◆第三十三話・そして、鬼ごっこは続く(笑◆
-今回ドーラバージョンの13からの続きです。
そちらから読んでいただけると嬉しいです。-

 

  

 (しかし・・・これで気絶したドーラにお目にかかるのは何回目だ?)
無事バドラーを倒し、地底から戻ったアレスは、今だ目覚める気配がなさそうなドーラを横に、火を焚いていた。
そう、そのまま放置しておいた方がわずらわしくなくていいぞ、という声も、アレスの心の片隅に全くなかったわけではないが、バドラーを倒した直後、崩壊を始めた地下洞窟から、気絶したままのドーラを抱いてなんとか脱出したのである。

崩れ落ちる洞窟の中、それでも魔物は相変わらず犇めいている。たとえ洞窟が崩れかかっていようと、敵を見つければ彼らは襲いかかってくる。
ドーラをお姫様だっこして走るアレスには、完全に不利の状態。
が、そこに駆けつけてくれた強力な助っ人がいた。
それは、カールの愛馬。亡き主であるカールの最後の命令とでも言うように駆け寄ってきたそれにアレスは即座にドーラを乗せると共に飛び乗り、疾走させた。
そして、ようやく外に出て、一休みしているのである。
時は夜半。馬を休ませながら、アレスも一息ついていた。
久しぶりの夜風が心地いいと感じながら大木にもたれ、いつしかアレスも眠りに入っていった。
もう安全だと判断した本能が、アレスに休息を取らせていた。


−チチチチチ−
夜が明け、小鳥の声でアレスは目覚めた。


「遅いわね、いつまで寝てんのよ?仇と狙ってる敵にそんな無防備な状態をさらしてていいの?」
先に気がついたらしいドーラのそっけない横顔がそこにあった。
「ほら。・・・まったく・・火の番もできないの、あんたは?」
どうやらアレスが寝ている間に、焚き火も消えていたらしい。
それに火を点け、浜辺で獲ったのか、小魚がいい香りで焼けていた。
「たまには新鮮な食べ物もいいでしょ?」
ついっとそっけないそぶりで、差し出された焼き上がったばかりの小魚の串を受け取り、アレスは黙ったまま口に運ぶ。
しばらく保存食と回復薬だったためか、おいしく感じられた。が、当然、アレスは何も言わない。そして、ドーラもまた、大きな事を言ったあげく助けられた事を気まずく思ってか、何も言わなかった。

「結局ビトールと同じ結果じゃない。」
食事もすみ、一息つき、そろそろ移動しようと馬の準備をし始めたアレスに向かってようやくドーラが口を開いた。
「つくづくあんたって行く先々の国を不幸にしてるのね。」
それももっともかもしれない・・アレスは思わずそう思っていた。
が、別にアレスがしてるわけではないことも事実だった。ただ、その終止符を打つのがアレスだということだけなのである。見てはならなかった夢の終焉、結末をアレスが運ぶのである。
が、その終焉がなければ、世界は魔に染まることもまた確かだった。
そして、そのことはドーラも分かっている。

「ところでさ、なんか忘れてない?」
(ほ〜〜ら、おいでなすったぞ。ようやくというか・・・助け出されたことに遠慮してたのか?)
しおらしい(おとなしい?)ドーラは、どうももの足りなかった。
いつもの口調に戻ったそのドーラにアレスはにまっとする。
「そう。その剣、プラネットバスター、よこしてもらいましょうか。」
(やはりな。)
「私としては、あんたを助ける気なんかなかったんだけどね・・・。」
(やれやれ、またいつものパターンか?)
が、心の中で呟いた言葉とは裏腹に、なぜだかアレスは喜びを感じていた。
「なんならあんたの首でもいいわよ?両方ならもっとステキだけど?」
馬の準備も整い、アレスはそれまで背を向けていたドーラを、ようやく振り返る。
「両方ともイヤだと言うなら・・覚悟するのね。」
にやっと勝ち誇ったような笑みを浮かべたドーラを見てから、アレスは馬に飛び乗り、背中に背負ったプラネット・バスターに手を伸ばした。
−ポン!−
「え?聞き分けいいじゃない?どうしたの?」
その意外なことに驚き、もう少しで受け損なうところだったドーラは、なんとか放られたプラネット・バスターを受け止める。

「・・・ふふっ・・とんでもない力を秘めてるというプラネット・バスター。これがそうなのね。」
こみあげてくる嬉しさを実感しつつ、ドーラはプラネット・バスターをさする。
「これを欲しがってる奴なら、出し惜しみする奴なんていないわ。いったいいくらの値がつくかしら?」
が、そうなのである。ドーラは剣士ではない。自分が使うわけではなく、そのお宝中のお宝を換金することが目的なのである。
わくわくしながら、プラネット・バスターをその鞘から引き抜くドーラ。

が・・・・

「ア、ア・レ・スゥ〜・・・あんたって奴はぁ〜!!!」
ようやく自分が手にしたそのプラネット・バスターは、バドラーとの激戦で全ての力を放出しきってしまったせいか・・・・鞘から引き抜くとともに、ぼろぼろと崩れ落ちた。
(ふっ!やはりな・・・・)
大粒の青い瞳を更に一層大きく開けて、その状況に唖然としているドーラを見て、アレスは軽く口の両すみをあげ、次の嵐が来ないうちに、と馬を進ませる。
−カツカツカツ−
−はっ!−
そして、その蹄の音で、呆然として鞘以外、まったく原型を留めていないプラネット・バスターからアレスにドーラは視線を移す。
「ま・・待ちなさいっ!アレス!この卑怯者っ!!ペテン師〜〜!!」
(気前よく渡してくれたと思ったら、何よ、これ!?)
やはりアレスは食わせ物だ!と怒りとともに感じつつ、ドーラは駆け去ろうとしていたアレスの後を慌てて追う。

「待ちなさいっ!アレス!・・こんなことして無事ですまされると思ってんの?」
(首をとるつもりなら、疾走状態でも火炎は放てるだろ?)
必至の形相で走って追いかけてくるドーラをちらっと見て、アレスは愉しんでいた。置いて行くつもりならそのまま馬のスピードを上げさせればそれでよかった。が、アレスは着きつ離れずのスピードを維持させていた。

「はーっ・・はーっ・・ま、待ちなさいって・・言ってるのが・・聞こえないの?アレスっ!・・・」
しばらくその追いかけっこ状態が続いていた。
追いかけてきているドーラの息がずいぶんあがってきていた。
が、アレスは待つつもりもなく、相変わらず軽く馬を走らせ続ける。

「ちょっと!あたしが監獄島から助けたこと・・・忘れてない?・・・自分は馬に乗って・・い、命の恩人を走らせて・・いいと思ってんの?恩返しはどうしたのよ?!」
極悪非道で通っているアレス。事実そうならそのアレスに恩返しも何も通用しないはずだが・・ドーラはあくまで恩を売りつける。自分が助け出されたことは棚にあげ。


−カツ−
(え?・・・・と、止まった?)
不意に馬を止め、数メートル離れたドーラを待っているようなアレスに、彼女は目を丸くしていた。何か言ってやろうと思ったが・・・疲れがドーラの声を消していた。


「はー・・はーっ・・・・つ、捕まえた・・アレス・・・」
それでも声を振り絞り、疲れた身体に今一度力を込めて馬上のアレスにドーラは近づく。
「いいこと?・・この、あたしから逃げようなんて、思わない・・・こと・・ね?」
荒い息をしつつ、声を絞ってドーラはアレスが逃げないようにと、鞍を掴む。
「お返しは・・きっちり返してもらうわよ?」

そして、そのドーラの手を払いのけるでもなく、馬に寄りかかるようにしている彼女を黙ったままアレスは見つめ続ける。

「え?なによ、この手?」
そして、少し呼吸も楽になってきたのを見計らって、アレスはそのドーラに手を差し伸べた。
「な、なによ・・・お情けで乗せてやろうとでも言いたいの?・・・あ、あたしに、あんたなんかと2人乗りしろっていうの?・・・仇と同乗しろって?」
パン!と勢い良くアレスの手を払いのけ、ドーラはきっと睨む。
「バカにしないでよ!誰があんたなんかと!」

−ふっ−
「あっ!アレス!フェイントかけたわねっ?!」
ドーラがほんの少し馬から離れたそのとき、軽く笑みをみせ、アレスは再び馬を走らせた。
「この、卑怯ものーー!!アレスのバカあーーーーっ!」

ドーラの怒りの罵声に見送られ(?)、今度こそアレスは馬を疾走させていた。
もはやドーラを振り返ることもなく、そして、速度を落とす気もなかった。
そのスピードは数秒で人の足では追いつけないものになっていた。


(悪いな、ドーラ、縁があったら・・・またどこかで会おう。)
心地よい風を受け、アレスは馬を駆っていた。


「アレ〜〜ス!カムバ〜〜ックッ!」
「・・・卑怯ものぉ〜〜〜!!」
遠く点のようになったドーラの罵声がどこまでもいつまでもこだまとなって追いかけてきていた。


     【完】 (Brandish3に続く?/^^;)

 

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