Brandish4ストーリー・ガラハッド謎の探求に神の塔を行く!

◆■第二話・シャハラザード・霊界からの願い■◆
  
    
      
    

 「おい!おめ〜何者だ?」
アップルのところで記憶石を手にいれることができなかったガラハッドは、その翌日、街中をうろうろしていたところを探索隊に見つかり、慌てて逃げだし、彼の意に反して穴に落っこちてしまった。
落ちたショックでしばらく気絶していた彼に声をかけたのは、カルアの街より地下にある罪人達のエリアの主・・つまり、牢獄の牢番頭。ガラハッドは罪人達の獄舎から少し離れた魔物の巣窟である鉱石が取れる洞窟へ落ちていた。アリの穴のように繋がっている採掘場で罪人は魔物の襲撃に怯えながら日々そこで労働していた。

「え?・・・・あ、し、小生ですか?」
落ちたときの衝撃で痛めたのか、身体のあちこちをさすりながらガラハッドはその男を見あげながらいつものごとくにっこりと笑う。
「小生はガラハッド・・・・」
と言ってしまってから、彼はハッとして慌てて口をつぐむ。果たして不法侵入者である自分の名前を言ってしまってよかったものかどうか。とはいえ、いつものことで、笑顔と共に答えてしまうのが彼のくせなのである。
「ふ〜〜ん・・・・で、な〜〜んでこんなとこにいるんだ?」
ガラハッドに負けず劣らず巨体の持ち主のその男は、ぎょろっと目を剥き、ガラハッドの頭のてっぺんから足のつま先まで見つめる。ただ、拳法家として鍛え抜かれたガラハッドの筋肉質の身体と比べると、多少(?)ぶよぶよしてるようにも見える事は確かである。
「あ、あのですな・・・道に迷っていたところを魔物に追いかけられ、慌てて逃げたはずみで穴から落っこちてしまいましてな。」
どうやら自分のことは知らないようだ、とガラハッドはほっと胸をなで下ろしながら頭をかく。
「魔物って言ってもだな、ここへ繋がってるところのは、そんなに手強いとは思わないんだがな〜・・・。」
ガラハッドの体格からして、十分対峙できるはずだ、と思いながら牢番頭はガラハッドが落ちてきたであろう天井を仰ぎ見ながら呟く。
暗くて結構高さのあるい天井の為、本当にそこに穴が開いているのかどうかも確認はできないが、ともかく牢番頭は一応ガラハッドの言葉に納得した。

が・・・納得はしたが、牢番頭はにやりと意味ありげな笑みを浮かべる。

−ぐいっ!−
「な・・何をされるんですか、いきなり?」
不意にガラハッドの胸ぐらを掴み、ぐいぐいと引っ張っていく。
「な・・なんなんですか、いったい?」
「いや、なに・・ここんところ魔物の数が増えてな・・」
「え?魔物の・・数が・・・ですか?」
「で、それとは反対に囚人の数は減ってな。」
「そ、それと小生と何の関係が?」
牢番頭の手を払おうと思えば簡単にできた。が、常に慌てず騒がず(こういうことに関しては)のガラハッドは、引きずられながら彼に聞く。
「頑丈そうだからな。おめーならそう簡単にゃ死にゃーしねーだろ?」
「へ?」
にまりと再び薄ら笑いを浮かべ、牢番頭は付け加える。
「だから、働いてもらうんだよ、あんたにも。」
「な、なぜでしょうか?」
悪い予感を感じ、ガラハッドは全身に力をぐっと入れて立ち止まる。
「うおっ?」
それまで簡単に引きずっていたガラハッドが急に動かなくなり、牢番頭は反対に立ち止まったガラハッドに引っ張られるようになって声を出す。
「な・・・なんだよ?」
「ですから、なぜ小生が働かなくてはならないのですか?話の様子からですと、働くというのは囚人たちの労務の事を言うのでしょう?」
びくともしないガラハッドに、牢番頭は少し焦りを覚えて怒鳴る。
「ええ〜〜い!なんでもいいだよ!ここではオレ様の言うことが規則なんだっ!」
「そ、そんなバカな!」
その理不尽さにお人好しのガラハッドも思わず怒鳴る。
が・・・次の言葉でしおれてしまった。
「オレ様の言うこときかねーと、ここからは出られねーぞ?出入り口の鍵はオレ様が持ってるんだからな。・・・まー、なんだな、囚人じゃないんだから、1週間も働いてくれりゃいいさ。」
「い、1週間ですか?」
「ああ、1週間後か10日後くらいに、鉱石を引き取りに来るんだ。量がまったく足らなくってな、困っちまってるんだ。」
「そ、そういうことでしたら・・・お手伝いしてもよろしいですが・・・」
「が?」
「本当に1週間で出していただけるでしょうか?」
「ああ、嘘は言わねー。」
「そ、そうですか、それでは・・・。」

自分でもお人好しだと思いながらもガラハッドは囚人たちに鉱石掘りを手伝うことにした。が・・・・・・

「あはは・・あんた騙されたんだよ。あいつが1週間で出してくれるって?嘘に決まってんだろ?」
仲良くなった(?)囚人たちに笑われ、焦りを覚えて牢番頭を問いつめた結果・・・・したたかな牢番は、囚人たちの言ったとおり・・・、
「知らねーな。そんな約束したっけか?」
と答え、にたりと笑って1枚の手配書をガラハッドの目の前につきつけた。

「う”・・・・・」
それは、不法侵入者のおたずね書き・・つまりガラハッドの手配書だった。ただし・・・・そこに描かれている人相は、筋肉質の体格とごっつい顔(?)以外は、さほど本人に似ているとは思えなかった。
「こ、これが小生だと言うんですか?」
ともかく、ガラハッドははっきりしないその人相書きにおとぼけを決めることにして怒鳴ってみせる。
「し、失敬なっ!小生のどこが不法侵入者だと言うんですか?」
多少?後ろめたさを感じながらくってかかったガラハッドの鼻の辺りを牢番頭はにやりとしながら指で指す。
「な、なんなんですか?」
へ?と思わず鼻先に延ばされたその太い指先を見つめ、両目を中心に寄せるガラハッド。
「その目がそうだと言ってるぜ?」
指摘されどきっと心臓が踊る。
それもそのはず、根が正直なガラハッドに嘘は無理だった。
彼の目には、後ろめたさの光が確かにある。
「ま、待ってください。小生は悪いことなどしておりません!」
確かに悪いことをしているわけではなかった。只単に許可が下りなかっただけで、人に害を与えているわけではない。
「どっちにしろ・・・」
嬉しそうに目を細めて牢番頭はガラハッドに笑いかける。
「作業が進めばそれでいいのさ。」
彼にとっては目の前の人物がそうであろうとなかろうとどうでもいいことだった。人足が増えれば採掘もはかどる。それは裏ルートで流すことができる量が増え、結果的に私服が・・・。
「あんたはよく働いてくれるからな。」
にまっと笑い、牢番頭は満足そうに付け加えた。
「牢屋でなく看守用の部屋を使わせてやってるだけいいと思うんだな。」
「な・・・なんですと?」
「文句があるならいいんだぜ?あいつら(囚人)と一緒にしてやるぜ?」
ペシペシ!と手にしていた鞭をもう片方の手のひらに当てる彼の目は、あと一言でも言い返したら、その鞭が飛ぶと語っている。
かといえ、そのくらいの攻撃などなんとかなるとも思われたが、暴力を振るうのが嫌いなガラハッドはそこに立ちつくしたまま、立ち去っていく牢番頭を見送ってしまっていた。

「ど、どうしたらいいのでしょうか・・・・・。」
その夜、ガラハッドは一人頭を抱え、いつまでも考えこんでいた。



「おい!おっさん!・・・起きろよ!」
「へ?」
それから数日後、その日の作業を終え、疲れで爆眠しているガラハッドを起こす声が聞こえ、がばっと身体を起こす。
「き、君は・・・確か、ディー・・・くん?」
見覚えのあるその顔は、ディーという青年。
「何やってんだよ、こんなとこで?」
「何って・・・落っこちたところがここでして・・・。」
「・・ったく・・・ほら、逃げるぞ。」
「へ?に、逃げるって、どうやって?」
あきれ果てた顔のディーをほけっとして見つめたガラハッドは、彼の手で遊ばれているカギを見つける。記憶によるとそれは牢番頭の腰にかかっている出入口のカギである。
「そ、そのカギはまさか?」
「そ。そのまさかさ。いくぜ、奴が寝ているうちに。」
「し、しかし・・・・」
「出たくねーのかよ?あんたがそうならオレは別にいいんだぜ?」
面倒くさそうに吐いた言葉は、ディーが自分から進んで来たのではないことを示していた。
「あ、、、も、勿論出たいです。」
「なら、黙ってオレの後についてきな。」
「は、はー・・。」
事情ははあとから聞けと言わんばかりのディーのきつい視線に、ガラハッドは素直に頷いていた。


「いいか?監獄エリアの外へ出る通路は狭い。それにとろいように見えても牢番頭だけあって、その通路に自分の気を張り巡らしてるっていうか・・・結界の一種か?だから、奴は誰かがそこを通るとぜってー気づく。」
「き、気づくって・・・ディ、ディーくん?」
真剣な表情で話すディーを、ガラハッドも真剣な表情で見つめて聞き返す。
「デブのわりに素早いからなあいつ。だから、これを使ってドアを開けて通路に出たら、その先にあるドアまで一気に走る。」
「一気にですか?」
「そうだ。脱出できるかどうかはそれにかかってるんだ。そのドアはこっちからは開けられないからな。出てロックしちまえばこっちのもんだ。」
ディーは自分がそこから脱獄した経験から自信を持って断言する。
「よ、よくご存じですね、ディーくん。」
「ま、まーな・・・。」
あはは、とそこのところは笑ってごまかす。が、看守に気づかれてはいけないので、小声で。


そして・・・・
−カチャリ−
「よし、開いた!いくぜ。」
「は、はい!」
「付いて来れなかったら置いてくからな。」
「わ、わかりました。」
ごくん!とつばを飲み込む緊張した面もちのガラハッドに、一抹の不安を覚えながらディーは勢い良くドアを開けると同時に通路の先のドアに向けて疾走する。
「遅れるなよ、おっさん!」
「は、はい!」

が、2人が走り始めたその直後・・・
「くぉ〜ら〜〜!!てめーら、オレ様に断りもなく!」
断ったら逃げさせてくれるはずないでしょう?と思いながら、ガラハッドは牢番頭の罵声を背後で聞く。ディーの言った通り、彼の対応は早かった。
「おっさん、もっと早く走れねーのかよ?」
「そ、そんなこと言われてもですね・・・・」
通路は狭いうえに曲がりくねっている。そして、足下は非常に悪い。尽きだしている石に躓いて転ばないようにガラハッドは注意深くそして少しでも早くと必至になって足を運んでいた。
「この野郎〜〜・・ネコかぶっていやがって!」
「へ?」
ふと振り向くと、同じような巨体の牢番頭がすぐ背後に迫ってきていた。彼にとっては狭く足場の悪い通路も慣れたところだからなのだろうか、追い上げてくるそのスピードは、ガラハッドなど比べものにならない。
「おとなしくしてたのはこういうことだったのか?」
「ひ・・・」
ぐいっと後ろからシャツの襟首を捕まれた瞬間、もうだめだ、とガラハッドの全身から力が抜ける。
−ヒュオン・・ビシッ!−
「おっと・・・」
「おっさん!」
看守が不意に飛んできた鞭に手を引くと同時にすでにドアの向こう側に出ているディーの叫び声が通路に響いた。
「こっちだ!」
これが最初で最後のチャンスとばかりに、ガラハッドは必至の思いで、ディーに体当たりする勢いでドアに向かって突進していく。
「くそっ!そうはさせるかーっ!」
−ヒュン!・・ビシっ!−
「くっ・・・ひ、卑怯だぞ!」

−ドダダダダ!−
ディーの鞭による加勢を得、ガラハッドはなんとかドアの外へ出ることができる
−シュッ!−
そして、間髪入れずドアを閉めてロック。
「お、おいっ!こらっ!ここを開けないかっ?!お前らこんなことして無事ですむと思ってんのか?・・・・くぉら〜〜〜!!」
ドンドン!とやかましくドアを叩く牢番頭の叫びを後ろに、ガラハッドはへたへたとそこへ座り込んでいた。
「はーはーはー・・・・・」
「大丈夫かよ、おっさん?」
「はーはーはー・・・・・だ、だいじょう・・ぶ・・・です・・よ・・・はーはー・・・・」
「後は戻れるだろ?じゃ、オレいくからな。」
「へ?もう?」
「むさいおっさんと道行きなんてオレの趣味じゃねーんだよ。」
いかにも迷惑そうな表情のディーを、ガラハッドはまだ荒い息をしながら見上げる。
「それにモーブは上に向かってるらしいからな。道草くってる暇ねーんだって。急いでんだこれでも。」
「あ・・確かお仲間とかいうハーフエルフの男の子でした・・かな?」
「ああ。」
「そうでしたか・・・地下のまた地下のこことは全く逆ですからな。ご親切、感謝します。」
そこまで言ってからガラハッドははっと気づく。
「ですが、なぜ小生がここに囚われていると?それになぜわざわざ助けに来てくださったのですか?」
記憶石を使って上へ転移しようとしていたディーは、一旦中止して少し困惑しているような顔をガラハッドに向けた。
「別にオレはおっさんがどうなろうと関係ないさ。ただ・・・」
「ただ?」
ふ〜〜っと大きくため息をつき、ディーはガラハッドの前にしゃがみ込む。
「街にいるエルフの吟遊詩人、知ってるだろ?」
「あ・・・シャラハザードさんですか?」
「ああ。」
「まさか彼女がディーくんにお願いしてくださったんですか?」
「ああ。」
「ですが・・なぜ彼女が?」
ぽりぽりと目尻をかき、ガラハッドは不思議に思う。
「おっさんの救助を引き受けなけりゃ歌が唄えないって言われちゃ、引き受けないわけにはいかねーだろ?」
「唄えない?それはまたなぜ?」
一瞬黙ってからディーは少し気味悪そうな表情で口を開いた。
「何日か前から、彼女の枕元に毎晩ご先祖様の幽霊が立つんだってさ。」
「へ?」
「彼女にそっくりなご先祖様らしいいんだ。で、そのご先祖様が、地下におっさんが囚われてるから助けてほしいって頼むんだとさ。」
「へ?」
「ここ2、3日なんか、歌を唄い始めるとそのご先祖様の声が聞こえてくるようになったらしく、意識を集中できないから歌が唄えないって嘆いてたんだ。」
「ご、ご先祖様・・・・・」

『・・・お待ちしています・・わたくし・・・・いつまでも・・・・』
地下墓地で会った今街にいるシャハラザードの先祖であるシャハラザードの声とその真剣な表情が、ガラハッドの脳裏に鮮明に蘇っていた。
それは、地下墓地で彼女が自分の命より大切に思っている楽譜を盗賊から奪い返したガラハッドに対する彼女の熱い想い。遙か遠い昔、この世から去った幽霊からの熱い告白。
幽霊嫌いのガラハッドが必至になって記憶の奥にしまい込もうとしていた事実。

蘇ったその時の記憶・・そして、脳裏に映った彼女は笑顔と共に囁いた。
「よかった・・・・もう大丈夫ですわね・・・先生。」
それはまぎれもなく彼女の声。
「う、うう〜〜ん・・・・・・」
「おっさんもすみにおけねーな。女にゃ全くモテないような感じするんだけどなー。彼女にそっくりなんて美人もいいとこだろ?・・・だけど・・ご先祖様ってどういうことだ?」
一人呟きながら、ガラハッドを見たディーは、彼が気を失っていることに気づく。
「おっさん?!おいっ!どうしたんだよ、おっさん?」
ドンドンドン!と勢い良く叩く音と牢番頭の罵声が響いてくるドアを背に、もはやガラハッドは気づく気配もなかった。

「ったく・・・記憶石の定員は1名なんだぞ?背負って街まで行けっていうのか?」
どうみても身長はディーの1.5倍ほど。そしてその筋肉質の身体は2倍ほど(以上?)。背負って街までいくなど不可能極まりない事だった。行く手には魔物が待ちかまえている。

「仕方ねーな。まー、そのうち気が付くだろうけど・・・」
それでもひょっとしたら調査隊のメンバーや役人が来ることも考えられる。そうなったら、せっかく脱出したことが水泡に帰す。それに魔物が徘徊するテリトリーでもあり、気絶している間に魔物に襲われ命を落としたなんてことになったら、目覚めが悪い。

ディーは魔物の来ないようなところまでガラハッドの重い身体を引きずっていき、一旦街に戻ることにした。記憶石をシャハラザードが持っているかどうか分からないが、ともかく借りるかどうかして一緒に来て貰うことにした。目覚めの歌を唄ってもらう為に。
「もし彼女が持ってなかったら・・そうだな、あの人が良さそうな巫女さんにでも借りるか・・・。ちょうど街にいればのことだけど。他の奴らじゃ貸してくれそうもないしな。」
街に戻っている間にガラハッドが気づけば、それはそれでなんとかなるだろう、とディーは気楽に判断し、そこを後にした。



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