霊玉核を求めて(2)

〜[子魔物たちの冒険記] Brandish4サイドストーリー〜



 「ところで、ゲネイオンに会うには、途中水中を進まなくてはなりませんが、大丈夫なんですか?」
『え?水中を?』
真っ先に驚きの声を上げたのは、ドーニェンだった。火精であるドーニェンは、水中が大の苦手。
『ぼくたちもあんまり・・・』
ヒューバクも心配そうに言う。
『水中を高速回転していけばいいかもしれないけど・・でも、ドーニェンは・・』
「そうでしょうなー。かと言って記憶石をなくしてしまったものですから、他の道からだと遠回りになって しまいますしなー。」
ううーーん、と考え込むガラハッド。
「仕方ない、一旦街に行って何かいいアイテムがないか探しましょう。記憶石も帰りの事を考えるとあった 方がいいですし。」
『え?街って人間の街?』
ぎょっとする子魔物3匹。
「なに、大丈夫ですよ。小生にお任せあれ。」
『う・・うん・・。』
ごそごそと大きな荷袋の中を覗き込んでいるガラハッドを取り囲み、少し心配気に見つめる。
「いいですかな?人間に見つかっても大丈夫のようにですな・・・」
ガラハッドはその荷袋から少し小さめの袋を取り出して広げる。
「ヒューバクとストムクウは、この中へ入ってじっとしていて下さい。」
『その中に入って?』
「そうです。それからドーニェンは、少し窮屈でしょうけど、このランプの中に入って下さい。」
墓地で手に入れた少し大きめの手提げランプをドーニェンの前に置く。
「そうすれば、さほど熱さも感じないので、小生も大丈夫ですし。」
『そっか〜!ドーニェンはランプの火のふりをするんだね?・・でもぼくたちは何なの?』
ぴん!とガラハッドの意図することに気づいたストムクウがぐるんと回って言った。
「そうそう、その通りです。で、きみたちは、落とし穴かどうか確認する為の鉄球、ということで。 色は違いますが、大丈夫でしょう。もし聞かれたら特別仕様とかなんとか言ってごまかせば。」
『わー!おじちゃん、あったまい〜い!』
「い、いや〜・・はははっ、それほどでも。」
ガラハッドは、頭をぼりぼり掻き照れ笑いする。
「では、善は急げ、早速入ってくれますかな?」
『は〜い!』
そして、ヒューバクとストムクウは、ガラハッドの肩の荷袋に入って半分顔(?)を出すようにして、 ドーニェンは、ランプの中で炎らしくしながら、ガラハッドに運ばれていった。
初めて見る人間の街にわくわく、どきどきしながら。


「いいですか?何があっても動かないように!」
街への魔法陣の手前でガラハッドは、子魔物たちに今一度念を押した。
『うん!大丈夫だよ!もし落っこちてもじっとしてるよ!』
「そうそう、その調子でお願いしますよ。ばれたら大騒ぎになりますからね。」
『おっけー!』


 「こんにちは、アップルさん。」
にこにこ笑顔を振りまき、ガラハッドは道具屋アップルの店に来ていた。
「いらっしゃい。今日は何?」
「実はですねー・・記憶石を・・。」
「記憶石?あれ?学者先生、持ってただろ?」
「そ、それが失くしてしまいまして・・で、以前それを手に入れた地下墓地へ 探しに行ったのですが、見つからなくてですねー。」
「ふ〜〜ん・・あそこももうないか・・・」
アップルは、ガラハッドの持っているランプや荷袋を目に留め、値踏みするように見つめる。
「記憶石ね〜・・・・」
そして、自分の後ろに置いてあった記憶石の入った箱をカウンターの上に乗せる。
「お願いします、アップルさん!」
ピン!と手にしていたサイコロを空中高く指で弾く。
−パシッ!−
それを勢いよく右手で掴み、その手をぐいっとガラハッドの目の前に突きつける。
「どっち?丁?半?」
「え・・えっと・・えっと・・・・」
アップルが賭事が好きで、何事もこれで決めていることを思い出したガラハッドはどぎまぎする。
なんとしてもサイコロの目を当てなくてはならない!
「えっとですな〜・・半・・い、いや、丁・・あ!やっぱり半!・・い、いや・・ もしかして・・・」
「あー、もうっ!うざったいなー!男だろ?さっさと決めなよ!」
まだ12、3歳の少女に見えるアップルと比べ、ガラハッドのがっしりとした体躯は、縦も横も 倍以上ある。それなのに小さなアップルの前でおどおどするガラハッド。
自信は全くなかったが、いつまで迷っていても同じ事だし、それ以上迷い続けていれば、 アップルが怒りだす心配もある。
「あ・・は、はい、すみません。じゃー、あ、あの・・」
少女とは言え、この街で1人道具屋を開いているアップル。単なるボーイッシュな少女では ない。賭事好きな気前のいい少女だが、一旦怒らせたらもう戻らない。 意志の強さは折り紙付き。ここで怒らせては元も子もない。
ガラハッドは、目を凝らしてその拳を睨みつつ叫んだ。
「は・・半!」
すっと手のひらをひらくとにまっと笑いながらアップルは嬉しそうに言う。
「三六の半!ついてるね、先生!」
ガラハッドは手のひらの中のサイコロの目を見てほっとする。
「じゃー、先生が勝ったら記憶石あげるよ。そのかわりあたいが勝ったら その鉄球もらうよ。」
「え?い、今の勝負でくれるんじゃなかったんですか?」
「何言ってんだい!今のは、その話に乗るかどうかの勝負だよ!」
「そ、そうだったんですか・・・」
記憶石をもらえるものと思ったガラハットはがっくりと肩を落とす。
反対にまだ続けれることに気分のいいアップル。
「あたい青色好きなんだ。初めて見るよ、青色の鉄球。」
「あ・・ああ、そ、そうですか?墓地で見つけたんですよ。」
「ふ〜ん・・いいね、その青。」
興味津々でヒューバクとストムクウをじっと見るアップルに、ガラハッドだけでなく 当の本人達もどきどき!
「じゃ、いくよ?!」
「あ・・え、ええ、1つお手柔らかに。」
負けた時の心配もあったが、やらないわけにはいかない。
『お・・おじちゃん・・大丈夫?』
ヒューバクが心配そうな声で聞く。
「う・・ま、まー・・・・」
アップルに聞こえないように小声で答えながら、冷や汗をかきつつガラハッドは、アップルの手の動きに注目していた。
−シュッ!・・・−
高く放り上げられるサイコロ。
−カラン!・・トン!−
そのサイコロをかぶせるようにして飲み込んだ壺が、カウンターの上に勢いよく置かれる。
「さー、賭とくれ。半か丁か?」
すうっとカウンターを滑るようにして、食い入るように見つめていたガラハッドの目の前に壺が止まる。
「う・・え、え〜〜と・・・・」
それまでにも増してどっと吹き出す冷や汗。
ガラハッドは、息を飲んで叫んだ。
「半!」
ぱかっと壺を取ってサイコロの目を見たアップルがにこっとする。
「六四の丁!残念だったね。」
言うが早いか、ひょいとヒューバクを荷袋から取り出すアップル。
「あ・・あ・・・・・・」
声も出ず、口をぱくぱくとしてひたすら焦りまくるガラハッド。
『お、おじちゃ〜〜ん・・・・・』
「だいじょうぶ、だいじょうぶですよ!」
心の中でヒューバクに答えながら、ガラハッドはごくん!と唾を飲み込んだ。
「も、もう一回いいですか?」
「ん?いいよ、もっちろん!じゃー、今度も記憶石とその鉄球ね。」
そして、再びサイコロが振られる。
「丁!」
「あはは!残念でした。二五の半!いっただき〜っ!」
嬉しそうにストムクウまで取り出して棚に飾るアップル。
「あ・・あ、あの・・・・」
「なに?まだやるの?いいよ、あたいは、何度でも。でももうこれと いった物持ってないようだけど・・あ!そのランプでいいよ!」
「こ・・これですか?」
「そう!他のは・・・」
袋の中を見てアップルは肩をすくめる。
「大したモンないね、やっぱり。」
「で、ですが、これは、特別なものなんですよ。決して消えることのないランプなんです。 ですから・・そ、そうですな、賭けるなら、記憶石とさっきのその2つの鉄球とそれから・・・ 何か密封できる容器を。水の入らないような・・。」
焦りながら、ガラハッドは慌てて思考を巡らしていた。最後の勝負となるからには、全て手に入れるか ・・あるいは、失くすか・・・賭けるしかないと思っていた。
「何それ?欲張りすぎだよ、先生!まー、今までと一緒で記憶石とそれだね。」
「そ・・そんなぁ・・」
「もし先生が勝ったら、また賭けりゃいいだろ?それとも、自信がないの? なんだよ、いい男が!」
意地があるならやってごらん!と目で言うアップルに、それに乗るしかないと 判断したガラハッドは、しかたなく首を縦に振った。
「や、やりますよ!・・そ、それで結構です!」
「おっけー!そうこなくっちゃ!」

そして、最後の品を賭け、サイコロが振られた。
「さ〜て、どっちにする?丁?半?」
「ううーーーーむ・・・・・」
『お、おじちゃん、がんばってぇ〜!』
3匹はもうどきどきはらはら!必死の思いで大汗をかき、じっと壺を見つめて考え込むガラハッドを見つめていた。
彼らにとって一生に一度の大博打。これに外れたらもう後がない。魔界には帰れない。
「よ、よ〜〜し・・・・は・・は・・は・・・半っ!」
ごくん!と息を飲んでから、ガラハッドは瞬きもせず、見つめながら叫んだ。
「半だね。よ〜し、勝負!」
「六五の半!・・やったじゃない?!土壇場の勝負が強いのかな、先生って?」
ほーーーーーーう・・・ガラハッドと子魔物たちは、一同、ほっと胸をなで下ろした。
「はい、じゃー、約束だから記憶石ね。」
「あ・・どうも。」
これでまず1つ・・とほっとしながら、石を受け取るガラハッド。
「で、では、お次はさっきの鉄球を賭けて・・・」
「うん・・それなんだけどさー・・」
にこっと笑うアップルに、悪い予感がするガラハッド。
「この青、いい感じなんだよ。あたい気に入っちゃった。だから・・」
「だから?」
「賭は他の商品とならいいけど、これはちょっと・・。」
「そ、そんな〜・・・」
『ええ〜〜〜?!』
焦りまくる一同・・・。
「そ、そんなアップルさんともあろう人が、勝負に自信がないとでもおっしゃるんですか? 勝負師、アップルさんらしくもない!」
ガラハッドは必死にアップルの勝負師魂に揺さぶりをかける。
「うーーん、そう言われると弱いんだけど・・・。」
「さーさー、その鉄球を賭けて、勝負、勝負!」
「うーーん・・・」
ひょいとヒューバクを両手で掴みあげ、アップルはその深みのある青色を眺めながら、くるくる回してあちこち 触っていた。
『う・・・く、くすぐたいよ・・・うぷぷ・・・』
「が、我慢するんですよ、ヒューバク!」
『が、我慢してるけど・・う・・うぷっ!』
心の中で叫ぶガラハッドと必死で堪えるヒューバク。
『うぷぷっ・・・ぎゃ〜っはっはっは!』
−シュン!−
くすぐったさに絶えきれなくなったヒューバクが、ぱかっと割れるように身体を開いた。
と同時に突風がアップルを襲った。
−ビュオ〜!−
「きゃぁっ!」
−ドシン!−
その風に吹き付けられ、アップルは壁にぶつかり、気絶する。
「ああっ!」
慌ててアップルに駆け寄るガラハッド。
「ど、どうやら死んではいないようですな。息をしてるし・・怪我もないようだし・・・。」
ほっと胸をなで下ろして、ガラハッドは、側に寄ってきたヒューバクとストムクウを見る。
「しかし・・鉄球ではないとばれてしまったでしょうね。」
こくん!と相づちをうつ2匹。
「ここはひとまず退散するとしましょうか?」
返事の代わりに、急いで袋の中に入る2匹。
「アップルさんには申し訳ないのですが、この 埋め合わせはまた後日するということで・・・」
他に客が誰もいなかったのは幸運だった。ガラハッドは、荷物を背負うとあたふたと店を後にした。

『これからどうするの、おじちゃん?』
「うーーん・・・・」
人目を避け、裏道を通りながら考える。
「とにかく、後は何か密封容器を手に入れないと・・・」
『持ってるものの中で何かないの?』
「うーーん・・回復剤などの瓶なら水も漏れないんですが、小さすぎるでしょう?それに・・・」
それに、ドーニェンはその全身がどろどろに溶けた金属。その高温にはガラスなど簡単に溶けてしまうと 思われた。
『ほんの少しの間なら、今より小さくなっていられるし、発熱も押さえていられるよ。』
ドーニェンがランプの中で輝きを放って答える。
「そ、そうなんですか?」
『うん!でも、ほんとにちょっとの間だけだよ。』
「で・・では、それでいきますか?」
そして、ガラハッドは庭園への近道である水域への魔法陣へと歩を速めた。


「よろしいですかな?行きますよ。」
『うん!』
水中でも呼吸ができる銀鱗の首飾りをし、ガラハッドはヒューバクとストムクウ、 そして、途中で持っていられなくなる心配があるため、念のため石綿でくるんだ瓶の中のドーニェンに声をかけた。




【霊玉核を求めて (1) (3)

(参)[お話]魔界幼年学校・Brandish-4組

♪Thank you for reading!(^-^)♪

【ブランディッシュ4 INDEX】