◆第四話・アレスはカナヅチ・・・/^-^;◆
  

 「そこで止まれ!」
階段を上がると待ってましたとばかり、兵士を引き連れた獄長、ベネゼルが仁王立ちしていた。
「よく上がってきたな。おかげで儲けさせて貰ったぜ。」
上機嫌だが、蔑んだ目でベネゼルは続けた。
「無事地上まで這い上がって来た奴は、無罪放免と決まってるんだが、お前さんにゃもう一つ仕事をしてもらう。いや、そう大した事じゃーない。化け物と戦ってもらうだけさ。」
にやりとしたその顔に、アレスは思った。
(大した化け物なんだろ?間違ってもオレが勝つとは思っていまい?)
「アレス、やはり上がってきたか。」
(カール・・・)
「お前を捕まえたのは私だ。捕まえるように依頼された剣士がお前だったとは。傭兵参謀とは因果なものだ。かつて、共に戦った仲間まで売るのだからな。俺たちの決着がついていないのは心残りだが・・・それも、いたしかたあるまい。」
カールは一人自己陶酔的にアレスに話しかけていた。勿論、アレスはそんなことを聞く耳はもたない、というか、大した情報でもないものは、右から入って左から抜けていく。
「オレたちに斬りかかって逃げようなどと思うなよ。ここは絶海の孤島だ。周りは荒海。とてもじゃないが泳いで渡れるところじゃない。」
ベネゼルはくいっと顎で兵士らにアレスの連行を命令する。
「逃げようとしても無駄だ。おとなしく付いてこい。」
(仕方ないな。)
話は無視しても、アレスはカールの腕は知っていた。彼さえいなければそうはしなかっただろうが、黙って命令したその兵士長に付いていくアレスに、いつ斬りかかってくるかと不安でもあった兵士らはほっとした。

そして、化け物が待つという闘技場となっているその部屋の扉の前、ベネゼルは待っていた。
「見事化け物にうち勝てば無罪放免だ。頑張るんだな。丸腰ではなんだから、武器をやろう。選ぶがいい。」
ベネゼルが見せたのは、バトルアックス、パワーナックル、グレートソード、クロスシールドの4点。どれも現状では手に入れることなどできそうもない代物だった。
剣士であるアレスがまず思ったのは、やはりグレートソードだった。が、思い直す。おそらく牢獄にいた魔物とは比べものにならないくらいの強さなのだろう。一撃でしとめられれば武器でもいいが・・・こちらの攻撃の後、相手の強力な攻撃を交わさなければならないとなると・・・・と、アレスは、クロスシールドを指さした。
「いいのか、これで?」
その問いに黙っているアレスに、ふん!と鼻をならし、ベネゼルは扉を開けると同時に、部屋の中にクロスシールドを放り込む。
「まー、がんばるんだな。」
そして、アレスの背中を押す。


−バタン!−
アレスが入ると同時に勢い良く閉められたその部屋の中には、バノウルドの地下迷宮の塔の最上部にいた4本の手に大剣を持つ魔物、ラクサーシャがいた。しかも、名札とでもいうように、右肩にV2と明記してある。
(なんだ、改良でもしたのか?人体実験・・いや化け物実験でもしてるのか?)
獲物を見つけ、いかにも嬉しそうに大剣を振り上げて近づいてくるラクサーシャに、アレスは気を集中させる。
ベネゼルの放り投げたクロスシールドは、ラクサーシャの足下にあった。
(あれでは、もらわないも同然だ。)
ラクサーシャの攻撃は相当な威力があるが、確か動きは鈍かったはず、とアレスは部屋の空いている方向へと素早く移動する。
が・・・大幅に歩くラクサーシャのその1歩はゆっくりしたものだったという記憶と異なり、意外にもすっとアレスの目の前に身を寄せてくる。
(なるほど・・・改良点はここか?)
それでも、余裕のアレスはそんな分析をしていた。
(だが、まだ動きが足らないな。)
すっと再び扉付近に移動し、アレスはクロスシールドを手にする。
そして・・
−バン!−
アレスを追いかけ、勢い良く移動してきたラクサーシャの顔面に、それをお見舞いする。
「うがっ?!」
その衝撃とショックでラクサーシャの1本の手から剣が落ちた。それを見逃すアレスではない。さっとその剣を手に取り、すぐさま斬りかかる。
「ぎゃあああぁぁぁぁ・・・・!」
ラクサーシャの持つ剣の切れ味はその辺に転がっている剣とは比べものにならないもの。顔面攻撃のショックが覚めないうちに、その付け根から腕を1本切り落とされたラクサーシャは、その痛みに悲鳴を上げる。そして、その隙にアレスは次々と腕を切り落としていく。
「ぎゃぁぁぁぁぁ・・・・・・」
4本の腕全てが切り落とされるのに、さして時間は要さなかった。そして、止めに自分のその剣を眉間に受け、ラクサーシャは地に伏した。

(こんなところか・・・まだまだ改良点が足らなかったな。そうだな・・あとは、痛みを感じさせなくするとか・・・切り落としても腕は敵を攻撃し続けるとか・・・・遠隔操作でもできるようにして・・・)

アレスは苦笑いしながら、その場を後にした。
といっても、出口ではなく、入ってきた扉に向かっていた。
そう、出口にはおそらくベネゼルらが待ち伏せているであろうとアレスは踏んでいた。急がば回れ、来た道を戻った。

が・・・・
(いくらなんでもそう甘くはないか・・・・)
部屋からは出られたが、その先の扉がうんともすんとも言わないのを確認して、アレスは再び苦笑と共に本来の出口へと向かった。


「まさか、あの化け物をやっつけるとはな?」
予想通り、そこには兵士を引き連れたベネゼルがいた。
が、カールはいない。
「悪いが無罪放免は取り消しだ。ここで死んで貰う。」
最初っからそんな気はなかっただろ?と目で笑いながら(といってもアレスの前髪が長い為、他からは見えない)アレスは身構える。
ラクサーシャの剣はそのままにしてきたが、クロスシールドは手にしている。それで攻撃を防ぎ、その隙に剣をいただくのはお手の物だった。
いつでも攻撃を受け止められる体勢で、ベネゼルとアレス、そして、アレスを囲む数十人の兵士たちは、張りつめた緊張感の中、相手の動向を探っていた。

が、その時・・・
−ボン!−
ベネゼルの背後にあった扉が不意に爆音と共に消滅する。
「アレス!」
その消滅したドアの向こうにドーラの姿があった。
−ボン!−
そして、何事が起こったのかと気を取られていたベネゼルに、ドーラの火球が炸裂する。
「アレス!何ぼさっとしてんのよ!」
倒れたベネゼルを踏みつけ、ドーラは目の前のアレスに叫ぶ。
「まったく、のろいんだから!こっちよ!そんな奴らと戦ってもキリがないわ!ついてらっしゃい!」
未だ呆然とした兵士らの中、ドーラの罵声が飛ぶ。
(今日はまた派手な登場なんだな。)
にまりとし、アレスは迷うことなくドーラの後に従った。


「勘違いしないでね、別にあんたを助けに来た訳じゃないんだからね。」
火球で塀を壊し、舟が置いてある海へと飛び込む前に叫んだドーラのその言葉に、アレスは思わず苦笑いする。
(助けに来たんじゃないのなら、これはなんだ?)
相変わらず筋の通っていないことを言うんだな、と思いながら、海へ飛び込んだドーラの後を追ってアレスも飛び込んだ。


そして・・・・
ドーラの絶え間ない罵声のシャワーの中、風向きと潮流が変わってしまったおかげで、アレスは漁師たちが『忘れられた島』と呼ぶ島へ、ドーラの小舟でたどり着く。

その浜辺で、舟から下りようともせず、相変わらず一人でしゃべりまくっているドーラ。ある程度は彼女の話に耳を傾けていたが、時間がもったいないと感じたアレスは、まだなにやら話しながら小舟でそこを去ろうとしている彼女に背を向ける。

とその時、
「きゃああああああああーーーーーー!」
「ん?」
ドーラの悲鳴に彼女の方を振り返ったアレスの目に、彼女の乗った小舟が、巨大なタコにバラバラにされながら沈んでいく光景が写った。
(大ダコ・・・クラーケンか?)
その瞬間、海に飛び込んで助けようかとも思ったが・・・
(そうだ・・オレは泳げなかった・・・・)
監獄島からの脱出の時は躊躇している暇など全くなかった為飛び込んだアレス。飛び込んだところが舟の近くだったため何とか舟と岸を繋いでいたロープを伝った。が・・・今回はそれほどの必要性もない、とアレスは感じていた。
しかし、まさか世界に名をとどろかすその賞金首が、カナヅチだとは、誰が想像しえただろう。アレスを殺すことは簡単。海か川へ突き落とせばいい、ただそれだけ。・・・だが、その隙は決してみせないのだろう・・・・。

(悪いな、ドーラ。だが、お前なら大丈夫なんだろう?・・・なに、穴と海底の違いだけさ、きっと。)
その違いには雲泥の差があると思われるが、アレスは不思議とドーラが溺れ死んだり、今目撃した大ダコに食べられるような事はないだろう、と感じ・・・いや、確信さえも感じていた。

(この島と地下迷宮で繋がっていると言われているブンデビア本国のどこかにオレが出たら、そこにはすでにお前がいたりしてな・・・。師匠の仇をその手で打ちたいがために、わざわざオレの脱獄に手を貸してくれたんだ。お前はそう簡単にはくたばりはしないだろう。・・いや、お前のそのタフさには死神でさえも避けて通るんじゃないか?)

ふっと笑い、アレスは島の探索に移った。

 参)[One Point Dela #4]


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