『ニールとゆかいな仲間たち♪』
== ネクラ・・もとい!ネクロマンサー、ニールの徒然冒険記 ==

その26 「ケイン長老と井戸(2)」

 「それはそれでいいけどさ・・・。」
「なんじゃ?」
持っていた未鑑定品をしぶしぶ払って鑑定してもらったニールは、再びふと思いついた事を口にした。
「じーさんって、どうしていつも井戸の傍にいるんだ?」
「ほ?」
「井戸の無かったところ以外、全部そうだろ?」
「そ、それはぢゃの・・い、井戸は水くみ場。生活の拠点ぢゃ。一番人が集まってくるところぢゃからに決まっておる。」
もっともらしいケインのその言葉の端に、焦りがあると感じたニールはすかさず突っ込む。
「トリストラムで井戸の傍にいたから助かった事がトラウマになってる・・・な〜んてこともないだろうし。」
顎に手を当て、ニールは考え込みながら続ける。
「まさか、ホラドリムネットワークがそこに?」
「な、なんぢゃ、それは?」
気のせいではない焦りがケインの顔に浮き出ていた。
「あんたは何でも知っていた。誰も行けない地獄の入口にでさえ天使と共にいたんだ。ホラドリムの最後の長老・・・・・・・ひょっとしてじーさんが黒幕?」
「な、なんぢゃ、その黒幕とわっ?」
「真の支配者・・・とか?」
「な、なにを冗談言っておるのぢゃ?わしがそんな偉い人物であるはずがないぢゃろう?」
慌てたように仰々しくケインは両手を大きく振って否定する。
「い〜や、わからないぞ?」
にやっと笑うニールに、ケインの表情は明らかに青ざめている。
「全てを知りつくし、人をチェスのコマか何かのように動かして、邪魔者を始末させる。・・・」
「ほ?」
「だから、トリストラムの魔物もじーさんには手をださなかった。」
「ぢ、ぢゃから、それは、ほれ、井戸の上にぶらさがっておったからぢゃ。」
「それでも攻撃はできただろ?奴らにとっては格好の獲物じゃないか?」
それもそうである。火炎攻撃、弓矢攻撃など十分できる距離である。
「そ、それは・・・ぢゃな・・・・」
いつものひょうひょうとしたケインはそこにはいなかった。ニールの確実な指摘にケインは冷や汗たらたら。
「井戸か・・・どこまで繋がってるんだ、この井戸は?」
「ど、どういう意味ぢゃ?」
「地下水は世界中と繋がってるよな?途中で海や川に出ることもあるだろうけど。」
「そ、それがどうしたんぢゃ?」
「井戸ネットワークを駆使し、どこへでも瞬間移動。誰にも口外していない極秘事項。」
「お、面白い発想ぢゃの〜・・・。」
焦り笑いを浮かべケインはどもった。すでに形勢逆転、有利に立ったニールは意地悪そうな笑みを浮かべて続ける。
「もし教えりゃ、トリストラムの人たちも何人かは助かったんじゃないのか?」
「い、いや、それは・・・や、奴らの攻撃があまりにも突然ぢゃったんで・・・」
「太古からそうして来たんだろ?あんたは井戸ネットワークを通じ、世界中を回って魔王を見張ってきた。」
「それぢゃ、わしは人間でないことになるぞ?」
「でなけりゃ、こんなに何もかも知ってるわけないだろ?」
「そ、それはぢゃの・・最後のホラドリムの一員として、蓄積されてきた情報を全てこの頭の中に・・・」
「そうか、じゃ聞くけど、オレ、バールのソウルストーン破壊した覚えがないんだけど・・そのままで良かったのか?」
「な、なんぢゃとぉ?」
魔王のソウルストーン。それが有る限り第2第3の魔王誕生も考えられる。
「しかし、魔王自身を倒したのぢゃ。それと同時にそれもこの世から消え失せたと思っていいのぢゃろう。」
「そうか?メフィストを殺して、奴のソウルストーンを手にしたんだぞ?」
びくっとケインの骨と皮だけの全身が大きく震えた。
「例えソウルストーンが存在し、それを手にする者がいたとしても、普通人では・・いや、魔王以外のものでは、到底それを制御することは不可能ぢゃ。ぢゃから大丈夫なはずぢゃ。い、いや・・・世界石破壊の時と同時にそれも破壊されたはず。」
考え込むようにそして、ゆっくりと自分の言葉を噛みしめながら言ったケインの言葉は矛盾していた。
「そういえば、ディアブロのも破壊した覚えないな。地獄の溶炉で破壊したのはメフィストのだけだぜ?」
「だ・・だからぢゃな・・そ、それは・・・大天使が・・・」
「ん?大天使が?・・・・・ヒーローとおだてて人をこき使った大天使が、危険がなくなってから地獄の聖殿まで出向いて破壊したってことか?・・・って簡単に信用すると思うか?」
「ニ、ニール・・何が言いたいんぢゃ?」
「次への布石?」
「へ?」
「それともオレの考えすぎなのか?」
「な、何がぢゃ?」
「そうだろ?何がどこにあって何をどうすればいいのか全部じーさんは知っていた。知っていながらディアブロを倒した時点で、一旦は世界は守られたとぬかしたんだ!」
「そ、それはそうぢゃろ?魔王を倒したんぢゃから・・・・」
「オレだって気付いたんだぜ?あそこにバールはいなかった。バールは倒しちゃいない。奴のソウルストーンも破壊してない。・・・魔王はまだ1匹生きてるんだ。」
「う・・・・・」
ニールの容赦ない追求にケインは完全に言葉を無くして身を縮めていた。
「で、しばらくしてから、やれ大変だ!と来たもんだ。」
「そ、それはぢゃな・・・うっかりして忘れておったんぢゃ。・・わ、わしの生涯最大のミスぢゃった。」
ケインの口調は声高にうわずっていた。
「ひょっとして、ソウルストーンが本当に破壊されたか確認してないんじゃないのか?で、井戸ネットワークを駆使し、相変わらずじーさん、あんたが世界を見張っている?」
「ニ、ニール・・・・」
真っ青になり、悲鳴のような小声をあげたケインに、ニールはため息をついたあと、ふっと笑う。
「ま、オレには関係ないさ。じーさんが何者であろうと、そして、魔王の恐怖がなくなったと喜んでいるこの平和が、例え一時的なものであろうとも。」
「・・・・・」
後ろめたそうなケインの表情が、ニールの言葉が真実をとらえていることを語っていた。
「魔王も死に、そして天使も世界石と共に逝った。ようやく人の世は一人歩きを始めるんだ。つまり、魔王も天使も人の中にある。そうだろ?」
「ニール・・・・」
「いつのことか分からないが、魔王の力を手に入れ、世界征服や破壊を企む者が出てこないとも限らない。」
ニールの言葉にこくんと力無くケインが頭を縦に振って頷く。
「で、さしあたってその要注意人物が、オレってわけか?」
ようやくケインが1つ認めたことに満足感を覚え、ニールはにやっと笑う。
現在、一番魔力があるのは、他のだれでもないニールであることは、うぬぼれではなかった。探せば同等の魔力を保持する者も見つかるだろうが、現状ではニールは知る由もない。
「そ、それは・・・・・」
「魔の波動・・つまりその波動を産む根元がないと、奴らは生きられないんだ。」
「奴ら?」
「ああ、今まだ世界の各地で騒がせてる魔物とか・・・それからオレの組の奴ら。」
その言葉にはっとしてケインはニールを見つめる。
「だから、魔が完全に消滅したわけじゃないんだ。な?」
「ま、まーそういうことになるんぢゃろーの。」
「ひょっとすると、オレを見張ってるんじゃなくて、魔王と化してしまうのが自分かもしれないという恐怖感がオレの近くに来させるのか?」
「ニール・・・・・」
うろたえて、うなだれたケインの両肩に手をぽん!と軽く起き、ニールは笑った。
「まっ、いいか。そうなんでもかんでも謎を解いちまったら、面白みがないからな。今のところ大丈夫そうだし。しばらく気楽にしてたらどうだ、じーさん?今まで一人気を揉んでばかりだったんだろ?」
「・・・・いいんぢゃろうか?」
最後のホラドリム長老として、魔王復活を阻止できなかったばかりか、街の人たちも誰一人として救うことができなかった。それは確かにケインの良心が己を咎め続けている事実でもあった。
「どうしようもないものは、どうあがいても仕方ねーだろ?」
いつものニールの飄々とした楽天的な笑顔がそこにあった。
「ということで、今度からはただだからな。」
「はん?」
「でなけりゃ、井戸ネットワーク使わせてくれ。」
「ほ?」
ここまで追求しておいて、それを無視されるとは思わなかったケインは呆然としてニールを見上げる。
「だからな、魔王復活の可能性やオレにその可能性があるって見張られてるなんてことはどうでもいいんだ。」
「どうでもいいぢゃと?」
「そ。・・・オレはなー・・・ゆっくりしたいんだ。」
「・・・・つまり・・あの3人の目の届かないところに?」
うなだれてため息と共に吐いたニールの言葉の意味がなんであるか、ケインには即理解できた。
「もし仮にオレがこの話を誰か一人にでもすれば、世界は再びパニックに陥る。」
「き、脅迫する気かの?」
「脅迫かー・・・そうだな・・・じゃー、オレが狂気に走って魔王にならないように、とでも付け足しておこうか?」
「ニール・・・。」
ニールの性格からそんなことは十中八九ないだろうと感じているケインは思わず苦笑いしていた。
「ははは、そうだな、大丈夫だよな、あいつらに恐怖を感じてるような小心者が魔王になんざなれるわけがない?」
ケインのその苦笑いに自嘲を返し、ニールはくるっと背を向けケインに手を振った。
「なんぢゃ、井戸ネットワークで移動せんのか?」
その背をケインの言葉が追う。
「ここでの仕事が終わったら頼む。」
「そうか。終わったらか。」


ケインから遠ざかっていくニールに飛びつくように駆け寄った人影が3つ。
どうやらニールにとっての恐怖の3魔王(?)に捕まったらしいと、ケインは一種の哀れみを感じつつ、いつもの不適な笑みを浮かべて見つめる。

「光あれば闇もまた存在する・・・・どちらか片方のみの存在はありえないんぢゃ。
ぢゃから・・・・・闇は・・魔王は消滅してないんぢゃよ。ただ・・・わしがわしである限り、そしてお前さんがいる限り暴走はしないぢゃろう。」
ケインはフードで隠れている額のソウルストーンを愛しむようにそっとその上から撫でると、井戸の傍に立つ。
そして、周囲に誰もいないのを確認すると、井戸を構成している石の一つを押す。
それと同時にふっとケインの姿はそこから消えた。それは明らかに転移装置だった。

そこは、ニールの魔物退治の旅の出発点。ローグキャンプの近くのブラッドムーアにある魔物たちの洞窟。通称、ニール組組員が・・もとい!ニールに忠実な魔物たちのいるところである。
が、ニールの知らないうちに地中深く洞窟は延びていた。その一番奥まったところにある広めの空間にソウルストーンがまばゆいばかりの輝きを放ち、不思議な模様を呈する金属の線に囲まれてその中央に鎮座していた。

「調子はどうぢゃ?」
「ああ、ケインじーさん。」
そこでじっとその様子を監督していたスケルトンがにたりと笑って答える。
「調子いいでやすよ。世界石の代わりにこの世界を支えることができるか心配だったんでやすがね。」
「そうか。」
「あっしの一世一代の品種(?)改良・・いや、改造だよな。ともかく、成功してこれほど嬉しいことないっすよ。」
「そうか、そうか。」
「なーなー、じーさん、・・親分にも・・・じゃなかったっすね、委員長にも褒めてもらえるっすよね?」
「ああ、そうぢゃとも。」
にたにたして(といっても目はないが)得意げに喜んでいるスケルトンに、ケインは自分の額から取ったソウルストーンを渡す。
「ほれ、交換ぢゃ。」
「ほいよ。じゃ、さっそく交換するとしよっか・・・ととと・・・危ない、危ない、回路を踏むところだった。」
「気を付けるんぢゃぞ?その模様が一つでも曲がったり壊れたりしたら、用は足さなくなる。といっても躓いたくらいぢゃ壊れはしないがの。ぢゃが、何らかの衝撃がきっかけとなって世界石の代わりのつもりが、魔王を創り上げないともかぎらん。」
「ほいきた。がってんしょうちのすけってんだ。」
ひょいひょいっとスケルトンは回路と呼ばれたその模様の合間を上手に縫って中央までいき、ケインの額にあったソウルストーンと、台座の石を替える。
「ほいよ、じーさん。今度はこいつによ〜〜く言い聞かせてやってくんな。人間にも魔物にも愛を、ってな。」
ともすると次なる身体を求めて暴走しがちなソウルストーン。が、ケインは自分の身体に交代で宿らせることで、その欲求を抑え、そして、精神力でソウルストーンの魔王としての意識を封じ込めていた。

「こうする事で、わしの中には神と魔王が・・光と闇が宿っておることになる。全てを無に帰さぬ為・・・創りし世界を滅亡させぬ為。」
しばらくじっと台座で輝くソウルストーンを見つめていたケインは、スケルトンににっこりと目で合図すると、再び転移するため井戸へと向かった。
「・・・人間たちが頑張っておるのぢゃ。これくらいの痛みは引き受けてやらぬとな・・・。」


ソウルストーンを額にはめ、ケインは今日も井戸ネットワークを使って世界中を行き来する。
「きれいぢゃろ、世界は?・・・のー・・わしと共にずっと見守っていこうぢゃないか。」
美しい景色を目にした時、ケインはいつも一人つぶやくように額の石に話しかける。
「なんぢゃ、時には自分で動きたいぢゃと?・・そうぢゃの〜・・・今度ニールに会ったら召喚してくれるよう頼んでやろうかの?・・ただし・・・」
ケインは意地悪そうな輝きをその瞳に宿してそっと呟く。
「サシャナにこき使われることは覚悟しとくんぢゃぞ?ふぉっふぉっふぉっふぉ♪」
イエスなのかノーなのか、額のソウルストーンからは返事がなかった。
 

 

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