魔界、第1層、ファルコヶ谷の一角、鬱蒼と茂る闇の森の奥、
そこに自然のまま地形を利用して設けられた魔界幼年学校があります。
切り立った岩壁に設けられた洞窟が教室。そして、岩壁の前の空き地が
運動場です。周りはぐるっと密林で囲まれ、それら木々の間から銀色の
空と赤い満月が見え隠れしています。
赤い月は、人間界でいう太陽でしょうか。銀色の空は青空といったところです。
それと相対するのが、黒い空と黄色い三日月です。
どちらが昼でどちらが夜かは、判断できません。なぜって、種族によって
活動時間が違うからです。
そして、それぞれ自分たちの活動時間が、人間の言うところの『昼間』という
認識があるようです。
ここのエリアでは、赤い月と銀色の空の時に活動する種族がいろいろ集まって
住んでいます。
no3
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学校の前で仲良くおしゃべりする子供たち。
左から、クレイスフィア(青い球体)の
[ヒューバク]と
[ストムクウ]
レアブラスの
[ドーニェン]
そして、リブフレッシュの
[コロキュー]です。
名付け親は、『キャム』さんです。
素敵な名前をありがとうございました♪
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[寄贈:異次元箱さん] (
ありがとうございました ) |
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−がらぁぁん・・がらぁぁ〜ん・・−
ほら・・・髑髏で作った始業のベルが鳴り、岩壁の教室へと駈けていく子魔物たちの
可愛らしい(?)姿が見えます。
さて・・そっと学校の中の様子を拝見するとしましょうか。
まずは、何やら賑やかそうな[体育館]・・・
−シュン!ヒュン!−
体育館を所狭しと、ものすごい勢いでクレイスフィアたちが移動しています。
−キキーーッ!ドシン!−
「ほら!そこ!前をよく調べて!!ブレーキは早めに!そして、瞬時に止まりなさい!」
一回り大きいクレイスフィアが叫ぶ。多分先生なのでしょう。
「相手が仲間か敵かよ〜く確認するのですよ!一瞬の遅れが命取りになりますからね!」
「はいっ!」
元気一杯なのですが、少し息切れしているような声の返事が飛ぶ。
風精のゴーレムのクレイスフィア。その全身は堅い甲羅で覆われた球体。
紅白のはちまきをして、どうやら紅白戦をしているようです。
青い身体にそれがとても映えてます。
敵と相対すると、瞬時にその身体を開け疾風で相手を切り刻むのが戦法です。
真ん中から2つに開き、その中に内臓が見えます。そこがいわゆる彼らの急所なのですが、簡単に攻撃できないよう
常に疾風が取り巻いています。それは、攻防を兼ね添えたものであり、内臓に書き込まれた魔法式
によって発動されます。これが彼らのお化粧といえば、そうなるらしいです。
−ピピーーー!−
どうやら試合の終了ホイッスルのようです。一斉に彼らの動きが止まりました。
「OK!練習試合は、本日をもって終了です。明日は、いよいよ人間界の神の塔・デビュー資格を得る
本試合です。午後は自分の弱点をよーく振り返って、作戦などをたててください。そして、帰ったら今日はゆっくり休んで明日に備えるのですよ。」
「はーい!」
「みんな、頑張ってね!」
「はい!先生!」
シュオン!と大きくその身体を伸ばして風を起こし、先生は、そこにいる子供達に最後の激励をする。
−シュオン!−
その激励に応えるかのように、1人ずつ先生の前に進み出て、同じように身体を伸ばし、風を起こして挨拶した後、
帰って行く生徒達。
人間界のダンジョンにデビューすることは、一人前になった証。
そのために血の滲むような訓練を繰り返し受けてきたのです。
そして、明日は、卒業試験。だれもが興奮気味の気持ちはよくわかります。
見送る先生もそうらしいです。
そして、彼ら[クレイスフィア組の教室]・・・
「わいわい!がやがや!ぺちゃくちゃ!」
楽しそうに、そして、興奮気味におしゃべりしてます。
「オレ、絶対、勲章取るからな!」
「私だって負けないわよ!何人殺すか競争よ!」
おやおや、どうやらもう試験にパスしたつもりで、お互いの戦果について話しているようです。
「だけどさ、今、神の塔には、結構強者がいるって言うだろ?大丈夫かな?」
その中の1人(?)が、教室の後ろの掲示板に張ってある『要注意人物』のポスターを示す。
え?球体なのにどうやって示すかって?
それは、勿論、風を起こして、です。
内臓を見せてなくても、彼らの身体の周りには常に風が回っています。
それが目のない彼らにとっての目であり触覚なのです。
そして、その風が彼らの身体浮遊状態を保ち、猛スピードで移動させているのです。
そこには、エルフの少女と人間の女性、そして男性が2人のポスターが貼ってあります。
とても凶暴には見えないのですが、それは、人間から見た場合です。
彼らモンスターにとっては、恐ろしい敵であり、それ故、倒した時の優越感は格別なものがあります。
そこにいる誰もが、自分こそこいつらをやっつけてやる!とポスターを睨みながら心に誓ってました。
強敵を倒せば、そのとき得られる生気で、自分自身の力は格段とアップするはずです。
誰よりも力をつけ、将来第一線から身を引いたとき、長老として村を治める。
いえ、可能なら、ファルコエリアを・・そして、もし手が届くのなら・・・。
尽きない夢、それは、ここに住む全ての魔物たちの夢といっても過言ではないようです。
その隣の[リブフレッシュ組]では・・・
「分かったな、みんな。くれぐれも背中の『霊玉核』を取られないように、常に細心の注意を払っていること!
敵には後ろを決して見せないこと!常に真正面に捕らえ、すかさず霊砲をお見舞いすること!いいな?」
「はい!先生!」
リブフレッシュとは、邪冥に属するゴーレム。そのごつい巨体の割に結構気は小さく、優しい心を持っている・・らしいです。
「それでは、隣のクラスが終わったみたいだから、体育館へ移動する。今日の模擬戦は、アンデッドのサクリファーに頼んである。
みんな、遠慮はいらん!どんどん攻撃しろ!」
「はーい!」
ガタン、ガタンと大きく音を立てながら、席を立つ生徒達。
「霊玉核を取られないように注意することも必要だが、彼らの魔法によるダメージにも気を付けろ!」
「はい!」
「はい!」
「それから、霊玉核を取られても、模擬戦だからな、試合終了と同時に返してくれるだろうが、もし、
何かの理由で核がなく動かない者が出た場合、すぐ先生に言うのだぞ!核なしで2時間経過するともう二度と動くことはできない
からな。」
「はい!それは、パートナーを決めてお互いチェックするようにしています。」
「よし!」
満足そうに微笑む先生を後に、彼らは教室を後にした。
[武道場]では・・・
水精のスライムであるテラノヴァと火精であるどろどろに溶けた金属が身体のレアブラスとの試合が行われている。
テラノヴァの水鎌とレアブラスの真っ赤に燃える剣。
魔法力が低い方が負けるというシビアな試合であり、力を見るにはもってこいの方法。また、手合わせすることにより、ぐっと力がつくはずというのが
この試合の狙いなのです。
「やあーっ!」
「たあーっ!」
生徒たちは、真剣の眼差しで頑張っています。
少しでも強くなる為に!そして、一日も早く、華々しいデビューを飾れるように。
道場は・・いえ、この学校中、熱気が溢れています。