遙かなる旅路
〜[クレール in Brandish1] Brandishストーリー〜

(3)[RUINS3] ちょっと自己嫌悪・・。

 

 「クレールちゅぁ〜〜ん、待ってよぉ〜〜〜!!」
(い、いやだわ・・あの人・・追いかけてきたの?、もう!・・・・)
クレールは必死になって走っていた。というのも、次のエリアに入ったそうそうショップがあったので、 そこまで来る途中でたくさんの宝物を抱えた彼女は、ちょうどいいとばかりに入ったのである。
そこで・・・・


「あ・・あれ?あんたよくこんなところまで来れたね。店先にも魔物いただろ?」
「え、ええ・・でも大丈夫です。あのくらいの魔物ならなんとかなりますから。」
そう、神の塔で散々苦労してきたのだ。このくらいの雑魚に手をやくクレールではない。
「ふ〜〜ん・・・すごいんだね。」
カタン、とカウンターの跳ね板を上げて店のオーナーらしい青年が出てくる。
「ほんとに君一人?」
クレールを隅から隅まで見ながら、青年は本心からそう思った。
こんなにかわいくてかよわそうな娘がたった一人で、魔物が徘徊するこのエリアにいられるわけはない。
「え、ええ・・あたし一人です。」
(し、失礼だわ、この人・・・じろじろ見て。あ、あたしどこかおかしいところでもあるのかしら?)
「ふ〜〜ん・・そうなんだ・・・」
にこりと微笑むと、その青年はそっとクレールの手を握りしめた。
「君、名前は?」
「ク、クレールと言います・・あ、あの手を・・・」
「クレールちゃんか・・かわいい名だね。君にぴったりだ。」
手を離してもらおうと思いっきり手を引くのだが、青年の手はしっかりとクレールの両手を握っていて放しそうもない。
「クレールちゃん・・・・」
クレールをじっと見つめていた青年の瞳が徐々に熱を帯びてくる。
「ここでぼくと一緒に暮らさないかい?ずっと一緒に。ここにいれば歳をとらないんだよ。永遠に一緒にいられるんだよ。」
「え?あ・・あの・・あ、あたし・・・」
クレールは焦った。そんなことをこんなところで言われるとは思いもしなかった。
「こ、困ります、あたし・・巫女の修行中なんです。ですから・・・」
「巫女?そんなのやめちまえよ。ここでぼくと幸せに暮らそう・・ね?そうしなよ。何も不自由させないよ。ぼく・・君に一目惚れしちゃったみたい・・・・。」
「あ・・あの・・そんなことおっしゃられても・・・・」
そんな気はさらさらないクレールは、ひたすら焦る。
「は、放してくださいっ!」
「地獄で天女に会うってこのことなんだろうなー。そんなにつれなくしないでよ。ねっ!」
クレールの手を握ったまま自分の方へ引き寄せる。
「いいかげんにして下さいっ!」
−バタン!−
どうしようかと困惑して大声で怒鳴った時、入り口の戸が開き、一人の男が入っていた。
「あ!あ、あなた・・・」
じろっときつい視線で2人を見たその男は、紛れもなくクレールから金槌を取って道を切り開いてくれた人。
「え?し、知り合いなの?」
別に知り合いではなかったが、クレールはこれ幸いにと緩んだ青年の手をふりほどき、男の背後に隠れる。多少・・そのきつい視線と無愛想な表情が怖い気もしたが・・。
「え、ええ・・先ほど助けていただいたんです。」
少し意味合いが違っているようにも思えたが、それで助かったことには違いない。
「あ・・・そ、そうなんだ・・・」
「じ、じゃー、あたし・・・急いでいるから・・。」
どさくさに紛れた形で、クレールはその危機を脱した。
が・・・・男にクレールとの関係を聞いたのか、そのエリアをもうすぐ半分ほど過ぎようとしていた頃、追いかけてきた店の青年が目に入った。


「クレールちゅぁーーーん!」
(あ〜〜ん・・もうなぜこんな目に合わなきゃいけないの?)
クレールは慌てて駆け出す。


そして・・・・

−ガタン!−
「え?!」
何かの仕掛けが発動した音がした。
「な・・何なの?」
走りながらもきょろきょろと廻りを見渡す。
と・・・・進行方向から通路いっぱいの大きさの巨大な岩が転がってくる。
「ええ〜〜〜?!」
真っ青になって焦るクレール。
戻ろうにもあの青年が追いかけてきている。
「ど・・どうしたら?」
そう思っている間も岩は、そして青年は近づいてくる。
「あ〜〜ん・・・」

−ドガッ!−
気が付くと青年より早くクレールに接触した巨大岩をうち砕いていた。
そう・・・クレールは、無意識に変身してしまっていた。
−パラパラパラ・・・・−
物の見事にその一撃で粉砕された岩と、筋肉粒々のクレールを見て、青年は硬直していた。
「あ・・・あはは・・・あはははは・・・そ、そうだったんだね・・・だから、こんな危険なところも 平気だった・・わけだね・・・あ、あはははは・・・」
硬直状態から戻ると、血の気が引き真っ青になったその青年は、冷や汗をかきつつ・・・数歩下がり・・そして、いきなりくるっと向きを変えて走り始めた。一目散に来た道を戻って行く。
「あ・・・・」
青年が迫ってこないことには、安心したクレールだが、その態度に・・・少なからずショックを受けていた。
「修行になるからと封じておいたつもりなのに・・・・危険を察知して本能的に変身してしまったわけね・・。でも・・変身したあたしって・・真っ青になって逃げるほど・・マッスル系なわけ?」
−ブン−
変身を解いてから、自己嫌悪に陥ったクレールは、しばらくの間とぼとぼと道を進んでいた。
二度と変身しない!と強く心に誓いながら。



そのエリアも結構落とし穴があった。そして宝もたくさん見つけることができた。
崩さないと通れなかったところは、例の男が壊して進んでくれたようで、クレールはすんなりと進むことができた。
そして、神の塔で重宝した封印石の代わりといっていいアイテム、異次元ボックスを入手。
封印石よりもピクニック気分になっていいわね・・そう思いながら、クレールは売り損ねたアイテムを嬉しそうにその箱にしまった。


そして・・・・・運良くあの男が炎の魔人エフリートを倒した直後に出会い、クレールは、この迷宮にきて初めて魔法を使えるようになった。
それは、迷宮を取り巻く気のせいなのか・・・それまで身につけていた魔法は全く効力がなかった為である。杖は、単なる杖としか使えなかった。もっとも結構ダメージは与えてくれることは確かだが。(クレール必殺連続ぽかぽか攻撃)
そう、そして、倒されたエフリートは消滅と同時に炎の魔術書に姿を変えていた。

男は相変わらずの無表情さで、魔術書など無視して奥へ入っていく。
「あ・・あの・・こ、これあたしがいただいていいんでしょうか?」
クレールの声が聞こえたのかどうかはわからない。が、異論がないということで、クレールはちゃっかりもらうことにした。


「あ・・あら?」
その奥は一面穴ばかりの区画。穴のない地面は数えるほど。なのに、奥に進む道と手の届かない所にスイッチがあった。
「どうしたらあそこまで行けるのかしら?」
さすがの男もそこまでのジャンプは無理らしく、無表情だが、どうしようか考えあぐねているようだったが、クレールの姿を見つけると、壁のプレートを顎で指した。
「え?」
そこには、『鍵は魔法』と書いてあった。
(ど、どういうことかしら・・・・?)
しばらくじっとそのプレートを見てクレールは考える。
なかなか思いつかないクレールに、さすがの無表情男もしびれを切らしたのか、先ほどクレールが手にした魔術書を、またしても顎で指す。
「え?・・・こ・・これ?」
男の視線をたどって、魔術書を指していることに気づいたクレールは、その意味を悟った。
「そ、そうなのよね・・・そうよ。そうよ!」
そして、慌てて魔術書を読み、呪文を覚える。
「あ・・あら・・・・」
そこに書かれていた呪文は、かなり・・簡単だった。
(魔術書なんて言うから、もっと難しい詠唱があるものと思ったのに。もったいぶってるんだから。)
そう思いながら、クレールは魔法発動のために精神を集中した。
ここで魔法を発動させる重要なことは、精神集中の仕方であり、呪文は単なるきっかけにすぎないものらしかった。
「ファイアーー!」
スイッチの対面にはちょうど穴はない。そこに立ったクレールは手のひらをスイッチに向け、勢いよく叫ぶ。
−ボボン−
−バン!−
大きな音を立てて、一瞬にして全ての穴がふさがった。
「ええ〜〜?!どういう仕掛けなの?」
目を丸くして驚くクレール。そして、そっと穴だったところに足を進めてみる。
「お、落ちないわ・・・ね・・・。でも面白いわ。」
男が奥へ言ったのを見計らって、クレールは元の位置に立って、思いついた事を実験してみる。
「ファイアーー!」
−ボボン−
−バン!−
再び、そのエリアは穴だらけになった。
「あら・・また戻るのね。」
「ファイアーー!」
−ボボン−
−バン!−
「ファイアーー!」
−ボボン−
−バン!−
ついそのおもしろさに我を忘れてクレールは遊んでいた。(実際のゲームではできません。)

「・・・・・」
奥は行き止まりだったのか、ちょうどそのとき奥から戻ってきた男が、あまりにも子供じみたそのクレールの行為にあきれ果てたらしく、思わずため息をついた。
「あ・・・ご、ごめんなさい。今戻します。」
恥ずかしさで少し頬を染め、クレールは男が戻って来れるよう、慌てて穴をふさぐ。
そして、そんなクレールをちらっと見、男はさっさと来た道を戻って行く。
「失敗、失敗・・」
クレールは子供じみた自分の行為を反省し、念のため奥を調べてから、そのエリアを後にした。

 


** to be continued **



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