『ニールとゆかいな仲間たち♪』
== ネクラ・・もとい!ネクロマンサー、ニールの徒然冒険記 ==

その16 ピクニック気分で楽しく?

 「おい、さっきから何見てるんだ?」
捜し物の探索は難航していた。この土地のどこかにあることは確かである、カリムの目、心臓、脳そしてそれに必要なフレイル。どこにあるのか皆目検討も付かない。しかも情報はゼロに近い。二人は毎日遅くまで森の探索をしていた。
その日も朝早く町を出、森に入っていた。
並んで歩くサシャナが何やら紙切れに目を通しているのに気付いたニールが聞く。
「あ、あのね、今日の依頼リスト。」
「依頼リスト?」
「そう。鳥4羽、カエル3匹、水蛇1匹、それから、フェティッシュが持っている出刃包丁・・よく切れそうなやつ。」
「な、なんだ、それ?」
「『なんだ』って、町の人たちからの依頼よ。」
「依頼って・・・・」
いつなんでも屋になったんだ?とニールは呆れ笑いしていた。
鳥やカエルと言えば聞こえがいいが、それらは決して普通のものではなく、魔物なのである。この辺りではどうしても魔物に襲われてしまうので、家畜は飼っていない。食肉は流通に頼っており、舟でしか流通経路もなかったこの地では、結構高値だった。その代用として魔物の肉に目をつけたわけだが・・・その魔物は手強く、十分腕のある戦士でなければ狩ることができない。それまでにニールもサシャナも口にしていた。魔物と知らなければ普通の食肉で十分通る味である。ということで、注文があるのも納得できる事なのである。
「だって、なかなか見つからないじゃない?手ぶらで帰るのもなんだし、どうせなら仕事を引き受けた方がいいんじゃないか、と思ったの。」
「『思ったの』って・・・・そりゃ難航はしてるが、大事な捜し物なんだろ?急いでるんじゃなかったのか?」
「うん、それは分かってるわ。でもいいじゃない、ついでだもん?」
にこっと明るく笑って答えるサシャナにニールは返す言葉を無くしていた。
「ついでと言ゃーついいでだが・・そんなの引き受けてもたいした金にならないんだろ?それよりお宝探しの方がいいんじゃないか?」
「お金のことを言えばそうなんだけど、でも、人の役に立つって何か楽しくない?」ニールを見上げ、しばらくみつめていたサシャナは、にこっと笑う。
「う〜〜ん・・・・・オレとしちゃ、どうでもいいんだが・・・・」
そんなことよりたまにはのんびりと昼寝がしたい、とニールは思っていた。確かにエリーの時とは違い、サシャナとの探索は悪くないとは思っていたが、常に元気はつらつ、辺りをはね回っているようなサシャナと一緒では、お気に入りの昼寝の時間がなかった。
「じゃーねー・・今日頼まれた分捕獲したら、ちょっとゆっくりしましょ。遺跡のてっぺんなんかお日様が当たって気持ちよさそうよ。あそこまで上がればきっと風も気持ちいいわ。」
「珍しいこと言うんだな?・・それでこんなに快晴なのか?」
雨の多いその地で、見渡す限り雲一つないぽかぽかの陽気はニールがここに来て以来初めての事だった。
「あら、何よ、せっかく今日は息抜きさせてあげようと思ったのに。」
「思ったのに、じゃないだろ?じめじめしてる地下や蜘蛛の巣に入りたくないだけなんだろ?」
「えへへ・・ばれちゃった?」
ぺろっと舌をだし、サシャナは笑う。森や廃墟の村は隅から隅まで捜し終わっていた。後はサシャナが嫌がって二人で探索を始めるようになってからまだ入っていない蜘蛛の巣と・・・・入ってもすぐ出てきてしまう地下の探索が残っていた。
「お目付役を果たしてないだろ?・・・まったく、女の子に甘いのはじーさんの方じゃないのか?」
「え?・・・・ひ、ひょっとして、ばれてた?」
ニールは軽く笑いながら、サシャナの額とぴん!と軽く指で弾く。
「じーさんがにやけた顔をしてあんたにサインを送ってたからな。」
「あら・・・。」
ばつの悪そうな顔をして、ごまかし笑いをしたサシャナに、ニールは顔を軽くしかめながら肩をすくめる。
「ま、いいんだがな、オレは気にしちゃいない。」
「そう?」
「ああ。」
「ホントにホント?怒ってない?」
「怒るも何も・・・」
自分の顔を真下から覗くようにして見上げているサシャナに、ニールは笑う。
(生まれて初めて人間と一緒にいて楽しいと思っちまったからな・・・。)
「何も・・なんなの?」
「あ、いや、別に。ただ・・」
「ただ?」
「サシャナの笑顔はどんなものより勝るってことさ。」
「え?・・なんて言ったの?」
小声で答えたニールの言葉がはっきりと聞き取れずサシャナは聞き返す。
「別になにも・・。」
「何もってことないでしょ?何言ったの、今?」
ニールはじっと自分を見つめているサシャナに改めて答えるのが照れくさかった。
「だから・・・」
「だから?」
「じーさんに言われると怒れるような事でも、サシャナにならかまわないってことさ。例えその後ろにじーさんの影(指示)があったとしても。」
「え?」
ニールが誉め言葉を知っているとは思わなかったサシャナは、その言葉があまりにも意外でまたしても聞き返す。
「ほら、さっさと獲物を狩るぞ。それともばれたからパーティー解散か?」
そのサシャナに、ニールはからかうように言って先に立って歩き始めた。
「あ!待ってよ、ニール!」
そのニールに駆け足で追いつくと、サシャナは顔をのぞき込む。
「私、流されるの好きじゃないの。ニールの事が気に入らなかったら引き受けないわ。」
「ホントにサシャナは変わってるんだな。ネクロマンサーのどこがいいんだ?」
思いがけないその言葉に足を止めてニールは苦笑いする。避けて通られるのが当たり前のネクロマンサー、例え目的が一緒でも、共に行動しようとは思わないのが普通のはずだった。
「そうね・・・」
サシャナは相変わらずニールを見つめながら言った。
「ネクロマンサーが、じゃなくて、ニールなところがいいの。」
「なんだそりゃ?」
「いいから、行きましょ♪」
確かに最初ネクロマンサーに関しては、魔物の召喚と呪術ばかり研究しているネクラで、できたらつきあいたくないと思っていた。が、話してみるとニールはその辺りにいる男よりピュアなハートを持っているのかもしれない、と彼女は感じていた。
「ほら、早く〜、ニール!」
サシャナは、ニールの腕を取って森の道を引っ張って進んでいった。

そして・・・
「あん、ニール、注文は生なのよ。焼いちゃだめなんだから・・・ファイヤーゴーレム消しちゃってよ。メイジスケルトンもだめ。それから勿論ポイズンメイジもだめよ。食中毒にでもなったら大騒ぎになっちゃうからね。」
「おいおい・・・言ってることは分かるが・・・こっちの身にもなってくれよ。普通のカエルや鳥じゃないんだぞ?安全地帯で見ているだけのサシャナはいいだろうが・・・。」
「それは分かってるけど。・・じゃーさ、ブラッドゴーレムにぶん殴らせて気絶させちゃえば?」
「一番オレが疲れるやつだろ、それって。」
召喚師自身の体力を削って召喚するブラッドゴーレム。彼が受けるダメージはニール自身に直接跳ね返ってくる。それは他の魔物より強力である分、負担も大きかった。
「ニールなら大丈夫よ!」
安全地帯で時には魔法で援護しながら指示を飛ばすサシャナに、ニールはそれでも苦笑いしながら従っていた。
そして、狩った獲物をサシャナの氷の魔法で冷凍にすると、転移の門で町まで運ぶ。肉も傷まないし、血も流れないから丁度良い。簡単と言えば簡単なのだが、一体オレは何をしてるんだろう?とふとニールは自分の行動に疑問を感じてしまった。

「ご苦労様、ニール。これで全部終わったわ。じゃ、お風呂へ入ってから行きましょ♪」
町の依頼屋に捕獲してきた獲物を納め、代金を受け取るとサシャナは上機嫌でニールに微笑んだ。
「風呂ぉ〜?」
風呂は大嫌いなニールである。しかも徹底的に洗ってから出ないとサシャナに怒られる上に、入り直しさせられる。ニールにとってそれは面倒極まりない事だった。
「お風呂上がりにゆっくりするって、一番いい気持ちじゃない?」
「それは分かるが・・そこまで行くにだな・・。」
魔物との戦闘は、風呂上がりのさっぱり感もすがすがしさも無くすのに十分である。
「大丈夫。直行の転移の巻物手に入れたから。」
「へ?そんなのあるのか?」
「うん。ケイン長老があんまりうるさかったから、そんなに言うなら、遺跡まで簡単に行けるアイテムでもちょうだいよ!って言ったら・・。」
自慢げに輝くサシャナの瞳を見ながら、ニールはその先を言う。
「ホントにあったのか、そんなものが?」
「そ。」
「・・・あのじじぃ・・・出し惜しみしやがって・・・」
ケインの何処吹く風といった飄々とした表情を思い出し、ニールは思わず呟いた。
「ということで、お昼寝の後はちょっと運動になるかもしれないけど、いいでしょ?」
「・・・わかった、わかった。サシャナにゃかなわねーよ。」
転んでもただでは起きないケイン長老でさえもあごで使うサシャナ。ニールは頼もしくも、そして、恐ろしくも感じていた。
・・・が、そんな調子でぽんぽん言われても、憎めない感じをニールは持っていた。どこかあぶなっかしく目を離せない妹に対するような気持ちを感じていた。

 

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