遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1] Brandishストーリー〜

(25)[FORTRESS 4F]

〜 巨大ロブスターのお味は? 〜

 「きゃああ!!!なんて香ばしい匂いなのかしらっ?!ね、アレスさん、おいしそうよね?」
碁盤の目のように区切られた次のエリア。各部屋には落とし穴があり、しかも意地悪くドアの真ん前。
が、四方全てがそうでないところもあり、ぐるっと回ったりしてともかく探索を続けた。
途中、イリュージョンの壁や、その壁を越すと落とし穴というトラップもあったが、なんとか注意深く壁を穴を見てきたおかげで最後の部屋まで順調にたどり着くことができた。

そして、それまでの四角い部屋よりうんと広いそこには、次のエリアに続いていると思われるドアと、そして、巨大なロブスターが3匹。クレールより大きく太いハサミをガチガチと慣らせて待っていた。

魔法は全て跳ね返してしまうその鉄壁な鎧ともいえる甲羅は、勿論クレールの物理攻撃など痛くもかゆくもない。
そして、反対に、そのハサミで挟まれては胴体ごと寸断されるのだろうが、運良く挟まれなかったとしても、勢い良く振り下ろしてこられてはたまったものではない。
クレールに残された道は、その攻撃を上手に避けドアまで走ること。

が・・・・ドアはびくともしなかった。

「な、なんなのよ〜〜・・・これってこのロブスターを倒さなければ開かないっていう定例のトラップ?」
要所要所を守る中ボスとでもいうのだろうか?廃墟から塔へ入るときはクモのお母さん、塔から洞窟へ出るときは、ラクサーシャ、そして、洞窟からダークゾーンへ出るときは分身の術を駆使する忍者。ダークゾーンからこのエリアへ出るときはなかった、とクレールはロブスターのテリトリーから出てため息をつきつつ思い出していた。


そして、再びアレスの活躍となったわけである。
アレスが来るまでしばらくそこで待たなければならなかったが、自分一人ではどうしようもないし、探しに行っても行き違いになるのがオチだった。
じっと待つこと数十分、アレスはクレールの待つそこへやってきた。


「はい!アレスさん!」
あまりにもの巨体のため動きの遅いロブスター。1匹ずつ倒し、封印されていたドアを開けてそこから出ていこうとしていたアレスをクレールはひきとめ、なんとその解体?を頼んだ。
(人が良すぎないか?お前はここからすぐにでも出たいんだろ?)
と思いながらも、アレスはクレールの笑顔のその頼みを引き受けていた。
そして、2匹は甲羅だけで中身が空だったことにがっかりしたのだが、最後の1匹には中身も入っていたことに喜ぶクレール。
そして、捌いてあればあとは焼くだけである。魔法を跳ねつけた甲羅がちょうどいい調理台となる。クレールの火球でこんがりほくほくのエビ焼きができあがった。
「調味料がないのが残念だけど・・・・」
小さく砕け飛び散った小さな甲羅を皿代わりとして変わり果てたロブスターのおいしそうな身をのせ、クレールはアレスに差しだし、アレスは、受け取らないわけにもいかず、黙って受け取って口に運ぶ。
(む・・・・)
ほわ〜っと口に広がるロブスターの甘みと香ばしさ。
モンスターであっても、ロブスターはやはりロブスター。少し大味のような気もしたが思いがけないその美味に、久しぶりに口にした新鮮な食材にアレスとクレールは大満足していた。

「でも、身がぱさぱさするから・・何か飲み物があるといいわね?」
クレールはしばし考える。
「そうだっ!」
そして異次元箱からヒールポーションとポイズンポーションを取り出す。
「ね、アレスさん、これとこれ混ぜると普通の水になるって知ってた?」
(は?)
声には出さなかったが、また何を言い出したのか、とアレスは呆気にとられる。
「同量混ぜると回復と毒でプラスマイナスゼロになるの。」
返事はしないが、どうやら話を聞いているらしいと判断したクレールは続ける。
「それでね、味もなくなるの。それってつまりお水ってことでしょ?ワインでないのが残念といえば残念なのだけど・・・。」
どう答えていいのか分からなかった。が、害がないというのなら、喉の潤すのにちょうどいいことは確か。
アレスは、2つを1つの瓶に入れ、チャプチャプとよく混ぜ合わせたその特製『水』を
クレールからグラス代わりとした甲羅の中に注いでもらって飲む。というよりロブスターを焼くときと同様、断れる雰囲気がそこにはなかったのである。クレールの純真な笑顔には、拒むこともそして反論を唱えることも罪のような気がした。

「あ・・・・」
焼きロブスターをほおばり、特製水を飲んでいたクレールが不意に小さく叫んで頬を赤らめる。どうしたのだろう、とアレスが思っていると、またしてもクレールの説明が始まった。
「あ、ごめんなさい。ちょっと思い出したことがあって。」
(思い出したこと?)
勿論アレスは声には出さないが、手を止めてクレールを見ているような感じにクレールは説明を始める。
「あのね・・・うんと東の国に、結婚式の儀式でね、こうして浅いお皿のような器にお酒をついで新郎新婦が飲み干すっていう話を思い出したの。」
ほんの少しカーブがあるだけのグラス代わりにしているロブスターの甲羅は、確かにそれらしきものと似通っていた。
「あ、でも、ただそれだけよ。そこでは同じ器で飲むってことだったから。ちょっと思い出しただけなの。」
頬を一段と赤く染め、クレールは少し早口で付け加えていた。

「あ!アレスさん、お代わりは?ロブスターもお水もいっぱいあるわよ?」
再びロブスターを食べ始めたアレスに、クレールはおかしな事を言ってしまったと思いながら焦ったように問いかけ、アレスは黙って空になった甲羅の皿を差し出す。

香ばしい匂いが辺り一面に漂っていた。
そして、それは仲間が焼かれて食べられているのだと、他のロブスターたちは本能で悟っていた。

そこからのエリア。つまり5Fから上のフロアの至る所に巨大ロブスターが生息していた。壁やフロア違いで目には写らないものの、その匂いは空気に乗って漂ってくる。

(指名手配要注意人物とかいう人間の巫女の仕業か?)
巨大ロブスターたちは、その恐怖の悲劇が今にも我が身に降りかかってくるのかと、恐怖を感じていた。

腕の立つ勇士に倒されるのならまだいい・・しかし・・・・死んでまで醜態を晒したくはない・・・・食べられるのなんかもってのほかだ〜〜〜!!(TT)
匂いと共に、それを鼻にしたロブスターたちの恐怖の想いがテレパシーとなってフロアを越えたそのエリア中を飛び交い、それによって輪をかけて恐怖の連鎖反応を起こしていた。

知らぬは、満足げに食事をしている当人たち、クレールとアレスだけであった。

「それにしても、ドーラお姉さまどこなのかしら?2人じゃ食べきれないほどあるのに・・・」
ドーラにも食べさせてあげたい、そうは思ったが、ここではどこで出会えるのか皆目見当もつかない。探すのは無理というものである。
「しかたないわ、残ったものは甲羅で蓋をして・・・。」

封印されたドアの向こう側にドアが3つあった。クレールは次へ進む前に後かたづけとまだ残っていた身をちょうどいい大きさの甲羅に入れ、『召し上がって下さい。おいしいですよ。ドーラお姉さまへ、クレールより。』という手紙と共に手近にあった宝箱の中に入れておく。
「これでいいわ。宝箱を見落とすようなことはないでしょうから。」

そして、そうしている間に既に次への階段を上がって行ってしまったアレスの後を、クレールは駆け足で追いかけていった。

** to be continued **


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