◆第二十二話・再び監獄島へ◆
  


 −ガララララ・・・・・−
屋根の残骸と共に階下へと落ちたアレス。が、そこはもう落ちるのは慣れたもの。多少その瓦礫で傷は受けたとはいえ、スタッと着地すると同時に身構える。
そう、落下中でさえその異様な雰囲気をアレスは感じていたからである。
落ちたところには、おそらく先ほどのソウルマスターが待ちかまえているというアレスの感は当たっていた。

「魂を自在に操るこのわしに戦いを挑むとは、まことに愚か者よ・・・。」
目の前に現れたアレスを忌々しげに睨み、ソウルマスターは口を開いた。
「教えてやろう。お前が国境の砂漠でさまよったのも、このわしの力。いっそ砂漠で死んでおればよかったものを・・・。予想以上にカールの傭兵部隊が早く到着したおかげで計算が狂ったが、それもここまで。今、ここで、死に果てるがよい!」
(来るっ!)
大きく両手を拡げたソウルマスターの巨大な殺意、邪を孕んだ魔の気がアレスを覆い、その重圧を感じつつ、アレスは攻撃のタイミングを計る。

−バシュン!・・サシュッ!・・・−
魔弾を放つ音と空を切り裂くように舞うアレスの剣の音が塔の中に響いていた。

「ふっふっふ・・・・・」
その音が止んだとき、ソウルマスターの不気味な笑い声が塔を包み込む。
「わしを倒したとて、すでに研究の大半は第二段階に進んでおるのだ。大いなる力による培養・・・。この意味が分かるか?自分の目で確かめることだ。命がもてばな・・・。」
そして、ソウルマスターの身体はその気配と共に、そこから消滅した。
果たして本当に死んだのかどうかが気になる消え方ではあったが、アレスには確かな手応えがあった。その手応えとそこにプラネット・バスターが放置されていた、そのことからソウルマスターの死が確実だと判断したアレスは、プラネット・バスターを拾い上げ、次元箱へしまうと部屋を物色し始めた。

(魔法陣か・・・)
二カ所に魔法陣があった。1つは塔の別の場所へ転移し、そして、もう一つは、あの脱出不可能と言われたベルサドスの監獄島へとアレスの身体を運んだ。

(島の上か・・)
が、そこはアレスがそこから出たときに戦ったラクサーシャという怪物が我が物顔で行き来していた。
(研究とはこれを指しているのだろうか?・・・怪物の培養?)
ふとアレスの脳裏にソウルマスターの言葉がよみがえった。
が、そこで考え込んでいるアレスではない。ここへ転移してきたということは、それなりに意味があるはずなのである。目の前のラクサーシャを軽く倒し、アレスは改めて島の探索に入った。

(カギか・・・見たこともないようなカギだな。)
金属製のそのカギでアレスは開かなかったドアを開ける。
(ん?なんだ、この狭い部屋は?)
そこは人5人ほど立っていられるくらいの広さしかない小さな四角い部屋だった。
−キンコン♪−
(む?)
1歩足を踏み入れたとたん、明るい音が部屋の中で跳ね、アレスは思わずびくっとして入り口を振り返った。
が、そこには何もない。
(なんだ、このボタンは?)
入り口の横の影に、小さな丸いボタンがあった。4つあるそのボタンにはそれぞれ数字が書いてある。

−ガコン!−
(うおっ?!)
奥には何もないと思え、ともかくその1つを押してみたアレスは、不意に床が動き始めたことに驚く。ゆっくりとだが確かに降下していると感じられた。
(な、なんなのだ?どうなっているのだ?)
さすがのアレスもこんなことは初めての経験だった。
−うぃ〜〜〜ん・・・ガコン!−
いったいどうなるのだ、と思っているうちに、アレスが入ったその小さな部屋は停止した。
−シュッ!−
(ここ・・・は・・・・?)
そこは見慣れた光景と、そして、アレスが出てくるのを待っていたかのようにいたクモのモンスターがあった。
(なるほど・・あの小部屋は上下移動できる仕掛けなんだな?)
どんな仕掛けになっているのかまでは分からなかったが、そんなことはどうでもいいことでもある。ともかくこれで、以前ここにいたときどうしても開かず、カギも見つからなかったドアがそれだったのだと分かると、アレスは満足する。
(あと、ここで入れなかったといえば・・・)
クモと蛾のモンスターを適当に倒しながらアレスは考えていた。
そして、すぐに思い出す。あのときはさっぱり解読できなかったが、暗黒文字で何やら書かれていた重厚な金属製の扉。地下3階の隅。
(そこだな。)
アレスは迷わずそこへと足を進めた。勿論、通常の道でなく、上下移動する部屋を利用してその階まで近道することも忘れてはいない。
そして、そこへ行く手前にある囚人エリアにある闇屋でそれまでに手に入れたアイテムを売って次元箱を軽くしておくことも忘れなかった。


『--これより研究区域--
 立ち入る者は背後の柱に手をかざし、荘厳なる扉の解錠を試みよ。
              獄長ベネゼル』

(あいつも一枚噛んでるわけか。ただのお飾り獄長でもなかったわけだ。)
暗黒文字解読書で扉に書かれてあった文字を読むと、アレスはさっそく扉の手前にある柱に手をかざしていった。
−ゴゴゴゴゴ・・・−
6つの柱全部に手をかざすと、その重くびくともしなかった扉は、ゆっくりと開き、アレスを歓迎した。

−ひゅお〜〜〜〜・・・−
その奥からは、一層濃い魔の瘴気が吹きあがってきた。まるでアレスを歓迎するかのように、そしてそこへ足を踏み入れることをあざ笑うかのように。

『自分の目で確かめることだ。命がもてばな・・・。』
ふと聞こえたソウルマスターのその言葉をふっと軽く笑い流すと、アレスは、大きく1歩足を扉の中へと踏み入れた。
(ここは・・まるでバノウルドの洞窟の最上部のようなところだな。)
囚人達に掘らせたあと、特殊な手法で塗り込められたような壁に囲まれたそこは、異様な空気が流れていた。それは、まるで生き物の胎内にいるようだと感じたバノウルドの最上部と似通っていることろがある、とアレスは感じた。
(・・・大いなる力の培養か・・・)
まさかここで倒れた囚人の身体を培養し、それらを特殊合成して壁を作ったでもあるまいが・・・と思いつつ、アレスは周囲に注意を払いながら進んだ。
底し知れない嫌悪感、そんなものを感じながら。


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