-アレス・8歳の大冒険-
  
 
第二話:筋肉拳法卵ガラガラット(2)
 

 「う、うわーーーー・・・・」
その洞窟の中、アレスくんの声が響き渡ります。
どうにか暗さに目が慣れてきて少し奥へ入った時のことです。そこには目をぎらつかせてアレスくんを睨むクモがいたのです。
しかも大きさは・・アレスくんの頭くらいもある巨大さです。
クモは大きくても自分の手のひらくらいだと思っていたアレスくんは、もうびっくり仰天。
恐怖と驚きで一気に出口に向かってダッシュしてしまいました。

(でも・・・・・)
出口の明るさが見えてきた頃、アレスくんは走っていたスピードを落とします。
「逃げてどうすんだろう?ぜったい見つけてくるっておじさんと約束したのに。約束は何があっても守らなくちゃいけないって、母様も言ってた・・・・。」
アレスくんは立ち止まってしばらく考えます。
「こ、恐いけど・・でも、男の子なら立ち向かっていかなきゃ!ぼ、ぼくはそんな弱虫なんかじゃないんだから!」
女官が就寝前に読んでくれたことがある勇者の話を思い出し、アレスくんは震えながらも決心します。
「よ、よし・・・・行くぞ!」
ごくん!とつばを飲みこみアレスくんはクモのいたところに引き返そうと向きを変えた時、ふと右手の細い小枝に目が止まりました。
「こんな細い枝じゃダメなんじゃないかな?」
そう思ったとき、アレスくんの脳裏に、ガラガラットの声が響きました。
『よいですかな、戦わなくてはならないのに手元に武器がなかった時はですな、こう、ぐっと手を握って、思いっきりパンチをお見舞いするんですよ。力一杯ね。』
仰向けになったまま助言したガラガラットに立派な言葉の割に威厳はどこにもありませんでしたが、純粋なアレスくんにはそれでも頼もしく思えたのです。
「こう・・・かな?」
右手にぐっと力を入れ拳を作ってみる。確かに小枝を持っていたときより、力が入っている感じがし、少しは強くなったような気がしたアレスくん。
「それから、こうするんだったっけ?
アレスくんは、その場でシュミレーションしてみます。
アンパーーンチ!・・・ではなく、アレスくんのグーパンチもなかなかいけそうです。
「よしっ!がんばるぞっ!」
アレスくんはお腹に力を入れ、気合いを入れてクモのいたところに向かいました。

「あれ?クモさん、いない?」
せっかく気合いを入れて戻ってきたのに、そこにはクモはいませんでした。
「で、でも・・よかった。」
内心心配でしかたなかったアレスくんは、ほっとして先に進みました。

「あ!宝箱だ!」
道の先に輝く宝箱を見つけ、アレスくんは喜んで走り寄ります。
「あれ?」
近づいていくとその輝いている宝箱の横にもう2つ宝箱がありました。
「どれなんだろう?」
片っ端から開けていくのが普通なのですが、目的のパワーグラブさえ見つけられればアレスくんはそれでいいのです。どれを開けるべきか迷ってしまいました。
「あれ?」
どうしようかと3つの宝箱を見比べていたアレスくんの目に立て札が入りました。隅に立てかけてあったため、気づかなかったのです。
「えっとー・・・・『欲深なる者は出るに出られず。賢き者は1つ選べ。』・・・でもどれを開けたらいいのかな?」
どうやら全部開けたらここから出られない事が起きるようでした。
真ん中の箱が最初に見つけた金色に輝いている箱。そして、その右側に木の箱。左側のものは石の箱です。
「これが金と銀と普通の箱だったら、すぐ決まるんだけど。」
アレスくんはやはり女官が読んでくれたおとぎ話を思い出していました。
金と銀と普通の斧のどれを落としたのか、と泉の神様に聞かれ、正直に答えた木こりの話。
「金はあるけど・・・木と石じゃ、お話と少し違うし・・・。」
それにアレスくんには普通の宝箱というものがどんなものなのか知りません。
「どうしよう?」
しばらくじっと3つを見比べながら考えていたアレスくん。はっと思いつき、真ん中の宝箱をぱかっと開けます。
「あ!手袋だ!」
そこには編み目のある白い手袋が入ってました。でも、それがパワーグラブなのか、それとも本当にただの軍手なのかわかりません。
−パタン−
その箱を閉じると、アレスくんは木の箱を開けます。
「あ!手袋だ!」
そこにはつやつやに光った革製とみられる手袋がありました。でも、やっぱりそれがパワーグラブなのか、それとも本当にただの皮の手袋なのかわかりません。
−パタン−
その箱を閉じると、アレスくんは石の箱を開けます。
「あ!手袋だ!・・・でも、ぼろぼろ・・。」
そこにはすり切れた布の手袋がありました。でも、やっぱりそれがパワーグラブなのか、それとも本当にただのすり切れた布の手袋なのかわかりません。
−パタン−
アレスくんはまたしても蓋を閉めて考えます。
え?全部開けてよかったのかですって?
いいんですよ。だってアレスくんは開けただけで、まだ1つも選んでないのですから。全部開けるなとは書かれてなかったし、それに一応アレスくんは1個ずつ開けて閉めてから次のを開けているので、1つずつ選んでいることになるのですよ。だから、大丈夫、双方の観点から判断してもトラップは発動しません(・・・のはずです)。

皮製は高級にみえます。軍手は、いかにも物を運ぶのに適していそうです。そして、すり切れた布製のものは、ぼろぼろすぎてもう使いものにならないようにみえます。

「よし!」
アレスくんは運を天にまかせ、自分の感に全てをかけ、すりきれた布製の手袋を手にし、すっ飛んでガラガラットの倒れているところまで一気に走りました。

「ガラガラットのおじさん!」
「おお!アレスくんではないですか?大丈夫でしたかな?パワーグラブは見つかりましたかな?」
アレスがパワーグラブを探している間、誰もそこを通らなかったのか、通っても無視していったのかわかりませんが、とにかくガラガラットはまだそのままでした。
「うん!たぶんこれだと思うよ。」
そういってにこにこ顔で見せたのはすり切れた布製の手袋。
「これが・・・パワーグラブ?」
「うん!」
「他にはなかったのですか?」
「うん、革製のと軍手みたいなのがあったよ。」
「そ、そうですか・・・・。」
やはり子供だな。・・というか、いくら子供でもなぜこんなすり切れた手袋を、とガラガラットはため息がでました。
「じゃー、起こしてあげるね、おじさん。」
「あ、ああ・・はいはい、お願いしますよ。」
それでもせっかく苦労して取ってきた手袋。ガラガラットはアレスにがっかりさせてもいけないと思い、手を伸ばす。
「じゃ、いくからね。」
う〜〜んしょっと力を込めて、すり切れた手袋をはめたアレスくんは重いガラガラットを引っ張ります。
「う〜〜〜〜・・・・・・・」
真っ赤になって引っ張るアレスくん。
「ア、アレスくん・・・」
ガラガラットがその様子に、もういいよ、と言おうとしたときです。すっとガラガラットの身体は起きあがりました。
「やったーーー!!」
「ほ・・・・ア、アレスくん!」
ばんざいして喜ぶアレスくんと、驚いて、無事立っている自分を見つめるガラガラット。
「やっぱり石の宝箱でよかったんだ。」
「石の宝箱?」
「うん。宝箱は3つあって、中に手袋も3つあってね・・」
アレスくんから事情を説明して貰ったガラガラットは疑問を口にします。
「なぜ石の宝箱だと思ったのですかな?」
「だって、堅い石は岩をも貫くって言わない?」
(『石』と『意志』をかけたのでしょうか?)
ふとガラガラットはそう思う。
「だから、それだけの力があるのなら、きっと引き起こすこともできると思ったんだ、ぼく。」
「そ、そうですか・・いえ、そうですよね、まさにそれです!意志の力は偉大です!」
ガラガラットは、はっはっはっと高らかに笑いました。
「じゃー、次は解呪剤だね?」
「あ、そ、そうですね。」

そして、案内された森の中。森全体が迷路になっているかと思ったのですが、そうではなく森の一角に塀で仕切られた迷路がありました。
「ここなのですが・・・私はこの通りの身体で入れないものですから。」
ははは、とガラガラットは卵形巨体をゆらして照れ笑いしました。
森の一角といってもかなりの広さです。アレスくんのようは小さな少年では、たとえ順調に進んだとしても、一回りするのに何時間かかるかわかりません。
「大丈夫でしょうか?」
アレスくんがまだほんの小さい少年だったことを思いだしたガラガラットは、心配になります。
「大丈夫だよ。だって、ぼくにはこれがあるから。」
「へ?」
そう言ってにこにこ顔と共に見せたのは、さっきのすり切れた手袋。
「それでどうするというのですかな?」
引き起こせたのは、アレスくんの意志の力だと思っているガラガラットは、それがパワーグラブだとは全く信じていません。
「こうすれば近道だよ?」
心配そうなガラガラットににこっと笑うと、アレスくんは、塀の下を持ち、ぐいっと力を込めます。
「あ・・・あ・・・・・・ああああああ・・・」
目の前の光景がガラガラットには信じられませんでした。
だって、小さな少年が、みるみるうちに塀を引っこ抜いていくのです。
「あ、あれは、ホントにパワーグラブだったんですねーーーー。」
感嘆して見続けている中、塀を倒して進み続けたアレスくんが、三分の二ほど壊したところで、小瓶をかかげ嬉しそうに走り寄ってくるのが見えたのです。
「アレスくん!ありがとう!君にはなんとお礼を言ってよいやら?」
「じゃー、この手袋、ぼくがもらっていい?」
人間の姿に戻ったガラガラットに、アレスはにこにこ顔で答えます。
「勿論ですよ。」
魔物(?)に向かっていく勇気とグーパンチとパワーグラブ、アレスくんは、お礼は3つももらってるんだ、と思いながら、ガラガラットにお茶会の庭を教えて貰い、元気良く走っていきました。     


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