ視線を向ける。
「おはよ、セイタ。」
「おはよ、セイタちゃん♪」
「お、おはよ、えっと・・・ミル・・お姉ちゃん。」
「あら?お姉ちゃんって呼んでくれるの?」
返事の変わりにコクンと頷いたセイタに、ミルフィーは笑顔でスープを差し出す。
「ありがと。」
素直に礼を言って受け取るセイタをミルフィーは暖かい目で見つめていた。
「食事がすんだら村へ行くけど・・あんたも一緒に行くだろ?」
おいしそうに食べるセイタを見ながら、ラードはミルフィーに言った。
「いいの?」
「あんたがよけりゃ、オレは構わない。」
「男と女の道行きでも?」
「あ、あのな〜・・昨日はホントに本気じゃなかったんだって!ちょっと脅かそうと思っただけって言っただろ?・・それに、、セイタがいるんだそ?昼間だし・・。」
顔を少し赤くし、焦って答えるラードに、ミルフィーは軽く笑う。
「ラードとセイタちゃんがよければ、私に文句があるはずないでしょ?右も左も分からないんだから。」
「そうなのか?シゼリア人じゃないのか?」
「まーね。」
シゼリアどころかこの世界の人間じゃないけど、と思いながらミルフィーは笑う。
「じゃ、まー、そういうことで。」
「よろしく。」
ようやくラードが気を許したようだった。
そして、家を出て、それは確実となった。
それは、魔物が出たときのミルフィーの戦う様を見てのこと。
どれほど山のようにかかってこようが、ミルフィーは至極簡単に避け、あっという間に反撃して彼らを倒す。彼女の振るう剣はまるでそれ自体に意志があるかのように、軽々と飛び跳ねる。まるで彼女の腕の延長だと思えるかのように、時として、しなやかにそして鋭く、敏速に動く。付け加えて、軽やかに踊っているかのように軽快に動くミルフィーに、ともすればそれは華麗なる舞いとも感じさせられた。
「戦神か・・・?」
思わずラードは呟いていた。
「こら!性少年!女に戦いを任せて何ぼんやりしてるの?」
「な・・・・なんだよ、それ?」
見とれている間に戦闘は終わっていた。ラードは目の前のミルフィーの笑顔に真っ赤になる。
「女にって・・・・オレの出番なんかないじゃないか?」
「そういえばそうね。・・・」
ぺろっとミルフィーは舌を出して笑う。
「今度は任せてあげるわ、性少年!」
「だから・・何だよ、それ?昨日は本気じゃなかったって言っただろ?それに、大して歳は違わないんじゃないか?子供扱いするなよな?」
「ラード、いくつ?」
「オレか?オレは16だ。」
「じゃー、やっぱり年下じゃないの。」
「年下って、あんたいくつなんだよ?」
「女に歳は聞かないの!」
ミルフィーはラードの額をこつん!と小突いて笑った。
顔立ちは年齢より幼くみえるミルフィーは、確かに同じ歳くらいにみえる。背もほぼ同じ高さ。が、一応、彼女は18歳と半年くらいのはずである。
「おいっ!」
ぐいっとミルフィーの腕を掴んで、目の前に引き寄せるとラードはミルフィーを睨むようにじっと見つめる。
「あら、やっぱり性少年だったんじゃない?」
「あのな〜〜〜・・・あんた思いっきりオレを子供扱いしてるが、上だって言っても2つかそこらなんだろ?・・・それ以上に男の経験があるとでも言うのか?」
「ない。」
「な、ないって・・・」
平然と断言するミルフィーにラードは気が抜ける。
「あればいいってものでもないでしょ?」
「それはそうだが・・・・」
両手をふさがれ、目の前に男の顔があるのに、なぜこうも落ちついていられる?とラードは焦りにも似た苛立ちを感じていた。
「でも、言い寄られた経験は・・・結構あるわね。ピンチもそれなりに。」
「は?」
「おかげさまで。一応ね。」
にこっと笑うミルフィー。
「お、おかげさまでって・・・・」
あくまで動じないミルフィーに、ラードは思いっきり落ち込んでいた。
「そりゃー、オレは若いけど・・これでも冒険者として独り立ちしてるんだぞ?・・・セイタの事だって親父にしばらく頼むって言われたから・・・」
「でも、それも大切な事でしょ?」
面倒を見るのが子供であっても、いや、子供であるからこそ、見込まれて、一人の人間を頼まれる。それは、いい加減な気持ちではできないことだ。
「・・・そう・・だよな。」
正直なところ、ラードはいい加減うんざりしていた。自由気ままにあちこちの洞窟へ魔物退治に行くのは楽しかった。そこに危険はあるが、だからこそ、無事目的を果たせたとき、そして戻ることができた時は嬉しい。始めたばかりとはいえ、その生活を一時中断し、幼いセイタの面倒を見る。最初こそ何とも思わなかったが、少しずつ鼻についてきたところだった。たとえ妹のような存在のセイタでも、お子様の相手は、正直面倒だと感じ始めて来ていた。なついてるからこそ煩わしく感じることもあった。
「悪い。別にあんたをどうこうしようって思ったんじゃないんだ。」
そっとミルフィーの腕を離し、ラードは続けた。
「どうしても信じられなかったんだ。」
「何が?」
「さっきのあの攻撃が・・その、あんたのその腕から繰り出されたものだって。」
「なんなら手合わせしてみる?」
じっとミルフィーの腕を見つめているラードに、彼女は笑って言う。
「いや・・・とてもじゃないけど、かないそうもない。それは・・・オレでも分かる。まだ冒険者としても剣士としても駆け出しだけど・・それでも。」
「まーまー、そんなに落ち込まなくてもいいじゃない?!ここまでになるには私だって並大抵じゃなかったんだから。そう簡単に追いつかれても悲しくなるわ。」
「だろうな。」
「そうよ。」
「じゃー、純粋に頼みがあるんだけど。」
「頼み?」
「オレは・・・村に行ったら親父と親しいつきあいのあった神父様にセイタを頼んで、親父たちを捜しに行きたいんだ。よかったら一緒に行ってくれないか?予定がなかったらだけど。」
真剣な表情のラードにミルフィーも真顔で答える。
「そういうことならオッケーよ。予定はあるようでないんだし。」
「いやっ!」
じっと2人の話を聞いていたセイタが突然大声をあげ、ラードもミルフィーも驚いて彼女を見つめる。
「セイタ、ラードと一緒にいる。一人はいやっ!」
「いやって・・・お前もよく知ってるアイル神父様だぞ?」
「いや・・・セイタは、・・セイタはそんなのいや!」
「あ!おいっ!セイタっ!」
だっと来た道を駆けて戻っていくセイタをラードは慌てて追いかける。
「待てって、セイタ!この辺りはいつ魔物が出るか分からないんだぞ!」
「だって・・・ラード、あたしを置いてくって・・・あたし・・・・」
ひっくひっくと泣き始めたセイタを抱きしめ、ラードはミルフィーと苦笑いを交わしていた。
「分かった。置いていかないよ。」
「ホント?」
「本当だ。その代わりいい子でいるんだぞ?危ないことには首を突っ込むんじゃないぞ?」
「うん!」
その旅が危険なのかそうでないのか、それもまだ分からなかった。が、嘘をついてセイタを置いていくことは気が引ける。
ラードは『私にまかせておきなさい』と言っているようなミルフィーの瞳に、連れていくことを決心した。
そして、東の村、ランダートへ着く。
「オレの家はここにあるんだ。」
案内されたラードの家に荷物を置き、ラードとセイタが買い物をしている間、ミルフィーは村を回って歩くことにした。
「いらっしゃいっ!」
「えっと・・何か適当なジュース。」
「うちはオレンジしかないけどいいかい?」
「いいわ、それで。」
「おやおや、これはまた意外な人と出会ったもんだな。」
男の声にそっちを向くと、そこにはミルフィーが負かした戦士が苦笑いしていた。
「あら・・向こうではもう用無し?」
「まーな。で、どうしたんだ?まさか逃げて来たってんじゃないだろうな?」
「そのまさかよ。」
「おいおい、いいのか?向こうじゃ大騒ぎじゃないのか?」
「あの人たちが勝手に思い違いしてるだけよ。ああいうのはガラじゃないし、好きじゃないわ。」
「なるほど。ま、騎士様がそうおっしゃるんならそういうことにしておこうか。」
「だから、騎士じゃないって言ってるでしょ?私はミルフィー、たんなる冒険家よ。それ以外の何者でもないわ。」
「そうか。オレはシモン。別にこれと言って職業はない。頼まれればなんでもやるさ。」
「なんでも・・ね。」
にまりと薄ら笑いを浮かべて話すシモンに、どこか油断ならないと感じつつ、それでも、性根は悪くないんだろうとミルフィーは感じていた。
「シモン=ラスダルード?・・・・・ミルフィー、そいつから離れろ!そいつは・・セイタの仲間のドワーフの村を焼き払った殺人鬼だっ!」
「え?」
店から外へ出たところで、ラードとセイタと会ったミルフィーは、彼女の後に続くように店から出てきたシモンを一目見るなり、殺気を孕んだ視線で睨みながら叫んだラードと、その言葉に驚いていた。
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