◆第二十一話・束の間の再会?◆
  

ダークドーラ?/^^;


 『さあ、プラネット・バスターをこちらに渡して貰おうか!』
険しい言葉とは裏腹に、ドーラの目は宙を見てるようにうつろだった。もちろん、声は確かに彼女のものなのだが、その口調はドーラのものとは異なっている。
(何者かに操られているのか?・・・・穴には落ちても他人の手には何があっても落ちそうにない彼女が?)
身構えつつ、アレスはじっとドーラを見つめていた。
『そうか、渡さないつもりなのだな。ならば力づくで奪うまでだ!』
−ごあっ!−
特大の火球が次々とアレスを遅う。
(どうする?操られているようだが・・・確かにあれはドーラだ。)
アレスはその火球を避けつつ、考えていた。
その火球の威力は確かにドーラが豪語するだけはあった。が、アレスにとってはその間合いを見計らって攻撃することは可能である。
(いつまでも逃げてばかりいてもラチがあかん・・・)
絶え間なく襲ってくる火炎とそして雷撃。確かに並の魔法使いではこれほど強力な魔法をこうも連続して繰り出すことは不可能だ、とアレスは感じた。
『今は繋いどいてあげる、あんたの首。』
そう言ったドーラの言葉がアレスの記憶の中から浮かんだ。
(底が見えないほどの魔法力か・・大したものだが・・・1対1・・・勝負は見えている。)
そう判断すると、アレスは逃げの一手から攻撃へと行動を移した。

−ズン!−
「かはっ!」
フレームシールドでドーラの攻撃を避けつつ、アレスは、瞬時にして間合いを縮めドーラの鳩尾に拳を入れる。
「ぐ・・・・」
(だめか?)
大の男でも確かに急所を捕らえていた。渾身の力を込めたアレスの拳で倒れてもいいはず、いや、倒れて当然だった。が、操られているせいか、受けた衝撃が引き起こした苦痛で身体を折って後ずさりしたものの、再びそのうつろな目でアレスを睨む。その手には再び業火が踊り始めている。
(やはり中途半端な攻撃ではダメなのか。)
ぐっと剣を構えると、アレスは覚悟を決めて、ドーラに向かっていった。

「ぐぅっ・・・・」
浴びせるように放つ業火のほんの一瞬の間合い、アレスの太刀は確実にドーラの身を貫いていた。
−ごあっ!−
苦痛に身をゆがめながら、それでも火球を浴びせようとするドーラを、今一度アレスは、斬りつける。
−ピシュッ!−
すれ違いながら走らせた刃は、確実にドーラの脇腹を裂き、鮮血がアレスの頬にかかった。
−ドサっ−
これ以上向かってこないでくれ、と心の奥深く祈りながらドーラに刃を向けたアレスは、背後でした彼女が倒れる音にほっとして振り返る。
(ドーラ)
普通ならここで回復魔法をかけるべきなのだが、それは正気に戻っている場合である。操られたままだとしたら、また同じ事をしなくてはならない。
人と斬ることなど無頓着になっていたアレス。が、さすがに後味が悪かった。その手で倒した死体を見るのは慣れていた。まるで人形が転がっている、そうとしか感じなくなっていたアレスは、幾分動揺しているらしい自分に戸惑いを覚えつつ倒れたドーラを見下ろしていた。

「ううっ、うっ・・・?!」
「ドーラ?」
突然苦しそうにうめき声をあげたドーラに、アレスは我を忘れて抱き起こそうとする。が・・・・その直前、ドーラの身体から、にじみ出すように白い気体が抜け出していくことに気づき、警戒心を取り戻したアレスは、ざっと立ち上がった。
(ドーラを操っていた奴の正体か?)
精神体と思われたその白い気体はドーラの頭上でゆっくりと集まり、白い球形の塊になった。

『お前には、この娘の技量では、かなわぬようだな。さすがはプラネット・バスターを持ち帰っただけのことはある。』
男の声だった。アレスは剣を持ち直してぎっと睨む。
『その剣は我々の計画に不可欠な物だ。残念だが、渡すわけにはいかん。さあ、返してもらうぞ。』
「な?!」
アレスの目の前で、次元箱へ入れるところで屋根の上に置いたままになっていたプラネット・バスターは白い球形の気体の放つ不思議な力に吸い寄せられていった。
『剣はいただいた・・・。不服ならば、勝負をつけてもかまわん。今度は我が肉体でお相手しよう。』
(来るか?)
構えたアレスをせせら笑うかのように、その白い気体はふっと目の前から消滅した。
(どうなったのだ?どこへ行ったのだ?)
周囲を見渡したアレスは、変化をめざとく見つけた。
屋根の上にあったあやしげな獅子の彫像2体の1体がなくなっていた。
(どういうことだ?まさかドーラの代わりに彫像に乗り移ってここから飛び降りたとでもいうのか?)

消滅した彫像の後を調べようとして、アレスはふとドーラの事を思い出す。
(いかん!まだ間に合うか?)
慌ててアレスはドーラを抱き起こすと、自分の首に巻いていた布を取って鮮血が流れ続けるドーラの身体に巻き付ける。
(よし!まだ、脈はあるな。)
今にも停止しそうなほど、弱々しい鼓動だった。が、死んでしまったわけではない。アレスは慌てて次元箱から回復ポーションの瓶を取り出すと、口に含みドーラの喉に口移しで流し込む。
(ドーラ!しっかりしろ!お前はこんなことくらいで死ぬタマじゃないはずだ!)
『こんなことくらい』とは言ってもアレス自身が負わせた傷である。いくらそうすることが必至だったとはいえ、その傷がいかに深いものか、アレス本人が一番わかっていた。心の中で呼びかけながら、二口三口と続けてアレスは回復液をドーラの喉に流し込む。
そうするうちに、薬で傷が癒えてきたのか、巻き付けた布に血はそれ以上滲んでこなくなった。

傷さえふさがれば、あとはドーラの生命力に任せて大丈夫だとアレスは判断する。あのずうずうしいまでのドーラのふてぶてしさは、並の生命力ではないはずだ、とアレスは思う。
(気づくまで回復させるとまたうるさいからな。)
『何よ、せっかく奪い返したプラネット・バスターをまた持っていかれちゃったっていうの?あんた、ばかじゃない?!』
自分が操られていたことなど棚にあげ、アレスに罵声を浴びせることは確かだった。彼女の口から機関銃のように飛び出す罵声が、まるで目の前で繰り広げられているかのようにアレスの耳に聞こえていた。

−トクン、トクン!−
顔にも血色が戻り、正常に鼓動し始めた心音を確認すると、アレスはようやくドーラの身体を離し、そっと立ち上がった。
(さてと・・・ドーラに言われるまでもなく、奴を追いかけるか。)
消えてしまった彫像。アレスはその後へと足を運んだ。
(残っている彫像にトラップなどのおかしげなところはない。さっきまで彫像があった場所もこれといったトラップはなさそうだ。が、少しでも重みを加えれば崩れそうだな・・・)
そこは屋根が幾分へこみ、足を乗せれば崩れそうだった。
(他に塔から下りる道もないしな・・・)
今一度周囲を見渡し、アレスは考えていた。
その場所へ出るには、塔の5階にあった魔法陣からだった。帰りの魔法陣はどこにもない。プラネット・バスターが安置されていた小部屋の扉は、しっかりと閉ざされ開く気配はない。残された方法と言えば、1つ下の屋根の上に飛び降りることなのだが、それまで1階下の屋根の上に落ちることはあったが、頂上から5階の屋根までの高さとそれまでの高さとはかなりの差があった。しかも5階の屋根はかなりの急勾配である。落ちたと同時に足を滑らせ一気にその下まで落ちかねない。

「う・・・・ん・・・・・・」
(ん?)
気づく気配を見せたドーラに一瞬視線を流したアレスは、本能の判断に任せ、彫像のあった場所へ足を乗せた。
−ガラガラタラ・・・・−
アレスの体重がかかると同時に、屋根のその部分は瞬時にして崩れ始め、アレスの身体はあっという間に下へと落ちていった。

※ドーラバーションでのこの続き:ワンポイントドーラ#10


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