『ニールとゆかいな仲間たち♪』
== ネクラ・・もとい!ネクロマンサー、ニールの徒然冒険記 ==

その13 殿下と靴下とぼろ雑巾(後編)

 「ニ、ニール殿っ!」
「なんだ?」
「た、大変ですじゃ、ニール殿っ!」
ニールが転移魔法で町へ戻るや否や、その姿を見つけたケインが真っ青な表情でニールに駆け寄ってきた。足腰の弱ったその老人は、ともすると転びそうになりながら。
「なんだよ、長老?太陽は取り戻してやったぜ。それもかなりアップテンポでな。おかげで疲れきってんだぞ、オレは。」
大丈夫か?と言うように、転びそうになって自分のところに来たケインを一応抱きとめる。(本当なら老人より若い女性の方がいいが。)
「い、いや・・それはいいんじゃが・・・大変なんじゃよ!」
息を切らしてケインはなんとか言葉を口にする。
「あ?」
強敵相手にニールは散々苦労してきたところだった。というのに、『それはいいんじゃが』などと軽く言われ、さすがの温厚(天然ボケ?)のニールも頭に来た。
「なんだよ、じーさん、それ?オレはなー・・・・」
「そ、それどころじゃないんじゃ、エリーがエリーが・・・」
が、ニールの言葉などケインは全く耳にしない。
「なんだよ、それどころじゃないって、オレがどんなに苦労したかわかってんのか?・・・って、エリーがどうかしたのか?」
怒りのあまり文句を言ったニールだが、ケインの最後の言葉にいやな予感がよぎる。
「エ、エリーがさらわれてしまったんじゃ!」
「は?・・・・って、どこのどいつがあいつをさらったんだ?物好きもいいかげんに・・・」
「ニール殿っ!」
さらわれたと聞いても落ち着き払っているニールに、ケインは激怒したというより焦りを覚える。
「魔、魔物に、・・イ、イヤ、魔物を先導した降魔術師に、じゃ!」
ケインはニールにくってかかるように叫ぶ。
「んなシワだらけの顔をくっつけて話さなくても聞こえるぜ。・・・・で、なんでエリーなんだ?」
「そ、それはつまりじゃな・・・・宮殿の女たちはみんな殿下の手がついておってじゃな・・・あ、イ、イヤ・・それは別にいいんじゃが、ともかく降霊の術の生贄に使うつもりなんじゃろう・・・」
「は?」
「いや、昔から生贄は小動物か処女と決まっ・・・・あ、そうじゃない場合もあるか・・・じゃがまー、その方が上質じゃということは確かじゃな・・・ひゃっひゃっひゃっ・・・」
「おい・・気持ちの悪い笑い方するなって。・・・って、ちょっと待て・・話がみえないんだが・・・エリーはキャンプ地へ戻ったんじゃないのか?」
「あ、いや、実はジェリン殿下に頼まれての、宮殿のハーレムの警護についておったんじゃ。」
「ハーレム?」
「あ、ああ・・そうじゃ。で、運が悪くちょうど彼女たちが隠れておったところの地下に奴らは道を開いてしまっての・・・無残なものじゃった・・・奴らにずたずたにさかれ餌にされてしまったんじゃ・・・・美女ばっかじゃったのに・・・もったいないことを・・・・。」
「じーさん?」
「あ、い、いや・・・・エリーが美女でないとは言っとらんぞ。」
「なんでそうなるんだよ?そんなこと言ってやしないぜ?」
「あ・・そ、そうなのか・・・あはは・・そうじゃろの〜。ひゃっひゃっひゃ・・」
「おい、じーさん?!」
「あ、すまん・・・」
ニールのきつい視線に、つい余談に飛んでしまったことに恥じるケイン。
「とにかく宮殿に急いでくれ!地下にエリーが連れていかれたと思われる秘密の聖域への道があるはずぢゃ。間に合うかどうかわからんが・・・ともかく急ぐんじゃ!」
「『急ぐんじゃ』って・・・誰も助けに行ってないのか?」
「行っておる。もう何人も・・・。殿下も必死になって後続部隊を送ったんじゃが、逃げ帰って来た者はおっても、奥まで進めた者は、おそらく一人もいないじゃろう。それに、もう送り込みたくても行こうと言う者がおらん・・・・。」
悲しげにケインは首を振る。
「ったく・・・エリーも何どじったんだか・・・・・危なくなったらさっさと安全地帯へ逃げる戦法はどうしたんだ?・・・あ、でも、その手はオレたちと一緒だからできたことか・・・・。」
ふ〜〜〜〜っと大きくため息をつくニール。
「ったく・・・人をあごで使っておいて・・・おまけに今度はこれか?・・・・」
頭をぐしゃぐしゃかいてニールはいらだつ。
「危険をおかして助けに行くってのは、相手がお姫様って領分が決まってんだぜ?!」
(あいつのどこがお姫様だ?)
ニールは怒っていた。純粋に。
「・・・しかし、助けにいかないわけにもいかないよな〜・・・」
そして再び大きくため息をつく。
「オレがこっちへ呼び寄せちまったみないなもんだし・・・・」
できればこれ以上エリーとかかわりたくなかったのはニールも同じだった。
「ニール殿っ!」
なかなか行こうとしないニールに、ケインはしびれをきらして叫ぶ。
「はいはい、わかったわかった!行きゃ〜いいんだろ?行きゃー?」
そう言って宮殿の方向へ行きかけ、ニールはくるっと再びケインのほうを向く。
「なんじゃ?」
「結構よさそうなもん見つけたんだ。鑑定頼むわ。ただし、今回は『ただ』な。」
ごそごそと荷袋を開けるニール。
「・・・・だめじゃ、1個、200G。」
「おい、じいさん!オレは素直に言うこと聞いてやってんだぞ?」
「いや、それとこれとは話が別じゃ。それにわしが依頼人というわけではないんじゃからの。」
「この・・・業つくじじぃ!」
まいど〜〜と言わんばかりににこにこして手を差し出すケインに、金貨を払い、ニールは苦虫をつぶした顔で睨みつつ鑑定をしてもらった。
「・・・ったく・・・・・疲れきってるってのに・・・」
そして、回復ポーションを飲みつつ、宮殿へと向かった。
が、心なしかいつもより足早ではあった。ニール本人はそのつもりはないのだが。


そして、宮殿の入口で出会ったジェリンをぎろっと睨むと、ニールは説明を聞くのもそこそこに地下へと足を踏み入れた。
そこは、あたり一面血しぶきで染まり、あちこちに肉や骨の断片が飛び散っているという地獄の惨状を呈していた。
「・・・さすがにここまで装飾されてると、いい気分とは言えないな。」
待ち受けている魔物もまた一段と強力で凶暴だった。
「こりゃー、ちょっと本腰入れないとやばいかもな。」
そして、戦闘の合間にしばし考える。
「よし!精神力回復ポーションを山盛り買って来よう。」
くるっときびすを返して、来た道を戻ろうとして、その先に新たに出現した魔物を見つける。
「そういや転移の巻物って、まだあったよな?」

「こんな奴らと正面きって戦うなんて、命がいくつあっても足りゃーしねーって!」
己のポリシーに従って、召喚し続けながらニールは突き進んでいく。が、今回そうは言いながらも結構肉弾戦もしてたのは・・・やはりエリーの命がかかっていたからだろうか?
真実は闇の中(ニールの心の奥深く)だが、ともかく・・・・間一髪、鋭い首狩り鎌がエリーの首元に下ろされようとしていた直前、ニールの急襲は間に合った。

が、降魔導師と周りを固める強力な魔物を必死の思いで倒し、助けたエリーはやはりお姫様ではなかった。
生贄の祭壇の上、一糸纏わぬ姿で横たえられていたエリーは、目覚めると同時に自分の姿に驚く。そして、瞬時にしてその状況を誤解して取ったエリーは、ちょうど視野の中に入っていたニールの頬にこれ以上のものはないというほどの張り手をくらわしていた。
−バッチーーーーーンッ!!−

そして、その誤解は町へ帰り、ケインから説明を聞くまで解けなかった。
もっともエリーの究極のリミットブレークの前には、たとえそれが事実であろうとも、どんな言い訳も通用しない(特にニールの言葉では)というそれまでの経験に基づき、一言も状況説明しなかったニールにも原因はあったが・・・。

「・・・あ、ありがと、ニール・・・。それと・・ごめんなさい。」
今更どんな顔して言えばいいのか、としばし思案もしたが、それでも勇気をだして、酒場のカウンターで呑んでいるニールに、エリーは背後から礼を言った。
「ああ。いいさ、済んだことだ。」
小さく聞こえたエリーの声に振り向きもせず短く答えてから、ニールは思い出したように振り向いて付け加えた。
「で、経験ないってのはホントなのか?」
ニールのその顔は久しぶりに酒場でのリラックスとあって随分アルコール度が上がっているように見えた。
「な・・・・」
しおらしかったエリーの顔が怒りと恥ずかしさで一気に赤く染まった。
−バッチーーーーーンッ!!−
再びエリーの張り手が炸裂したというのは言うまでもない。

 

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