-続・創世の竪琴-
 その六:闇の女王として  

 

 「オ、オレ・・・・」
洋一はハッとして顔を上げた。そこは自分の部屋。洋一は机に俯せの姿勢で気を失っていたらしかった。
それとも寝ていた?と考えながら、洋一は渚と一緒だったことを思い出し、慌ててパソコンの方を見る。
「桂木・・・・」
そこに座っていたはずの渚の姿はなかった。

「洋ちゃん、ごはんよ〜!」
階下から母親の声がし、洋一は不思議な面もちで下りていった。

「まったくせっかく渚ちゃんが来てくれたっていうのに、洋ちゃんったら寝てしまうなんて・・・・」
「そうよ、お兄ちゃん!何してんのよ?せっかく寄ってくれたのに、桂木さんも呆れて帰っちゃったじゃない?もう来てくれないわよ?」
「え?・・・桂木、帰ったのか?・・自分の家へ?」
「お兄ちゃん?!」
何を寝ぼけてるんだ!ときつい視線で洋一を睨む妹の多香子。だが、洋一に多香子の言葉も母親の言葉も入っていなかった。
「あれは・・夢?」
確かに最初は夢だと思っていた。だが・・・地獄の住人とも言えるミノタウロスや魔族と思えるものの出現で、彼らの形容しがたい異様さと雰囲気、そして、洋一を鷲掴みにしたミノタウロスの大きくがっしりとした手。それらにより、それが現実だと肌で感じた。それが、全部夢?

夢とは思えなかった。そのリアリティーさと、そして・・・。
「そうだ!オレ・・桂木に・・・。」
酷いことを言ってしまった、と夢ながら洋一は後悔する。
「夢だから・・・いいんだよな。・・だけど普通あの場面・・責めるんじゃなく、桂木の事を心配すべきなんだよな・・・。帰れないのは桂木も一緒なんだし。だいたい桂木のせいじゃなくて・・・桂木も戸惑ってるに決まってるのに、不安に違いないのに・・。」
男なら、そして、渚に惚れているのなら・・と洋一は考えていた。
「オレってやつわぁ〜〜〜!!」
わしゃわしゃっ!と洋一は自分の頭をぐしゃぐしゃにする。
「結局オレって意気地なしの自己中?」
思わず自分を嘲笑する。
実際にあるわけがない出来事だった。だから、その夢の中で現実だと感じた事もまた夢なんだ、と洋一は反省しながらもそう考えていた。

「お兄ちゃん!いつまでもぼ〜っとしてないで、目が醒めたんなら、桂木さんに電話でもして謝ったら?」
「あ・・・そ、そうだな。」
多香子の言葉に、洋一はもっともだ、と思う。夢での自分の言葉や態度はいいとして、せっかく来てくれたのに眠ってしまったのは、最悪且つ最大の失態。

「あ、もしもし・・ぼく、山崎って言いますけど・・・」
カッコ悪いと思いつつ、それでも一応電話してみた。だが、渚はもうすでに寝てしまっているらしく、何度呼んでも返事がないとかで電話口にはでなかった。
「本当に寝てるならいいけどね。」
受話器を置いた洋一に、本当は怒って出ないのかもよ?と目で抗議する多香子に焦りと不安を感じていた。
だが、やってしまったドジはどうしようもない。明日また電話か、それとも家に行ってみるか、と思いながら洋一はのろのろと食事をするためテーブルについた。



「よかった。」
闇の浮遊城の地下にある水鏡が映し出したその様子を見ながら、渚はようやくほっとしていた。これで洋一に迷惑をかけずにすんだと安心する。
「月姫様。」
『月姫』と声をかけられた渚はすぐ横に立つミノタウロスに視線を移す。
月姫とは、闇の女王のもう一つの呼称であった。女王の本当の名を口にしていいのは他ならぬ闇王のみ。他の者は女王、もしくは月姫と呼んでいた。
「これで本当に我らが為にここに留まっていただけますでしょうか?他でもないあなた様自身のご意志で、この先ずっと我らが闇の女王として。」
ミノタウロスの質問に、渚は静かに頷いていた。
洋一が倒れ、十数名の魔族を前にしばらくは震えていた渚。だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。それに、彼らから敵意や殺意などは感じられない。自分に対して静かに向けられているそれは確かに敬意だと感じた渚は、思い切って洋一を元の世界に戻せないものかと一番近くにいたミノタウロスに聞いてみた。
その結果、幸いにもまだ息のあった洋一をすぐさま回復させ、渚自身も急に姿が消えたことから大騒ぎにならないよう一旦元の世界に戻り、自宅へ帰ってから再び浮遊城へと戻って来ていた。


そして、・・・多少?やけっぱちという気がしないでもないが、割り切った渚と魔族の主だった者とのお近づきの宴会が催された。

「ぶわっはっはっはっは!これであとは闇王様さえ見つかれば、この世界も安泰というもの。」
「そうですな。月姫様も逝かれてしまったときは・・どうしたものか、と不安でしたが、これで大丈夫でしょう。」
「で、新たなる我らが女王、新月姫様には、闇王様となられる方のお心当たりなどはございますのでしょうか?」
「え?」
恐ろしい異形の面々だったが、それぞれ酒を呑み、食事をしながら和やかに談笑している様子に、完全には不安を消し去れない渚ではあったが、落ち着いてはきていた。そして、急に問われ思わずどきっとする。当然聞かれたと同時に渚の脳裏にはイル、つまりイオルーシムの姿が浮かぶ。
「あ・・そ、それはその・・」
頬を染め下を向いた渚に、魔族たちはお互いを見合って目を細める。
「お心当たりがあるのでしたら、その座をめぐっての争いという懸念もなくなります。早急にその方を迎えに行かれてはどうでしょう?」
「え?私、ここを離れてもいいの?」
「闇王様を迎えに行かれるのです。誰が反対しましょうや?それにあなた様は我らが為ここにいて下さると申されました。月姫様のおっしゃることに嘘偽りなどあるわけもなく、それ故我らは安心してお待ち申し上げるというもの。」
馬の顔を持つその魔族の瞳は渚を心から信用している光があった。
「そ、そう・・・え、えっと・・じゃー・・」
「今、人間界は夜の帳に包まれておりますれば、もう少し我らが喜びにお付き合いくださり、その後ご出発されたらいかがですか?」
「そ、そうね。そうするわ。」
夜でもイオルーシムのところへ行けるのならすぐにでも出発したかったが、そう言われてそれを押し切ってまで行くのは気恥ずかしく、渚はもうしばらくその席で魔族との談笑につきあうことにした。

そして・・・・
「うーー・・・頭がガンガンする・・・・」
喜びに沸いたその席になじむにつれ、アルコールを口にした渚はつい飲みすぎて二日酔い。
宴会の最後には、すっかりうちとけ、(アルコールの助けがあったことは否定できない)スケルトン兵士の剣の舞いやバインと半透明のジェルスター(クラゲ風浮遊魔族)のなまめかしい(?)踊りに、やんややんやの大喝采の中、渚もすっかりその輪の中に混ざっていた。
彼らもそれまでのシアラの場合と違い、渚のきさくさにすっかり引き込まれ、完全にうちとけていた。
そこに、人間と魔族という種族間の壁はなくなっていた。

 



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