『ニールとゆかいな仲間たち♪』
== ネクラ・・もとい!ネクロマンサー、ニールの徒然冒険記 ==

その15 雨あられ時々雷、そして春? 後編

 「きゃっ!」
追いついてきたニールに後ろからぐいっと掴まれサシャナは声をあげる。
「待てよ。この先は蜘蛛なんかよりずっと手強い奴ばかりだぞ?」
「大丈夫よ!私には魔法があるわっ!」
きっとニールを睨みあげ、サシャナは叫ぶ。
「いいから、待て!」
ブン!と今一度転移の門を出すと、ニールはぐいっとサシャナを引っ張って街へと連れ戻った。

「な、何よ?どうしてくれんのよ?せっかくあそこまで行ったのに?」
街へ戻ると同時に、転移の門を消してしまったニールに、サシャナは怒る。
「いいから、少しは落ち着け!」
「落ち着けって・・・わ、私をどうしようって言うの?」
未だにサシャナの腕を放さないニールを睨み、彼女はきつく睨む。
「あ・・・悪い。別にどうするわけでもないんだが・・・離すとまた走り出してしまいそうだからな。」
悪びれず照れ笑いで言うニールに、サシャナは悲しげにため息をつく。
「どうせ私みたいなお子様は興味がわかないっていうんでしょ?」
「ん?なんか言ったか?」
「あ、ううん、何も。」
「立ち話もなんだな・・・どうだ、メシでもおごるぞ?」
ケインが今にも現れそうでニールは落ち着いていられなかった。見つかればきっと・・・・また煩いなんてもんじゃない。
『なんじゃ、ニール!気楽におなごとなんぞ遊んでおって。早く探さぬか!魔王ディアブロに先をこされでもしたら・・・。』
「ふ〜・・・・」
想像しただけでため息が出た。
「どうしたの?」
「あ、いや、別に。」
ため息と苦笑いしたニールに、サシャナは怪訝そうな表情で見上げていた。
「腹が減ってないんなら、飲み物でも軽くどうだ?」
「う、う・・ん・・・。」
悪い人ではなさそうだ、とサシャナは感じていた。飄々としたといったらいいのだろうか、確かに見た目は少し陰気で・・できたら避けたい感じだったが、話した感じはそれほどでもなかった。
(しかたないわね・・・・)
ともかく、サシャナはしぶしぶニールに従った。


「じゃー、何か?この春卒業したっていうか、免許皆伝ってのは本当なのか?」
「あ・・う、うん。」
カウンターの隅に座り、二人はあれこれ話していた。
「最初からあまり無理はしない方がいいんだぜ?そうだな、順序を踏んでいくといえば、やはりローグキャンプ近くからの方がいいんじゃないか?」
「・・ホントは、私、ここへ来る前に行ってみたのよ。」
「で、どうだったんだ?あそこにいる奴じゃもの足りないってか?」
「・・・・・」
恨めしそうな顔でサシャナはしばらくニールを見つめていた。
「な、なんだよ?」
「だって・・・魔物を倒そうと張り切ってムーアに出たら・・・」
「出たら?」
「『お♪可愛い子ちゃん発見!ねーねー、お嬢ちゃん、一緒に遊ぼ♪』って・・・スケルトンやフォールンが・・・にこにこ顔で縄跳びなんか始めて・・・挙げ句の果てに、『おじょぉさん〜、おはいんなさい♪』なんて歌い始めて・・・・」
(置いてきた奴らだな。)
ニールは思わずその光景を想像して、今少しで吹き出しそうになった。
「呆気にとられて立っていたら、私の手を勝手に握って1匹のフォールンが縄の中に私を連れてったの。で・・・気が付いたら人数が増えてて・・・みんなでギネス記録に挑戦だー!とか言って、すっかり熱くなってた・・・・・。」
「な・・なるほど・・・・・」
完全に彼らのペースにはめられたわけか、とニールは納得していた。
「そんなこんなで・・・・ふ〜・・・」
サシャナは大きくため息をついた。
「あの辺りの魔物なんて全部そんな感じだったわ。敵じゃなくて完全にお友達だったわ。・・・そんなんだから腕を試すもあげるも・・・なかった。」
「そ、そうか・・・・。」
まさかそこまでニール組が浸透しているとは思わなかったニールは、喜びとそしてある種の焦りも感じていた。
「で、そこは・・まー、そんなだから仕方ないとして、ここへ来る前のラット・ゴーレインとかは?」
「ここへ来るにはあそこからしか来れないから勿論行ったわ。でも・・・・」
「でも?」
「私、虫だめなのよ!おまけに蛇でしょ?」
「あ、ああ・・・そういえばそうだったな。」
サシャナの言葉に、彼らがうじゃうじゃぞろぞろと出てきた時をニールは思い出していた。確かにあまりいいものではない。
「ああ・・もう思い出しただけでぞっとするわ。」
「まー、ここはああいった虫類はいないが・・・・巨大蜘蛛は相変わらずいるぞ。」
「そうなんだけど、巣の中や近くに行かない限り滅多にあわないから。」
「ゴーレムなんかはどうなんだ?」
「ああ、そういうのは大丈夫。みんな凍らせてから割る事にしてるわ。」
「そ、そうか・・・・・。」
ひょっとしたらそれなりの魔力はあるのかもしれない、とニールは思っていた。あの巨大なゴーレムを割って倒すことができるほど長時間術が利いていると言うことは、それ相応の力がなくては持たない。
「なんとか一体倒すくらいしか魔力が続かないのが難点なんだけど。」
ガタタ・・・思わずニールはイスからずり落ちていた。それはつまり術を連続してかけながら必死で砕いてるということである。
「ねー、ニール・・」
「なんだ?」
それまでカウンターの前を見つめていた視線をニールに向けると、サシャナは懇願する。
「一緒に行ってくれない?」
女性特有の潤んだ瞳で懇願するサシャナに、ニールは思いもかけずどきっとする。エリーの半強制的な罵声による命令なら、何処吹く風で聞き流すことができる。が、頼り切った瞳で見つめられては・・・・例え相手がかわいい自分の召還した魔物でも魅力的な大人の女でもなくとも・・・確かにニールの心にぐっとくるものがあった、少しだが。
・・・サシャナも一応女の武器をそれなりに使うことは心得ているらしい。
「オレなんかでいいのか?」
そんな自分にまだ人間味が残ってたか、と思いながらニールは自嘲気味にサシャナに言う。町には屈強な戦士が大勢いる。何も好きこのんで誰もが避けて通るネクロマンサーを探検のパートナーに選ばなくとも、見目の良い戦士ならごろごろいる。たとえ・・・サシャナが言うようにスレンダーな未成熟児であろうとも、好みは十人十色、中にはそれがいいと思う男だっているはずだ。
「正直言うと・・・ネクロマンサーはどうもっていう感じはあったの。」
(やっぱりな・・)
向こうを見て苦笑いしているニールにサシャナは慌てて付け加える。
「でも、あなたはどこか違うっていうか・・。」
「無理しなくていいんだぜ?オレは命の恩人とか言う気は毛頭ない。お互い様だからな。」
「あ・・そ、そうじゃないのよ。本当に。」
サシャナは自分の方を見て軽く笑ったニールをじっと見つめる。
「な、なんだよ?」
「ニールって・・・実は結構いけるんじゃないの?」
「はん?何がだ?」
サシャナが何を意味しているのか全く分からず、ニールはきょとんとして彼女を見つめる。
「ね、顔は、いつ洗ったままなの?」
「顔?・・・そんなのいつだったか・・・・い、いいだろ?顔くらい洗わなくても死にゃーしないし、戦闘にも関係ない。」
それでも、そんなに汚れてるか?と顔に手をあてるニール。
「ふ〜〜ん・・・・髪もぼさぼさだし・・・磨けばもう少しましになると思うんだけどな。」
「そんなのオレの勝手だろ?あんたに言われる覚えはないぜ?」
「ダメよ!大ありよ!」
「は?」
「だって、魔物退治のパートナーだとしても、格好悪いよりいい方がいいでしょ?」
「お、おい、ちょっと待てよ。オレはまだ一緒に行くとは言ってないぞ?」
明らかにニールはサシャナの勢いに押され始めていた。
だいたい森にいる魔物にでさえサシャナの力が通用するとは思えなかった。お荷物は願い下げたい。
「いいから、いいから・・・ね、ちょっと来て!」
「あ・・お、おい、なんだよ?」
サシャナはぐいぐいとニールの腕を引っ張り、酒場の奥にある宿代わりに使用されている部屋へとつれていった。
「お、おい・・・・」
(な、なんだ、まだガキのようにみえるが、大人だってのは本当なのか?・・・ま、まー、別にオレはいいが・・・・)
が、ニールの期待は外れ・・・洗面所へ連れていかれたかと思った途端、サシャナはザバザバとタオルを濡らして次ぎに、ニールの顔を拭き始めた。
「お、おい・・やめてくれって・・・よけいなお節介は・・・・」
「ダメ!ちょっとじっとしてなさい!」
止めようとするニールをサシャナはきつく睨んで叱る。
(は〜〜・・・・な、なんだよ、これは?)
エリーの方が扱いやすかった、などと思っているうちも、ごしごし、ざぶざぶと続いていた。
「はい、今度は髪よ。後ろ向きになって!」
ぐいっと引っ張られたニールは、もうどうにでもしてくれ状態。
サシャナは、その臭いにちょっと顔をしかめながらも髪を洗い始める。

そして・・・・


数十分後、最後には風呂へも入れさせられ、(さすがに中には入って来なかったが、十分綺麗に洗うまでダメよ!と念をおされた)ニールは記憶がある限り、こんなにさっぱりしたことはない。

「いいわよ、ニール♪見違えちゃったわ。」
サシャナの用意した服に着替えたニールは・・・それまでとはまるっきり人相が違っていた。
薄汚れていた顔は勿論、ぼさぼさだった髪もすっきりと後ろにまとめられ、服装も
変わり・・・誰がみてもそれはニールとは分からないだろうと思えた。
「ひょっとしてこの格好ならじーさんにもばれずにすむかもしれないな。」
「え?」
サシャナにすすめられ、渋々鏡を見たニールのその呟きに、彼女は何のことかと訊ねる。
「いや、たいしたことじゃないんだが・・・・。」
「ふ〜〜ん・・・でも、これで一緒にいても格好悪くないわ。」
まだ一緒に行くとは言ってないぞ、と言おうとしたニールは、サシャナの嬉しそうな顔に、その言葉を飲んでしまった。
「じゃ、行きましょ!」
「もう行くのか?・・・しかもこのカッコで?」
あまりにもこざっぱりしすぎてニールにとっては、何か落ち着かなかった。
「ニールだって汚いって後ろ指さされるより、カッコいい!って見られた方がいいでしょ?」
「どうでもいい気もするが・・・あ、いや、そうだな、うん。」
ニールにとって人々の間の評価などどうでもよかった。が、初めの言葉にサシャナの表情が少し陰った気を受け、慌てて彼女に賛同した。
「仕方ない・・・それじゃー、もう少しポーション類を仕入れて来よう。」
どうあってもついてくる気のようなサシャナに、ニールは大きなお荷物を背負わなくてはならないことを覚悟した。
「私は、ちょっと情報仕入れてくるわね。じゃ、またここのカウンターのところで会いましょ。」
「そうだな。」
「嘘ついて置いていかないでよ?!」
「わかった、わかった。オレは嘘は付かない主義だ。」
「じゃ、安心ね。」

嬉しそうに微笑みをみせ部屋から出ていったサシャナの後ろ姿に、ニールは苦笑いしながら、頭を掻いていた。
「なんでこんなことになっちまったんだ?」


「ケイン長老!うまくいったわよ!」
酒場から離れた町の片隅。サシャナはケインに会いに来ていた。
「お?そ、そうか。さすがじゃの。やっぱり女の子には弱いとみえる。」
「だから、いい?私の持ってきたものはただで鑑定してよね?」
「わかった、わかった。じゃから、ほれ、さっさと探しに行かんか?」

サシャナのちゃっかりさに呆れながらもケインは上機嫌だった。それというのも、そもそもサシャナとニールの出会いを計画したのは、他ならぬケインだったからである。
それは、エリーが金輪際ニールとは関わり合いたくないとケインにきつく言い含めて帰り、他にニールの尻を叩く者がいなくなったからである。早くしなければ、世界は魔王の恐怖に染まる。が、ニールは相変わらずである。
頭を抱えていたケインの前をちょうどその時ここへ来たばかりのサシャナの走る姿が目に入ったというわけである。
そして、直感的に彼女ならニールが気に入るのではないか、と思った。そこまでいかずともエリーの時のように毛嫌いはしないだろうと感じた。
それはつまり・・・サシャナ本人には口が裂けてもいえないが・・・(言えばへそを曲げて聞いてくれなくなる。)あの細さは・・スケルトンに匹敵するのではないか、とケインは思ったわけである。それなら、ニールの気をひくはずである。そして、ケインの思惑通り二人はパーティーを組むことになった。
サシャナに対する鑑定料と情報料をただにするという取引だが、ケインとしてはそのくらいさほど痛くはない。ニールの力を大いに買っているケインは、魔王を倒すことが出来るのはニールしかいないとみていた。ただあの呑気さになんともいえないほど苛立ちを覚えていた。が、それもこれでサシャナは上手に尻を叩いてくれそうだ、とケインは大満足だった。

「わかってるわよ。今ポーション買いに行ってるの。そしたら出かけるから。」
にこにこ顔でも、早く行かんか、という表情のケインに、サシャナは少し抗議の表情を作る。
「そうか、そうか。くれぐれも気をつけての。」
こんな事で彼女のご機嫌を損ねてはせっかくの計画も水の泡になる。ケインはにこにこと頷いてみせる。
「まっかしといて!」
ばっちん!とサシャナはケインにウインクすると、酒場に向かって走っていった。
「ほんに、元気の良い娘じゃて。」
動くのが何よりも好きだと言ったサシャナ。魔法力はどうみてもまだまだだったが、ニールがついていれば大丈夫だろう、とケインはふんでいた。
「あの勢いにはわしでも振り回されるからの。ふぉっふぉっふぉっ!」

転んでもただでは起きぬケイン。エリーが使えないとみると、すぐさま次を用意する周到さ。ニールは・・・見えない糸に踊らされる人形なのだろうか?いや、すでにそうなのかもしれない。
・・・・知らぬが仏とはこのことなのだろう。


が、どういうわけか魔の森の道行きは、結構楽しそうにみえた。
「ねー、ニール、フェティッシュのシャーマンを倒したら、肩車してくれない?」
「肩車?」
「ニールの肩に乗ってあのお面をつけてマントを羽織ってビッグシャーマンだぞ!って言ったらみんなひれ伏さないかしら?」
「ははは、そんなに簡単に行くかな?」
エリーの時と違って、ニールもどこそこ嬉しそうな表情でサシャナと話していた。
「とにかく、さっさと集めちゃいましょ。カリムの目と心臓と脳。それからフレイル。」
「おいおい!そんなに急かすなよ。」
「そういえばさ、フェティッシュの秘造酒がどこかにあるって聞いたけど・・・それもいいわよね?」
「おいおい・・・」
呆れ顔をしながら、ニールは飛び跳ねながら先を行くサシャナの後を追って行った。

 

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