オリジナル絵本 
  -CGとショートショート-
 
 永久(とこしえ)の国・陽の女神と月の女神 

***聖魔の迷宮・続編?ある戦士の旅の序章***

  

聖魔の迷宮のどこかから繋がっているという永久の国。そこは、双子の姉妹だと言われている女神の国。陽の女神と月の女神、2人が出会う交代の時、明け方と夕刻、虹色に輝く空に姿を現すという夢物語。
気高さと溢れる暖かさで全てのものを慈しむ陽の女神と、静寂と穏やかさで全てを包む月の女神の治める世界。

 その世界を求め、一人の若い戦士が聖魔の迷宮への道に足を踏み入れようとしていた。

 −ギ〜・・・・ギ〜・・・・−
月明かりの下、鏡のように静まり返った湖面を、櫓の音を辺りに響かせて小舟が進む。

「なー、あんた、あの迷宮は何回目?」
大木の中央を削り取って作っただけのようなその小舟には、櫓をこぐ舵取り以外に、5人の人間が乗っていた。

誰もこれから入る聖魔の迷宮の事を思ってか、何も話そうとしない。
静まりかえったそこで、その沈黙を破って男が隣の男に声をかけた。
声をかけた男は、軽装だが、一応戦士の出で立ち、そして、声をかけられた男は、頭からすっぽりとローブをかぶり、術師の雰囲気を持っていた。

迷宮へいく人間は、大きく分けて3つに別れた。
1つは、入口付近で、その日の糧に見合う宝を手に入れることを目的とするもの。
そして、1つは、依頼を受け、人捜し、宝探しなどを目的とする者。
そして、今1つは、自分の目的の為、その先に、奥へと進む者。
どちらにしろ、一度足を踏み入れると、それなりの腕が無ければ、二度とは出てこられないことは確かだった。
が、ここでは、湖の畔に小さいながらも集落ができていただけあり、宝探しを目的とする者が多かった。入口付近なら魔物も弱い。そして、迷わなければ、帰って来られる。あとは、夜の定期便を待ってさえいれば、無事村まで帰れるのである。それを日々の生活としている者も多くあった。

   

 「ちぇっ・・・すかしてやがんの。」
何も答えないフードの男に、若い男は舌打ちして船縁に寄る。

「人食い大ワニと肉食魚がいるって聞いたけど、静かなもんじゃねーか?」
−バタタ!−
もう少しで、その身を乗り出して湖面を覗こうとしていたその若い男を、周囲の男たちは一斉に止める。
咄嗟に服の裾や足先など、持てるところを持ち、それぞれ少し顔色を変えていた。

 「な、なんだってんだよ・・え?」
彼らの手をふりほどき、若い男はぶつぶつ文句を言いながら、おとなしく自分の席に座っていろと言ってるような彼らの視線に、おとなしく男は座る。
「あんただけなら別にいいんだがな。」
面白くなさそうな表情の若い男に、彼を全く相手にしなかったフードの男が独り言のように話す。
「おめでたい奴だな。今の時間、一応寝ていると言われてるが、本当かどうかは分からない。たぶん全部が全部、寝ているわけでもないんだろう。夜目が利かないことは確かだが、湖面に顔などだしてみろ、一気に襲いかかってくるぞ?」
「奴らって・・・ワニや肉食魚か?」
「ああ。引きずり落とされてあんただけ食われるってんなら、別に構わないが、ここにえさがあると分かったら、あんただけの問題じゃなくなるんでな。こうして高い金を払って舟に乗った意味がなくなる。」
「顔を出しただけでわかるのか?」
「舟には結界が張ってある。だが、ホントの周囲だけだから、少しでも舟から身を乗り出せば、彼らは体温を嗅ぎ取って襲ってくるんだ。一斉にな。」
「ふ〜〜ん。」
ぽりぽりと鼻の頭をかきながら、若い男は無頓着に答える。
「乗る前に注意書きを読まなかったのか?」
「知んねーよ、オレ。金は確かに払ったけど、ぎりぎりで駆け込んだもんな。」
   

 「なー、なー、あんた、知ってるか?」
再び口を閉じたフードの男に、若い男は懲りずに話しかける。
「双子の女神様が守ってるっていう世界なんだけど?」
が、男は何も答えずじっとしている。

「オレ、ガキん時、その話を冒険家だったじーちゃんに聞いてよ。すっげー興奮したんだ。オレも見たくなっちまってさ。」

ちらっと男を見たが、フードで顔が見えないその男が自分の話を聞いているのか聞いていないのか判断のしようはない。

が、若い男は続けた。聞いているかいないかは、分からないが、声は聞こえているに違いない、そう判断したからだった。

 「明け方と、夕暮れ・・・交代の時、2人の女神様が虹色に輝く空にその姿が現すんだって。それがすっごくきれいで、心を奪われない人はいないって。オレ、それ聞いたら、オレも大きくなって強くなったら、絶対見に行くんだ!って誓ったんだ。」
「誓ったはいいが、聖魔の迷宮のどこから行けるのか、分かってるのか?」
ようやく男が答えた。
「いや、そこまでわからないんだ。実は、じーちゃん、ここの世界の人間じゃなくってさ。異世界から迷宮を通ってここへ来たって言ってた。」
「そうか。道が見つかるといいな。」
「ああ。」

 話に乗ってくれた、と、若い男はそれまでより幾分機嫌のいい表情になった。
「で、あんたは、どうなんだ?やっぱり宝か?それとも、強力な呪術書か?」
「いや。」

−トッ−
いつのまにか大岩の真ん中の空洞に舟は入っていた。そして、その終着点、不気味な空気が流れ出てくる洞窟の前の岩場に、舟は着く。

最後尾に乗っていた若い男とフードの男が舟から下りたとき、他の男たちは早くもその洞窟の暗闇の中へと姿を消していた。 

「なー、よかったら途中まで一緒にいかないか?あ、いや、腕に自信ないってんじゃないぞ?これでもあちこち魔窟と呼ばれるところを制覇してきてんだからな?若いからってバカにするなよ?」
「ああ、バカにはしちゃいない。おしゃべりなことと、軽はずみしそうなところは、あまり関心しないが、ここまで来たんだ。聖魔の迷宮の魔窟の入口までな。腕は認めよう。」
「そ、そっか?」
舟での軽はずみな行動を言われたのだと、若い男は悟って、頭をかく。
「おしゃべりは生まれつきなんだ。し〜〜んとしてると息がつまってくるっていうか・・・」
「オレは、大した目的があるわけじゃない。」
一呼吸おいてから、男は重そうに口を開いた。
「ないって・・・・じゃ、単に魔物との戦闘か?確かに生死をかけての戦いだからな。緊張感あるなんてもんじゃない、ぞくぞくってくるっていうか・・オレも好きだぜ。」
「いや、それでもない。」
「じゃ、なんでわざわざこんなところへ来たんだ?」

  

 「オレのルーツを求めて来たのさ。生まれてこの方、この風貌のおかげで、さんざんな目にあってきたからな。」

すっととったフードの中身を見て、若い男はぎょっとして固まった。
「オレは別に取って食おうとも、危害を加えようとも思やしないのにな。」

男の顔は、確かに人間だった。が、その皮膚はドラゴンの皮膚。額の中央には、するどい角が生えていた。そして、ピンと立っている長く尖った耳。

「あんたの話を聞いて、オレもいつだったか、育ての親から聞いたことがあるのを思い出した。そこは、人間も妖精も悪鬼も何も差別がないとか言ってた。」
「そ、そうなんだ・・・あ、あはは・・・・」
若い男は全身に冷や汗を感じていた。
「ルーツなんて探し当てられるかどうかわからん。たとえ探し当てたとしても、どうってことないだろうしな。それより、そっちの方に興味がわいた。いいだろう、一緒に行ってやる。」
「あ、ああ・・・・そ、それは・・・」
「オレが恐いか?」
にやっと男は若い男に笑いかける。
「あ・・い、いや・・。」
「オレが、あんたを襲うようにみえるか?」
「あ・・い、いや・・・ぜんぜん・・・」
「ホントか?」
「あ、だってよ、あんた、オレの話聞いてくれたし・・・そのつもりなら、正体明かさないだろ?」
ふっと笑い、男は再びフードをかぶった。

「い、行こうか・・・た、旅は道連れ、世は情けっつんだろ?」

今更断ることもできなかった。それに、顔を見た時は驚いたが、なぜか悪い奴だとは感じなかった。



2人はこうして、いつ終わるとも分からない探索を開始した。
双子の女神の世界。永久の美しい天国への道を求め、迷宮を進み始めた。
群がってくる魔族と戦い、宝を拾い、情報を収集しつつ、奥へ、そして、またその奥へと。

まだ見ぬ女神の微笑みを心の糧として。

***終章へつづく***


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女神画像合成時に使った大木の写真:Photo by (c)Tomo.Yun