-続・創世の竪琴-
 その十:意外な協力者  

 

 「誰だ?桂木と一緒にいる奴は?」
イオルーシムとの一部始終を偶然見かけた男がいた。それは、誰あろう山崎洋一、渚に片思いの人物である。
「2学期からくるっていう留学生か?」
少し赤味かかった金髪と明るい茶色の瞳。長身のその身体はスポーツ選手のように張りがある。
それはいいのだが、その雰囲気がただの留学生との雰囲気とは形容しがたかった。
初対面の態度や雰囲気ではない。明らかに2人の間にただならぬものがあると思われた。
「まさか・・・桂木の・・勇者様?」
ゲーム好きで勇者に憧れていた渚のことは洋一もよく知っていた。そして、その話は渚の友人である結城祀恵からもよく聞いている。最近では耳にしなくなったが、高校時代よく耳にしたのは、異世界へ行って出会った勇者の話。共に世界を救い、そして、恋人になったカッコよくハンサムな青年。ばかばかしいとも思いながら、ふとそんな言葉が洋一の口から出ていた。
「んなあほな。じゃー・・・もしかして一目惚れとか?」
あり得ない夢の話は除外した結果として出た自分の推理に、ますますもって青くなる洋一。

「あ!桂木っ!」
その青年がなぜだか駆け去っていった。そして、その後、しばらく呆然としたように立っていた渚が、ふらっと倒れかかり、洋一は慌てて渚に駆け寄った。
「桂木?」
(おい・・ホントに気絶してるぞ?)
置かれたその状況に、洋一は焦りを覚える。膝の上に抱き上げた渚は、いくら揺すっても呼びかけても気付きそうもない。
(と、ともかく、このままじゃなんだよな・・やっぱり保健室か?)
ぐっと腕に力を入れ、洋一は渚を抱き上げようとする。
(う・・・・け、結構重い・・・。)
渚の体重は、本人が公開を断固拒否してるので発表しないが、そもそも気絶している人間は、普段感じる体重より重いのである。普通の状態で抱くのと意識のない人間を抱くのとでは、同一人物でも差がある。
ともかく、洋一は渚をお姫様だっこして運ぶことにした。

が・・・・
「やっぱPCばっか触ってちゃだめか・・・・男は体力腕力ってか〜〜?」
途中で息切れして、洋一は見つけたベンチへ渚を横たわらせる。
ここへ保険医の先生を呼んでくるべきか、いや、呼びにいってる間にへんな野郎に、などと悩んでいた洋一の脳裏に、ふとさっきの留学生の姿が浮かんだ。
(あいつなら、・・・そうだろうなー、きっと軽々と運んで・・・)
ふっと小馬鹿にしたような視線を洋一に投げかけ、軽々と渚をその腕に抱いて運んでいく青年の姿がまるで現実のように鮮明に脳裏に浮かんだ。

「あ、あれ?」
ではなく・・・鮮やかに脳裏にうつったと思ったその情景は、現実に目の前で繰り広げられていた。
「か、桂木・・・」
ただ、小馬鹿にしたような視線はなかった。が、洋一のことなど全く目に入っていないようである。
「保健室はどこですか?」
唐突に聞く留学生。
(なんでオレが傍にいるのかわかってない?ここまで運んできたの見てなかったのか?)
とは思ったが、洋一の口からでた言葉は違っていた。
「あ?ああ・・・ここ真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がってそこの突き当たりの入口からはいるとすぐに・・」
「ありがとう。」
彼の瞳は、渚しか写ってないようにも見えた。
(じゃ、さっきの展開はなんだったんだよ?)
そうも思ったが、ハンサムでカッコいい留学生(洋一のひがみによる修飾?)は、洋一の事などまるっきりアウトオブ眼中?愛しそうにそして心配そうに腕に抱いた渚を見つめながら連れていってしまった。

「くっそーーー!!・・・イテっ!」
怒った勢いで思いっきりベンチを蹴った洋一は、その痛みに、ぴょんぴょん跳ねながら足をさする。
「痛ーーーー・・・・・オレのあほ!なんで教えるんだよっ?!」
全ては後の祭りである。痛みを堪えながら洋一は自分の非力さを呪っていた。


そして、その夜、洋一の家。
「あれ?お兄ちゃん、どうしたの、その首筋?」
「首筋?」
風呂上がりの洋一の後ろ姿を見て、妹の多香子が声をかけた。
「誰かと喧嘩でもしたの?それとも柔道かなにかでなったの?」
「どこが?」
「ほら!」
多香子は傍にあった手鏡を洋一に向ける。
「それにしても、大きな手形ねー・・・相手はやっぱり柔道の猛者?それともレスリング部?」
「な・・・何だって?」
多香子の差し出した手鏡は、風呂上がりで温まり、赤く浮かび出た手形を写していた。
「こ、これは・・・・・」
洋一の中に恐怖の記憶が蘇っていた。夢だとばかり思っていた闇の城での出来事。ひねり殺されたと思ったそれは、恐ろしい異形の魔物、ミノタウロスの片手の跡。
「桂木・・・・」
『夢じゃないのよ!現実なのよ!』
渚の叫び声が耳に響き、同じように恐怖に染まった渚の顔が脳裏に浮かんだ。


「何よ〜、いきなり電話してきたと思ったら、そんなことぉ?」
急いで自分の部屋へ駆け上がった洋一は、渚の親友、結城祀恵に電話をしていた。
「いいから、知ってる事話してくれよ。」
「渚の異世界の勇者様のこと?」
「あ、ああ・・・勇者様以外にもその世界のことで何か知ってたら教えてくれ。」
「な〜に?渚の傾向と対策でも練ろうっていうの?やっと本格的に落とすつもりになった?」
「いいから!教えてくれよ、なっ!他に聞ける奴いないんだ!」
つい少し前の洋一と同じく、親友とはいえ、異世界の事は夢としか思っていない結城は、それでもからかいながらも知ってることは一応教えてくれた。


「つまり・・・・あいつは、間違いなく桂木と一緒に闇王を倒した勇者なんだ。で・・・主人を失くした闇世界は、月神の力を手にした桂木を女王に据え・・新しい闇王を探している・・・・ってことだよな?」
結城から聞いた話と後輩たちのゲーム内容から考え、大筋はそんなものなんだろう、と洋一は的確に判断していた。
「それで、桂木は高校であんなにムキになって・・・・」
創世のゲームと進行状況が同じだった事は今回もそうなる可能性がある。
「恋人だった勇者が、今度は敵・・・」
PCに向かってシュミレートしていた洋一は、ごろっと横になる。
「どうみても・・両思いだよな、ありゃ。」
ショックだった。あんなに嬉しそうな渚も、そして、あれほど悲しげな打ちひしがれた表情の渚も初めて見た。どうやってこの世界へ来たかは知らないが、あの留学生があきらかに渚が異世界で恋した相手だと確信できた。
「オレは・・・・・」
どうしたらいい?どうしたい?・・・洋一は繰り返し自分に問いながら、そのまま寝入ってしまった。


「桂木!朗報!朗報!」
翌々日の夕方、気分がすぐれず、ほぼ2日間ベッドにいた渚が家の受話器を取った途端に、洋一の声が耳に飛び込んだ。
「なによ、部長?私、気分が悪いのよ?」
「知ってる。一昨日保健室へ運ばれただろ?」
「え?」
「あ、いや・・おばさんに聞いてさ。」
「あ、そ、そう。・・」
前日、渚が保健室で気付いたとき、イオルーシムはそこにはいなかった。保険医のいないときだったらしく、聞いてもだれが運んできてくれたのか分からなかった。
「あ、そーじゃなかったんだ。だから、朗報!朗報!」
「だから、何よ、朗報って?」
どうせろくな事じゃないに決まっている、と渚は決めつけ適当に相手をしていた。きっかけがあったら即電話を切るつもりで。
「あいつらな、高校の部活の。」
「あ、うん。」
思わずイオルーシムの顔が渚の脳裏に浮かぶ。
「制作中止になったんだって。」
「え?ど、どうして?」
「うん。2学期にPC総入れ替えするらしくてさー。今度はindowsだとかで、そうするとまた最初から作り直さなくちゃいけないだろ?」
「あ、うん。」
「だから、もう手っ取り早くパズルゲームかなにかにするってさ。」
「ふ〜〜ん。」
それがどうした?といった渚の返事。
「だからさー・・・オレ達で作らないか?」
「え?」
「あのゲームの続き。」
「続き?」
「そ。桂木のシナリオにそってさ。」
「で、できるの?」
「大元はコピッてきてあるからな。あとは追加していくだけだろ?プログラムは任せておけって!」
「・・・・・・」
「桂木?・・・お、おい、聞いてるのか?」
思いがけない洋一の提案に、嬉しさと涙で声にならなかった。
「う、うん・・」
「よかった。ひょっとして切られてるのかと思った。」
「ご、ごめん。」
「あ、いや・・でさ、その打ち合わせしたいんだけど・・・今からはまずい?あ、いや、そんなに遅くまでいるつもりないよ。だいたいのストーリーを聞かせてくれれば、あとは、自分家でやるから。」
「あ、うん。ありがと。」
「じゃーさ、30分くらいで。」
「うん。」

カチャリと受話器を置き、渚ははっとする。
「いっけな〜い!ここのところ落ち込んでいて掃除してないっ!」
慌てて部屋に駆け込み掃除機出動と整理整頓!(とは言っても女の子の渚のこと、○ロ本の類があるわけではないので誤解しないように。)

どたんばたんゴーッガーッ!の大急ぎの掃除がなんとか終わった頃、洋一が玄関のチャイムを鳴らした。
「ま、間に合った・・・。」

「い、いらっしゃい。」
「あ、お、お邪魔します。」
いくら気のない相手だとしても男の人を自分の部屋へ入れるのは渚は初めてであり、洋一も渚の部屋へ入るのは初めて。なんとなくお互い緊張していた。
が、ゲームの話に入ればそんな緊張感もどこへやら。とくに渚にとっては、暗闇に一筋射し込んだ希望の光なのである。男女の壁などどこへやら、高校の部活の時に戻って意見を交わしあっていた。


「でも、なぜ急に作ろうなんて気になってくれたの?」
帰り際、渚がふと思いついたように聞いた問いに洋一は照れ笑いをみせる。
「桂木が気に入ってただろ?だからだって。」
「それだけで?」
そんな単純な理由だけでここまで親身になってくれる?と言いたそうな渚に、洋一は明るく笑って答える。
「今度オレん家に来てくれたときに教えるよ。」
洋一はそれだけ言って帰っていった。

そして、ほぼ完成に近い、一応人間界と闇世界が出来上がった時点で、洋一は渚を自分の家に呼んだ。徹夜に続く徹夜の成果だということは、渚には内緒である。

「これがなんだか、桂木ならわかるだろ?」
渚が着いた時、風呂上がりだと言った洋一が、部屋に入るなりいきなりシャツを脱いだのには、どきっとした渚だったが、洋一の首筋にあのミノタウロスの手形を見つけた時には、それ以上の・・いやそれとは比べ物にならないほどの驚きを覚え、呆然として渚はそこに立ちつくす。


「現実・・・だったんだよな?」
「・・・部長・・・」
「ごめん。」
「何が?」
「オレ・・・作るっていったのに、最後まで作れなかった。」
「え?」
「というか・・・エンディングがどうしても決めれなくて。」
「エンディングが?」
「どこからどこまでが現実で、どこからがゲームなのか・・オレ・・・桂木の為に作るって言ったけど・・・・ダメなんだ。」
「何が?」
シャツを着た後、そっと差し出した数枚のFDを受け取りながら、渚は不思議そうに聞いた。
「オレさ、よく人からお人好しって言われるけど・・・」
渚の視線を避け、洋一は窓から外を見つめる。
「だけど・・・これだけは無理なんだ。・・・」
「部長?」
数秒間の沈黙のあと、渚の方を振り返ろうともせず、洋一は叫ぶように言った。
「無理なんだよ!桂木とあいつのハッピーエンドなんて!」
「ぶ・・・」
部長、と言おうとした渚のその先は声にならなかった。洋一の気持ちは分かっていた。分かっていたが渚の気持ちも変わらなかった。だからこそなるべく洋一には関わらないようにしようとしていたことも確かだった。

その日、今日は帰ってくれという洋一の言葉に、渚は力無く頷くことしかできなかった。
「ありがと。」
背を向けたままの洋一に小声で礼を言うと、渚は洋一の家を後にした。


その夜、渚は遅くまで洋一の作ったゲームを見ていた。
どこそこ多少違っている事もあるが、こんなことまで話した?と思うような細部まで、向こうの世界そのままに作られていた。が、ゲームのキャラ設定はゼロだった。
創世のキャラは白紙に戻され、ゲームはキャラ作成からスタートするシステムになっていた。

『2名から6名のパーティーが作成できます。選んで下さい。』
『サンプルで遊ぶ・オリジナルを作成する』

そのキャラ作成の画面を見つめ、渚はコマンドが選べずにいた。
洋一が作ったらしいサンプルのパーティー。それは渚の見知ったメンバーだった。

『魔導士イル、術師リー、ダガー使いファラシーナ、剣士ミルフィー(謎)、・・・そして、月巫女Nと・・・僧侶Y・・』

FDを渡してくれたときの洋一の言葉と、これを作っている時の洋一の気持ちを思い、渚はただ呆然と画面を見つめ続けていた。

 



【Back】 【INDEX】 【Next】