『ニールとゆかいな仲間たち♪』
== ネクラ・・もとい!ネクロマンサー、ニールの徒然冒険記 ==

その25 「上には上が?」

 「ああ〜・・・眠て〜なぁ〜・・・・・・1杯やったあとはのんびり昼寝が一番なんだが・・・・・・」
残った破壊の魔王バールも倒したニールはとある街にやってきていた。世界は新たなる出発を迎え、人々は希望に燃えていた。魔物はまだまだ世界各地に蔓延ってはいるが、それでも大元である魔王は倒されたのである。残る魔物は魔王を倒した勇者や他の戦士で一掃できるだろうと誰しも明るい未来を感じていた。
そして、その魔王を倒したニールは、救世の勇者なのである、何処へ行っても歓待を受け、そういった大げさなことは好きではないニールはうんざりしていた。
が、その反対に、ニールに同行してきているサシャナやエリーはそうではなかった。彼女たちはそれまでの戦闘を忘れるかのようにパーティーを楽しんでいた。
そのパーティーをこっそり抜けだし、街外れにある場末のバーで、ニールは一人のんびり気ままに呑んでいた。

「外に出りゃ、また誰かに見つかるだろうしな?・・・ふ〜・・・」
ネクロマンサーなど滅多におめにかかれるものではない。サシャナの改良(?)で以前とは数段異なってすっきりとした風貌になったものの、それでも全身から滲み出ている雰囲気は、独特のものがあった。それが死霊を纏うというものなのかもしれなかったが、どことなく近寄りがたい雰囲気である。もっともサシャナが傍にいれば、そんなものも彼女の明るいオーラでどこへやら。全く感じなくなってしまうのだが、一人の時はそうはいかなかった。
それでも、救世の勇者ともなれば、畏怖の念を抱きながらも、懇ろになり勇者の甘い汁のお裾分けをもらおうとたかってくる者もいる。あるいは、自分の売名の為、親密になろうとする支配階級、もしくは、それを目的とするずるがしこい人物などは積極的に声をかけてくる。
「あんなパーティーのどこがいいんだか?」
魔物に破壊しつくされてしまったところは別にして、なんとか街という形態を保ち、治安もそれなりにきちんと保たれているところは少なかった。が、その街の一つであるそこは結構裕福な街であり、それゆえニールたちはそれまで受けたこともないような歓迎を受けていた。
そこから数十キロのところにある洞窟の魔物退治を引き受けてここへやってきたわけだが、それすら本当の事なのか、と疑問に思うくらい、街は平和に充ちていた。

「魔物退治は歓迎パーティーの後でいい、などと言ってたな、あのたぬき親父。」
ひょっとして奴は自分の力を周囲に誇示したくてオレを呼んだのか?とふと思ってしまったニールは、そんな自分自身に気付いて嘲笑する。
「オレも偉くなったもんだな・・・オレが来たことが奴の力の誇示ってか?・・・」
ワイングラスを傾げながらニールは頭をぽりぽりとかく。
「いやだね〜・・・・そんなこと考えるようになっちゃ、おしまいだぜ?」
あちこちで救世の勇者扱いされているうちに自惚れてしまったか?と自分を叱咤し、ニールは酒代をカウンターの上に転がすと酒場を後にした。
(オレは孤独を愛するネクロマンサーなんだぜ?世界を救おうと思って旅してたわけじゃないんだな・・・これが。)
より強力な魔物を倒すこと、そしてそれを己の力で蘇生させる。ネクロマンサーとしての力の象徴とも言える蘇生術。その頂点を極めようと旅をしていたニール。それがいつの間にか俗世に染まってしまっていた事に気付き、そんな自分を嘲笑と叱咤、そして反省しながら、後でいいといった問題の洞窟へと一人向かった。


「まるっきり嘘でもないようだな・・・・」
数は多かったが、そこの魔物はニールの敵ではなかった。
「あ〜〜・・・眠てぇ〜・・・・・・・」
召喚したスケルトンや蘇生させた魔物に向かってくる敵を倒させながら珍しくのんびりと彼らの背後を歩いていたニールは、・・・・睡魔という魔物に捕まってしまったらしい。
「Zzzzzzzzz.................」
常に率先して戦闘に入るニール。だからこそ、眠るべきではない、と思っていたのだが・・・いつの間にか眠ってしまっていた。救世の勇者であるニールが倒せない者、その一つに睡魔がある。(え?他?他は・・・やっぱりエのつく人物とサのつく・・・・。)昼寝の好きなニールにとっては睡魔は魔ではなく、この上なく優しい女神なのである。甘い女神の吐息と、やさしくんでくれるその腕に抱かれ、ニールは気持ちよく眠りの中へと沈んでいった。が、今回は場所が場所であり状況が状況であるため、いつもの昼寝とは違う。さすがのニールも女神に自分を任せてはいけないとは思ったのだが・・・・。


そして・・・・
「う?!・・・オ、オレ、眠ってたのか?」
それから数十分後、目覚めた途端に戦闘中だったことを思い出したニールは、がばっと起きあがる。
「ど、どうやら・・・オレはまだ生きてるようだな。」
ニールの視界に入ったのは、寝ているニールを守って必死に戦い続けているスケルトンメイジたち。
蘇生させた魔物と数体のスケルトンたちは、すでに昇天してしまったのか、姿がみえない。おそらく一人(一匹?)また一人少なくなっていく仲間に心細さを感じながら、それでも爆睡している主人(ニール)を守らなくては!と必死になって戦っていたのだろうと思われ、ニールは、彼らの戦う姿を見てじ〜〜んと感動していた。ひたすら主人の命を守り、戦い続ける純真な彼ら。
「い、いかん・・感動して見ている場合じゃなかった!」
洞窟内は結構魔物がいるらしく、倒しても倒しても奥から新たなる魔物が出てきていた。
(あと少し目覚めるのが遅かったら、オレもおだぶつだったかもしれんな。)
残っていたメイジスケルトンたちも、疲労が色濃く現れていた。
「悪かったな。」
すっとメイジスケルトンたちの傍まで歩を進めると同時に、ニールはすぐさまそこに倒れていた魔物の蘇生と、ゴーレムとスケルトンを次々に召喚していく。

そして、数十分後、まだいるのか?と思うくらいだった数の魔物たちも、今し方まで仲間だったものを次々と蘇生され、圧倒的な数の違いにより全滅した。(が、蘇生されて生き残って(?)いる。)


「あっちゃ〜〜・・・・や、やりすぎたか?」
自分が眠っていたにも関わらず、必死で戦闘を続けていてくれたスケルトンに感動して、少しニールは暴走しすぎたようだった。
「街へつれていくわけにもいかないよな?」

而して、魔物の巣窟だったその洞窟は、相変わらず魔物の洞窟のままとなった。
・・・・ただし、もはや人に危害を与えるようなことはないが。
ニールは、人語を解するスケルトン2体にそこにいて、彼らをまとめるように命ずると、街へと戻った。
ニール組分校の出来上がりである。(笑)


そして・・・・一仕事し終えたニールを待っていたのは・・・ちょうど街の入口で出会ったエリーとサシャナの罵声であった。
「ニール!どこへ行ってたの?みんなにニールはどこか、聞かれて困ったじゃないの?!」
「ニール!・・・自分は寝てて、ふっくんともっくんとたっくんたちを酷使したってホント?」
「あ・・・い、いや・・・そ、それはその・・・・・」
「え?ニールったら、一人で魔物退治に行ったの?」
サシャナの言葉にエリーも驚く。
「そうなのよ!もうくたくたで限界だって・・さっき泣き声であたしに言ってきたのよ。」
「へ?・・・・オ、オレ、連れてきてないぞ?」
いつの間にかテレパシーまでできるようになったのか、とニールはびっくり仰天して丸くなった目でサシャナを見つめる。それに召喚したスケルトンの中の誰がふっくんでもっくんでたっくんなのかもニールには分からない。
「多分倒れて霊界(?)へ帰る前なんだと思うわ。ふっくんがあたしのところに立ち寄っていったのよ。ニールが寝てて不利だから、ううん、このままだとニールまで危ないから急いで洞窟まで来て欲しいって。起こして欲しいって。」
「う”・・・・・」
とんだ報告が行ったものだ、とニールは冷や汗が全身を流れるのを感じた。エリーの罵声は聞き流せばいいが、サシャナのこの手の怒りはどうも苦手だった。
「せっかくかっこいいパラディンのお兄さんといいムードだったのに・・・。」
「へ?」
が、サシャナの口からはニールが予想していたセリフとは違ったものが出てきた。
「あら・・サシャナ、それなら私に言ってくれればよかったのよ。爆睡してるニールを起こすのは普通じゃだめなのよ?」
私でなくっちゃ起こせないわよ、と言いたそうなエリーの笑顔にサシャナはカチン!とくる。
「いくら爆睡してたって、たとえ泥酔してたってニールを起こすのなんて簡単よ!火炎の術をほんのちょっと使えば飛び起きるわ。」
「おいおい・・・・」
またしても火花を散らして見つめ合う2人に、ニールは困惑しながら、そして、サシャナの起こし方に恐怖を感じ、また別の冷や汗が流れる。

「ここにいたのか、ニール?」
「へ?」
そんな3人を目聡く見つけた大柄な女性がニールに近づいてくる。それは、つい数日前新たに仲間に加わった(?)アサシンのガルナーヴァ。
「なんだ、一人で倒してきたのか?」
「あ、ああ・・・・」
長身のニールとほぼ同じくらいの身長。そして、体格は・・・やせ形のニールと違って鍛え抜かれた筋肉がもりもりとその光沢を誇っているマッチョウーマン。
「さすが、私が惚れた男だ。大したものだ。」
はっはっは!と豪快に笑う彼女を、エリーとサシャナが睨む。
「なによ、それ?だいたい付いて来いなんて言ってないのに、勝手に付いてきて仲間みたいな顔をして!」
「そうよ!それに、何よ?『私が惚れた男』って・・・そ、そんなのまるでニールがあなたのものみたいじゃないの!だいたいあなたにニールは似合わないわよ!」
「外見で惚れるわけじゃない。私は強い男が好きだ。だから付いてきたし、これからも付いていく。そのどこがいけないんだ?」
「ニールが強いわけじゃないわよ!だって、召喚した魔物に倒させるんだから。」
「その精神力も強さのうちだろう?」
「あ、あのねー・・・ガルナーヴァ?」
「私がニールに似合わないというが、何よりもニールにはお前達のようなきゃんきゃん騒ぐ女は似合わない。」
エリーとサシャナの怒りなど何処吹く風。ガルナーヴァはニールを見つめてにっこりする。
「やはりこの私みたいに、静かな女の方がいいだろ?」
「・・・・・・・」
蛇に見つめられたカエルのように、ニールは答えることができなかった。どう答えてもその中の内誰かには角が立つ・・・しかも目の前の相手はまさしく大蛇・・。
「ということで、魔物を倒したというのなら、ちょうどいい。次の依頼を引き受けたんだが・・・」
ガルナーヴァはニールにその依頼の書状を見せる。
「出発しないか?今出かければ次の村には夕刻には着く。」
「ち、ちょっと・・・何仕切ってるのよ?」
「そ、そうよ!そういうことはニールが決めるのよ!」
エリーとサシャナの声には全く耳をかさず、ガルナーヴァはニールの腕をつかむとさっさと歩き始めた。
「お、おい・・・頼むから、一緒に来るってんなら仲良くやってくれよ。」
「私は別に事を荒立てるつもりはない。ただ彼女たちが勝手に騒いでいるだけだ。ニールもそう思ってるんじゃないのか?」
「あ、あのな・・・・」
「私ならあなたの昼寝の邪魔はしない。どんなダンジョンの中であろうと、群がってくる魔物を蹴散らしてあなたの安眠を守る。あなたが心地よく目覚めるまで。」
「い、いや、そうじゃなくてだな・・・・。」
ぐいぐいとガルナーヴァに腕を引っ張られながら、まるで背後霊のように重くずっしりとのしかかってくるエリーとサシャナの怒りを全身に感じ、ニールの顔は蒼白状態。


(あんたの方がかわいげがあったよな・・・)
ニールは恐怖の魔王ディアブロを思い出していた。この恐怖?と比べたらディアブロは確かにかわいかった。
(オレの平和はどこにあるんだ〜〜〜〜〜?)

世界は平和になったが、ニールが平和な日々を迎えられるのは、まだまだ先のようだった。ニールの明日に幸いあれ!

 

※Special thanks さんちゃん!!
(さんちゃんがBBSに書いてくださったゲームでのエピソードを元に色づけして創作しました。)

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