Brandish4ストーリー・ガラハッド正規の塔を行く!

◆■第一話・道具屋アップルにて■◆
  
    
      
    

 「ひぇ〜〜〜・・・・・・・・」
ガラハッドは走っていた。ただ必死にひたすら無我夢中で一目散に背中を走る冷水に押されるように・・・・むちゃくちゃに突っ走っていた。

「は〜・・は〜・・は〜・・・」
その視野に入ったドアを開け、そこへ飛び込んでバタン!と勢いよく閉めると同時に、ドアに持たれたままずるずるとそこへ座り込んだ。
「ひっ、はっ・・ひっ・・・はっ・・・・・」
心臓が止まりそうなほど早く鼓動し、足はもう動けないほど悲鳴を上げていた。

−くすくすくす・・・・−
「は?」
呼吸が止まってしまいそうなほど荒い息をしていたガラハッドは、その笑い声にはっとして顔をあげる。
「あははははっ!」
目があった途端、大笑いした少女の顔を見て、そして、周りをぐるっと見渡して、ようやくガラハッドは口を開いた。
「ははは・・・・ア、アップルさんの店でしたか・・・・はは・・・」
照れ笑いしながらも安心したガラハッドは、呼吸を整えようとする。
「どうしたんだよ、先生?また幽霊のお誘いでもあったのかい?」
「あ・・・・あはははは・・・・」
図星のガラハッドは冷や汗をかく。
「地下墓地は幽霊が出るから調査は終了にして、塔を上に行くっていってたのに、やっぱり上もいるって?」
「そ、そうなんですよ!」
面白がって話すアップルに、なんとか呼吸が整ったガラハッドは、大まじめな表情で話す。
「ほわ〜〜っとですな・・そ、その・・・紫色の髪の少女が・・・ほわ〜〜っと。」
−きゃはははは!−
アップルは大笑いする。
「で、またプロポーズされたってんじゃないだろうね、先生?」
「そ、そこまでは・・・・」
「そりゃーざんねんだったね。」
「そういう問題じゃないでしょうが?・・・まったく、人ごとだと思ってアップルさんは・・・・」
「だってさ・・・あの話は傑作だったもん。しっかりここにキープされてるよ?」
つんつん!と自分の頭をつついて笑うアップル。
「誰も信じてないけどね。」
「そ、それはないでしょう?事実なんですから〜〜・・・。」
はははっと笑いながらアップルはぽ〜んと手にしていたサイコロを上へ弾く。
「シャハラザードさんに近づく口実なんじゃないの?」
「ち、違いますよ!本当なんですから〜・・・。」
「美人だからね、彼女。」
「ア、アップルさんっ!」
思わず赤くなりながらもガラハッドはアップルを睨む。
「あはっ♪そんな睨みじゃ利かないよ?」
「う・・・・・・」
別に心底怒ったわけでもないガラハッドのその睨みは大したことはなかった。それは、自分でも承知していた。
「で、今日はなんか用?それとも幽霊に追いかけられて遮二無二走ったってんで、特になし?」
ヒュン!・・パシッ!、ヒュン!・・パシッ!っと繰り返しサイコロを上に上げているアップルの様子から、賭けたくてうずうずしているのだとガラハッドは悟る。
「い、いえ、実はですね・・・き、記憶石を無くしてしまいましてね・・・」
機嫌も良さそうだ、これなら調子よくもらえるかも?とガラハッドは飛び込んで来たときにはすっかり忘れていたその事を思い出して口にする。
「へ?・・・・先生・・無くしたって・・・これで何回目?」
記憶石とは転移のスーパーアイテム。自分の思った地点をそれに記憶しておけば、行きたいときにそこへ転移できるという代物。ただし、最初から記憶してある町以外は2箇所しか記憶できないが、それでも塔の探索には大いに役立つ必需品である。
「だめだめ!あれはそこらに転がってるものでも、作れるものでもないんだよ?」
「そんなこと言ったって・・・どうせ元は塔の地下墓地のそのまた地下墓地で見つけたとか聞きましたよ?」
ガラハッドは意地悪そうな視線をアップルに向けて言った。
「じゃー、先生、地下墓地へ行って見つけてこれば?」
「そ、それはですな・・・・・・」
幽霊を思い出し、再び冷や汗が流れるガラハッド。
「虐めないで下さいよ、アップルさん。今度何か珍しいものを見つけたら、まっすぐアップルさんのところへお届けしますから。」
「珍しいものね〜・・・・」
幽霊が恐くて見つけられるのかい?とでも言いたそうに、アップルはちろっとガラハッドを見る。
「ア、アップルさん・・・・」
情けないような表情で見つめているガラハッドに、アップルは苦笑いする。
「しょうがないな・・ったく・・・先生のその顔見てると母性本能くすぐられちゃうから弱いんだよな〜。」
「ぼ、母性本能・・・・」
12,3歳に見えるアップルに言われ、ガラハッドは穴があったら入りたい気分。
「ほら、先生!」
ぐいっとサイコロを握った右手をアップルは差し出す。
「特別大サービス、当てたらあげるよ。どうせ賭けるものないんだろ、先生?」
「あ・・す、すみません・・・・で、では、よろしくお願いします。」
「じゃ、いくよっ!」
−シュッ!・・カラン・・・タン!−
「さー、賭けとくれ!」
サイコロの入ったすっと壺をガラハッドの目の前に押す。
「は、はい・・・じ、じゃ〜・・・・」
ごくんと唾を飲んでガラハッドは叫んだ。
「は、半っ!」
「ざ〜〜んねんでした〜〜。6、4の丁!」
「う・・・で、では・・・・」

そして、勝負の続くこと10回。
「先生・・・・今日はついてないね。」
がっくりとうなだれて床に座り込んだガラハッドに、アップルは気の毒そうに声をかける。
「ほらほら、何がっくりきてんだよ、先生?」
「そうおっしゃられてもですねー。」
「昨日来た兄ちゃんなんてさ、19回目にようやく当てたよ。それを考えればまだまだあるじゃないか?」
「じ、19回目ですか?」
「うん、そうだよ。前髪だけ色を染めたおかしな兄ちゃん。」
「前髪だけ・・・それってひょっとしてディーさんじゃありませんか?」
「え?先生、知り合い?」
「いえ、知り合いっていうほどでもありませんが・・・塔の中でお会いしましてね。・・・実は、調査隊の人に追いかけられていたところを助けてもらったんですよ。」
「ふ〜〜ん。」
「ですが、そのおかげで地下墓地へ落っこちてしまいました。」
「そのおかげ、ってその兄ちゃんのせいじゃないだろ?どうせまた先生のおっちょこちょいで落っこちたんだろ?」
「あ・・・い、いや・・これは・・・・か、かないませんなー、アップルさんには。」
あはははは、としばし負け続けている賭のことも忘れるガラハッド。
「おっと、いけない、忘れるところでした。」
そのまま店から出ようとして、ガラハッドは苦笑いしながら再びアップルの方を向く。
「・・・しっかりしなよ、先生。ここじゃぼやぼやしてるとどうなるかわからないよ?」
「そ、そうですよね。はい、肝に銘じて!」
直立不動の姿勢をとって、真剣な表情でガラハッドはわざと言った。

そして、再び記憶石をかけてサイコロが空を飛ぶ。
が・・・・・
「先生・・・単純に考えて確立は五分なんだよ?」
25回・・・あまりにもの負け続けにガラハッドはへこんでいた。
さすがのアップルも、気の毒に思いはじめていた。が、そこは勝負の世界。情けは無用。いかさまをしてわざと勝たせるつもりもない。(その腕はあるが)

−バタン!−
カウンターの前でガラハッドがしおれていたちょうどその時、勢いよくとドアが開き、一人の女性が入ってきた。
「妖炎のメルメラーダ・・・さん・・・・」
その姿が目にはいると同時に、ガラハッドは腰がひけていた。
「あら・・・誰かと思ったら、学者先生じゃないの?案外としつこいのね?まだ無事だったなんて。」
ちろっとガラハッドを見て、メルメラーダは店内を見回す。
「ここに、好きな所へ転移できる記憶石ってものがあるって聞いたのだけれど?」
そして、カウンターの向かい側に座っているアップルに目を留める。
「あなたが、お店の人?」
「そうだよ。アップルってんだ。ごひいきに。」
「あっそう。で、そのアイテムは本当にあるの?ないの?」
あったらとっとと出しなさいと言わんばかりの高飛車な態度でメルメラーダは言う。
「ない・・・こともないけどな。」
そのメルメラーダの態度が気に入らなかったアップルは言葉を濁らす。
「何よ、その言い方。商売でしょ?売り惜しみするんじゃないわよ。」
「うーーん・・・買ってくれるってんならいいんだけどね。」
ぼしょぼしょぼしょとメルメラーダの耳に口を近づけてその値段を告げる。
「な・・・・何よ、それ?あなた私をからかうのもいいかげんにしなさい?」
一国家の年間予算ほどのその値段に、メルメラーダは怒っていた。
「まー・・いいけどね。」
「え?」
「は?」
怒った後、静かに言ったメルメラーダのその言葉にアップルもそしてガラハッドも目を丸くして驚く。
「か、買うっていうのかい?」
思ってもみなかった答えに、アップルの声はうわずっていた。
「まさか!」
2人を嘲笑するとメルメラーダは続けた。
「そっちがその気なら別に構わないっていうことよ。・・・買う必要はないのよ。」
どんな宝であろうと、必ず手に入れる盗賊だと世界的にその名を馳せたメルメラーダ。宝石でないのが残念だが、同じ事だった。
が、自信たっぷり、余裕な視線を投げかけたメルメラーダに、アップルはくすっと笑う。
「無駄だよ。記憶石が入ってる箱はね、あたいでなければ開かないし、持ち運びもできないんだ。」
「ほ〜っほっほっほっ♪」
メルメラーダは高らかに笑った。
「いい加減な事言うものじゃないわよ、お嬢ちゃん?このあたしが開けれない宝箱がどこにあるっていうの?」
メルメラーダのその言葉に、アップルはそっと記憶石の入った宝箱をカウンターの上に置き、開けられるものなら開けてごらん、と目で言った。
「見ててごらんなさい♪」
簡単なものだ!と箱に手をかけたメルメラーダは、焦った。どんな宝箱もまるで彼女の下僕であるかのようにすっと開くはずが・・・びくともしない。
「な、なによ・・・・この私には開けられないものはないのよっ!」
それでも頑張るメルメラーダだったが、どうしても開かない。

「くすくすくす♪」
30分後、面白そうに笑うアップルと、苦々しげに彼女と宝箱を見つめるメルメラーダがいた。
「分かったわ・・何事もあきらめが肝心よね。」
時と場合には、と、素直に(?)負けを認めたメルメラーダをアップルは気に入る。
「いいねー、そのさっぱりとしたとこ。」
「今頃お世辞言っても効かないわよ?」
「あはは・・・じゃーさ、あんたも賭ける?」
「え?賭けるって?」
不思議そうな顔をして自分を見つめているメルメラーダの目の前に、アップルはサイコロを握った手を差し出し、ぱっと開いて中のサイコロを見せる。
「丁か半。一発勝負!」
「ふ〜〜ん・・・面白そうね。」

そして、物の見事に1発で勝ち、メルメラーダは記憶石を手にしていた。
「気に入ったから又来てあげるわ。」
「あはは・・そりゃーどうも。」

自信を取り戻したメルメラーダは、少し(?)得意げに店を出、バタン!と勢いよくドアを閉めた。彼女の足はさっそく塔内の遺跡・・・ではなく、情報不足だった事に対して手下としてここへ潜入させてあるズフォロアに文句を言うべく、街の一角にある教会へと向かっていた。

「・・・・・・」
店内に残ったガラハッドは、ドアを見ながらため息をついていた。
「あはは!先を越されちゃったね、先生?」
「あ・・そ、そうですな・・・あはは・・・・」
悲しく笑ったガラハッドに、アップルは手を差し出す。
「じゃ、気持ちを入れ替えてやるかい?」
「そ、そうですな・・・あれがなくては不便というものですし・・・・・。で、では、今からはじめるという気持ちで!」

・・・そして、30回・・・・・再び負け続けていた。
「先生って、よほどサイコロに嫌われてるっていうか、なんて言うか・・・」
こうなったら気は進まないがいかさまで、とも一瞬思ったアップルだが、彼女の勝負魂がそれを阻止した。

がっくりとうなだれているところに、再び客があった。
「こんにちは。」
「はい、こんにちは。」
礼儀正しく清楚な少女といった感じの巫女が入ってきた。
「あら、あなた・・・確か・・・・」
「あ?え・・・・・あっ!」
ガラハッドは塔内で会ったことを思い出した。
てっきり教会の人間だと思い、自分を捕らえる為に捜していた思いこんで、声をかけられた瞬間、鍵を落とした事も気付かずに逃げ出したガラハッド。
「あ、あのあとお探ししても見あたらなかったものですから・・・私、いけないとは分かってましたけど・・・あの鍵、使ってしまいました。」
「は、はー・・・・そ、そうですか。そ、それで、開かなかったドアが開いてたんですね。」
「え、ええ。すみません。」
ぺこりと頭を下げた巫女に、ガラハッドはどうやら自分を捜しているのではない、と感じてほっとする。
「いえいえ、いいんですよ。小生が持っていても使い道は同じなんですから。」
お互い簡単に自己紹介をしてから、クレールはカウンターの上に置いたままになっていた宝箱に目を留める。
「これは・・・何か特別なものなんですか?」
「あはは。巫女さん、なかなか感が鋭いね。」
そして、またしても賭が始まった。

「きゃ〜♪、クレールまた間違えてしましたわっ!・・・こ、今度こそ!

一回一回、サイコロの目にきゃあきゃあ感嘆の声をあげ、賑やかにそれは6回続いた。
「あ〜・・楽しかったわ。またお邪魔していいかしら?」
「もちろんさ。」
他のアイテムもあれこれ買い、クレールは上機嫌で店を出ていった。

「はう・・・・」
後に残ってため息のガラハッドに、アップルは気の毒そうな笑顔を送る。

−パタム−
クレールと入れ替わるように、異様な男が一人、静かにドアを閉めてカウンターに近寄ってくる。
「おや・・あなたは?」
目以外すべてその頭巾で覆っているその男に、ガラハッドは覚えがあった。
「確か、小生が困っているとき回復剤を分けてくださった。・・・いやいや、あの節はどうも・・・。」
頭をかきながら礼を言うガラハッドだが、男は一言もしゃべろうとはしない。
「ってことは、あんたも塔の探索の新参者ってとこか・・・じゃー、やっぱり、これ、いるかい?」

そして、再び記憶石をかけての賭が始まった。

−し〜〜ん・・・・・・・−
「あのね〜・・・・・・・」
男はアップルが空に投げたサイコロを飲み込んだ壺を、ただひたすらずうっと見つめていた。
「いいかげんに決めなよ!男らしくないっ!」
が、男はアップルの声に耳もかさず、黙ったまま見入っている。

「決まらないんなら、時間切れだよ!」
それから1時間たっていた。それまででもしびれをきらしたアップルが壺を開けようとすると、男が彼女の手を押さえてそれを制した為、アップルのイライラ度は、極限に達しようとしていた。
「もうっ!」
今度は例えとめられても壺を開けてやる!と思ったアップルが、壺に手をかけかけた時・・・男が小さく呟いた。
「半。」

・・・・当たっていた。回数としては、一回目にして当てたのだが、それを決める為の所要時間が1時間。怪しげな男がカウンターの上の壺をじいっと見つめていたその1時間は、店内もなにやら空気が暗く重くなったとアップルは感じていた。

「はいよ。」
勿論、いかにも面白くないといった表情で、アップルはその男に記憶石を渡す。

「じゃ、先生。気分直しに一発!」
男が出ていくと、にこっと笑いかけたアップルに、悲しそうにガラハッドは答えた。

「・・・出直して来るとします。今日は・・・もうそんな元気はなくなりました。」
すごすごと肩をおとして店をでるガラハッドを、明日もこんな調子だったら、なんとかしてやるとするか、と思いながらアップルは見送っていた。



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