遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1] Brandishストーリー〜

(26)[FORTRESS 5〜7F]

〜 消え失せた山のようなアイテム 〜

 「ええ〜っと、おじさん、とにかくなんでもいいから重そうなものくださいな。鉄球とか鉄の鎧とか、そう、がっしりしたやつお願いね。」
「まいどおおきにぃ〜〜〜♪いやぁ〜、お嬢さん、いつもべっぴんですなぁ〜。」
そこはロブスターの食事を楽しんだところから繋がっていたその先にある闇屋。
『さまよい続けるがよい』とプレートに書かれていた通り、その一帯は、5F〜7Fへと上がったり下がったりして、いくつかに区分けされたフロアをあっちから上がったりこっちから下がったりとめまぐるしいものだった。
その過程で闇屋を見つけたクレールは、それまでに入手していたアイテムを早速換金した。
そして、そこから少し進み、5Fへ下りたところで、開かないドアがあったのである。
そのドアの前の床には円形の大きなスイッチがあった。そして、壁のプレートに『この床スイッチを動かすには相当な加重が必要!』と書いてあった。
事実、いくらジャンプして全身に力を込めて乗ってみても、スイッチは1ミリたりとも沈む様子はなかった。
5F〜7Fはすでに行けれるところは行っていた。残るは壁に阻まれて、その辺りに空間があるのに行けない箇所だけである。
もっともそこまでいろいろ苦労した。イリュージョンの壁など山盛りあった。
が、助かったのは、巨大なロブスターがクレールを見るとこそこそと逃げてしまうことだった。それはつまり彼らは仲間を食べたのは彼女だと本能でかぎ取ったからである。
ぶんぶん鉄球を振り回して襲いかかってくるモーニングスターという呼称のモンスター、いわば鉄球兵士は魔法が効いたし、さむらいおばけは・・・・逃げの一手でやりすごした。ところどころの道をふさいでいたローバーという火を吐く巨大イソギンチャクのようなものは、その火を避けてバシバシ殴ってどうにかするか、または、火のタイミングを見計らってジャンプして飛び越えたりと、アレスとはぐれてしまったクレールはそれでもなんとか進んでいた。

で、先ほどから問題にしていたのが、その床スイッチなのである。『相当な加重』とはどのくらいなのか?
それがどのくらいか分からないが、ともかく闇屋で目一杯重そうな代物を購入してきては、そのスイッチの上に置いた。

が・・・・スイッチは沈む気配を見せない。
それどころか、闇屋とそことの何回目かの往復をしたクレールの目に、信じられない光景が写った。

「え?ないわっ!私が置いておいたものが何一つ・・・・」
そう、山のようにアイテムを置いておいたはずのスイッチの上から、それらは忽然と消えていたのである。
「まさかアレスさんが持っていったとかじゃないわよね?」
ふと考えてしまったクレールは、ぶんぶんと頭を振ってその考えをうち消した。そんなこともあってはいけないと思ったクレールは、そのアイテム1つ1つに、名前を明記しておいたのである。アレスが名前の書いてあるものを持っていくとはクレールには思えなかった。そして、ドーラも又同様である。

「おじさん!」
「いらっしゃ〜い!今回は何にしましょ?」
上機嫌の闇屋は、いきなりぐいっと顔を近づけてきたクレールに驚く。
「大変なの、おじさん!アイテムが・・・アイテムが全部なくなってしまったの!」
「へ?」


「ぶわっはっはっは!」
訳を聞いた闇屋は大笑いする。
「そりゃー、しかたおまへんで、お嬢さん。いくら名前書いといたかて・・・ここにそんな良心がある奴なんて・・・・・お、お嬢さん?」
大笑いしていた闇屋は、不意にうつむいてしまったクレールに悪い予感を覚える。
「だって・・・あれを買う為に手元にあったお金もほとんどなくなってしまったのよ。・・・それなのに・・・それなのになくなってしまったなんて・・・・」
「お嬢さん・・・・」
「あたし・・あたし・・・・もうどうしていいか・・・・」
じわっとその瞳に涙が溢れてきていた。
「い、いや・・・泣かれても困りますがな・・・」
そうは言っても、かわいい少女の涙ぐむ姿には闇屋も弱かった。
なぐさめようとそっとクレールの肩に手をかけようとしたとき、闇屋は人気を感じ、クレールの後ろに視線を向けた。
「ひ・・・・・」
手をかけようとしたそのポーズのまま闇屋は固まって尻餅をついていた。クレールの後ろには、静かな怒りを放つ一人の剣士が立っていたのである。殺気を感じるわけではないが、恐ろしいほどの威圧感があった。
「え?・・あ、アレスさん!」
その闇屋の態度を不思議に思い、後ろを振り返ったクレールは、そこにアレスの姿を見つけ微笑む。
「あ・・あの・・・お知り合いでっか?」
冷や汗たらたら、闇屋は消え入るような声でクレールに聞く。
「ええ。この迷宮で知り合ったのですけど。」
にこっと笑ったクレールから、ついさきほどの不安げな表情はなくなっていた。
「アレスさん、聞いてくださる?」
そんな闇屋の焦りなどには気づかず、クレールはアレスに起こった悲劇を話す。
そして、その話からどうやら闇屋に襲われたわけでもないらしいとアレスは判断した。


そして、その現場へとクレールに案内されてやってくる。
「山盛り置いたのよ、ここに。相当な重さだったはずなのよ。」
クレールの説明にアレスもしばし考える。
「あ!アレスさん!」
そして、物を置くという意味ではないのだろう、と判断したアレスは、その先へと進んだ。
何か解決策が、どこかに見落としているものがあるはずだった。

「穴だ。」
「え?穴?」
スイッチは5F、そしてフロアのマップを重ねるとちょうど同じくらいの位置に穴があったことにアレスは気づいて呟いた。
そこは7F。開かなかったドアを諦めて進んできたその終点。
そして、その事に気づいたクレールも目を輝かす。
「そうよね!相当な重力・・・上から落ちればかなりの衝撃があるわよね?」
目の前に並んでいる数十個の穴を見つめながら叫ぶ。
「でも、どれなのかしら?」
だいたいの位置はわかっていた。が、それが真上であるとは限らない。
ともかくだいたいの方角と位置感覚を頼りに穴へとジャンプしてみることにし、今にも飛び降りそうなアレスを制し、クレールはここだと思った1つの穴に先に飛び込んだ。
そう、そのフロアに出てすぐの2つ目の穴にクレールはジャンプした。

−ヒュ〜〜・・・スタッ!−
睨んだとおり、すぐしたの6Fの穴をも通り抜け、5Fへと着地する。
が、残念ながらそこはスイッチの1歩手前。

「アレスさん!もう一つ奥の穴に飛び込んでください。
真っ暗で上は見えないが、ともかくクレールは上を見上げて大声で叫んだ。


−スタッ!・・ガーッ!−
クレールのアドバイス通り、その穴にジャンプしたアレスは、期待通りスイッチの上へと落ち、ドアは自動で開いた。
「やったわっ!」


そして、手前のスイッチのオンオフで転移する場所が変わる魔法陣での移動で、そこにあったドア専用のカギを見つけると、2人は先に進んだ。
アレスと一緒だった為分担して調べたので早かった。オンの状態である光っていたそのスイッチをそのままでまずアレスが魔法陣に乗り、そしてスイッチを押してオフにした状態でクレールは別の場所へと転移し、それぞれその先の場所で1つずつカギを入手したのである。
連続して行く手を阻んでいたカギのかかったドアは、それで簡単に開けることができ、2人は順調に進むことができた。


「あ〜〜ん・・・またアレスさんとはぐれちゃったわ。」
そこは6F、異臭を放つ酸の沼の続いた細長い道の先にあった穴からクレールは一人落っこちていた。なるべくダメージを減らそうとジャンプして進んでいた事が災いし、暗くて良くみえなかった一番奥のその穴に落ちてしまったのである。
「あ!宝箱!」
が、幸運なことにおちたその四角い部屋に宝箱があった。周囲は壁で仕切られていたが、床にあったスイッチで一カ所が開く。
「わあ、綺麗だわ。」
そこにあったソルアーマー、太陽の鎧を手にしクレールは落ちたところへと急いだ。
そして、アレスを探すうちに、壁のスイッチとイリュージョンの壁を見つけ、そのスイッチを押してから壁を通り抜けたクレールは、スターシールドが入っている宝箱のある部屋へと転移する。
「ソル(太陽)アーマーとスター(星)シールド・・・・じゃ、あとはムーン(月)ソードなのかしら?」
そんなことを呟きながら、クレールはアレスを探した。


「あ!アレスさん!」
そして、7Fの一角で壁に挟まれた狭いところに一人立っているアレスを見つけてクレールは駆け寄る。

「よかった、アレスさん、やっと追いつけたわ。」
そして、異次元箱からごそごそとソルアーマーとスターシールドを取り出す。
「はい!アレスさん!」
(ん?)
オレにか?とアレスは思ってそれを見つめていた。
「私には装備できないし、それに、アレスさんにはいつもお世話になってるから。」
「悪いな。」
笑顔で差し出すクレールの手から受け取りながらアレスは短く礼を言っていた。
遠慮はクレールを悲しませるだけということをアレスはそれまでのつき合いで分かっていた。
「で、何してらしたんですか、アレスさん?じっとそんなところに突っ立って?」
そう聞いたクレールに、アレスは顎でちょうどクレールの後ろの壁にあるプレートを指す。
「『動くな!』・・・・ああ、それでアレスさん、そこでじっとしてらしたのね?」
振り返ってそのプレートの文字を確認したクレールは納得する。そして再びアレスの方を向いた彼女は感嘆する。
「わぁ・・お似合いよ、アレスさん!」
クレールの薦めに従い、さっそくソルアーマーを身につけたアレスは、彼女の言葉には何の反応もみせずに再びその場に立つ。

−シュン!−
そのままじっとしていること数分、アレスはどこかへ転移していった。
「じゃ、私も♪」
−シュン!−
クレールもアレスを見習ってその場に立ち、転移する。

「あら?アレスさん、いないわ?」
転移したその先の狭い部屋にはカギのかかったドアともう一つ魔法陣があった。
そして、壁にはこう書かれたプレートがある。
『大事な物を忘れていないか?』
「大事な物・・・・・」
そのプレートを見つめながらクレールはしばらく考え込む。
「えっと〜・・・・特にないわ・・よね?スイッチの上に置いたアイテムはなくなっちゃったけど・・・特に必要ということもないから。」
お気楽クレールに物品への執着心はなかった。もっともあれだけあれば国に相当な仕送りができるというものなのだが、どこにあるのか、いや、あるのかどうかもわからないものを、戻って探すというのもバカらしいと思っていた。それに宝もあれで終わりではない。この先にもまだまだきっとある、とクレールは踏んでいた。それに気の毒に思ったらしい闇屋から購入資金として使った額の半分はもらっていた。勿論それはクレールが請求したのではなく、じっと見ているアレスに恐れをなした闇屋の勝手な判断からきた心づくし(?)なのである。
アレスは何か忘れ物に気づいてもう一つの魔法陣で戻ったのだろうか?と思いつつ、クレールは先に進むことにした。

−カチャリ・・・カチャリ・・・カチャリ・・・−
その先はまたしてもカギのかかったドアが2つも続いていた。
1つ目と2つ目は、いつ使うのだろう?と不思議に思うほど長く持っていたカギで開き、そして、少し前に入手したカギで最後のドアは開いた。


『あとは己の力を信ずるのみ』
その先にあった階段を上がったところの壁で見つけたプレートにはそう書かれていた。

「後少しで地上に出られるんだわ♪」
クレールはそれを見てそう確信し、嬉しそうに微笑んでいた。

** to be continued **


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