[2]フラビーとウェイポイント



 翌日私はローグのみんなと朝食をすませ、後かたづけをした後一人で血の荒野、ブラッドムーアへ出てみた。そう、エリーは早朝食料調達の為数人の仲間とキャンプ地を後にしたから他にすることがない。

「そうよねー・・・周囲に気をつけていさえすれば大丈夫よね、ブラッドムーアなら。」
そう、洞窟へなど入ると強敵もいるけど、ここは血の荒野とよばれているほど危なくない。
ここを徘徊しているゾンビの動きは鈍く、のそのそ歩き回っているだけ。だから接近しない限り大丈夫。
それから、背中の毛が針と化した針ネズミ・・これは針を飛ばしてくるのでゾンビより要注意。なんにしろぼけ〜っと歩いてるわけにはいかないけど。

「あ!もしかしたら、あなた、フラビーさん?」
ブラッドムーアから次の区域?、コールドプレインへと続く小道に一人のローグが立っていた。ゲームをしたことのある私は、思わず声をかけていた。
「そ、そうだけど・・・あなた・・・?」
「あ、私、昨日の夜からキャンプ地でお世話になってる沙也香です。」
「ああ、あなたが遠見ができる子?」
「はい。あの、私フラビーさんに質問があるんですけど、いいですか?」
「あ、ええ・・いいわよ。」
彼女はコールドプレインの方角に注意を払いながら軽く笑った。
「あ、あのね・・・」
前から疑問に思っていたことを少し考えてから私は口にした。
「フラビーさんって、いつもここにいるでしょ?」
「ええ。」
「朝も昼も夜も。」
「そ、そうね。」
「食事はいつとってるの?交代は?ぜんぜん寝ないってわけないでしょ?」
「まーね。」
私の言葉に、フラビーは顔をしかめて考え始めたように思えた。
「おい!」
「え?」
フラビーに集中していた私はいきなり声を掛けられ驚いて振り向く。
「な、なんだ、ニールじゃない?脅かさないでよ?」
「余計なこと聞くなって。」
「え?余計なこと?」
「そ。」
「あ・・その、なんだ・・・フラビー・・今日も見張りご苦労だな。キャンプ地の平安のために頑張ってくれ。」
私に黙っていろ、というように目配せすると、ニールはフラビーに笑顔をみせながら彼女の功をねぎらい、その言葉に気をよくしたのか、彼女はにっこりを微笑を返す。
その微笑みから少し前の考え込むような表情は消えていた。
「じゃ・・オレたちは墓地に用事があるから通らせてもらうぞ。」
「え?・・ち、ちょっと・・・」
待って、まだフラビーにはいろいろと聞きたいことが、そう続けようとした私の腕をぐいぐい引っ張ってニールは先へと進んだ。

「ち、ちょっと待ってって言ってるでしょ?」
「まったく・・これだからド素人は・・・」
軽く睨むようなニールとその言葉に私は気を取られてその先の言葉を言い損なった。
「ド素人って?」
「だから・・・フラビーは人間じゃないんだって。」
「え?」
意外な言葉に私は目を丸くしてニールを見つめていた。
「まー、もとは人間なんだけどな?」
「どういうこと?」
「オレもここに来たばっかりだが・・・気になってな。」
くいっとあごで後方を指す。その先には小さくなったフラビーの姿がある。
「たぶん、アカラの力じゃないかと思うんだが?」
「アカラのって・・・じ、じゃー・・・」
「そうだ。キャンプ地を守りたいっていう意識が人一倍強いっていうか、責任感の強い女性だったらしいな。その気持ちが高じて死んじまった今もこうして強者が徘徊しているエリアとの境界に見張りとして立っているんだろ?」
「そ、それで・・・追って来ても魔物はフラビーを無視してこっちに向かってくるのね。いつ来てもそこにいるということも納得できるわね。」
私はゲームでのことを思い出していた。
朝だろうが、真夜中だろうが、そこに立っているフラビー。そして、まるで見えていないとでも言うようにフラビーを無視して通り過ぎる魔物たち。
「でも、よくブラッドレイブンみたいに魔に引き込まれなかったわね?」
「そうだな。生前の強い思いと・・アカラの力か?」
「ふ〜〜ん・・・・」
「な、なんだよ?」
にやにやとしてニールを見ていた私の視線に気づき、ニールはちょっと引き気味に話した。
「だってさ・・・・いいの?アカラにそんなことされてさ、ネクロマンサーとして?」
「う"・・・・」
渋い顔をしてからニールは続けた。
「いいんだって。あのばーさんは特別だ。それにオレみたいに
ンデッドを召喚できるわけじゃない。彼女の意思とアカラの力が偶然引き合ってああいう状態を作り上げたというか・・・・」
最後は独り言のようになってしまったニール。多少ネクロマンサーとしては面白くないようでもあった。


「あっ!ウェイポイント、発見っ!」
「なんだ、そのウェイポイントって?」
横を歩くニールが不思議そうに私を見た。
「だから、瞬間移動の装置よ。転移装置。」
「転移装置。」
「え?まさかニール知らない?」
「あ、ああ・・・魔法使いのテレポートくらいは知っているがな・・転移装置か・・これが?」
どうやら本当に初めて見るらしく、ニールは地面から少し突き出ている岩をじっと見つめていた。
四角い岩にはほぼそれいっぱいの円が描かれている。そして、その岩の四角形の二カ所の隅、対角線上に古ぼけた燭台がおいてある。
「足を踏み入れたら、いきなり見ず知らずのところへ飛ばされるってんじゃないだろうな?」
「ううん。そんなことないわ。
ゲームだとそれまで見つけ移動可能にしたウェイポイントのリストが出るのだが、実際(夢だけど)にはどうなんだろう?と考えながら私はその円形の真ん中に足を踏み入れた。
−ほわ〜〜〜−
その燭台に青白い炎が灯る。
「わー!やっぱり炎が点くんだ・・・・・どういう仕掛けなのかな?」
「・・・・・」
腰を落としてその炎の1つをじっと見つめている私にニールはにやっと意味深な笑みを見せた。
「な、なーに?」
「人間の魂だな。」
「え?」
ぎょっとして私は聞き返す。
「な、なんで?ど、どうして分かるの?」
「オレが誰なのか忘れちまったか?」
そうだ!ニールはネクロマンサー、死霊使い、この手の事に関しては敏感だった、と私は思いだした。
「誰が作ったかしらないけどな・・・・先人の遺物なのか、それともこの地へ先にきた高僧あるいは賢者とかいう知恵者の作ったものなのかはわからんが・・・」
「人間の魂って・・・それじゃ・・これって・・・人魂?」
びくっとして私は立ち上がりざま後ずさってしまう。
「まー、そんなところだ。」
いつの間にかその前に腰を落としていたニールは、そっと手を炎の上にかざした。まるで愛しい者を撫でるように。
「どうやら生前の罪の贖罪ってやつらしい。」
「え?罪?」
「こうして人に手を貸すことで、自分の罪を償って、新しい命として生まれ変わるんだそうだ。」
「ニール・・・話せるの?」
「ああ・・。しかし・・・誰だか知らねーが・・・頭も力も相当なもんだな。」
「そう・・ね。」
風もないのに前後左右にゆっくりと揺らめいている青白い炎。確かに気持ち悪い感じも受けたけど、ニールの説明で私はその気持ちが少し薄らいだ。
でも、ホントに誰がこんな装置を発明したんだろ?感心してしまう。
(バカね、沙也香、そんなに感心する必要ないじゃん?これ、夢んだし?)
「あっ!そうか!」
「何がそうなんだ?」
心の中の声に思わず叫んでしまった私をニールは怪訝そうに見ていた。
「あ、・・だ、だから・・・この装置を発明した人はすごいってこと。」
私の作り笑いがきいたのかどうかは分からないけど、ともかくニールはそれ以上追求してこなかった。
「で?これでどうするんだ?炎がついただけで何も変化しないじゃないか?」
「あ、そ、そうよね・・・・」
1、2秒そこの立っていれは、炎がつくと同時に転移可能なウェイポイントのリストが現れるはずだった。
(ゲームじゃないからリストってことはないのかもしれない?でも・・・夢ならリストが出てきてもおかしくない?)
そんなことを考えていた私の頭に不意にわき上がったある事実。思い出したその理由。
(しまったっ!キャンプ地内のウェイポイント踏んで来なかった!)
リストが出ないはずである。
「ニール、キャンプ地内にあるはずのこれと同じもの踏んできた?」
「いや・・・確かにこれと同じようなものは見たが、盛り土の上にあってな・・・ローグたちの特別な場所かなにかかと思って通り過ぎた。」
ガクッ!ニールだけでも踏んでいれば、という淡い期待は無惨にも消滅した。
「ニール、一度キャンプへ帰らない?」
「なんでだよ?せっかくここまで来たんだぜ?」
「いいから!ここからは強敵が多いのよ!私、そのつもりじゃなかったから、Tシャツにジーンズのままだし。」
「それTシャツとジーンズって言うのか?」
「あ、う、うん、そう。」
「そうだな、どう見ても防御力があるとは思えないからな。」
「じゃ、手っ取り早くタウンポータルの巻物で!」
「あ!そんなのもったいない!」
「へ?」
「いいから歩いて戻ろ。アイテムは大切にしなくちゃ。」
「お、おい・・そんなケチケチしなくても・・・・」
「だめっ!いい物を買う為に、節約できる物は極力節約するの!」
私は今にも袋から巻物を取り出しそうなニールの腕をぐいぐい引っ張って、来た道を戻り始めた。
          

「戻る」 [続く]


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