[パラレル番外編5]

☆★ 銀騎士参上(3) ★☆
-- ミルフィーどきどきのカルロスと同室 --


 

 「で?・・・これはどういうこと?」
盛大なる歓迎会も終わり、寝室へと案内されたミルフィーは、その広い豪奢な部屋がカルロスと同室だと分かり、戸口から数歩入ったところに突っ立ったまま中を見つめていた。
「あ、いや、別にオレがそうしてくれと頼んだわけじゃないぞ。だが、そう思うのは当たり前だろうな。」
先に部屋に入っていたカルロスが、ソファに腰掛けたままミルフィーに笑いかける。
「な、何が『そう思うのは当たり前』よ?」
「そうだろ?金龍と銀龍は夫婦龍なんだ。その守護騎士同士はやはり夫婦か恋人同士だと思うのがスジなんじゃないか?」
「な、なんでスジなのよ?私、もう一部屋借りてくる。」

−バタン!−
くるっと向きをかえて部屋から出ていこうとしたミルフィーより先に戸口へと歩み寄ったカルロスは、ドアを閉めてその前に立ちふさがった。
「カルロス?」
ミルフィーの心臓が大きく鼓動した。
「彼らが敵か味方か分からない今、一緒の方がいいと思うんだが?」
「それって、偽物だと判断されるってこと?」
「そうだな・・それもある。」
「大丈夫よ。偽物だと判断されて夜襲かけられても、そのくらい・・」
「ダメだ!」
「カルロス?!」
ぐいっとミルフィーはカルロスを睨んでいた。赤くなりながらも。
「ミルフィー、オレは何のためにここに来たんだ?」
「でも・・・」
「オレはお前を守る為に・・」
「それとこれとは別問題でしょ?」
「オレはそんなに信用おけないのか?」
「当たり前でしょ?」
ガクッ・・・・そんなことはない、というミルフィーの返事を期待していたカルロスはショックで全身から力が抜けた。が、ぐぐっと踏みとどまる。
「ま、まー・・・昔のオレから判断するとそうかもしれんが・・・・」
そう呟きながらカルロスはその間に復活する。
「今のオレにはお前だけだということは分かっているだろう?お前の意志を無視するようなことは決してしない。」
かと言われてはい、そうですか、と納得する女がいるだろうか?男と同室、一夜を同じ部屋で過ごす・・そこに何もないと思う方がおかしいというものである。
「・・・・・」
1歩近づいたカルロスに、ミルフィーは1歩後ずさりする。
−ピン!−
「あっ?!」
ミルフィーの方を向いたまま、カルロスはドアにカギをかけると、そのカギを窓へ向けて放り投げた。
ミルフィーの見つめる中、カギはまっしぐらに窓の外へ。
「カルロス?!」
外の暗闇にカギが消えるのと同時にミルフィーはカルロスを振り返って怒鳴る。
「朝になれば召使いが外から開けてくれるさ。」
「あ、朝になればって・・・・」
両手を広げ、にこやかに話すカルロスを、ミルフィーは青くも、そして赤くもなりながら見つめていた。心臓は止まりそうである。
「急ぎはしないと言っただろ?オレはお前がその気になるまで決して手は出さない。」
「で、でも・・カギをかけなくても・・・」
「ゆっくり休みたかったからさ。」
「ゆっくりって・・・」
「ここに、金龍と銀龍の騎士がいると知れ渡れば・・いや、そんなに時間はかからないだろう。そうなれば、またあれこれ周りは騒がしくそして忙しくなる。だからオレは、その前に女神を独り占めして今までの疲れや焦り、そんなものを全部流してしまいたい。ミルフィー、お前とゆっくり過ごすことで。」
「・・・・・」
200%警戒注意報発令。

「そんなに信用おけないか?」
自分を睨み続けるミルフィーに思わずカルロスは苦笑いをみせた。
「それはさっき言ったでしょ?」
「そうか・・・とすると・・信用おけないということは、そういう態度に出ても当たり前ということだな?」
「な、なによ、それ?」
「そうだろ?」
半パニック状態でじりじりと後ろにさがるミルフィーとは反対に、カルロスは余裕の微笑み。
「誓いはどうなったのよ?」
「信用してないんだろ?」
「う・・・・」
にやっと笑ったカルロスがミルフィーには憎らしく思えた。
「わ、わかったわよ、信用するわよ。わ、私はこっちのソファに寝るから、カルロスは奥のベッドで寝て!いいわね?」
−バキッ!−
「え?」
つかつかとミルフィーが指さしたロングソファに近づくと、カルロスは一撃でそれを壊す。
「じゃー、こっちのでいいから。」
−バキッ!・・ガシッ!」−
2つあった一人用のソファもカルロスはその拳で壊してしまう。
「いいわよっ!床で寝るからっ!」
−パッシャーーン!−
テーブルにあったガラス製の水差しをカルロスは床に落とす。
当然床はガラスの破片と水で寝られたものではない。
「いいわよ、それならバルコニーで・・・」
−ピュ〜〜〜〜〜−
が、寒風が吹くそこでは、風邪をひくのがオチである。
「窓際・・・」
とミルフィーが言いかけると同時に、カルロスはそこにあったテーブルをバキバキと壊し、砕いた木片を辺りに放る。
「ふ〜〜・・・・」
満足そうにパンパン!と手を払うカルロスを、ため息と共にミルフィーは睨む。
「分かったわよ。但し・・いい?誓いを破ったらどうなるか分かってるんでしょうね?あ、あなたを信用するから・・・いいわね?!」
「もちろんだ。」

あってもなくても同じようなものだが、その広いベッドの真ん中を一応バリケード代わりに布団で仕切り、ミルフィーは背中を向けて横になった。

(こうなったらスリープの魔法よ・・レイムのペンダントで・・・)
そう考えているミルフィーのすぐ背後でギシっとベッドが軋む音がした。すぐ横にカルロスを感じ、ミルフィーは生きた心地がしない。(笑

「カルロス・・起きてる?」
そっとペンダントをカルロスの方にかざし、小さくスリープの呪文を唱えた少し後、ミルフィーは小声でカルロスに声をかけてみる。
「・・・・」
その問いにカルロスからの返事はなく、そのかわりに、寝息が聞こえていた。
「良かった・・・これで朝まで大丈夫よね?」
久しぶりのベッド。さほど疲れていないと思っていたが、安心すると同時にミルフィーはすぐ心地よい眠りの中へと入っていった。


ミルフィーが眠ったのを確信すると、ゆっくりと身を起こし、カルロスは安らかな寝息をたてて眠っているミルフィーを見つめる。
「ミルフィー・・・」
(急ぎはしない。だが、いつか・・・・)

そのカルロスの首には、アンチマジック(魔法を無にする)のペンダントが光っていた。
ひょっとしたら、眠くて寝てしまったのではなく、術で眠らせられたのでは、と思ったカルロスが念のため装備していたアイテムである。それは、全ての魔法を無にしてしまう銀龍の鱗のペンダント。


「・・・ミルフィー・・・・・いつになったらオレを・・オレだけを見つめてくれるんだ?・・いつか来るその日をどんなにオレが心待ちにしているか、知らないだろ?お前の微笑みがオレに注がれるその時を・・・。」
『そんなの私が知るわけないじゃないっ!だいたいどうしてそうなるのよ?決めつけないでよっ!』
ミルフィーの真っ赤になって怒った顔が目の前にある彼女の寝ている顔に重なり、そして、そんな返答が聞こえたような気がし、カルロスはふっと笑う。

ゆっくりと静かに夜は時を刻んでいた。そのやさしい夜のとばりの中、ミルフィーのすぐ隣で横になって頬づえを付いたまま、カルロスは愛しさの籠もった視線でミルフィーの寝顔を温かく見つめ続ける。
「う・・ん・・」
寝返りを打ったミルフィーに一瞬どきっとしたカルロスは、目を開けたわけではないことにほっとする。
「・・寝言・・か?・・どんな夢を見ているんだ、オレもそこにいるんだろ?・・ミルフィー?」

今はこれで十分(?)幸せだ、すぐ傍に、目の前にミルフィーがいる。今は無理だがいつかこの腕に・・・そう思いながらいつしかカルロスも眠りの中へ入っていった。


  
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*この話は、『金の涙銀の雫』本編とも関係なく、パラレル金銀ワールドでのお話です・・たぶん(笑*


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青空#145