遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1] Brandishストーリー〜

(5)[RUINS5〜7] 習慣とはかくも最強?

 

 「あ〜〜〜ふ・・・眠いわぁ・・・なんてところなのかしら?」
クレールは大きなあくびをしながら、歩いていた。
「この先のエリアの試練の間は、大したことなかったけど・・・ここの方が私にとって試練みたいだわ。もう、眠くって、眠くって・・。なのに、眠れないんだから・・。 まったく意地悪だわ。」
ここは、RUINS6エリア。休息のとれない空間。
ここへ来る前の試練の間は、神の塔の試練の迷宮での試練をこなしてきたクレールにとっては、大したことはなかった。
通路を遮ってピストン運動する巨大な大木。所々大きな口を空けてまっている落とし穴。
ともかく、1、2度ほどタイミングを誤り木に押し倒されて穴に落ちたくらいで、苦労といった苦労はなかった。
が、ここへ来て眠れないのには、まいっていた。
どんなに眠くても、不思議に眠り込むことができないのだから。
「お店でもないかしら?」
クレールはふらふらしながら歩いていた。

−ドスン!−
「あ・・あら・・ご、ごめんなさい。あたし、眠かったもの・・・だ・・・から・・・・」
最後は聞こえないほど小さな声になっていた。それもそのはず、クレールがぶつかったのは、巨大な恐竜。
「ガルル・・」
クレールを1口で飲み込んでしまいそうな大きな口。そして鋭い歯。
(た、たしか・・・良い子の図鑑で見たことあるわ・・・えっと・・そ、そう、『ティラノザウルス』とかいう肉食恐竜・・・)
「え?肉食・・・?」
そこまで考えて、クレールは思わず声を上げてしまった。
「あ・・あの・・・・やっぱりあたしを食べたい・・・の・・か・・し・・ら?」
後ずさりしながら、クレールは恐竜から目を離せない。
そして、その恐竜もクレールをじっと見ている。
「あ・・あら?」
逃げようと思ったそのとき、恐竜がその大きな足に怪我をしているのを見つけた。
「あ・・あら・・かわいそうに・・・ち、ちょっと待っててね。」
クレールは、つい今し方まで怖がっていたのも忘れ、腰袋から薬草を取りだしてそこへ張り付ける。
「うが?」
今にもクレールを食べようとした恐竜は、そんなクレールに毒気を抜かれてきょとんとして見続ける。
「う〜〜ん・・・足が太いから普通の包帯じゃ縛れないわ・・そうねー・・・あ!ちょっとそこのグリーンスライムさん!」
はっとひらめいたクレールは、ちょうど横を通りかかったスライムをひょいとつまみ上げる。
「同じこのエリアにいるんだから、仲間でしょ?少しの間でいいから恐竜さんの為に我慢してあげてね。」
そして、スライムの一カ所を恐竜に持っているようにジェスチャーで頼むと、クレールはもう片方を持ち、ぐい〜〜〜んとそのスライムを延ばした。
そして、ぐるっとそれで足をしばり薬草を塗った包帯を固定した。
「さ、もういいわよ。じきに治るから、そうしたらスライムさんを自由にしてあげてね。ごめんなさいね、スライムさん、少しの辛抱だから。」
2匹ににこっと笑いかけるクレール。
「うがっ!」
その笑みを受け、きつい視線だったその目を優しく細めて恐竜が笑う。
「あら・・・笑うとかわいらしいのね、恐竜さん。」
「がお!」
そして、上に乗れとでもいうように、クレールの前にその大きな頭を差し出した。
実際のゲームではそのような事はないので、真似しないでください。(笑
「え?・・・乗せてくれるの?いいの?」
まさか乗せておいてから、ぱくっと食べたりしないだろう、と思ったクレールは乗ることにした。
(せっかく恐竜さんがそうしてくれるっていうのに、もしも断って、怒ったら恐いわよね・・・。)
−ズシーーン!ズシーーン!−
結構揺れがきつく、あまり乗り心地はよくなかったが、なんといっても他のモンスターを寄せ付けない。
クレールは恐竜の頭の上から、近くを通るモンスターに手を振りながら進んでいった。



「あ!お店だわ!恐竜さん、下ろしてちょうだい。」
「がお。」
始末屋のクレールは、極力アイテムを使わないようにしてここまで来たため、結構荷物が増えている。もう持ちきれないほどに。
ということで、早速お店に入っていくことにした。
が、ドアノブを引く瞬間、RUINS3のお店での事を思い出し、クレールは一瞬躊躇してしまった。
「でも・・あんな人ばかりじゃないわよね?」
そして、ぐいっと引く。
「あ・・あら?開かないわ?」
しばらく考えるクレール。
「あ!そうか、そうなのよね?!押せばいいのよ!」
そして、店内に。



「いらっしゃい!」
「よかった。」
「え?何がなの?」
「い、いえ・・な、なんでも。」
お店の人が女性とわかり、クレールはほっとする。
「珍しいわね?あなたのような若い、しかも女の子だなんて。」
「え?珍しいんですか?」
「ええ、そう。ここへ来たい気はあってもね。」
「え?」
「あなたもそうじゃないの?ここは、時の止まった空間。だから、ここに居る限り歳は取らないのよ。だから私もここにいることにしたの。・・・どっちにしろ出られそうもないしね。」
「出られそうもないんですか?上への道は?」
女主人の言葉に、クレールは不安そうに聞く。
「あることにはあるけど。モンスターも手強いし、仕掛けもいろいろあってね。特に塔へは入れないらしいの。だから、みんなこのあたりを彷徨ってるのよ。で、来るのはみんな結構歳をとった戦士ばかりってわけ。でも、よく無事でいられるわね?あなた1人?」
「ええ、そうです。あ、でも今は恐竜さんと一緒です。あっと、それからスライムさん。」
「え?・・何それ?」
クレールの言うことが理解できない女は、自分の耳を疑って聞き返した。
「だから、恐竜さんの頭に乗せてもらって移動してるんです。で、スライムさんは、今その恐竜さんの怪我の包帯になってるの。」
「え?・・・・」
(この子、頭が弱いのかしら・・・それとも眠くても眠れないという状態があまりにも続いて・・・気がちがってしまったとか・・・?)
店の女は、どうやら1人勝手に解釈し、あまりクレールに関わらない方がいいと決めつけた。
「とにかく、ポーションはたくさん持っていった方がいいわよ。眠れないんだから、その分ポーションで体力を回復しないと。」
「ええ、そうですね。でも、結構ポーションもあるんです。あたし使わないよう節約してるので。」
「あ・・そ、そう?」



そして、恐竜がいるからかどうかは確かではないが、店があったらそこで寝させてもらうつもりだったこともすっかり忘れたクレールは、そのまま先を進んだ。



そして・・・・やはりテリトリーがあるらしく、クレールは親切だったその恐竜と別れ、次のエリアへと足を踏み入れた。勿論、まだ少し治りきってはいなかったが、スライムは自由にして。



 「あ!そうか・・そうなのよね・・・」
RUINS7を1人彷徨いながらクレールは、突然大声で叫んだ。
「何も薬草塗って治るのを待たなくても、ポーションを飲ませてあげればよかったのよね。」
歩きながらくすくすっと1人笑うクレール。
「ホントにあたしって・・・どじね。・・・と、それはいいとして・・・どうしてこうワープポイントが多いのぉ?」
それもそうだった。所々にワープポイントが仕掛けてあるそのエリア。思った方向へ進めずクレールは少し焦りといらだちを感じていた。
「合い鍵では開かない扉で行き止まりになってしまうし・・・。ワープポイントは魔法陣があるわけじゃないから、移動するつもりはなくても、いつの間にかおかしな所へ来てしまってるし。ふう・・・・・・。」
大きくため息をつく。
「モンスターさんがいないだけ、まし・・かしら?でも、なんとなく寂しくも感じてしまうわ。ホントは、前のエリアの時みたいな恐竜さんがいれば大助かりなんだけど・・・そんなにわがまま言ってちゃ修行にはならないわよね。」
独り言をいいながら、クレールはあっちこっち彷徨い続けた。



「ふー・・・これで最後かしら?」
そのエリアの終わりクレールは空間関知の魔法でエリア全体くまなく歩いたかどうか調べる。
「あ・・あら?」
1エリアはそのほとんどがちょうど升のように四角である。が、それを斜めに線を引いて分けたように、クレールの行った場所は半分だった。
「もう半分って・・・本当に壁なのかしら?どこかから行けるんじゃ?・・・でも、崩れかけた壁も見あたらなかったと思ったんだけど・・仕掛けでもどこかにあるのかしら?」
再びクレールは、ワープで散々いらだち、苦労した場所へと足を向ける。
「境になる壁を一カ所ずつ調べてやるんだから!」
神の塔での修行のくせ、各エリアはパーフェクトにクリアしないと気が済まなくなっていたクレール。 次のエリアの入り口まで来たというのに、クレールは再びワープトリックの中へ戻って行った。
無駄足を踏むのも知らず・・・怪我をした恐竜の件といい、習慣とは・・かくも恐ろしくそして、無鉄砲なものか・・。
そして・・やはりクレールの笑顔と親切は・・最強(狂)の魅惑の技(テンプテーション)?

 

** to be continued **



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