***チェイサー・ドーラの呟き***
   

 

●裏追跡簿[13] 見せ場はもらったわ!

 (見つけたっ!アレスだわっ!)
巨大蜘蛛女が支配していたエリアをその勢い余る火炎で道を切り開いて進んできたドーラは、細い通路の先の横道にアレスの姿を見つけて心の中で叫ぶ。
通路の先のドアは呪力で封じられているのかびくともしなかったのである。その長くは続いていない横道の奥に解除のスイッチあるいは仕掛けがあるのだろうと駆け込んだドーラはにまっとその端正な顔に笑みを浮かべる。ドーラの第六感が、この騒ぎもそろそろ最終決着の場だと囁いていたからである。アレスが全てを解決したあとに行ってもつまらない。

「ほら、ボサッとしてないで早いトコカギを開けなさいってば!この上にいるんでしょ?バドラーとかいうオッサンが!」
ドーラに背中を向けたまま宝箱を覗いていたアレスは、それでもゆっくりと彼女の方を振り向いた。
「何すきだらけの背中見せてんのよ?それでよくここまで生き残ってきたわね?・・まー、それがあんたなんでしょうけど。」
ふふん!と軽く笑ってドーラは軽く睨む。
(置いていったことを怒鳴りたいけど、なんとなく今は急がないとやばいような気がするのよね?)
一度ならず、二度も気絶した状態で放置されたことの怒りを抑え、ドーラは口早にアレスに言う。
「こうなりゃ成り行きって奴よ。あんたに手を貸す気は毛頭ないけど、あたしも一言文句を一手やらないと気が収まらないわ。」
(まったく・・・一言くらい言い返したらどう?)
煮え切らないアレスの態度にいらつきながら、それでも、いつものことか、と諦めるドーラ。
「これだけ大がかりの悪巧みをするくらいの奴だから、結構なお宝も持っていそうだし、その剣はあんたに預けておくから協力しなさい。」
(な〜〜んて言わなくても開けて先に進むんでしょうけど。)
「さあ、そこのドアを開けてよ!どうせ、あんたのことだから、ちゃっかり封印を解くカギを手に入れてるんでしょ?」
そう、ここへ来るまでのドアも最初ドーラが来たときには開かなかったのである。が、周囲を調べて、それでもカギが見つからず仕方なくが、もう開いているだろうという希望と共に、再度やってきたドーラは、そのドアのカギを入手したのは、他でもないアレスだとぴんときたのである。だから、今回もアレスがそのことは解決しているだろうと思ったのである。
−スッ!−
ようやくアレスは、腕組みをして通路の真ん中に突っ立っているドーラの横を通り、封印されているドアに近づいていった。

−ギギギギギィーーーー・・・−
「え?どっ、どうやったの?あんたが、扉の前に立っただけで、勝手に開いたみたいだったけど。」
触りもどうもしなかったはずなのに、とドーラは不思議に思う。そして、アレスの手にあるものに気づく。
「・・・・まさか、それが封印石ね!何処で手に入れたのよ?そんなもの・・・・。まあ、いいか。後でそれも貰うからね。さあ、ついてらっしゃい!」
(一番のりはもらったわ!)
アレスが答える代わりにドーラを見つめている間に、彼女はすっと横を通り過ぎてドアの中に飛び込む。
「いつも、いいところであんたに先を取られてるからね。今回の見せ場はもらったわ。じゃ、お先に!」


そして・・・・不気味な彫刻と、青白い鬼火が灯るランプがシンメトリーを形作っている奥の青白く淡く光る魔法陣に、なんの躊躇もなくドーラは飛び乗る。もちろん、アレスより先に!


果たして、その転移先には、予想通りバドラー王が不適な笑みを浮かべて宝玉で彩られた玉座に座っていた。

「よく来た、我が玉座に。地上の城は新しき計画の前では、かりそめの城にしか過ぎない。ここが新しき世界の中心。」
異様な空気が漂うその薄暗い部屋に、バドラーの不気味な声が響き渡る。
「あんたがこの騒ぎの元締めね?派手にやってくれるじゃないのさ。」
そのバドラーをきっと睨み、喧嘩を売るドーラ。
「ふふん。どのように治めようと我が国のこと。お前のような者の口出しなど無用。」
が、軽く一蹴しバドラーは、すぐ後に転移してきたアレスの方へと視線を移す。
「こっちは散々な目にあわされて、少しばかり、腹が立ってんのよ。覚悟してもらいましょうか!」
(な、なによ、あたしは無視?失礼しちゃうわ!)
無視されたドーラは怒り露わに怒鳴る。
「礼儀をわきまえぬ愚か者め・・・・。お前ごときの者を、ここへ呼んだ覚えはない。」
アレスがまだ攻撃をしてくるわけではないと判断したバドラーは、ちらっと目の前のドーラに視線を戻すと同時に火炎を放つ。
−バシュン!−
結構強力な火炎ではあった。が、ドーラはそれを簡単に消滅させる。
「なめられたものね。そんな技で、あたしがやられるとでも思ったの?馬鹿にしてくれるじゃない。このぐらいはやってみなさいな!」
−バシュンバシュンバシュン!−
火炎系の術は、ドーラにとっては得意中の得意である。ドーラは最大級の火炎をバドラーに投げつける。
−バボン!−
「やったっ!・・え?」
確かにバドラーに直撃した。が・・・・直撃した衝撃と共に大きく膨張したその炎が消えると、それまでとなんら変わらないバドラーの姿があった。
「・・・・・・・・・・・・それで終わりか。では、見せてやろう。大いなる力を肉体に宿らせるとはこういうことなのだ。」
−ズズズズズ−
バドラーの周囲に魔の瘴気と呼べれるような気の力が結集し、その姿はそれまでの老人のものとは異なるものに変化した。
(な、なによ・・・こいつ、人間やめちゃったの?)
その異様なまでの重圧感を発するグロテスクと形容できるような異形の姿に、心ならずも震撼を覚えながらも、ドーラは啖呵をきる。
「ふん、見た目が、ジジイから化物になっただけじゃないの。そんなコケ脅しで、びびるとでも思ってんの!」
−バシュシュッ!!−
そして、渾身の精神力をもって化け物と化したバドラーに特大の火球を飛ばす。
が・・・まったくダメージを受ける気配はない。
(やばい・・・・・・・・・・・・かな?)
その火球が効かないということは、ドーラにとっては最悪の事態。それ以上の強力な呪文は知らないのである。
(よし!)
「アレス!あとはあんたにゆずるわ。」
咄嗟に判断すると、ドーラはくるっと向きを変えて、背後にいるアレスに歩み寄る。
本当は駆け寄るというか、走ってアレスの背後に回りたかったが、そうするには、いくらなんでもドーラの自尊心が許さなかった。・・・そんな意地を張っている場合ではないことは重々承知しながら。

−バシュン!・・ボウン!−
「きゃっ?!」
確かにそんな場合じゃなかった。バドラーの放った火炎が背中をみせたドーラを襲った。
(し、しまっ・・・・・)
手を伸ばせば届きそうなところにいるアレスのその顔が、徐々にドーラの視野から薄らいでいく。
(せっかく今度こそ、アレスにいいところをみせようと思ったのに・・・・)
−ドサッ!−
(いい?後はあんたに任せたんですからね?気がついたらあの世だったなんてことになってたら・・承知・・しない・・・から・・・・)
薄らいでいく意識の中、それでもドーラは負け惜しみとも言える言葉を吐いていた。・・ただし、もはや声にはなってないが。


(ドーラ・・)
一応アレスは目の前に倒れ込んだドーラにちらっと視線を流したものの、それが気絶しただけだと即座に判断して、前方に立ちはだかっているバドラーにその意識を集中させる。
周囲は、アレスを飲み込まんとするかのように、その異様な重圧さを増していく。
邪悪な気配・・部屋に蔓延する闇の力は、勢いをつけ濃度を増していく。
全てを制する力・・神とも魔ともなりうる力。己が権力に陶酔したバドラーが引き寄せたのは、やはり後者の方だったのである。

−キーーン!−
腰袋にいれたあった封印石が反応を示した。
(いける!)
どんなダメージを与えようと、即座に再生してしまうその力。絶対なる魔の再生力を無効化する力がそれにはあった。
いかにアレスと言えども、ダメージをモノともしないのでは、歯がたたない。が、封印石でそれさえ無効にしておけば、いつもの闘いである。
どんなに強力なそして強大な相手であろうと、全力を持って闘うまで。己の前に立ちはだかるものは、すべからく排除する!それが、アレスの王道である。

−タッ!−
軽く跳躍してバドラーの攻撃を交わし、アレスは攻撃に入る。
全てを制する力を持つ者、神のものとも魔王のものとも呼べる強力な相手との対峙に、心が踊るような感じさえ受けながら。

そして、アレスのその闘心に呼応するかのように、彼の手のプラネット・バスターが光を放つ。それは、このときの為にその手に収まったかのような満足の輝き。
アレスを鼓舞するかのように、戦えることがプラネット・バスター自身の意でもあるかのように。


--おしゃべりアレス#33へ続く--

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