-アレス・8歳の大冒険-
  
 
第二話:筋肉拳法卵ガラガラット
 

 「ちちちちち、ぴちちちち・・ぴちゅぴちゅ・・」
ぽかぽか陽気の森の中。アレスくんは初めて見るその景色に、きょろきょろしながら歩いていきます。

しばらくいくと紫ネコのお姉さんが教えてくれたとおり、道が見えてきました。そこは森の入口。道の最終地点です。
「この道を真っ直ぐ行けばいいんだよね?」
アレスくんは、自分に確認すると、テクテクと再び歩き始めました。

そして、30分くらい歩いたでしょうか?木々に囲まれた1件の大きなお屋敷の屋根が見えてきました。といってもアレスくんが住んでいるお城を比べたら小さいものです。
アレスくんは、ようやく見つけた嬉しさでタタタタタッと走り始めていました。

「そんなに急いでどこへ行くのかな?坊や?」
「え?」
そのお屋敷をぐるっと囲んでいる塀の横を走っていたアレスくんに、誰かが声をかけました。
「誰?どこにいるの?」
きょろきょろ見渡しても姿はありません。
「ここだよ、坊や。上、上!」
「上?」
そう言われて見上げたアレスくんの目に映ったのは、塀の上に腰かけている大きな卵。手足目鼻口付き。紫ネコが教えてくれた迷路好きな拳法卵だとアレスくんはすぐ思いつきました。
「こんにちは、拳法卵のおじさん。」
できればそのまま通り過ぎたかったアレスくんですが、声をかけられて無視したのでは、とっても失礼です。アレスくんは迷路へは招待されませんように、と心配しながら丁寧に挨拶します。
「け、拳法卵?」
「あれ?違うのかな?紫ネコさんが教えてくれたんだけど・・・・」
「紫ネコ?!」
アレスの口からその言葉が出た途端、拳法卵はすっくと塀の上に立ち上がりました。
「紫ネコというと・・もしや、メルメラとか言うんじゃないですかな?」
「う、うんそうだよ。炎のメルメラって言ってたよ。」
「で、そのネコはどっちへ?」
「さ、さ〜・・アッと言う間に消えちゃったから。」
「そ、そうですか・・・・」
一瞬目を輝かせてアレスを見た拳法卵は、がっくりと肩を落として再び塀に腰かけました。
「どうしたの、おじさん?」
その様子に、どうしたのだろう、と心配になったアレスくんはそっと聞きました。
「いや・・・坊やに言っても・・・・」
そう言って断りかけた拳法卵は、自分をじっと見つめているアレスくんの純真な瞳に、ダメで元々だから話してみようか、と気を変えました。
「坊やは何もされなかったようですな。」
「え?」

拳法卵は、アレスくんに自分が本当は卵ではなく人間だと説明しました。
「じゃー、おじさんは、あの紫ネコのおねーさんに?」
「ふ〜・・・・」
気の毒そうに見つめるアレスくんと大きくため息をつく剣法卵。
「スライムと卵とどっちが好き?って聞いたものですからね・・・卵って答えたら・・・」
「卵にされちゃったんだ。」
「そうなんですよ。で、解呪剤をこの屋敷を囲んでいる森の迷路のどこかに置いておくから
といって消えちゃったんですよ。」
「そうなんだ・・・」
アレスくんはすっかり同情気味です。紫ネコのおねーさんの言ってたような人ではなさそうだとアレスくんは思いました。どっちかというと紫ネコのおねーさんが嘘をついたというか、もしかしたら、からかわれたのかもしれない、とアレスくんは思いました。

「ところでおじさんの名前はなんていうの?」
「他人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るものじゃないでしょうか、坊や?」
「あ・・ごめんなさい。」
アレスくんはぺこりと謝ってから、はきはきと自己紹介します。
「ぼく、アレスっていいます。」
拳法卵はアレスくんのその素直な態度に満足した笑みを浮かべて答えました。
「小生は、ガラガラット。」
「え?ガラガラ蛇?」
「ほ?」
拳法卵はアレスくんのその言葉に、一瞬目を丸くしてから、大声で笑い始めました。
「はっはっはっは!面白い坊やだ。いいかね、よ〜く聞くんですよ、坊や・・いや、アレスくんだったね。小生の名前はガラガラット。ガラガラ蛇でも卵でもないんですよ。」
「ガラガラットさん。」
がらがらっと今にも崩れてきそうだと感じながらアレスくんはそれでも丁寧にリピートしてから付け加えました。
「ぼくが、その解呪剤見つけてきてあげようか?」
「え?ホ、ホントですか?」
ガラガラットは目を輝かせてアレスくんを見つめます。
「うわ・・・・とっとっと・・・」
嬉しさのあまり、身をかがめてアレスくんを見つめすぎ、塀の上に腰掛けていたガラガラットはバランスを崩してしまいます。
「あ・・・大丈夫?」
はらはらしながら見つめるアレスくん。どうにかしてあげたいけど、どうすることもできません。
「わっわっわっわ〜〜〜・・・」
−ドッスーーーン!−
とうとう勢い良く塀から落っこちてしまいました。
「あいたたた・・・・」
「ガラガラットのおじさん!」
アレスくんは慌てて駆け寄ります。
「大丈夫?」
「あ・・い、いや・・・だ、大丈夫と言いたいのですが・・・あ、あの・・手を引っ張って起こしてくれませんか?」
仰向けに倒れたガラガラットは、身体のその丸さの為自分では起きあがれません。
「あ、うん!」
そしてアレスくんは必至になって引き起こそうとするのですが、重いのでびくともしません。

「ア、アレスくん・・・」
「なーに、ガラガラットのおじさん?」
疲れ切ってちょっと休憩していたアレスくんに、ガラガラットは声をかけます。
「この先の野原を越えたところに小さな洞窟があるんですよ。」
「洞窟?」
「そうです。で、そこには宝箱があって、その中の一つにパワーグラブとかいう手袋があるという噂なんです。」
「パワーグラブ?宝箱?」
「そうです。重い物も持ち上げられるという魔法の手袋なんですよ。」
「じゃー、それを見つけてこれば、おじさんを引き起こすこともできるんだね?」
アレスくんは目を輝かせて喜びます。
「おそらくできるでしょうな。坊やに頼むのも気がひけますが・・。」
「大丈夫!ぼく、きっとその手袋見つけてくるよ。」
「ははは・・お、お願いしますよ。」
もう少し先に行けば、お茶会の開かれている庭が見え、そこには大人がいるはずなのに、塀から落ちてすっかり動転してしまっているガラガラットの頭からはすっかりそんな事消え失せてしまってました。
そのままの状態で待っているのなら、パワーグラブより、解呪剤を探しに行ってもらった方がよかったかもしれません。
でも、とにかくアレスくんは、言われたまま、勢い良く走り始めました。野原に向かって、その先にある洞窟目指して。

『洞窟の中にはクモとか蛇とかいるかもしれません。くれぐれも気を付けてくださいね。』
洞窟の前で、ガラガラットの言葉を思い出したアレスくんは、傍に落ちていた小枝を拾うと真っ暗なその中へ入っていきました。     


◆■続き■◆



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