-続・創世の竪琴-
 その十四:ストーカー2人?  

 

 「ちょっと顔貸してくれないか?」
「は?」
てっきり日本人彼女第一号(遊び)決定、とほくそ笑んでいたイオルーシムは、不意にお見舞いされた痛烈なビンタに驚き、真っ赤になった頬を押さえて呆然としていた。
そこに男が声をかける。そう、それは一部始終をみて憤慨した洋一・・と優司である。
ストーカーまがいのことをすることには気が咎めたが、どうにも渚が気になった2人は、相談して尾行することにした。話をしようとしても渚がそれを上手い具合に避けてしまうからである。前日から顔すらも合わせていなかった。
丁度夏休みでもあり、高校生の下見という顔をして優司は洋一に同行して大学内にも入ることができた。
そして、見てしまったイオルーシムとの現場は、2人を噴火させるのに十分な出来事だった。


が、裏庭に連れていったイオルーシムは前々日渚に会いに家まで行ったことも、何も記憶がない。
「どうする?」
「ど、どうするって?」
噴火の勢いでそうしてしまった2人だが、当の本人がまるっきり思い当たることがないというのは、形勢不利だった。今し方の渚への態度は別にして。が、それすら2人の方が不利であった。
突破口がなくなり洋一と優司は見合って困惑する。
「つまりこういうことなんだね?」
ふふん!とイオルーシムは鼻で笑って結論を言う。
「惚れてる女がぼくに落とされそうで、頭に来たってわけだ。ははは・・・いいよ、ぼくは彼女でなきゃならないってことはないんだ。彼女の方から来たからぼくは・・」
ボスッ!っと思いっきり目の前の嫌みな女たらしの鳩尾に1発入れたつもりだった、が、洋一のその拳はイオルーシムの片手で押さえられていた。
「君の怒りも分からないでもないけどね。大丈夫、こういうごたごたは好きじゃないんだ。彼女には手をださないよ。女には不自由しないんでね。」
そして、ちょうどイオルーシムを探していた女の子達に見つかり、彼は賑々しいその子たちに囲まれて立ち去っていった。


「山崎さん・・・」
「あ・・ああ・・。」
仕方なく洋一と優司は帰ることにしたが・・・家に戻って渚と顔を合わせることも気まずく思い、優司は洋一の家へと向かった。


そしてその夜・・・・
「桂木、寝てる?」
「部屋は静かだけど・・・」
渚の家の前で小声で会話する洋一と優司の姿があった。


「で、でも・・いいのかな?」
「いいって・・・姉貴がいたらそれでいいんだし。」
靴を優司の部屋に置き、そっと優司と共に渚の部屋に近づく洋一。なにか夜這いでもするようで気が咎める。
(弟が一緒なんだから、そうじゃないよな?)
思わず自分に言い聞かせていた洋一。

「姉貴?」
コンコンと軽くノックして呼びかけても返事はない。優司はそっとドアを開けて中を覗く。
「山崎さん!」
小声で洋一を呼ぶ。
「お、おう。」
洋一の心臓はドックンドックンと鳴っていた。別に悪いことをするつもりではないのに、おかしな緊張を洋一は感じていた。

「い、いないな。」
「うん。」
部屋の中はもぬけの空。
「もう向こうへ行っちゃった?」
「たぶんな。」
はーっと2人は大きくため息をつく。
「で、どうするんだ?」
「このまま帰ってくるまでここで待つ?」
「ううーーん・・・」
しばらく考えていた洋一は、突然はっとして優司の肩をがしっと持つ。
「月下蝶の花は?あいつが持ってなかったか?そ、その・・桂木と一緒に消えたっていう夜?」
「花?」
「そう!花!蝶のような花で夜しか咲かないっていうものなんだ。確かそれで行き来できるとかで・・」
「そういえば、来たとき鉢植えを持っていたような?・・・でも、行き来できるって・・それって、向こうでの人間界と闇世界のことじゃなかった?」
優司に言われて洋一はそうだった、と思う。が、何もしないよりはましというもの。消える直前は手にしていなかった(渚を抱いているのだから当たり前)と思い出した優司は、もしかしたらその鉢植えが玄関あたりにあるかもしれない、と探してみる。

「あったよ!これじゃないかな?」
優司は変わった蕾をつけている草の鉢植えを持って上がってきた。
「あ!そうだ、確かそれだ!」
といっても、それが本当に月下蝶であるかも、そして、たとえそうであっても、それが本当に使えるのか、そしてどう使えばいいのかも分からない。

しばらく鉢を手にして考えていたが、何もしないよりはした方がいい。当たるも八卦、当たらずも八卦・・PCを立ち上げその前に鉢を置き、2人はじっとそれを見つめていた。

−コチコチコチ−
時計の音だけが部屋に響いていた。
時計は12時を差したというのに、変化は何もみられなかった。
が・・・12時少しすぎて、月下蝶の蕾が膨らみはじめた。

「きれいだなー。」
「そうですね・・。」
2人は花びらを開いた月下蝶の美しさに感嘆していた。
「あ・・で、ここで祈るっていうのか?桂木のところに行きたいって願ったらどうかな?」
「あ!そうか!そうですよね!!」
目を輝かせて叫んだ(小声で)優司は、ひたすら心に祈った。勿論洋一も。
「あ?」
「こ、これ?」
30分ほど過ぎた頃だろうか、月下蝶がその茎から離れたような錯覚を覚え、2人は目をこすって確認する。そして、次の瞬間、暗闇に引き込まれるような感じと共に、気が遠くなっていった。



「出あえー!くせ者だー!」
その声に驚いて目を開けた2人は、数人の兵士に槍を突きつけられ、硬直する。

そこはどこかの庭のようなところ。ゲームの世界から抜け出たような、いや、中世の兵士のような男たちと、月光を浴びた美しい城が目の前にあった。

 



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