[パラレル番外編5]

☆★ 銀騎士参上(4) ★☆
-- カルロスの不安 --


 

 「う・・・・ん・・・・」
翌朝、窓から差し込む陽の光と小鳥の声でミルフィーは目覚める。
「え?」
そして、すぐ前の彼女の目に写ったものに驚いて、まだ半分寝ていた彼女の思考は一気に目覚め、そして固まる。
明け方、眠りの中でもその冷えを覚え、ふと感じた横の温かいものに抱きついていった覚えがある・・とミルフィーは固まった思考の中で一応思い出していた。
そう、ミルフィーは、あろうことかカルロスの腕枕で寝ていたのである。目覚めた彼女の目に飛び込んできたのはカルロスのたくましい胸。おそるおそる顔を上に向けると、そこには当然カルロスの顔がある。
「あっと・・・・」
そのままの姿勢でミルフィーは昨夜の事を考える。
(な、何もなかったわよね・・・ペンダントで眠らせたんだし・・。)
服のまま寝てしまったがその服は乱てないし、おかしな記憶もない。ミルフィーは一応それに関しては安堵する。
(っと・・・・)
そっと身を起こそうとしたミルフィーは、自分がしっかりカルロスの腕に抱き留められていることに気づく。
(ど、どうしよう・・こんなんじゃ起きられないじゃない?)
身体を起こせばカルロスも目覚めそうだった。そして、この体勢で起きられるとなんとなくやばそうな感じがし、ミルフィーは固まったまま困惑する。

かと言え、いつまでもそうしているわけにはいかなかった。そのうちにはカルロスも目覚めることは必至だからである。
そっと身体を動かすミルフィー。気づかれないようにとそおっと。

「ん?起きたのか、ミルフィー?」
−ギクッ!−
その言葉でミルフィーの心臓は止まりそうに大きく鼓動した。
身体に乗せられていたカルロスの片腕をそっと持ち上げて移動させ、なんとかこれでベッドから抜け出せられると思っていたところだった。
反射的にカルロスの顔を見るミルフィー。
「久しぶりによく寝たな。」
完全に動揺しているミルフィーとは反対に、カルロスはすっと上体を起こすと爽やかな笑顔で言う。
「ん?なんだ?オレは何もしてないぞ?」
そして、驚いたようなミルフィーの顔を見てカルロスは付け加える。
わかってる、と言うつもりだったが、突然カルロスが目覚めた事に驚いて、それはミルフィーの口には出なかった。
驚いたように呆然としてるミルフィーをしばらく見つめてから、カルロスはにやっとする。
「それともなにか?してほしかったのか?」
「そ・・・」
かあっと一気にミルフィーの顔が真っ赤に染まる。
「なんなら今からでもオレは一向に構わないが?」
−バシッ!−
差し出されたカルロスの手を思いっきり勢い良く叩き、ミルフィーはベッドから飛び出すように下りた。
そして、つかつかとドアへ歩み寄る。
−ガチャ−
しまった!ドアはカギがかかっていた!そして、そのカギは窓から外へ・・・と考えていたミルフィーをカルロスが呼ぶ。
「ミルフィー。」
振り返ったミルフィーにカルロスはポーンと小さなものを投げる。
「え?これ?」
手に受けたそれを見るとミルフィーは、唖然としたようにカルロスを見た。
ミルフィーの手の中には、ドアのカギらしきものがあった。
そのミルフィーに、投げ捨てたのはカギじゃなかったのさ、とでも言うように、カルロスは不適な笑みを投げかけた。
「カルロス?!」
騙したことに対して意見するようにきつくカルロスの名を呼んだミルフィーだが、あくまで不適な笑みを浮かべているカルロスに、その部屋にはそれ以上いない方がいいと判断し、ドアを開けるとさっさと外へ出た。

赤い顔のまま出ていったミルフィーの後ろ姿に笑いかけながら、カルロスはミルフィーの温もりを思い出していた。
「お人好しすぎたかな?」


金騎士と銀騎士の噂は瞬く間に国中に、そして海を渡った隣国へも広がっていく。それは当然、敵の耳にも入った。


「また派手に噂を広げたものだな。」
「シモン!」
再び旅に出たミルフィーたちのところに、シモンが姿を現した。
「向こうも躍起になり始めたぞ?どうするつもりだ?」
「どうするって・・・来るなら来いってところかしら?」
「相変わらずだな、ミルフィー。・・・で、こっちがその銀騎士様か?」
シモンはぐいっとカルロスを睨むように見つめ、ミルフィーに聞く。
「カルロスと言うんだ、よろしくな。」
そのミルフィーが答えるより早く、カルロスが落ち着いた表情で答える。
「ほう・・・あんたがカルロスか?オレはシモンと言うんだ。」
「ん?オレを知ってるのか?」
「知ってるもなにも・・名前だけだが、時々ミルフィーが・・」
「シ、シモン!」
慌ててミルフィーはシモンの手を引いて、カルロスから少し距離を取る。
「余計なこと言わないでいいのよ。」
「そうか?」
「そうよ。いいように誤解されちゃうでしょ?」
「なんだ、誤解なのか?オレはてっきり本心・・・」
「シモン!」
「何が本心なんだ?」
「あ、ううん・・な、なんでもないのよ。そうじゃなくって、調査してもらってた隣の本国の事を聞こうと・・・・ね、シモン?」
「あ、ああ・・・・」
カルロスの質問に慌てて答えたミルフィーを笑いながら、シモンはそれでも話を合わせる。


「で、どうだったの、シモン?」
「ああ、それなんだがな・・・・・」
シモンはミルフィーだけに目配せし、その場から今少し距離を取って彼女と話し始めた。

そのシモンとミルフィーを見、カルロスは心がキリキリと痛むのを感じる。
真剣に話すミルフィーとシモン。が、そのミルフィーの瞳の中に、自分には向けられていない輝きがあるようだとふと感じた。
「ミルフィー?」
カルロスより15、6程年上かと思われるその剣士。彼もまた戦士として文句のないいい体格をしている。腕もかなりのものだとカルロスは感じていた。

「あ、でも歌姫と同一人物だってことは、ばれてないわよね?」
「もちろんだ。」
「ふ〜〜ん・・・じゃ、やっぱり潜入路はそこしかないわよね?」
「ああ。金騎士、銀騎士では警戒されるだけだ。しっぽをだすようなへまはしないだろう。もっとも騎士出現のおかげで活発だった行動が控え気味になったってところは、よかったな。」
「じゃ、ここからは別行動の方がいいわね?」
「ああ、そうした方が無難だろ?」


「ち、ちょっと待て、ミルフィー?」
隣国への潜入に、カルロスと別行動をとりシモンと行くと言ったミルフィーにカルロスは焦りを覚える。
「オレはお前を守る為に・・。」
「大丈夫だ、守護騎士には負けるかもしれんが、オレだとて、そう安々と殺られはしない。何があっても守るつもりだし、それにオレは奴らに信用されてる。オレの女を奴らが襲うようなことはない。」
「オ、オレの・・・女?」
態度には現さなかったが、心の中でわなわなと怒りと心配で全身が震えているのをカルロスは感じていた。

「心配なら無用だ、守護騎士に手を出す勇気はオレにはない。」
そのカルロスの隠された心情を読み、シモンは断言する。
「シモン!・・だからそうじゃないって言ってるでしょ?!」
と、赤くなって否定するミルフィー。
「そうだな、確かにあんたは以前から言ってるように銀騎士じゃなかったんだな。」
「そうよ。」
「が、金龍の守護騎士だったというわけだ。」
「それも違うわよ!」
「違わないじゃないか。」
「シモン!」
「まー、いいか・・・昔のこととはいえ、オレも一応銀騎士だったんだからな・・その昔の名にかけて、金龍の騎士は必ず守る。命にかえてもな。」
「なに?」
にこやかに(シモンの風貌にはあわないが)話すシモンとその言葉に驚くカルロス。動揺していることを気取らせまいと必死でカルロスは自分を落ち着かせていた。

「さてと、虎児を得るためにそろそろ行くとするか。」
別れて隣国に行くということにどうしても賛同しなかったカルロスに折れ、ミルフィーは変装することで一緒に行くことを承知した。

隣国の実力者から、迎えにと差し向けられた商船、それに歌姫として乗り込むミルフィーの傍にはシモン、そして変装したカルロスとラードとセイタの姿があった。

「ミルフィー。」
そっち方面にはまるっきり疎いというか純なミルフィーの事である。何かあるわけでもない、と思いつつ、カルロスは不安を感じ、いかにも仲良さそうに肩を並べて話しているミルフィーとシモンをその船上で見つめていた。たとえ、敵の集団の中だからそうする必要がある、と自分に言い聞かせても、納得できる光景でもなかった。

「それからね、シモン・・・」
楽しそうにシモンがいなかった時の旅の様子を話しているミルフィー。そこにカルロスに対するような警戒心というものはみられなかった。
その違いはどこからくるのか?カルロスはいてもたってもいられない気持ちだった。


そして、それから数週間後・・・・
「シモン!」
叫ぶミルフィーは、確かに動揺していた。そこに剣士としての彼女はどこにもみられない。
「シモン・・・嘘でしょ?・・・シモン!?」
『命にかえても』の言葉通り、シモンはミルフィーを守るため、そして、彼女を守り、そこに息絶えていた。潜入していた敵のアジトの一室で。

−ゴゴゴゴゴ〜〜・・・・・−
ミルフィーの怒りに火がつく。
「全部破壊してやる・・・・闇の神殿など・・・闇龍など、この世から・・欠片も残らないほど・・・。」
「落ち着け、ミルフィー、まだ時は来ちゃいない。」
「止めないで、カルロス!・・シモンが・・シモンが殺されたのよ・・・私を守るために・・・私を・・・・」
「ミルフィー!」
今にも飛び出そうとするミルフィーをカルロスはぐっと押さえていた。
普段のミルフィーならまだいい、が、今のミルフィーはとてもではないが冷静を欠いていた。そんな状態で立ち向かえる相手ではない。
「カルロス?!」
「ダメだ、ミルフィー!少し落ち着け!」
「離してっ!」
「シモンの死を無駄にしたいのか?」
「あ・・・・・・」
その一言でミルフィーは逆上した状態から我に返り、全身から力が抜ける。

「シモン・・・・」
もう大丈夫だろうと判断したカルロスがぐっと抱きしめていたその手を離すと、ミルフィーは無惨な姿で横たわっているシモンの遺体にそろそろと近づいていく。
「シモン・・」
すでに冷たくなっているシモンの大きなその手を、ミルフィーはいつまでも握りしめていた。必死の思いで涙を堪え、ミルフィーは心の中で泣いていた。

「ミルフィー・・・」
(いつかはオレを・・と、自分に言い聞かせているが・・・)
彼女の心を思い、カルロスはそんなミルフィーの後ろ姿をじっと見続けていた。


  
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*この話は、『金の涙銀の雫』本編とも関係なく、パラレル金銀ワールドでのお話です・・たぶん(笑*


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青空#146