『ニールとゆかいな仲間たち♪』
== ネクラ・・もとい!ネクロマンサー、ニールの徒然冒険記 ==

その20 その怒り、エリーより怖し・・?

 「じーさん、サシャナ見なかったか?」
「ほ?サシャナ嬢ちゃんか?・・・・いや、今日はまだ見てないが・・・・」
街へ転移すると同時に、ニールは入手したアイテムの鑑定の為ケイン長老の元を訪れていた。といっても、彼はいつも街の中央の広場でうろうろしている。井戸の傍がなぜそうも気にいってるのかは謎だった。
「なんだよ、じーさん・・そのにやけた顔は?」
にたにたと自分を見ているケインを、ニールはにらみ返す。
「会ったんじゃろ?」
「はん?」
「じゃから、ほれ・・」
ケインは意味ありげににやっと笑ったその顔に、ニールはエリーの事を指していると悟る。
「あ、ああ・・・何どじったのか、捕まってたな。」
軽く答えたニールに、ケインは「ほっほっほっ」とからかっているようにもとれる笑いを投げた。
「なんだよ?」
「なんだって・・・」
にやっと笑いケインは続けた。
「いいのぉ〜、若い子と女盛りの娘に挟まれて・・・両手に花じゃな。」
「じいさん?」
その言葉にニールは思わずケインを睨む。
「そんなんじゃないってじーさんだって知ってるだろ?」
「そうじゃろか?」
「そうじゃろか・・って、じーさん?」
「ほれ、久しぶりに会ってどうじゃったんじゃ?・・・ぽんぽん怒ってたあの頃とは変わったじゃろ?・・・いいのぉ〜、この色男!」
「じーさん?」
いいかげんにしろ、ときつく睨んだその時、ニールの視野の片隅にサシャナが入り、ぎくっとして彼女を見る。
「サシャ・・・」
声をかけようとしたニールを無視し、サシャナはきびすを返して往来を行き来している戦士の中に駆け込んでいってしまった。
「一言忠告しておくが、ニール。」
「なんだよ?」
「二兎追う者は一兎も得ず、って言葉知っておるか?」
「じーさんがおかしな事言わなきゃ、ごたごたは起きやしないんだぜっ!」
ニールは鑑定してもらうのも忘れ、その場を立ち去った。それ以上にやけたケインの顔を見ていると殴ってしまいそうだった。


その頃酒場では、エリーが他の兵士らと呑んでいた。
「ねー、エリー、今度紹介してよ。」
「紹介って?」
「だから〜・・・」
「ああ、ニール?」
「そう。ネクロマンサーなんて聞いてたから、もっと根暗なひ弱な男を連想してたのよ。ところがさ〜・・、なかなかいけてるじゃない?」
「当たり前でしょ。魔王であるメフィストやディアブロを倒したのよ。」
「そうよねー・・・そうだったのよねー。」
そこでは女性兵士は勿論、男性兵士の間でも、魔王を倒したニールの話で盛り上がっていた。当然その中には救助された兵士らも入っている。
「オレたちが数人で向かっていっても歯が立たなかった魔物でさえ、簡単に倒してるように見えるよな。」
「そうね。もっともどっちかというと本人より召喚したり蘇生したアンデッドが大活躍してるんだけど。」
くすくすっと笑いながらエリーは答えていた。
「でも、それもニールの力があればこそよね。」
「エリーったら、以前はあれほどニールに怒鳴ってばかりいたのに、どうしたのよ?」
「いいじゃない。魔王を倒したことは認めてあげなきゃ。」
「今日の友は明日の敵、じゃなく、あれはまさに、一瞬後の仲間は敵というやつだな。見事なもんだ。」
敵を倒すと同時にそれを味方として蘇生していくニールの様子を思い出しながら一人の兵士が言った。
「そうそう。すぐ横で一緒に戦ってた仲間が倒れた次の瞬間には復活して、即自分に攻撃してくる来るんだもんね。魔物であってもあれには驚くんじゃない?」
「だよな、きっと。しかし、彼の精神力は底なしか?」
「並の精神力じゃないってことは確かね。」
戦いの合間、休憩する兵士たちで賑やかに楽しげに盛り上がっていた。
−バタン!−
そんなところへニールが入ってくる。当然そこにいた全員の注目が飛ぶ。
「ニール!」
「エリーか。」
その兵士たちの中にエリーの姿を見つけるとニールは軽く笑む。
「賑やかいな。」
「ニールもどう?それともまだ行くの?」
「うーーん・・・・ちょっと息抜きしたい気分なんだが・・・ああ、そうだ、サシャナ見なかったか?」
「サシャナって・・・ニールと一緒にいたあの女の子?」
「ああ。」
「さー・・・ここには来なかったわよ。」
「そうか。」
「あ!ニール!」
くるっと、向きを変え出ていこうとするニールを、エリーは慌てて引き留める。
「また今度な。あいつを一人にしておくと何するか分からないんだ。」
「そうなの?でも、まさか一人で街の外へなんて・・・」
一歩街から出れば、そこには山のように魔物がいる。しかも凶暴なものばかりである。腕の立つ者数人で行くのが常である。それでも、先が分からないのが現実だった。だから、サシャナのような少女が一人で行くとは考えられなかった。
「普通はそうなんだが・・・・あいつの無鉄砲さは度が過ぎてるっていうか・・・。魔王を倒したのも、あいつがどんどん突っ走っていったからなんだぜ?」
「ホント?」
「いけね!それで思い出した。まさかバール目的に洞窟に入ったんじゃないだろうな?」
自分の言葉にふと過ぎった考えにぞくっと不安を覚えながら、ニールは慌てて店の外へ飛び出していった。
「待って、ニール!私も探すわ!」
慌ててニールを追いかけて店から飛び出してきたエリーに、ニールは照れ笑いして断る。
「悪いな、エリー。その気遣いだけありがたくもらっておくことにするぜ。あんたと一緒じゃ出てくるものも出てこないだろうからな。」
女心に鈍いニールでも、そのくらいのことは分かっていた。
「出てくるものも出てこないって・・・まさか、ニール、本当にあんな子供を相手にしてるとでも・・・?」
「そうさな・・確かにサシャナはまだ子供だ。だから命は大切にしてほしいのさ。まだ先は長いんだ。死に急ぐことはない。」
エリーの言葉の意味が分かっているのか分かっていないのか・・・ニールは苦笑いを残し、店の前の階段を駆け下りていった。
「・・・バッカじゃないの、ニール?自分の気持ちが分かってないでしょ?」
ニールが走ってる・・・どんなときでもどんなことが起ころうともマイペースなのんびりモード全開のニールが・・・。
「それって・・・・・確実な証拠よね・・・・。」
エリーは寂しそうに微笑むと、店の中へ戻っていった。
(・・・私って怒ってばかりいすぎたから・・・・)


その頃サシャナは、ニールの予想どおり、洞窟の中を一人で進んでいた。
「なによっ!どうせ私は小さくて痩せてて・・・幼児体型の未発達児よっ!自分がグラマーだからってこれ見よがしに近くまで見せに来なくてもいいでしょ?」
サシャナは怒りに任せてフローズンオーブを立て続けに唱え、我先にと襲ってくるサキュバス系グラマーな鳥人を倒していた。
「ムーンロードって何よ?・・・ムーンなんてロードなんてぜんぜん似合ってないじゃない?!どうみても牛のお化けのミノタウロスよ!」
怒りによる滅茶苦茶な論法と共に魔法力全開で、近づいてくるもの全てを氷と化して砕いていた。
「どこかの誰かさんは炎の魔人をその魔人以上の炎で倒したっていうけど、あたしだって、あんたたち以上の冷気で凍らせてバラバラに砕いてあげるわよっ!」
氷の魔人、フローズンテラー・・彼らはその名の通り恐怖に凍りつき粉砕されていった。
「ニールがいなくてもいけるじゃない。」
得意げになっていたその矢先だった。
「あ・・あれ?・・・・・め、目眩が・・・・」
(しまったっ!精神力使いすぎた?)
焦り始めるサシャナ。そういえばせっかく街へ戻ったというのに、ポーションも買わずに来たことを思い出す。
「ど、どうしよう・・・・・」
街へ帰るウェイポイントはまだその辺りでは見つかっていなかった。しかも前方にはサシャナに近づいて来る魔物らしき影が見える。
「そうだ!転移の巻物・・・・」
慌てて探した腰袋の中にそれはなかった。
(ニールぅ・・・・・・)
万事休す。一応武器は持っているとはいうものの、ここの魔物がか弱いサシャナの攻撃などものともしないことは目に見えていた。
(どうしよう・・・・・)
一人で突っ走ることが危険極まりないことだということは十分承知していたはずだった。つい、高ぶった感情にしてはならないことをしてしまった、と彼女は後悔していた。
ともかく突っ立っていても何も始まらない、解決しない。すぐ近くまで迫ってきている彼らに背中を見せることは、彼らが嬉々として襲ってくる元だった。サシャナは、覚悟を決めて剣を構え、近づいてくる魔物を睨む。

−トントン!−
と、そんな彼女の肩を軽く叩く者がいた。ぎくっとして振り返るサシャナ。確か背後には魔物らしき影はなかったはずだった。
「ふっくん!・・・あ・・たっくんも!もっくんも!」
そこにはにっこりと笑ったスケルトンが3体いた。そして彼らはサシャナに早く乗れ!というように騎馬を作る。
「あ・・うん!」
そして、彼らはサシャナを乗せると、ものすごいスピードで一目散に駆けた。途中敵と遭遇しながらも、それら一切を無視し素通りし、ひたすらニールの元へ。


「お!さすが3人(?)組だな。見事サシャナを見つけたじゃないか?」
彼女たちを迎えたのは勿論ほっとした顔のニールだった。
「ご、ごめんなさい・・ニール」
「二度はごめんだぜ?」
「う・・ん・・・。」
スケルトン3人組の騎馬から下り、ばつの悪そうな顔をして小さな声で謝ったサシャナに、ニールはほっとした笑みと少し睨みの混ざった顔で答えていた。

−ポン!−
「ん?」
サシャナと笑みを交わしているニールの肩を叩くと、その3人組スケルトンはウインクしてその場を離れていく。
「な、なんだ?・・・・あ、あのな〜、お前たち何か勘違いしてや・・・」
去っていく彼らの目は、どうみてもニールに「うまいことやれよ、ボス♪」と言っていた・・・。
「なんなんだ、あいつらは?」
「気をきかせてくれたつもりかしら?」
「何の気だってんだ?」
「さ〜?・・・・」
仲間として探しに来てくれたのかそれともそれ以上なのか・・・サシャナの少ない人生経験ではニールの気持ちは判断できなかった。
「そうよね・・・まだいいわよね?」
「ん?何がいいんだ?」
「あ、ううん。なんでも。」
ニールは純粋にサシャナが無事だった事を喜び、そして、サシャナは、そんなニールにひとまず満足していた。


「だってまだ若いんだもん。何も今からニールに決めなくてもいいでしょ?これからいい人と出会えるかもしれないし。」
ともかく最後の魔王バールを倒すこと。全てはそれから、とサシャナは思っていた。そしてニールとならそれは可能なはずだ、と彼女は確信していた。
ニールとあたしなら、と。

 

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