オリジナル絵本 
  -CGとショートショート-
 
 永久(とこしえ)の国・陽の女神と月の女神・2 

***ある戦士の旅の終章***
**[序章はこちら]**

  

 「ついたぞ・・・卯月・・・・・着いたんだぞ・・オレたちは、とうとう・・・・」
時は乾期、そこに言い伝えに聞いた満面に澄んだ水を湛えた湖水はなかった。
が、確かに女神の交代が、男の前にあった。
空一面に、気高さと優しさと穏やかさと温かさをを湛えた双子の女神の姿が。

フードを取り、空を見上げているのは、長い耳と額に角、そして龍の皮膚を持ったあの男だった。
「卯月・・・見えるか、あれが・・・オレたちが探し求めていた女神が?」
ローブの中から男はぼろぼろになった布が巻き付けてある短剣を取り出し、空にかかげた。


しばし、その短剣を掲げていた後、男は、どっかと大地に腰をおろした。
そして、短剣を大切そうにさすりながら話し始める。

「皮肉だよな・・・オレは、どっちかというと女神もどうでもよかったんだ。だが、感謝してる・・・まるで心が洗われるようだ。」
男は空を見上げながら、呟き始めた。いや、短剣に、短剣の持ち主だった卯月という名の戦士に話しかけ始めた。


「お前が、一緒に来ないかと誘ってくれたとき、オレは、いるかいないか、いや、行き着くことができるかどうかわからない、そんなものはどうでもよかったんだ。」
短剣に視線を落とし、男は、再び空を、女神を見上げる。

「そうだな・・・この風貌のおかげで散々悪鬼扱いされていたオレを・・・一瞬はたじろいだものの、そのオレの顔を見ても逃げなかった奴は、お前が初めてだった。」

男は目を閉じ、その時を思い出す。ゆっくりとかみしめるように。

「一人でいい・・所詮、誰しも一人なんだ、と言いつつ、実は、人恋しかったんだろう。仲間が、欲しかったんだろうな・・・・。」
男はぐっと短剣をにぎりしめる。

「いろんな事があった。時には、お前はオレの盾になってくれた。」
顔がばれたとき、卯月がいたから、魔族扱いされずにすんだことは幾度となくあったことを男は思いだしていた。そして、卯月のくったくのない笑顔に救われたことも。
「お前と出会ったおかげで、オレは、心まで悪鬼にならずにすんだ。いや・・・顔で悪鬼と決めつけることは、よくない事だったな・・ははは・・・」


「だが・・オレは、異種族との混血だったことを、今、改めて良かったと思ってる。・・・・混血でなかったら、ここまで来られなかっただろうからな。」

卯月・・男より若かったその戦士は、すでに亡くなっていた。凶暴な魔物が犇めく聖魔の迷宮を通り、いや、その迷宮内をあちこち探し回り、ようやく、そこから繋がっている異世界の1つであるここまでやってきた。
卯月は、迷宮を駆ける戦士としてはめずらしく、その探索の途中、寿命でこの世を去っていた。
龍族ともエルフ族とも思える長寿の種族の血を引くこの男だからこそ、ここまで寿命があったといえた。そして、確かに幸運と、魔物との戦いをくぐり抜けるという腕もあった。


「卯月・・・女神はきれいだ・・・この光景は・・・一度見たら誰しも忘れられないだろう・・だが、オレには、お前が傍にいてくれることのほうがもっと・・・・。」

ぐらっと男の身体が前のめりに倒れ、そして、そのまま目は開かず、声は聞こえず、その身体は二度と動くことはなかった。
手に、短剣をしっかりと握りしめたまま。
それは、ぼろぼろになった布を、卯月がいつもしていたバンダナを巻きつけた、卯月の形見となった短剣。
なにがなんでも、双子の女神の姿を見るまでは、と男が心のよりどころにしていたもの。
男の話しかけに応えこそないが、それがあるから、男は卯月の心(魂)を傍に感じていた。
それは、男の魂の半身、卯月という男の思いが、魂が宿ったもの。

  

 

双子の女神が見守る世界。

女神に抱かれ、卯月とその男の魂はそこに眠る。

一人取り残されたあとの孤独で長く苦しかった旅に終止符をうち、再び、男は卯月と共にいた。


・・・永遠に安らかに。




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女神画像合成時に使った大木の写真:Photo by (c)Tomo.Yun