『ニールとゆかいな仲間たち♪』
== ネクラ・・もとい!ネクロマンサー、ニールの徒然冒険記 ==

その7  オレタチミンナ、ニールグミ・・・アウトローたちの巣窟

 


 「そ、それ、本当ですか?」
ローグキャンプで、傭兵頭であるカシャから呼び出されたエリーは、目を丸くして驚いた。
「嘘ならいいんだが、洞窟へ入った数人のローグたちがそう言ってるんだ。ここのところニールはキャンプへ顔を出さないし。ということで、調べてきてくれないか?ニールと合流するかどうかは、お前の判断に任せる。」
「洞窟の調査くらいなら、私一人で十分です。」
エリーは、少しむすっとした表情で答えると、さっそく荒野へと、洞窟へと向かった。

 −ガヤガヤワイワイ・・・−
「な、なによ・・・これ?」
キャンプ地に一番近い荒野、血の荒野にある洞窟、以前ニールに魔物の一掃を依頼し、そこにはもう魔物はいないはずである。が、ローグたちの報告どおり、1歩洞窟内につながる通路に足を踏み入れたエリーを待っていたのは、魔物たちの賑々しい様子。「ち、ちょっとどうなってんのよー?」
そおっと下まで降りると、岩壁から中の様子をうかがうエリー。
「以前よりたくさんいるような・・・・?」
そのあまりにもの数に驚くエリー。が、それと同時にエリーの六感がおかしさを感じた。
そう、これだけ集まっているのなら、異様なまでの魔の気配、邪気が充満していてもよさそうなのだが、それが全く感じられないということに。
そして、不思議に感じたエリーは、もっとよく中の様子を見ようとして足を動かしたとき、、うっかり足元の小石を転がしてしまった。
−カラカラカラ−
坂道を勢いよく転がっていく小石に、魔物たちはいっせいに洞窟の入口を見た。
「し、しまったっ!」
多勢に無勢。いくら腕がついたとはいえ、この数ではとてもではないが、太刀打ちできるかずではない。蒼白となったエリーは、彼らを見つつ、後退しようと足を後ろにおくろうとした。が、意外な言葉でその足も止まる。

「あれー?もしかしてあなたが噂に聞くエリーのあねさん?」
一番近くにいたフォールンがにこにことそう話し掛けてきた。
「は?」
通常魔物が人間の言葉を解するはずはなかった。ニールが召喚または、蘇生した魔物でもない限り。
と同時にどどどっとその場にいた魔物がエリーの近くにかけより、嬉しそうに目を輝かせる。
「え?な、なに・・・?」
攻撃する気配は全くないことは確かだが、彼らの行動が全く理解できない。大口を開け、呆然とするエリーに、彼女が見覚えのあるメイジスケルトンが魔物たちをかき分け、エリーの前に出ると、丁寧にお辞儀をして号令をかけた。
「きりーーーつっ!」
その号令にあわせて、ザッと一斉に魔物たちは直立不動の姿勢をとる。
「れーーーーい!」
そして、再び一斉にエリーに向かって深々とお辞儀をする。
「・・・・」
開いた口がふさがらないとは、ことことだろう。エリーは右手で彼らを指しながらまだ呆然としていた。
「な・・なんなのよ・・これは?」
「ちゃくせきー」
がちゃがちゃがちゃ、うほっうほっ、と音や声を立てて、その場に体操座りする魔物たち。彼らの姿は洞窟の奥の方まで続いていた。
「お初にお目にかかりやす、あねさん。一同を代表してご挨拶いたしますです。」
エリーを最初に見つけたフォールンがすっと立ち上がると、嬉しそうに言った。
「は、は〜・・・こ、こちらこそ・・・」
そのフォールンに答えながら、エリーは状況説明を求めるようにメイジスケルトンを見た。
「あ・・・・もしかしてあねさん、ご存知なかったとか?」
そのエリーの視線を受け、メイジスケルトンは、頭をかきながら答える。
「てっきりニールのおやぶんから話は聞いてるとばかり・・・」
「何?そのニールのおやぶんとか、話とかって?」
『ニール』というその一言で、エリーの動揺は、怒りに変わった。
「つまり、今のこの状態の原因はニールってこと?」
きっとその視線がきつくなる。どうもニールと聞くと、不思議と怒りが湧いてくるエリーだった。
「原因といえばそうなんですがね・・。」
「で、そのニールはどこ?ここにはいないの?」
「今ちょっと宝捜しに地下墓地へ数人と共に出張ってますよ。」
「ま、また墓あらししてるのー?」
「結構いいもんが出るもんで・・・えへへへ・・」
「で、あなたはついていかなかったの?」
「じゃんけんで負けてしまって、ここの留守番を頼まれたんですよ。人数が増えましたからねー・・・」
ぽん!と頭を叩くと、残念そうに苦笑いするメイジスケルトン。
「ふぅ・・・」
あきれて大きくため息をつくエリー。確かに通路の幅は2人分しかなかった、と思い出す。一応エリーも行ったことはある。ただ、・・そう何度も行きたいところではない。
「で、ここはどういうことなの?」
今一度洞窟内を見渡すと、今一度詰問するエリー。
「あ、あの・・つまり・・・」
「あっしら、全員ニール親分の子分ってわけでさぁ。」
いいにくそうにしているメイジスケルトンの代わりに、先ほどのフォールンがにこやかに答えた。
「子分って・・・、で、でも別に蘇生されて、じゃないわよね?」
確かにそこにいる魔物は、全員蘇生された状態ではない。ごく普通の状態である。
「そうでやすよ、あねさん。オレタチ全員、自分の意志でおやぶんに憑いたわけ・・・じゃなくて・・・突いた・・・い、いやそうじゃなくて・・・えっとー・・・着いたでいいんかいな?・・と、とにかく魔物サイドから人間サイドに来たっていうか・・・ん!そうそう、いわゆるアウトローってやつさ。」
ぽん!と拍手をうちとようやくたどり着いたその言葉に満足したかのように頷きながら、フォールンは得意げにエリーを見て、今一度繰り返す。
「魔界からのアウトロー!」
「アウトローって・・・・」
呆れ果てた顔でエリーは思わずそのフォールンを見る。
「つまり、ここにいる魔物たち全員人間側なんですよ。仲間に嫌気がさしてとか、ニールおやぶんやあねさんに憧れて、とか。」
「え?・・・憧れてって・・・?し、しかもニールだけじゃなく、あ、あたしにも?」
思いもかけなかったメイジスケルトンの言葉に、思わず大声を上げるエリー。
「そうですよ、あねさん。その容赦ない戦い振りが結構彼らの心をくすぐるらしいんですわ。」
「くすぐるって・・・」
魔物に好かれても少しも嬉しくはない・・エリーは、心底そう思っていた。
−ぼーーん、ぼーーん−
とその時、古めかしい時計の音が、洞窟内に響き渡った。
「お!いかん!1時間目の時間だ!」
「え?1時間目って?」
「おーーし、みんな第2教室に移るぞー!」
「はーい!」
「うおー!」
「ぐおー!」
十人十色の返事をし、魔物たちは立ち上がると洞窟の奥へと移動しはじめる。
「な・・なんなのよ、いったい?」
「1時間目は、『人間語』の時間なんすよ。不詳ながらあたしらスケルトンメイジが交代で先生をしております。」
「はー?」
「おお!そうだ!せっかくあねさんがいらしてくださったんだ。今日はあねさんにご教授願えれば最高です。喜びますよ、彼ら。そうですねー、ワンポイント日常会話の相手になってくだされば。」


「夢よ・・・夢に決まってるわ・・・・」
こんなばかばかしい夢など早くさめてくれないものかと思い、そう呟き続けるエリーの手を、メイジスケルトンはぐいぐいと奥にある広い空間へと引っ張って行った。

 


 ともあれ、誤解をよんでもいけないということで、早速、洞窟の入り口に看板とこんな注意書きが掲げられることとなった。

 『ニール組・魔物学級』
 『火の元及び総責任者・・・ニール・ザ・ネクロマンサー』
  *なつかれ注意につき、一般者の立ち入り禁止及び餌を与えないこと


 その数時間後、『学級委員長から責任者へ格上げ?・・・しかもいつの間にか、1年がなくなって、や○○屋さんみたいになっちゃってるし。』というエリーの嫌味を思い出しつつ、看板と注意書きをちらっと見たニールは苦笑いしながら、洞窟内へと下りていく。

 そして、そんなニールを迎えたのは、魔物たちの歓声と今や学級委員(?)となったシャーマンの言葉だった。
 「おかえりやす、親分。早速ですが、次の出入りの同行希望者リストです。」
   




[もどる]
 [つづき]


ニールとゆかいな仲間たち-Index】