話に乗ってくれた、と、若い男はそれまでより幾分機嫌のいい表情になった。
「で、あんたは、どうなんだ?やっぱり宝か?それとも、強力な呪術書か?」
「いや。」
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−トッ−
いつのまにか大岩の真ん中の空洞に舟は入っていた。そして、その終着点、不気味な空気が流れ出てくる洞窟の前の岩場に、舟は着く。
最後尾に乗っていた若い男とフードの男が舟から下りたとき、他の男たちは早くもその洞窟の暗闇の中へと姿を消していた。
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「なー、よかったら途中まで一緒にいかないか?あ、いや、腕に自信ないってんじゃないぞ?これでもあちこち魔窟と呼ばれるところを制覇してきてんだからな?若いからってバカにするなよ?」
「ああ、バカにはしちゃいない。おしゃべりなことと、軽はずみしそうなところは、あまり関心しないが、ここまで来たんだ。聖魔の迷宮の魔窟の入口までな。腕は認めよう。」
「そ、そっか?」
舟での軽はずみな行動を言われたのだと、若い男は悟って、頭をかく。
「おしゃべりは生まれつきなんだ。し〜〜んとしてると息がつまってくるっていうか・・・」
「オレは、大した目的があるわけじゃない。」
一呼吸おいてから、男は重そうに口を開いた。
「ないって・・・・じゃ、単に魔物との戦闘か?確かに生死をかけての戦いだからな。緊張感あるなんてもんじゃない、ぞくぞくってくるっていうか・・オレも好きだぜ。」
「いや、それでもない。」
「じゃ、なんでわざわざこんなところへ来たんだ?」
「オレのルーツを求めて来たのさ。生まれてこの方、この風貌のおかげで、さんざんな目にあってきたからな。」
すっととったフードの中身を見て、若い男はぎょっとして固まった。
「オレは別に取って食おうとも、危害を加えようとも思やしないのにな。」
男の顔は、確かに人間だった。が、その皮膚はドラゴンの皮膚。額の中央には、するどい角が生えていた。そして、ピンと立っている長く尖った耳。
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「あんたの話を聞いて、オレもいつだったか、育ての親から聞いたことがあるのを思い出した。そこは、人間も妖精も悪鬼も何も差別がないとか言ってた。」
「そ、そうなんだ・・・あ、あはは・・・・」
若い男は全身に冷や汗を感じていた。
「ルーツなんて探し当てられるかどうかわからん。たとえ探し当てたとしても、どうってことないだろうしな。それより、そっちの方に興味がわいた。いいだろう、一緒に行ってやる。」
「あ、ああ・・・・そ、それは・・・」
「オレが恐いか?」
にやっと男は若い男に笑いかける。
「あ・・い、いや・・。」
「オレが、あんたを襲うようにみえるか?」
「あ・・い、いや・・・ぜんぜん・・・」
「ホントか?」
「あ、だってよ、あんた、オレの話聞いてくれたし・・・そのつもりなら、正体明かさないだろ?」
ふっと笑い、男は再びフードをかぶった。
「い、行こうか・・・た、旅は道連れ、世は情けっつんだろ?」
今更断ることもできなかった。それに、顔を見た時は驚いたが、なぜか悪い奴だとは感じなかった。
2人はこうして、いつ終わるとも分からない探索を開始した。
双子の女神の世界。永久の美しい天国への道を求め、迷宮を進み始めた。
群がってくる魔族と戦い、宝を拾い、情報を収集しつつ、奥へ、そして、またその奥へと。
まだ見ぬ女神の微笑みを心の糧として。
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