[パラレル番外編5]

☆★ 銀騎士参上(2) ★☆
-- タフガイ・カルロス、ふっか〜〜〜つっ!? --
「金龍の騎士と銀龍の騎士?」


 

 「ミルフィー・・・・」
カルロスは目の前のミルフィーの姿が信じられなかった。
それから2日後、森から出たミルフィーらは、チュクタスコという小さな町に着いていた。

そこでは祭りが始まろうとしていた。そのメイン広場となっている町の中央の広場へとミルフィーらは足を運ぶ。
そこで、祭りの催しのメインとなっている野外ステージを借り、ごそごそと何やら準備をしているのをカルロスは不思議そうに見ていた。勿論手伝いもしたが、一体何が始まるのか、カルロスには皆目見当もつかなかった。
強いて言えば、居合い切りか風術を手品のようにみせるつもりか?とも思っていた。
何をするのかと聞いても照れたように笑うだけで、ミルフィーは答えてくれなかった。

そして、人々がにぎわいをみせてきた夕刻。
事情を知らないカルロスが、思わず驚いてその群衆を見渡すほど舞台のミルフィーは喝采を浴びていた。
久しぶりで見るミルフィーのドレス姿。舞踏会の時とゴーガナスの城での王女姿の時以来である。
が、そのドレス姿にカルロスは戸惑いを覚えていた。ミルフィーがあまりにも色っぽいのである。そんなミルフィーは初めてだった。

喝采の中、ミルフィーがにっこりとおじぎをすると、周囲はし〜〜んと静まりかえり、そして、弦楽器の音とともに、ミルフィーの歌声が広場に広がり始める。
「ミ、ミルフィー・・・?」
歌を唄うことさえ予想できなかったのに、そのうえ、ミルフィーの唄うその歌は、恋歌であった。その甘い歌声はカルロスを目一杯焦らせた。
というのも、歌に聴き惚れながら熱を帯びた瞳で夢みるようにミルフィーを見つめている男達のなんと多かった事か。
カルロスとしては、そんな視線にミルフィーを一瞬でもさらしておきたくなかった。
できることなら『ミルフィーはオレの女だ!』と叫んで舞台から引き下ろしてここから連れ去りたかった。が・・・大人げないといえばそうであるし、そんなことをしようものなら、ミルフィーに思いっきり蔑視されるに決まっていた。
にぎわう祭りの中、カルロスは焦りと苛立ちと・・そして、愛しさとでミルフィーをじっと見つめていた。

そして、アンコールに次ぐアンコールもようやく収まったあとに、続いた出し物が、ラードのナイフ投げ。勿論、壁に立つミルフィーめがけてである。
「わぁっ!」
人々の歓声の中、数センチの差で壁に突き刺さるナイフ。もっともその見事なコントロールは半分以上ミルフィーの風術によるものだということを知る観客はいなかった。
「わあーーっ!」
大歓声の中、ミルフィーとラードの出し物は大成功。収入も予定していた額よりずっと多く、満足な結果である。

「なんだ、ミルフィー・・もう着替えたのか?」
舞台裏の小屋へ入ったカルロスは、ドレス姿から男物の普段着に着替え終わったミルフィーを見てがっかりする。
「祭りの間くらいドレス姿でいるんじゃないのか?」
「そんなことしたらオチオチそこらを歩いてもいられないぜ?」
ラードが笑いながらカルロスに答えた。
「サインをねだってくるんなら、まだいいとして、中にはさらっちまおうって奴もいるからな?」
「さ、さらって?」
明らかに焦った顔色のカルロスに、ラードは意地悪そうに付け加える。
「ああ・・なんてたってここいらじゃ、歌姫ミルフィーの人気はうなぎのぼりだもんな。熱烈熱狂的ファンって言やー聞こえがいいけど、やりすぎの奴もいるからな。」
「う、うなぎのぼり・・・・・熱烈熱狂・・・」
「正体知らないってことは幸せだよな?」
「失礼ねっ!ラード!」
カルロスにじっと見入られ、恥ずかしさで頬を軽く染めていたミルフィーが、ラードを睨む。
「はは。」
「一度なんかね、もう少しでさらわれるところだったのよ?」
「さ、さらわれる?」
「セイタちゃん!」
ミルフィーは焦ってセイタを軽く睨んでとめる。
「ミルフィー、本当か?」
「あ・・・う、うそじゃないわ・・・。でもね・・」
結局そうはならなかったと言おうとしたミルフィーは、急に近づいてきたカルロスにぐっと肩をつかまれ、驚いて見上げる。
「いつもこんなことしているのか?」
「いつもって・・・そうね、目的地までの通り道に祭りでもあれば、そうしてるわ。この辺りでは魔物退治の仕事も滅多にないし、宝物が眠っていそうな洞窟なんてどこにもないから。結構実入りいいんだから。」
「そ、それはわかる・・わかるが・・・・」
うっとりするように歌声に聞き惚れてミルフィーを見つめていた男たちをみればそれは一目瞭然。だが、カルロスにとっては非情に面白くなかった。
じっと自分を見つめ困惑しているようなカルロスに、ミルフィーは苦笑いする。
「必要があるからそうしてるのよ?他に手段がないんだから、わがまま言ってる場合じゃないし・・それにね、ここの興行主から頼まれてたから。契約破棄するわけにもいかないの。」
「それは・・・・」
確かにそうでもある。旅を続けるためにはどうしても旅費は必要になってくる。そこに定職はないのだから、何かしなければ金は入ってこない。
ふ〜〜っとカルロスは大きくため息をついてから、いつもの表情に戻りミルフィーを見つめる。
「そうだな・・必要なら仕方ないな。だが・・・」
「だが?」
「いつの間に男殺しの腕をつけたんだ?」
「お、男殺しって・・・・・」
その言葉でミルフィーは一気に真っ赤になる。
「オレとしては、できるならオレ以外の男の目にはさらしたくない。」
「わ、私はそんなつもりじゃ・・・。」
焦って言い返すミルフィーにカルロスはふっと笑う。
「そうだな。なんと言ってもミルフィーだからな。」
「ど、どういう意味?」
「さあ?」
「さあ?って・・・・」
「いいじゃないか。・・どうだ?せっかくの祭りだ。一緒に回らないか?たまにはいいだろ?」
できたら2人で回りたかった。が、当然のように4人でということになる。
話もまとまり、外へ出ようとしたミルフィーらの耳に祭りのにぎわいを破って大声が飛び込む。

「大変だーっ!海岸に水魔が現れたぞーーーーっ!」
「え?」
「なにっ?」
当然、祭りなどどこへやら、ミルフィーらは、その町から数キロ離れたところにある海岸へと急行した。

−ンギャアアアアーーーー!−
地響きをたて、海岸へ上がってきていた小山のようなその水魔に、ミルフィーは風術に乗り、そして、カルロスは小龍に乗って向かっていった。


そして・・・・
「守護騎士様におかれましては、このような片田舎におみ足をお運びいただき・・・・」
風に乗り、そして小龍に乗って戦っていた2人。その戦う様をみかけた人々がミルフィーとカルロスをそう思いこんでしまったのは当然のことだった。
そして、カルロスはそれ以上ミルフィーに歌姫などさせたくないという思惑から、すんなり守護騎士であると認めてしまったのである。
そうなっては、いくらミルフィーやラードが否定しても、言い訳も何もきくはずはない。
町を、いや、付近一帯の町や村をあげての歓待の宴が領主の屋敷で催されることとなった。

「カルロス!」
領主から差し向けられた迎えの馬車に揺られ、ミルフィーはカルロスを睨んでいた。
「こんな目立つことしてどうするの?」
「いいじゃないか、かえって敵が現れるかもしれん。」
「『しれん』って・・カルロス・・・・守護騎士でもないのに・・本物の守護騎士が現れたらどうするつもり?」
「大丈夫だ、腕には自信がある。」
たとえ挑まれても腕には自信がある、とカルロスは自信たっぷりに断言する。
「あるって・・・カルロス?」
「それに、銀龍に言われてきた。」
「銀龍に?なにを?」
ふっと軽く笑ってから、じっと見つめるミルフィーをカルロスはやさしい微笑みで包む。
「『我は金龍を守護せし者。そして、かの者は我が意志を運ぶ者、我が金龍の守り手として使わした騎士なり。お主がその騎士を守らんとするのであれば、我が騎士を名乗るがよい。我が金龍を守護せし者ならば、我が騎士が金龍の騎士を守護するは当然のこと。』」
「え?」
「ちょっと待てよ・・それって?」
カルロスの言葉を聞いてミルフィーが口にするより先にラードが叫ぶように言った。
「ミルフィーは金龍の騎士で、あ、あんたが銀龍の騎士ってことか?」
「銀龍の言葉からするとそういうことになるんじゃないか?」
そう答えたカルロスの瞳には絶対の自信があった。
「そ、創世龍の・・・き、騎士が・・・ふ、2人・・・・」
ミルフィーの腕からいって、本人は否定しているが、守護騎士には違いないと思っていたラードは、それでも焦る。金龍と銀龍の騎士が目の前に。それは信じられない事でもあった。
「私、そんなこと聞いてないわよ?」
「お前ならそんな肩書きいらんと断るだろ?」
「・・そ、そうね・・・。」
カルロスに指摘され、ミルフィーは納得する。
「言わなかっただけで、銀龍はそのつもりだったようだ。」

「な、何?」
余裕たっぷりともとれる意味深な微笑みを自分に向けられ、ミルフィーはどきっとしながら聞く。
「いや、今ふと思ったんだが・・・」
「何を?」
「オレたちは神も認めた仲なんだな、と。」
−ボッ!−
一気にミルフィーの顔は真っ赤に燃え上がっていた。
「勝手な解釈しないでよっ!」
思わず立ち上がってきっと睨んだミルフィーを、カルロスは余裕たっぷりと、そして、満足げな笑みで見つめる。

(ぎ、銀龍も勝手なこと言ってくれちゃって・・・・じゃー、その銀龍の騎士からは誰が守ってくれるっていうのよ?)
もしも目の前に銀龍がいたらそこのところをはっきりと聞いてみたいものだと、ミルフィーは思っていた。

 
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*この話は、『金の涙銀の雫』本編とも関係なく、パラレル金銀ワールドでのお話です・・たぶん(笑*


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青空#144