☆★ その127 ミルフィー伝説 ★☆
-- 青空[完]後(エピローグ)のネオミルフィーは荒くれ者たちのマドンナだった --


 

 「おはようっ!」
「やあ!おはよう!早いな!」
「依頼が入ってるってきいたもんだからね!」
「そう稼いでどうすんだよ?」
「あはは♪」
早朝、青空の下をミルフィーが足取りも軽く歩いている。その横には火龍の少女ミリアがくっついている。
「今度はどんな仕事なのかしら?」
「そうねー・・・もう少し奥の方までいける依頼だといいんだけどね。」
「ふふっ、ミルフィーったら・・最近入り口付近ばかりだから、元気持て余してるんでしょ?」
「さすが、ミリア!分かってるじゃない?」
「当たり前よ!ミルフィーのことならなんだって分かってるわ!」
「まいったなー、ミリアには。」
「ふふふっ♪」

「おやじさん、今回のはどんな依頼?」
バタンと勢い良くドアを開けて、ミルフィーとミリアは村の口利き屋へと入っていった。

「朝早くから元気なこった。」
「そうだな。いかにも彼女らしい。」
通りでそんなミルフィーを見かけた男たちは、その風貌に似合わない笑顔で二人を温かい目で見送る。

ミルフィー本人とそして、ミルフィーの仲間だけが知らない事。それは、村に集まってきている塔目当ての荒くれ者の結構な数の男たちが、ミルフィーに憧れ的な感情をいつの間にか持つようになっていたことだった。

もっとも少年剣士だと思われていたミルフィーである。その腕に一目置いてはいたが、少女だと知らなかった頃の彼らにはまだそういいう感情はなかった。それが少女であるという事実が知れ渡ったのはある日突然のことだった。


−バッターーン!−
「お、おいっ!聞いたか?」
酒場のドアを勢い良く開けて走り込んできた戦士が、息をきらしながら仲間の姿を見つけると同時に叫ぶ。
「何をだよ?なんかいい話でもあったか?」
「いいかどうかは知らんが・・・」
「知らんが?」
「ミルフィーって言う若い剣士、知ってるよな?」
「ああ、あの腕利きの兄ちゃんだろ?荒くれ者ばかりのここに結構いるってのに、ちっとも染まらず、明るくて気持ちのいい奴だ。あの兄ちゃんがどうかしたのか?」
「そ、それがな・・・兄ちゃんじゃなかったんだ!」
「は?!ど、どういうことだ?まさか悪魔ってことは・・・考えられねーから・・天使とかって言うんじゃねーよな?」
「まさか・・・そんないるかいないかわからねーもんじゃないよ。」
「じゃー、なんなんだよ?」
「あのな・・・・」
「なんだ?」
男は、小声で仲間に話す。
「兄ちゃんじゃなく、姉ちゃん・・・つまり女だったんだよ!」
「ええ〜〜〜〜〜?!」
4人いた仲間は全員大声をあげ、その声で周りにいた戦士らも彼らに注目する。
「嘘だろ?いくらなんでも、女が・・・しかもまだ少女だぞ?それであの腕?」
「お前なー、いくらあの兄ちゃんが細くてちっこいからって、そんなことはないだろう?何かの聞き間違えじゃないのか?」
「どこかの男に言い寄られてるとこでも見てそう思ったのか?」
「たぶんそんなとこだろ?最近長かった前髪切ってさっぱりしたからな。なかなかにいい面構えだったからな。男にしておくにゃ欲しいような美少年ってとこだ。」
「なんだ、お前もそう思ってたのか?」
「まーな。」
からかうように軽く笑いながら言った仲間を、男は真剣な表情で睨む。
「違うんだって!・・そりゃー、あれくらいの少年になら言い寄る奴もいるかもしれんが、あの腕の兄ちゃん・・い、いや、あの腕の彼女に言い寄る奴なんていやしないって!」
「彼女って・・・・まさか少女のわけは・・・?」
顔や背格好からいえば、少女だと言ってもおかしくはないとは思いつつ、それでも信じられなかった。
「だから、あのカルロスがだな・・」
「カルロス?・・・・あの女ったらしのカルロスがどうかしたのか?兄ちゃんに趣旨替えしたってんのか?」
「そつぁーいいや。女があふれるぜ。」
にたりと笑った男に、話していた男はそうじゃないと首を振る。
「違うんだって!さっきから言ってるだろ?あの剣士が少女なんだ。奴は彼女を『お嬢ちゃん』って呼んでるんだ!」
冗談か何かでカルロスが少年をそう呼ぶとは全く思えなかった。
「ホ、ホントか?」
「嘘言っても仕方ねーだろ?向こうの酒場じゃこの話でもちきりだったんだ。」

村のちょうど両端と言っていい場所に酒場があった。男たちが今いる酒場は村の中でも塔へ近い方へ位置していた。そして、向こうの酒場とは、村の奥、つまり老婆の家がある方角へと続く道沿いにある。

「そ、そういわれれば、そうかもしれねーな・・・・」
いつのまにか大声で話していた為、酒場にいた全員がその話に集中していた。そして、一同全員ミルフィーを思い出してみて納得する。
「いくらなんでも男にしちゃ、線が細いと思ってたぜ。」
「そういえば、そうだよな・・・・あの顔はどうみても少年より少女・・・だよな?」
「それにしても恐ろしいほどの腕だな・・・あんな少女がいていいのか?」


瞬く間にその噂は、村中に広がった。
そして、男たちは気づく。自分に向けられているわけではないが、ミルフィーのその笑顔を見るとなぜか和むような気を受けていた。その理由がはっきりとわかった。荒くれ者ばかりであろう冒険者たちの心の中に、いつの間にか住んでいた笑顔。
そして、ここに、彼らの間に無言の紳士協定が結ばれた。といっても、紳士と言える男はいないようにも思えたが、ともかく、ミルフィーの件に関しては、何があろうと絶対手は出さない、抜けがけはしない、と男たちは目で誓い合っていた。少年だと思っていた頃と変わらない態度でいる事を誓い合っていた。


が、その無言の紳士協定に属さない者。それは当の本人であるミルフィーのパーティーの中にいる男たち。レオンとレイミアスは・・まー、いいとして、男たちが気に入らないのは、やはりカルロスだった。
それでなくとも、戦士が多く、数少ない女はカルロスになびいていて、少しも回ってこなかった。しかも村だけでなく、近隣の村や町々でも。
それはこの際目を瞑ってもいいが、ミルフィーまでそうなってしまっては、あんな女ったらしの毒牙にかけてしまっては、と男たちは誰しも焦りと心配を覚えていた。

が、カルロスの事など全く眼中にないとでもいうように、からかっているミルフィーを見て、彼らは一様に安心する。
もっともカルロスが本気であると見抜いていた彼らは、気がきではない事も確かだった。それまでに彼に狙われて落ちなかった女はいない。もっともカルロスに言わせると、狙ったのではなく、向こうからというのが言い分。そして、言うまでもなく、彼は来る者拒まずの主義である。

心配はあるが、元気で村の通りを歩くミルフィーの姿を見るたびに、男たちは心が和む感じを受け、温かい目で見つめていた。
時には挨拶程度の声をかける。ほとんど知らない男でも、人相が悪かろうがなんだろうが、老若男女関係なく、彼女は笑顔で挨拶を返す。それ以上のつきあいはないが、それでも、荒くれ者である男たちでもミルフィーの笑顔に温かいものを感じていた。

そんな日々が続いたある日、事件は起きた。
それは、その中の一人の戦士が、これ以上自分の気持ちを抑えていることに我慢しきれず、当たって砕けてさっぱりしてしまえ!と、村はずれの老婆の家を訊ねた日のこと。


「な、なんだ、この仰々しさは?」
男は驚いていた。老婆の家の前には、立派な馬車が数台、そして、いかにもどこかの国軍の正規な兵と見られる立派な鎧で身を固めた兵たちがいた。

「え?・・・・・か、彼女・・・ミルフィー?」
男の目はそれ以上開けることはできないというほど見開かれ、驚きのあまり口さえも開けたまま見つめる。

男の視線の先、老婆の家の庭には、まぶしいほど美しく着飾り、女官らしい女性に手を引かれたお目当ての少女剣士、ミルフィーがいた。

「な・・・なんだよ、これ?ど、どうしたってんだ、一体?」
男は呆然としてミルフィーを乗せて走り去っていく馬車を見送っていた。


『実は彼女はどこかの国の王女だった。そして、婚礼のため、国から迎えが来た。』
その噂は、瞬く間に村中に知れ渡り、男たちは、一気に暗闇の底に落ち込んだ。
が、どのみち想いが叶うものではないと、誰しも思っていた。それほどミルフィーの笑顔は温かく、まるで天使か何かの微笑みのようだ、とも感じていた男たちは、ここの誰にも彼女が落ちなかったことに対して、安堵感もあった。

が、しばらくして彼らは気づく。

「おい!奴は?・・・あの女ったらしは・・ひょっとして付いていったのか?」
「ま、まさか・・・・婚礼の為帰ったんだぞ?彼女ならどこか別の国の王族か大貴族に嫁ぐんじゃないのか?」
「・・・いや、奴の事だ。狙った獲物は意地でも逃がさないはずだぞ?・・・他の女にゃ目もくれなくなっちまったくらいだ・・・・それぐれーで、奴が諦めるとは・・・・」
−ザッ!−
酒場で話していた男たちの中から、数人がそれぞれ自分の獲物をぐっと手にして勢い良く立ち上がる。
「よせ!あいつの腕は知ってるだろ?」
「じゃー、みすみす奴が彼女をかっさらっていくのを見逃せというのか?」
「・・・だが、気はないとはいえ、奴は一応彼女の仲間だったんぞ?」
「う・・・・・・」
もしも仲間だったカルロスが襲撃されたと聞けば、国へ戻り関係なくなってしまったとしても、彼女が快く思うはずはない。
ガタ、ガタタンと、男たちは力無くそこへ座る。誰しも意気消沈していた。


「よりによって王女様か・・・・あの笑顔は・・・手が届かないんだろうとは思っていたが・・・・・・」
王族や大貴族の元へ嫁ぐというのなら、自分を納得させることもできた。が、もし、カルロスが・・と思うと、男たちは怒りがメラメラと燃え上がってくるのを感じていた。・・・どうしようもないことは分かってはいたが。
「できるなら・・できるなら、あいつにだけは渡したくない!・・・おい、誰かあいつに匹敵する腕のある奴はいないのか?この際あいつでないなら構わん!オレは・・・オレは許すぞ?!」
思わず叫んだ一人の男に、酒場にいた男たちは全員同じ思いだと感じたが・・・カルロスに対抗しうる腕のある人物は・・誰あろう、もしいるとしたら、そのミルフィー本人しかいないだろう、と全員思っていた。
(いつもの彼女ならまだしも、王女様してたんでは、抵抗もできずに・・・・・)
考えたくもない妄想が、男たちの脳裏を駆けめぐっていた。


そして、それから二ヶ月あまり後、意気消沈したカルロスの姿に、男たちは、安堵する。どうやら振られたらしいと。
が、それもつかの間。再びいつの間にかいなくなったカルロスに、男たちは焦りを覚える。
(一時は諦めたが思い直して、再び奪取に向かった?)

心配したその予想を裏付けるがごとく、それ以降、ミルフィーだけでなく、カルロスも再び村には姿を現さなかった。あまつさえミルフィーの仲間であった他のメンバーも。


「彼女は、今頃どうしているんだろう?・・・きっと、嫁ぎ先の立派なお屋敷で旦那と子供に囲まれて幸せに暮らしているんだろうな。・・・そうに決まってる。・・・」
間違っても相手がカルロスだとは想像したくない彼らは、時々思い出すミルフィーの笑顔に、そう呟いていた。

どんな依頼でも必ず目的を達成すると言われた最強のパーティーを率いていた最強の少女剣士、ミルフィー。彼女の信じがたい剣の腕とくったくのない笑顔は、村からそして塔からその姿が消えてからも、彼女を知る男たちの記憶から消えることはなかった。

***Adventure Rhapsody】第一話・第二話***


*突っ込まれる前に・・・/^^;*
カルロスと二人で塔へ行ったときは村へは立ち寄らなかったのです。
塔でも偶然誰にも会わなかったんですね〜。(爆)

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