-続・創世の竪琴-
 その十一:玄関先のラブシーン  

 

 「待って・・・確かイルは月下蝶の花を使って向こうと行き来するって言ってたわよね?」
PCの画面を見つつ、イオルーシムとの再会の場面を思い浮かべていた渚は、ふとそんなことを思いついて呟く。
「確か月下蝶って、闇世界の花。」
ミノタウロスの言葉が渚の記憶にある。それを思い出し、渚は首を傾げる。
「でも、イルは光の神殿にいるって言ってたわよね?」
闇そのものを異常なほどまでに嫌っている感じがした光の使徒。その彼らが闇の花など使うのだろうか?ふと渚にそんな疑問が湧く。
思わずPCを立ち上げ、ゲーム内のアイテム図鑑を開いて、月下蝶を確認してみた。
そして、地図帳を開き、光の神殿を探す。
「・・そうよね、私が知らないんだもん・・・あるわけないか。」
システム上、ダンジョンなどの追加はまだできるようになっている。現在位置不明と記載されているだけの光の神殿も、あとで追加できる。
「できるけど・・・それって、私が現物を見てからのことよね?」
それは、ゲームがあってその世界があるのではなく、その世界があるからこそゲームが作れるという証拠?、と渚は、はっと思った。
偶然同じだったからゲーム通りになったと思ってしまったのかも知れない、と渚は考え直す。世界があってほんのたまたま同じゲームが作られたその共通点から道ができてしまった?
だから、進行はゲームとは関係ない?
それにしても似たような展開でありすぎるが、ともかく、渚はイオルーシムとのことに、少し明るさが見えてきたと思った。
「それに、作り直したゲームは・・・性格設定も何もないし。本当にどうなるか分からなくなってるから。」
先は分からない。それはプレイヤー次第。
「私がこのパーティーで進んで、闇世界も人間界も平和な関係を作ったら、向こうもそうなるのかしら?」
そして、イオルーシムとの関係は、以前のように戻るのか、と渚は考え込む。つい今し方ゲームと実際の向こうの世界での展開は関係ないと思ったばかりなのだが、そこはやはり恋心というものだろうか。
イオルーシムはあの日以来、大学へは来ていなかった。教授に住所を聞くのも渚は恥ずかしかった。いや、会いに行って拒絶されるのが恐くて聞くことができないのかもしれなかった。


「でも・・そろそろまた向こうへ行く頃よね?」
渚はキャラクター作成画面を閉じ、ゲームを終了する。
「ミノタウロスたちが心配してるかも。」
イオルーシムと共に戻れたらどんなにいいだろう、と思いながら渚は沈んでいた。
「結局、イルは闇王にはなれないってこと?」
とすると、リーはどうなのだろう?前闇王の血を分けた実の弟、リー。男女の関係はこの際別と考えて、そういう闇王と月巫女が存在することだってあってもいいはずだ、と思った渚は、イオルーシムのことはひとまず考えないようにし、異世界へ戻ったらリーを探してみようと思っていた。
リーの控えめなそしてやさしい笑顔を渚は思い出していた。たとえ恋人ではなくても、リーとなら心を合わせ、闇世界を修復することも、守っていくことも可能だと思えた。
が、本当は誰よりも何よりもイオルーシムに会いたかった。会って・・分かってもらいたかった。できるなら、イオルーシムと闇世界を守っていきたかった。人間と争いのない平和で静かな闇世界を2人で協力して。


−コンコン!−
「あ、はーい」
「姉貴、お客さん。」
「え?お客さんって・・・私に?部長じゃなくって?」
こんな夜にだれだろう?と渚はPCの前に座ったまま、ドアのところの弟の優司を見る。
「うん、金髪の男の人だけど・・・」
「え?」
ガタッ!と立ち上がる渚。
「姉貴、あんなハンサムと知り合いだった?・・おっと・・・」
どん!と優司を押しのけ、部屋から飛び出す。
「イル・・」
階段の中断で、玄関に立つイオルーシムの姿が目に入り、渚は思わず涙ぐむ。
「渚。」
数日前のわだかまりなどまったくないようなイオルーシムのその微笑みに、渚は全てを忘れ、イオルーシムの元へまっすぐに駆け寄っていく。闇の世界のことも、ゲームのことも、優司の目の前であることも、家の玄関先であることも、渚の頭から消え失せていた。

「げ・・・・あ、姉貴・・・?」
渚の慌て方に思わず後を追って階段を下りかけた優司は、胸に飛び込んできた渚をしっかりと抱きとめ、キスをしようと唇を近づけているイオルーシムの姿に、思わず両手で目をふさぐ。
(あ、姉貴が・・あのおっちょこちょいのどたばたコメディー姉貴が・・・金髪のハンサムとラブシーン・・・・・?し、しかも玄関先でぇー?)
目の前の展開が信じられなかった。見てはいけないような気がしてとっさに自分の目を塞いだが、その手をそおっと下ろす。続きが見たいような気もするのは、年頃の男の子。
(え?・・・あ、姉貴?)
手で目を覆っていたのは一瞬だったと思った。が、再び玄関を見たとき、そこにあるはずの金髪の青年もそして、渚の姿もない。
(ゆ、夢じゃないよな?)
まさか、白昼夢?と思いながらも、優司はダダダッと玄関まで一気に下りていく。
玄関のドアは開きっぱなし。それは、確かに白昼夢ではなかった証拠とも言えた。
「姉貴?!」
そのままサンダルをつっかけ外に飛び出す。渚の家の前は1本道、もしも外へ出たのならまだ姿は見えるはずだったが・・・人影は左右どちらもない。
「嘘だろ?」
優司はともかく全速力で右へと道を走り、次の角まで行ってみる。がその先にも酔っぱらいの男の影が見えただけで、渚と青年らしき人影はない。反対側もそうしたが、人影はなかった。

「どうしたの、優司?」
バタバタしたせいか、優司が家へ戻ると母親が居間から顔を出して聞く。
「あ、べ、別に。」
「そう。」
それ以上何も聞かず、パタンとドアを閉めた母親にほっとしながら、優司は階段をあがっていく。
「いない・・よな・・・?」
半開きになったままの渚の部屋のドアを開け中を覗く。
つけっぱなしの電気とPCがあるのみ。
「け、警察に・・・・」
そう呟き、優司はふと気付く。
誰が目を覆っていた一瞬後、姿を消すというのだろう?誰がそんなことを信じてくれるのだ?言ってみたところで、多分、男と出ていったのだろう、それで終わるはずだと思えた。
(姉貴が男と?)
それまでそのような気配が全くなかった渚を思い出し、優司は首を振る。確かに洋一がここのところ数回来たりしているが、渚にそれらしい態度はなかった事も思い出す。
(だけど・・・あれは・・普通じゃないよな?)
優司が全部言わないうちに部屋から飛び出していった渚。そして、玄関先でのアツアツのラブシーン。
「姉貴だったよな・・・あれ?」
相手は金髪の青年、しかもかなりハンサムな部類に入る。
「いつ知り合ったんだよ、あんなハンサムと?」
どたばたコメディー姉貴には、似合わないと思ったが、ふと最近の渚ならそうでもないかもしれない、と優司は思う。
「やっぱ・・恋をしたから変わったのかな?」
優司はぶつぶつ独り言を言いながら自分の部屋に入る。

そして、なかなか寝付かれなかったその夜は、そのまま明け、翌日・・・。

「優司、渚、呼んできてちょうだい。」
朝食に階下へ下りていった優司に、母親が不機嫌そうに言う。
「あんたたちって休みだというと不規則になるんだから・・・たまにはきちんと朝食取らないとだめよ?」
「はいはい。」
といってもその日は日曜日。母親もゆっくりしている為、いつもより遅い朝食ではある。
トントントン!と階段を上がりかけ、優司はハタ!と気付いた。
「やっべーーー・・・姉貴、無断外泊かよ?・・・しかも、男ンとこ?」
くるっと向きを変え、優司はダイニングに戻る。
「あ、ごめん、確か今日は用事があるとかで・・・大学・・・だったかな?」
「え?そう?母さん、聞いてないけど。」
「あ、うん・・・昨日の夜電話があってさ、母さんに言っておいてくれって、オレに。」
「そう。ならいいけど・・・。」
夜、男が迎えに来て出ていったなんて言ったら、大嵐になる、と優司は判断し、嘘をつくことにした。

「帰ってきたらこのお返しにたっぷりおごってもらうからな、姉貴。」
などと自分の部屋で一人でぶつぶつ言いながら、ふと優司は心配になる。
「帰ってくるのか、姉貴?」
まるでそこからかき消えたようにいなくなった渚と青年。
(ま、まさか・・・・誘拐?・・・い、いや、そうなら身代金を請求してくるよな?それにオレん家、そんな金ないし。)
それにしても消え方が普通ではなかったと優司は一人心配になっていた。

−ピンポーーン!−
ちょうどそんなとき、洋一がやってきた。前日は気まずい雰囲気のまま、追い返すように別れてしまったことが気になっていた。それからゲームのことも話し合ってみたかったこともあり、顔を会わせにくかったことは確かだが、ともかく勇気を出してやって来たのである。
「あ・・確か、山崎・・さん?」
「そうだけど。えっと・・優司君だったっけ?」
「あ、うん。」
渚が姿を消したことと洋一は関係ないな、と思いながら、姉貴なら留守だよ、と言おうとした優司は、はっとひらめく。
「ち、ちょっといい?山崎さん?」
「何?」
「いいから、ちょっと。」
優司はきょとんとしている洋一を引っ張るようにして自分の部屋に連れていった。
「あ、あの・・それで、何か?」
姉貴に手を出すな!とでも怒鳴られるのか、と部屋へ入った洋一は少し焦りながら口を開いた。
「えっと・・・大したことないんだけど・・・・ちょっと気になる事があって・・。」
「気になること?」
言いにくそうに話し始めた優司に、なぜか不安を感じながら洋一は聞く。
「あ、あのさ、姉貴の知り合いで、金髪のハンサム・・・見たことないかな〜?大学の留学生か何かかもしれないんだけど?」
「金髪の?」
イスに座っていた洋一ががばっと立ち上がった。
「は?」
顔色が変わるような事なのかと優司は驚いて洋一を見上げる。
「そ、それで、どうしたんだ?ここへ来たのか?か、桂木は?」
明らかに洋一は動揺しているその様子に、優司は2人の仲は確かなんだと確信する。が、今、問題としているのはそれではない。
「昨日の夜来て・・・」
「昨日の夜?それで桂木は?」
「あ、そ、それが・・・」
話して信じてくれるだろうか、と優司は口ごもった。一瞬で姿が消えたなど、誰が。
「ま、まさか・・まさか奴が桂木を連れていったなんて言うんじゃないだろうな?」
「え?」
がしっと優司の肩を掴んで、大声で言った洋一に、優司は驚く。が、渚が好きなら、焦るのも当然だと思い直す。ともかく問題はその連れていった方法である。
「そ、それが・・・分からなくて・・。」
「分からない?」
「一瞬で消えたような気がしたんだけど・・・・一緒にでかけたのかどうか・・分からなくて・・・」
優司のその言葉に、洋一はぐいっと顔を近づけて確認する。
「一瞬で消えた?2人一緒に?」
「あ、はい。」
あまりにも現実味のないその話に、そこで大笑いされるだろうと思っていた優司の耳に、思いがけない言葉が入った。
「あいつ・・・実力行使か?・・・・・だけど、こんな目に付く方法で連れてっていいのか?」
「山崎さん?」
金髪の青年も、そして、一瞬で姿を消したことにも心当たりがあるような洋一の言葉に、優司は怪訝そうな表情で見つめる。
「あ・・・・・家の人は?」
「まさか・・こんなこと両親には言えないですよ。だから、オレ困って・・。」
「だよな。」
ぐっと握っていた優司の肩から手を離し、洋一は床へ座り込んだ。
「それを知ってもどうすることもできないことも確かなんだけどな。」
大きくため息をつく洋一。そして、その態度に何か自分の知らない事が、しかも渚にとって重大な事が起こっていると思った優司は、事の説明を洋一に詰め寄った。

洋一なら知っているに違いない!優司はなかなか話そうとしない洋一に、断固として迫っていた。

 



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