『ニールとゆかいな仲間たち♪』
== ネクラ・・もとい!ネクロマンサー、ニールの徒然冒険記 ==

その12 殿下と靴下とぼろ雑巾(前編)

 「失礼・・・エリー嬢では?」
「え?」
町に戻り、アトマが経営している酒場で食事をとっていたエリーは、不意に声をかけられて振り向いた。
そこには頭にターバンを巻き、いかにも砂漠の街にふさわしい格好をした、しかも品のいい青年が立っていた。
「そうですけど・・・あなたは?」
ローグの格好をしている彼女は、間違っても『嬢』とは呼べない。その『嬢』と呼ばれたことと、彼に全く心当たりはないエリーは、怪訝そうな顔で答える。
「失礼しました。私はジェリンと申します。不肖ながら、この街を治める立場にある者です。」
「あ・・・では、あの宮殿にお住まいの・・・ジェリン殿下?」
「はい。・・・あの、よろしいでしょうか?」
にこりと品のいい笑みをみせ、彼はエリーの横の席に座ることの許可を乞う。
「え、ええ、勿論です、殿下。」
「ありがとうございます。」
上品に軽く会釈すると、彼はエリーの横のイスをひいて座り、エリーに視線を合わせると、今一度笑む。
エリーは、思わず頬が熱くなるのを感じる。勿論今回のはニールに対したときの理由ではなく、乙女の恥じらい。
「ニール殿はロストシティーに?」
「は、はい。」
(何よ、結局ニールの話?)
ジェリンのその言葉に、エリーの夢見心地はガラガラと音をたてて崩れた。(笑
「実は、あなたの腕を見込んでお願いしたいことがあるのですが。」
そんなエリーの心のうちを知るわけもないジェリンは、笑みを保ったまま、いかにも品のいいソフトな声で話を続ける。
「なんでしょう?」
(まさかニールが無事帰ったら紹介しろなんてことじゃないでしょうね?あたしはこれ以上ニールなんかとかかわるのはごめんよ!)
そうは思いながらも、ジェリンの笑顔の前では、さすがのエリーもきつい表情はできない。
「実は・・・・これはまだ部外者にはどなたにも話してないのですが・・・」
「は?」
少し考えた後、その内容を話しはじめたジェリンの表情からは、笑みが消えていた。真剣そのものの表情にエリーもまた真剣に耳を傾ける。
それは、最近宮殿の地下からなにやら魔物の咆哮のようなものが聞こえてくるといったことだった。
「はっきりここからとは断定できないのです。ただ宮殿内の敷地である地下深くからといったことしか。それで、・・・実は、私の妻たちが恐がってしまってまして・・・」
「妻・・・たち・・・・」
思わずその言葉をリピートするエリー。
「ええ、そうです。」
ここでは統治者がハーレムを持つのは当たり前。ジェリンはそのことに対しては何も感じてないため、ごく普通に答える。
「そこで奥の離宮から、私の住まう宮の地下に彼女達を移そうと思っているのです。」
「地下?」
思わず地下牢をイメージするエリー。
「いえ、地下といっても内部は宮殿の他の部屋と何一つ変わりません。設備も十分整っております。」
表情には表さなかったつもりだが、そのエリーの考えに気づいたジェリンはにこっと笑って言った。
「あ、そ、そうなんですか。・・そうですよね。」
いくらなんでも自分の妻たちをそんなところに押し込めるわけはない、とエリーも一人納得しながら、わたしったらなんて失礼なこと・・・と思わず赤くなる。
「地下への出入口には屈強な護衛を配備するつもりなのですが、彼らに内部までの警備を命ずるわけにもいかないので、もし、さしつかえないようでしたら、あなたにお願いできないか・・と。」
「あたしに?」
「はい。なんといっても女同士ですし、ニール殿と共にアンダリエルを倒したエリー嬢なら、彼女達をお任せしても大丈夫だと思いまして。」
「あ・・・で、でも・・・」
話の内容はわかったが、責任重大であるその話にエリーは戸惑う。
「倒したといっても・・あれはニールの手柄であって、あたしは・・あまり・・・・」
仕事の安請け合いはできない。自分の器量は十分承知しているエリーは正直に話した。
「あなたの話はよく分かりました。ですが、別にあなた一身に責任を押し付けようなどとは思ってもおりません。私もそれなりに警護につきますし、それに、ニール殿がお戻りになられましたら、彼にも警護を依頼するつもりです。ですから、エリー嬢がそんなに責を感じられる必要は少しもありません。そうですね、彼女達の話し相手くらいのつもりでいていただければ。」
「でも・・・」
「戦士であるあなたがいるだけでも彼女達の気の持ち方も違ってくるでしょう。ですが・・」
「ですが?」
そっとエリーの手をとると、ジェリンは付け加えた。
「私個人としては・・・あなたには弓矢よりも花を、戦士としての厳しい洞察力を含んだ瞳よりも、私を見つめる穏やかな女性としての瞳を・・・持ってもらいたい、と、思ってますが。」
「・・・・・」
あまりにも唐突に、そして、さりげなく言ったジェリンのその言葉に、エリーは硬直していた。
(ち、ちょっとまって・・・落ち着くのよ、エリー・・・)
硬直の次は、心臓がドンドン!と大きく鼓動を開始した。顔は・・・火が立ち上りはじめたように熱くなってくる。
「えっと・・・・」
そんなエリーをジェリンは、相変わらず微笑みと共に見つめている。思わずジェリンの視線から目をそらし、握られた手をすっと引くいてから、エリーは自分に落ち着くように言い聞かせつつ答えた。
「そ、そうね・・・後ろの言葉は・・聞き流すとして・・・・依頼は、ひ、引き受けてもいいわよ。あたしがどのくらい役にたつのかは・・・わからないけど、彼女たちをほかってもおけないから。少しでもそれで彼女たちの気が休まるのなら。」
「そうですか。ありがとうございます。」
にこやかに笑みを浮かべ、ジェリンは席を立つと、エリーに手を差し伸べた。
「?」
握手を求めているとも違う。淑女の扱いなど受けたことのないエリーは、それが
何を意味するのか分からず、じっとジェリンとその手を見ていた。
「ははは、そうですね、名を馳せた戦士にこれは失礼でしたでしょうか。でも、私の目には、魅力的な女性としか映らなかったものですから。」
そこでようやくそのジェリンの手が何を意味していたのか悟るエリー。
−ガタ・・−
かなり動揺していた。が、ここはローグとしての誇りも・・そして意地もあった。それに妻『たち』という複数形の中に入れられてたまるもんか!という女のそれも。(笑
エリーは変わらず微笑みかけているジェリンから視線を逸らし、傍らに置いた弓矢をぐっと持つと彼と共に店をあとにした。

 

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