Brandish4ストーリー・ガラハッド謎の探求に神の塔を行く!

◆■第三話・キングスライム登場?■◆
  
    
      
    

 「あわわわわ・・・・・」
「あ!おい!おっさん、どうしたんだよ?」
真っ青な表情でドタドタドタっと勢いよく横を駆け抜けようとしたガラハッドの腕を、ディーはぐいっと掴んで引き止める。
−ズデン!−
「あ・・悪い・・・・」
その体格から言ってとても腕を掴んだくらいでは引き止められそうもないガラハッドの巨体。が、そこは日頃鍛錬しているディーである。ガラハッドと比べると細身ではあるが、それなりに力とそして、コツをつかんでいる。
そして、ディーの事など目に入らないほど仰天して走っていたガラハッドは不意につかまれた事により、バランスを失って勢いよくその場に尻もちをついた。
「あ・・・・ディ、ディーさんでしたか・・・・」
腕をつかまれたまま尻もちをついた状態で、はー、はーと荒い呼吸をしながらもガラハッドは照れ笑いしながら立ち上がった。
「なに慌ててるんだよ?」
「は、は〜・・・そ、それなんですがね・・・・」
勢いよく転び、ひりひりと悲鳴をあげているお尻をなでながらも、内心ガラハッドは見知ったディーと出会ったことでほっとしていた。
「調査隊に追いかけられてるふうじゃないよな?」
始めてガラハッドと出会った時は、ちょうど今の様な感じで、疾風のごとく走り去っていった。が、顔は今みたいに青ざめ引きつってはいない。
「あ・・い、いや・・・・・」
「なんだよ?」
「あ・・・・」
ぐいっと睨んだままのディーに、なかなか話そうとしなかったガラハッドも恥を忍んで話し始める。
「じ、実は・・・この先の角を曲がったところでですね・・・」
「この先の角を曲がったところで?」
「え、ええ・・・そ、その・・・幽霊がにこっと・・・」
「幽霊がにこっと?」
「そ、そうなんですよ・・・・」
幽霊嫌いの考古学者ガラハッド。彼はその時の事を思い出して落ち着いてきていた表情を再び固くする。
「かわいらしいエルフだったんですがね・・・・・ぼ〜っとして立っていたので、どうしたのだろうと近寄ったら・・・ふっと消えてしまいましてね〜。」
「エルフ?おい、おっさん、そのエルフって、紫色の髪してなかったか?ちょうどオレの胸あたりの背の高さの?」
「え?・・・・ディーさん、幽霊とお知り合いで?」
「違うって!そいつは幽霊なんかじゃない!オレの仲間のモーブっていう奴だよ!」
「え?ゆ、幽霊じゃなかったんでしょうか?」
信じられないような顔で聞き返すガラハッドに、ディーはため息をついてから答える。
「ったく・・・幽霊嫌いもほどほどにしておけよな?モーブのどこが幽霊だってんだ?『幽霊の正体見たり枯れ尾花』って言葉くらい知ってるだろ?」
「え、ええ・・そ、そりゃーまー・・・小生でもそのくらいは・・・。」
ははは、と頭をかきながらガラハッドは照れ笑いする。
「で、でも、様子がおかしかったですよ。まるで幽霊のように生気がありませんでしたし・・・消え方が記憶石での転移とは違って、すうっと・・・・。」
「うーーん・・・・」
頭をぼりぼりとかき、ディーは思案する。
「術でどこかへ転移したとかか?・・・い、いや、モーブは魔法は使えないし・・・どじばかりふんでて消えるようにそこからいなくなるようなすばやさもなかったしな〜・・・・」
「まさか、そのモーブさんとかいう人は、亡くなった・・とか?」
「んなわけねーだろ?」
ガラハッドの小さなその呟きに過敏に反応して、ディーはガラハッドの胸ぐらを掴んで思わず叫ぶ。
「あ・・す、すみません・・・・」
「あ、い、いや、オレも悪かった。だけどな〜・・・・ま、ともかくモーブと会ったってとこへ案内してくれないか?」
「へ?・・・し、小生がですか?」
「おっさんでなけりゃ誰が案内するってんだよ?」
「あ、そ、そうですね。」
「幽霊じゃないって言ってるだろ?」
その言葉でガラハッドはしぶしぶ案内することにした。


「そこの角に立っていたのか?」
「はい、そうなんですが・・・・。」
角の向こうまで行っても薄暗い通路が続いているだけで何もない。
「この先に行けばモーブはいるんだろうか?」
「ディ、ディーさんっ!」
「なんだよ、おっさん?」
すたすたと通路の奥へと歩き始めたディーを、ガラハッドは慌てて引き止める。
「い、行くんですか?」
「当たり前だろ?」
「し、小生もご一緒してはいけませんか?」
「あん?」
「ち、調査を続けるにはこの先に行く必要があるんですよ。」
思いっきりへっぴり腰になっているガラハッドを見、ぼりぼりぼりと頭をかいてディーはため息をつく。
「あんた、それでよく考古学者が務まるな?お墓なんて慣れっこじゃないのか?」
「は、は〜・・・そ、そうなんですがね・・だからこそ、こうなんといいましょうか、ぞくぞくっと感じるこの気配はどうにも苦手でして・・・・」
「ったく・・・邪魔にならなけりゃオレは別にいいけどさ。お荷物はごめんだぜ?」
どうも足を引っ張られそうで一緒に行動したくないと思いながらも、ディーは承諾する。
「は、はい、では、お言葉に甘えて。」


「うっぎゃ〜〜〜!」
「おい?おっさん?」
「あ、あら・・・ど、どうしましょう、あたし・・・驚かせてしまったかしら?」
その通路の先の小部屋で、不意に姿を現したクレールに驚いたガラハッドは再び一目散に来た道を駆けていく。
薄暗かったその小部屋。クレールの白い僧衣と疲れ切った表情は幽霊を警戒しつつ歩いていたガラハッドには、まさにそう見えたのである。
「ったく・・・どうしようもないな。いいんだよ、あんたのせいじゃない、あいつが恐がりなだけだって。」
「いいんですか?」
「いいも何も、突っ走って行っちゃったんだから、放っておけばいいんじゃないか?」
「そ、そうですね・・・・」


そんなことをディーとクレールが話してる間もガラハッドはひたすら走っていた。
そして・・・

−ドシン!−
「いった〜・・・・!」
曲がり角でガラハッドがぶつかったのは、妖炎の魔術師メルメラーダ。
「気をつけなさいよ!」
「す、すみま・・・あ、あなたは・・・妖炎のメルメラーダ!」
頭をかきつつ謝ったガラハッドは、目の前の人物に驚く。
「ま、まさか・・この塔の遺跡を荒らしに来たのでは?」
「ふん!そんなことあたしの勝手でしょ?は、は〜〜ん・・・」
上から下までガラハッドを見てメルメラーダは確信する。
「あなたがもぐりの考古学者ね?・・・考古学者・・・こういったところの調査には慣れてるってことよね?」
あごに手をあて、しばし考えたメルメラーダは不適な笑いを浮かべる。
「ディー坊やより頼りになるかしら?」
「へ?」
「この際だわ。同じお尋ね者として手を組まない?」
「手、手を・・ですか?」
「何よ?いやだっていうの?この塔は広いし謎が多すぎるのよ。情報は多い方がいいわ。」
「し、しかし・・・盗賊と手を組むなど、小生には・・・」
「盗賊と考古学者、似たり寄ったりでしょ?」
「そ、そんなことはありません!考古学は、歴史の真実を追究するという非常に大切かつ・・」
「結局は墓盗人でしょっ!」
毅然とした態度で弁明しようとしたガラハッドを、メルメラーダはぐいっと睨む。
「分かったわ。どうしても手を組むつもりはないようね。」
「当然です!小生は盗人ではないのですから!」
「あっそ。」
拳法家でもあるガラハッド。メルメラーダの攻撃を予期し、それを受けるべく構えをとって立ちはだかる。これ以上遺跡を盗賊には荒らさせない!ガラハッドの瞳にはその決意がみなぎっていた。
「スライムとカエルとカマドゥ・・どれがいい?」
「は?」
その真剣さを軽く笑い流して言ったメルメラーダの言葉に、ガラハッドは
がきょとんとする。
「スライム?カエル?カマドゥ?」
多少?嘲笑ともいえる笑みを顔に浮かべ、メルメラーダは再びガラハッドに聞く。
「そ、そうですな・・・・スライムですかな?」
どうやら攻撃をしかけてくるのでもなさそうだと判断し、ガラハッドは構えを解いて答えた。
−バボン!−
「え?え?え?」
「ふん!あたしが直接手を下すこともないわ。誰かに倒されてしまいなさい!」
瞬時にしてスライムに変えられてしまったガラハッドが驚いている間に、メルメラーダはさっさとその横を通り過ぎて行った。


「ど、どうしたらいいのでしょうか?・・・・だ、誰かと出会ったら・・・・・・」
攻撃されるまえに攻撃する!それが鉄則の塔内、人間と出会ったとき、実は人間だから攻撃しないでくれ、という弁明を聞いてくれるまでの命の保証はない。
「ディ、ディーさんに・・・あ、いや、彼の前に姿を見せた途端にあのムチでやられそうですな・・・で、では、クレールさん・・・・・あ、でも、ああみえても結構手が早いっていうか・・・魔物を恐れてるのか、ちらっとでも姿が見えたら、即術を放っていたような・・・・。」

「そ、それに・・・移動するにしても荷物はどうしましょう?」
荷物までスライムの一部にはなっていない。それまで背負っていたそれは、ガラハッドがスライムに変えられたと同時に、その場に落ちていた。
「こ、これではまるで、この荷物を背負っていた人間を襲ったと言わんばかりじゃないですか・・・・。手がないから荷物を背負うことも移動させることもできないし・・・。」
小さいなら荷物の影に隠れて人との接触を待つという方法も考えられた。が、普通のスライムサイズならまだしも、巨体のままスライムにされた状態ではそれもできない。

「お腹もすいてきたのですが・・・どうしたらいいのでしょうか?」
荷袋を開けることもできないとはいえ、そんな事を言ってる場合でもないとも思われるのだが・・・。

「やっぱりここは、見た目は恐そうでも、快く回復剤を分けてくれたキエンさんに出会うのを待つしかないのでしょうか?・・・彼なら遭遇と同時に攻撃ってこともないようでしたし・・・。」
ふと覆面の男を思い出し、ガラハッドは考える。
接近戦を好むその男は、自分に攻撃を仕掛けてこない限りわざわざ魔物に近づいてまで殺すような事はなかった。が、その腕は相当なものである。もしも倒そうと思って近づいてきた場合、ガラハッドが魔物ではないと言う前にあの世へ旅立っていたということも充分考えられる。

「タ、タイミングの問題でしょうか?」
荷物の横にいる魔物。明らかに人を襲った証拠となるその光景を、果たしてキエンがどう判断するのだろうか?
いや、その前に、キエンが来るとも限らない。
通常の青色と異なった赤色、そして十倍近い大きさのその姿はまるでキングスライムとも思える。
倒すべき敵と判断するのが普通と思われた。


「ど、どうしたらいいのでしょうか?誰か教えてくださ〜〜い!」
全身の色の赤とは正反対の蒼白な状態のガラハッド。

が、傍目には、そうは見えない。
巨大なスライムが一匹、元気に荷物の周りで飛び回っていた。



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