◆第二十話・滑って転んで落っこちた塔の屋根?◆
     

 不気味な気配を醸し出していた塔。それは確かに普通ではなかった。
そして、そこに配備されている兵士のおびただしい数。それは、確実にここが今回のこの事件の核心と繋がっていることを意味していた。

確かにここへ来るまでの城内も異常なほどの兵士が巡回をしていた。が、塔内は、より一層大勢の兵士がうごめいていた。そう、兵士の宿舎かと思えるほどに。が、そこが宿舎ではないことも確かだった。彼らは一様に侵入者に一瞬の躊躇もなく攻撃をしかけてきた。

−キン!ガキン!−
が、だからといって立ち止まるつもりは更々なかった。まるで何かの力にひかれているかのように、アレスの足は塔の頂上へと欲していた。が、アレスとて人間である。ここへ来るまで戦闘しつづけであり、歩き続けている。疲れないわけはない。
アレスは向かってくる兵士をその視野の中におさめつつ、一気に回復ポーションを喉へ流し込み、空になった瓶を捨てると同時に、彼らに向かって突進していった。
−シュッ!・・キン!ズバッ−
まるで弧を描くようにアレスは兵士を倒しながら通路を走った。剣の腕はアレスと比べるまでもなかった。

−シュン・・・シュン、シュンッ!−
曲がり角を曲がると、そこでアレスを待ち受けていたものは兵士の変わりに矢の攻撃。直線に続いているらしいその通路の奥からその矢は休む間も無く次々と飛んでくる。
とはいえ、やはりそこで立ち止まっているわけにもいかなかった。道があるのなら前進あるのみ。アレスは、確実に避けられる矢は避け、あとは盾と剣で矢をその鋭い鏃を払いながら猛スピードで奥へと進んで行った。

そして、ある程度進み、その矢を放っていた弓兵の姿を認めると同時に、アレスは迷わず火炎の術を唱えた。何も剣にこだわることはない。楽に進められるのならそうすべきなのである。
弓兵を倒し、まるで彼らがこの為に矢を放ち続けていたとも思える宝箱の中身を確認するアレス。が、全て空であった。
(おとりか?)
ふっと軽く笑いながらアレスは来た道を少し戻る。そして、城で手に入れたカギで頑丈な扉を開けるとその先へ進んだ。

(ん?)
その部屋へ入ると、ちろちろと薪の燃えかすのようなものがアレスに向かって飛んできた。
(熱っ!)
避けようとするアレスにまるでまとわりつくかのようにくっついてきたその小さな炎は、アレスの身体に接触すると同時に、どこにそれほどの威力があるのだ、と思えるほどの勢いで爆発した。といってもアレスが経験した忍者の自爆による爆発よりも小さいものではある。
(耐性がなければ、こんなものでも結構ダメージを受けるだろうな。)
城の地下、全ての魔法を跳ねつけるという特殊な体質の闇屋(もちろん人間ではない。)を相手に、魔法力とその耐性力をあげていたアレスにとっては、火の粉がかかったくらいの感じですんでいた。
ただ、不意のことで、心の中で叫んでしまったが。

そして、アレスは階段をあがったところで、イフリートに出会った。
−ごあっ!−
(おっと・・・)
その火炎の威力は、アレスが城下町の闘技場で戦ったイフリートのものとは比較できないほどの強力な火炎弾だった。が、そこは、アレスとて同じ。火炎に対する耐性と、そして、試練の間で手に入れたフレイムシールドがあった。
アレスがイフリートを倒すと同時に、仕掛けが作動する小さな音がした。
(なるほど、こいつを倒さなければ次へは行けなかったんだな。)
が、目の前にあった扉は固く閉ざされたままである。
(こっちではないのか?)
所々に口を開けている落とし穴に注意を払いながら、アレスは別の扉を見つけ、部屋の外へと出た。

−ヒュ〜〜〜・・・・・−
(外に上への階段があるとでもいうのか?)
屋根の上に出たアレスは周囲を見渡していた。それほど大きくない塔は一周してもさほと時間はかからないように思えた。
(ともかく内部は他に隠し通路もなかったからな。)
開かない扉が気になったが、それに固執することはない。見落としがあるのならだが、そうでない場合、進むことのできる道を行くべきなのである。

(で、結局ここか?)
が、外から上への階段はなかった。ぐるっと回ったところから入った小部屋でカギを見つけたアレスは、イフリートと戦ったところへと戻ってきていた。
そして、開かなかった扉をそのカギで開け、階段を上がっていく。

(だんだん化け物屋敷になっていくな。)
上がったところでアメーバと戦い、またしても屋根の上へと出たアレスは小さく呟いていた。それは、そこにいた兵士が人間ではなくなっていたからである。姿は人間の兵士なのだが、紅く輝いた瞳と異様な気配は、彼らが魔に属する者だという証拠だった。そして、人間の首など一刀両断できそうなほどの鋭い歯を持ったバトルアックス。その重量級の攻撃に加えて彼らは火炎の術を放ってきた。
もちろん、彼らを攻撃するままにさせているアレスではない。先手必勝。アレスは火炎には火炎をおみまいし、体力の消耗する接近戦になる前に彼ら路倒していた。

そして、5階、巨大なコウモリと人の姿を使い分けて攻撃してきたバンパイアを倒し、アレスは青白い光をにじみ出していた小部屋に足を踏み入れていた。
補足として・・・注意深く進んだ屋根の上だが、所々そうしてあるのか、術ってどうしても通れない箇所があった。まことに不本意ながら足を滑らせ屋根から無様に落っこちてしまったということは・・・アレスの手前、小声での説明ということにさせていただきます。(笑


(何者だ?・・・魔の気配は感じられないが・・・・)
扉を開け1歩中に入ったアレスの目の前に、人間の亡霊らしきものが青白く、そして淡く光っていた。
(この亡霊の光が隙間からにじみ出ていたのか。)
亡霊は、高僧と思える装束を身にまとり、歳もかなりの高齢と判断できた。が、魔の住処となっていたこの塔全体に満ちた瘴気とは違った感じをアレスは受けていた。
その老人の亡霊はアレスの姿を認めると、ゆっくりと口を開いた。

『夢を追う王達は、永遠の王を願うあまりに、同じ過ちを繰り返す。わしはベネディクト。今はこの世を去りし者の霊・・・。』
その声は不思議な威圧感があった。が、アレスが黙って亡霊を見続ける。敵ではないと判断したアレスの本能がそうさせていた。
『時は永遠の流れに乱舞する小部屋に過ぎない。荒々しい時の流れも、また、別の小部屋では取るに足らないゆらぎなのだ。』
すっとベネディクトの霊は、アレスを指さした。
『この地の王が邪心を継いだのも、お前がここを訪れたのも、全ては天界の法則。』
怒りでも悲しみでもなんでもなかった。全てを悟りきったベネディクトの表情が、アレスの注意を惹きつけていた。
『愚かな王の尻拭いを頼むつもりはない。だが、これだけは伝えよう。お前の持ち出した剣はただの剣ではない。力を引き出すカギなのだ。際限なき力。際限なき災い・・・。』
(際限なき災い・・・)
ベネディクトは、アレスの心の内の呟きが聞こえたようにゆっくりと頷いた。
『お前にはあの剣を目覚めさせた責任がある。そのことだけは肝に銘じるがいい・・・。』

(責任・・・か・・・・・が、あれがなかったならあそこからは脱出できなかった。あの剣でなければ、魔の権化と化した王を、ガドビスタルを倒すことは不可能だったのだからな。)
アレスにとっては、必要不可欠だったからそうしたまでである。それなくば、今のアレスはない。

言いたいことを言い終えるとふっと消えたベネディクトに、小さく心の中で呟くと、アレスはその奥の小部屋に向かった。
(これは・・・・)
その部屋にあった宝箱から剣を取り出しながら、アレスは呟いていた。
(この鋭利さと・・輝き・・・)
人間の手によるものではないと、一目で判断できた。そう、この種の剣は、バノウルドのあの地下迷宮でも手にした。摩耗しない剣である。が、そうであってもグレートソードはグレートソード。今手にしているものの方が威力はあった。
(一応しまっておくか。)
この激戦地での探索はいつまで続くか分からない。満足いく武器がいつも手にあるとは限らない。アレスは、その剣を否換金物として分別すると、次元箱の中へとしまった。

そして、塔の最上階。怪しげに紅く輝く瞳を持つ異様な獅子の彫像2体が守る小部屋。アレスは扉に手をかけると、その彫像が襲ってこないか、と背後を警戒しながら、カギを開けた。

−ギギギギギ・・・・・−
扉を開けたその正面には奇妙な彫像にはめ込まれたプラネット・バスターが安置されていた。
怪しく青白く輝くプラネット・バスター。
それは、アレスとの再会を喜んでいるようでもあり、また、アレスを拒絶しているようでもあった。
すさまじい力が波打つように脈動し、それは、やはり、人の手に再び入り、手にした持ち主の意思に従わなければならないことを拒絶しているかのように思えた。
が、強大な力を持つ剣なら剣であるほど、剣士としての欲望はかき立てられる。

ゆっくりとプラネット・バスターに手を伸ばすアレスの頭に、どこからともなくベネディクトの声が聞こえた。
『その剣は、もはや常人の装備できる物ではない。大宇宙の力を吸収したのだ・・・。使用するには、対となる盾と鎧が必要だ。この国のどこかにある。それを早く見つけることだ。』

「うっ・・・・・」
軽く手にした時はまだよかった。が、それを剣として一振りしてみようとした途端、アレスは己の身体の中に流れ込んできた得体の知れない強力な力に、思わずプラネット・バスターを落とす。
その力に支配され己を失ってしまうかもしれないという危機感を感じた本能がそうさせたらしい。
(対の盾と鎧を見つけない限り、使うのは無理のようだ。)
ベネディクトの言葉を反復しながら、剣を次元箱にしまおうとしたアレスの耳に、聞き慣れたような、そして、それとは相反するのだが、全く知らないような声が響いた。
『剣をこちらに渡せ!』
(やはり現れたか、ドーラ?)
脳裏の片隅に見知った女の姿を浮かべながら、アレスは振り返った。
が、その声色と気配から、警戒することを怠たるようなアレスではない。
(ドーラ?)
アレスの目の前に仁王立ちしているのは、アレスが期待?した通りの人物、紛れもなく、ドーラ・ドロンだった。ただし、その全身からいつもの彼女のオーラは出ていない。その代わり彼女の全身は、怪しげな闇の気配で覆われていた。


ダークドーラ?/^^;



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