『ニールとゆかいな仲間たち♪』
== ネクラ・・もとい!ネクロマンサー、ニールの徒然冒険記 ==

その21 ライバル現る?

 「きゃ〜!ワーウルフよ〜〜!!」
洞窟内にサシャナの叫びと・・そして、フローズンオーブの飛ぶ音が響く。
そう、安易にサシャナの前に出ないことである。彼女を驚かすと鼓膜が避けそうな悲鳴と共に・・・自身が凍って砕ける魔弾のシャワーをお見舞いされるのである。
「ま、待てっ!オレは人間だっ!敵じゃないっ!」
「え?」
そして、例に漏れず凍りかかった狼から出たその声に、ぎょっとしてサシャナは唱えかけていた2弾目の呪文を途中で切る。
「ひょっとしてドルイドか?・・・変身できるっていう?」
頭をかきながら呟いたニールの言葉にサシャナは驚く。
「ええ〜?、そ、そうなの?」
全身が凍り付く直前、サシャナは慌ててその狼から術を解く。
「た、助かったぜ・・・・・。」
「ご、ごめんなさい。」
寒さでがたがたと震えていた人狼は、数秒後すっと人間に戻った。
「あら・・・・・」
(ニールよりいいかも)
元に戻った彼を見て、サシャナは思わず心の中で呟く。
(でも、やっぱり強くなくっちゃ。)

が、それぞれ自己紹介して共に探索し始めると同時に、精霊が召喚できることがわかった時点で、サシャナの気持ちは変化する。
(ニールの蘇生術よりいいかもよ?・・・敵を見つけて殺さなくても最初から召喚できるんだし。)
ニールでもゴーレムなら最初から召喚できるのだが、そのことは忘れていた。

「で、あとは何を召喚できるの?変身は?」
探索の休憩中、サシャナとそのドルイド、カシムの話は弾んでいた。
ニールは・・・それを横目で見ながら、ひたすら辺りに注意を払いつつ・・・たぬき寝入り。そう、いつもなら本当に昼寝してしまうのだが、今回は昼寝する心の余裕がなかった。(笑

「これがアイアンクロー?」
サシャナははしゃぎながらカシムにあれこれ見せてもらっていた。
「うーーん・・・そういう名前じゃなかったが・・・」
鋭い爪のついた篭手をサシャナはしげしげと見つめていた。
「ねー、これってさー、エナジードレインできる?」
「は?」
「あ・・やっぱりダメ?・・・あれは異世界の話だったっけ・・。」
一人旅をしていた時に出会った旅人から聞いた話を思い出して聞いてみたサシャナは、カシムのきょっとんとした顔に思わず吹き出す。
「ごっめ〜〜ん・・あたしの勘違い。」
「そ、そうか?ははは。」
カシムもサシャナのペースに乗せられながらも、彼女の明るさについ顔がほころびる。
「あたしね、ホントはソーサレスよりドルイダスになりたかったのよ。」
「ほう。そうなのか?」
「うん。」
「まー、魔法を使うことには変わりないからな。なんなら教えてやるぞ?」
「え?ホント?・・・あたし、ドルイダスになれるかしら?才能ありそう?」
目を輝かせてサシャナはカシムを見つめる。
「そうだな。ソーサレスとドルイダスの違いは・・・・」
「違いは?」
「つまりだな・・・あんたたちは、ゼロのところに力まかせで術なりなんなり作り出すだろ?」
「そうね。」
「オレ達ドルイドとかドルイダスは、自然、つまり精霊の声に耳を傾けるようにしたりして、彼らの協力を得て術を繰り出すんだ。ま、協力を得るんじゃなく、強要するドルイドもいるがな。そこは、精霊との接し方で違ってくる。」
「ふ〜〜ん・・なんか難しそう・・。」
「そうか?要は自然の声に耳を傾けろってことなんだが。」
「つまり、そこに火を起こすんじゃなくって、精霊に頼んで火を起こしてもらう?」
「そうだな。そんな感じかな?」
「ふ〜ん。じゃーさ、その頼んだ精霊さんが聞いてくれないときは?」
「は?」
思いもかけなかったことを聞かれカシムは、目を丸くしてサシャナを見つめる。
「そ、そうだな・・・そんなことがないように血の盟約を結んでいたりもするんだが・・・ま、まー、時にはそんなこともあるかもしれないな。それは・・あんたたちも一緒だろ?魔法だって失敗することがある。」
「そうね。それは・・そうよね。」
2人の楽しそうな会話は延々と続くかと思われ、ニールはそっと立ち上がった。
「あ!ニール!もう行くの?」
「あ、ああ・・・・あまりゆっくりしててもな。」
「そうよね。じゃ、あたしたちも。」

複雑な思いをかかえ、ニールは2人の先にたって歩き始める。
(・・まさか・・・嘘だろ?・・やきもちってか?このオレが?・・・サシャナはまだほんの子供だぞ?・・・?)
エリーに指摘された事がニールの脳裏を過ぎる。
(いや・・・父親や兄の立場でも嫉妬は感じるって聞くよな?)
あくまでエリーの指摘した感情をニールは否定していた。


「ああ、もうなんでここのエリアってこういう気持ちの悪いものが多いのかしら?」
そんなニールの焦った気持ちなどに気付くはずもなく、サシャナは、入手したアイテムに顔をしかめていた。
「ベチョッ!グチョッ!・・・この音。・・・頭皮を使ったヘルム?それとも頭蓋骨だけ抜いた頭部なのかしら?・・・・確かに耐性とか性能はいいんだけど・・。」
「オレだっていやだぞ、そんなフェティッシュの頭をかぶるの。」
ネクロマンサー専用と分かったヘルムをサシャナはニールに差し出す。指でちょいと摘み、いかにも気持ち悪そうに。
「オレは・・見た目よりやっぱり中身かな?いいものの方がいいに決まってるだろ?」
「ええ〜!?」
カシムの言葉に、サシャナは目を丸くして叫ぶ。
「あたしはヤ〜よ、そんなの。」
「あたしは、って、別にサシャナにかぶれって言ってないだろ?」
カシムは面白そうに笑ってから続ける。
「だが、意外だったな。ネクロマンサーが見た目を気にするのか?こういったものは十八番じゃないのか?」
「あ、いや・・・オレはどうも・・。」
「ふ〜〜ん。ま、好みは人それぞれだしな。」
カシムは全く気付かないようだったが、その事で一気に気をそがれたのかサシャナの彼を見る目つきが変わっていた。


「おい・・・この先の洞窟へ入るのか?」
「え?」
次のエリアへの穴を見つけ、迷うことなくそこへ足を入れようとしていたニールとサシャナに、カシムは少し青ざめたような顔で声をかける。
「そんなの当たり前でしょ?」
「当たり前って・・・・ここのエリア以上の敵が潜んでるんだぞ?」
それも当然の事でしょ、とサシャナは少し呆れ返ったような表情でカシムを見ていた。
「オ・・オレは、もう少し奥を調べてみる。」
「そう・・じゃーね。行きましょ、ニール。」
「い・・いいのか?」
「いいの!」
明らかに怖じ気づいているカシムをちろっと見ると、サシャナはカシムと別れていいのかと聞くニールの腕をぐいぐい引っ張って横穴へと進んだ。
(そういえば、変身や召喚はいいけど、そうたいした攻撃力じゃなかったわ。)
それまでのカシムの戦闘を思い出しながらサシャナは歩いていた。
「やっぱりニールでなきゃ♪」
「ん?」
「ふっくんとたっくんともっくんもいることだし。」
「何一人で言ってんだ?」
「ふふふっ♪いいの。ニールは気にしなくても。」
実力の差は最初から分かっていたはずだった。ただ、そう、ただほんの少しカッコいいかも?と思ってしまっただけなのだ、とサシャナは思っていた。
(ニールより若いし。何よりドルイドってことが珍しかったのよね。憧れてた職業だし。)
が、強敵がひしめき合うこんなダンジョンでも、一緒にいるとこうも安心していられるのは、やはり頼りがいのあるニールだからだとサシャナは改めて思っていた。

 

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