「何よ〜、あれは?」
バールを倒し、ニールと共に転移の門をくぐりながら、サシャナは文句を言っていた。
「あたしたちが苦労して倒したっていうのに。『感謝する、ヒーロー』の一言で片づけてくれちゃって。その上、もう手遅れだからさっさとここから出ろだとか・・・お前たちなら生き延びられるはずだから、って、なによ、あれ?あれでも天使?」
「仕方ないだろ?魔王を止められなかった天使だもんな。」
「あ・・・そっか。」
ニールの言葉に、サシャナは納得する。
「それじゃ仕方ない・・か。」
そして、街に戻った2人を街中こぞって大歓迎し、その労をねぎらう。
ワールドストーンは破壊という結果に終わってしまったが、人の世は保たれたのである。その事はバールを倒したという知らせと共に、ケイン長老によって早くも街中に広がっていた。おそらく世界中へ広がるのもそう時間はかからないだろう。
「さてと・・・一度ニール組のみんなに会ってくるか?」
昼寝がしたかったニールの意向など全く無視されていた。盛大な祝賀会の最中、ニールは一人転移の魔法陣、ウェイポイントのある広場へ来ていた。
魔王による恐怖の支配はなくなった。が、世界は今回の騒動で国というものはほとんど滅し、かろうじて町や村規模で自治がなりたっているところもあったが、ほとんどは、無秩序な無法地帯となっていた。そして、各地にはまだ魔物が溢れ返り、人々に驚異を与えている。ニールは魔物と人間との諍いを解決するため、世界各地を旅しようと思っていた。ただし、今回はのんびりゆっくりマイペースで。
ゆっくりとウェイポイントである魔法陣へ足を運ぶニールの背中に、女の声が飛んだ。
「待って!ニール!(エリーと一緒に行かないんなら/サシャナが一緒にいかないのなら)あたし/私も一緒に行くわっ!」
「え?」
「え?」
声の主は、ニールの姿が消えたことに気が付き、慌てて祝賀会会場となっていた酒場から飛び出してきたサシャナとエリー。
2人は祝賀会の間中、ニールの事、今後のことを考えていた。そして、エリーはサシャナのことを考え、そしてサシャナはエリーの事を考えていた。もし、ニールと共にエリー/サシャナが旅立つというのなら、自分は潔く身を引くべきだ、と結論を出していた。
が、一人街を後にしようとしていたニールに、ほっとして思わず声をかけた2人は、気になっていた相手と同じセリフを口にした事に驚きつつ、お互いを見つめ合う。
そして、どうすべきか、と瞬間的に考えたのだが、ニールはそんな2人に気も止めず魔法陣の中へと足を運んでいる。
「あ!」
魔法陣を取り囲んでいる炎がぼおっと大きく躍り上がる。それは転移の始まる印。
「待って!ニール!」
サシャナとエリーは同時に叫ぶと、急ぎニールの立つ魔法陣へ駆け上がる。
−フっ!−
なんとか間に合い、3人の姿は同時にそこから消えた。
「おい・・・なんだよ、これは?」
そして、ローグキャンプ内の魔法陣へと出たニールは、サシャナとエリーの姿に驚いて目を丸くする。
「『なんだ』って・・・ニールと一緒に旅するのよ!」
同時に叫ぶように言ったサシャナとエリーにニールはショックを受ける。
「だってまだまだ人間を敵視している凶暴な魔物はいるんでしょ?」
「あ、ああ・・・そ、そりゃーそうだが・・・・。」
付け加えたサシャナの顔を苦笑いしながら見つめ、ニールはため息をつく。
「私、魔物との付き合い、もうすっかり慣れたから大丈夫よ。」
サシャナに負けてはならじ、とエリーが自分を売り込む。
「あら!あたしだって!」
バチバチバチ!とサシャナとエリーの間に火花が散る。
「ニールっ!どっちか決めてよっ!」
きつい口調で同時に言った2人に、ニールは大きなため息をつきつつ、困惑する。どっちをとっても角が立つ。その後の怒りがこわい。
(オレの昼寝はどうなったんだあ?オレの平和わ〜〜〜?!)
2人をやや青ざめた顔で見つめるニールの心の中に、悲痛なまでの無言の叫びがエコーしていた。
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