[3]帰り道は・・・?

 

 


 「ねー、だから、なんで蘇生した魔物は全部影みたいに灰色になっちゃうわけ?」
「んなことオレが知るかよ?」
「ええ〜?!知らないのぉ?それでもネクロマンサーなの?」
「うるせぇなー・・・・」
キャンプ地へ帰った私たちは、アカラが用意してくれた(正確に言うとローグたちに命じて用意させた)テントの中に入って話していた。
ゲームしていたときに疑問に思ったいろんなこと・・・これから起こるだろう事については聞くわけにはいかないけど、でも、今の状況で聞いても差し障りのないことをあたしはあれこれ聞いていた。
「・・・ったく・・だから人間なんて嫌ぇだ・・・とくにおしゃべり女は・・・」
「え?何か言った?」
立ち上がって外へ出るようなそぶりをしながら小さく呟いたニールに、私はすかさずつっこむ。
正直言うと、ほとんど聞こえなかったんだけど、ニールが何を言いたいのか分かったの。


ごろりと向こうを向いて横になったまま返事もしないニールに、あたしは仕方なく外へと出た。

ニールと話している内にすっかり日が暮れてたらしい。しーーんと静まり返ったキャンプ。所々にある松明の明かり以外何もない。
ローグたちもそれぞれテントの中へ入っているらしく、人影もない。
「夜って、こんなに暗かったんだ。」
最初の日は、遠見の占者か?の噂のせいか、みんなに囲まれ、一人外へ出ることはなかったから、じっくり周囲を見るのはこれが初めて。

「ニールは一緒じゃないのか?」
「え?あ、ええ。」
「そうか。一人であまり遠出するんじゃないぞ。夜は、奴らの行動も盛んになっているからな。」
「大丈夫。橋のこっち側にいるから。」
入口に立っている見張りのローグは、あたしの返事に、ほっとしたように、軽く頷いていた。


「わ〜〜・・・これぞディアブロワールドってとこね?」
その景色を眺め、あたしは酔いしれていた。
キャンプ地の横を小さな川が流れている。その川によって、キャンプ地側が安全地帯になっているといってもよかった。
彼らは川は渡っては来なかったから。
キャンプ地と血の荒野を結ぶ1本の橋、道はこれしかない。だから、もちろん、その橋はアカラの強力な結界が張ってあるわ。


あたしの前には、真っ暗な闇と、血色を帯びた月が写っていた。
その月の姿を映す水面は、月の光を反射して輝いている。
「これが黄色のお月様で、満天の星だったら、きれいな景色なのに。」
川の向こうは、魔物の住処。それを現すかのように、不気味な空気が漂っている。
その景色を見ていて、あたしの背筋を冷たい物が走った。
「そうよね、ディアブロワールドへ来られたなんて喜んでいる場合じゃないわよね。・・・なんとなく、これって、やっぱり夢じゃなくって・・・現実っぽい。」
−アオーーン!−
−びくっ!−
不意に聞こえた狼の遠吠えに、あたしの身体は大きくびくっと震えた。
「渚ちゃんみたいに、腕を折ってもらって夢かどうか確かめるのも・・痛くていやだし。」
あたしは、ネットで読んだ異世界ファンタジーを思い出していた。
「でも、ニールじゃないけど、訳が分からないことでじたばたしても、仕方ないのよねっていうか・・どうしようもないんだから。」
暗闇を見ながら、あたしは、大きくため息をつく。
「あっ!そうだ!CD落ちてないかしら?CDと雷がきっかけだったんだから、CD見つければ?」
不意にここへ来たときの事を思い出した、あたしは、思わず走り始めていた。橋に向かって。
「っと・・・・」
でも、橋のたもとであたしは止まった。
「行きはよいよい帰りは恐い〜〜〜♪」
思わずそんなフレーズが頭の中で円舞した。
目の前には、不気味な暗闇。数歩で渡りきれる小さな橋なのに、半分くらいしか見えない。まるで、その先は魔物の住処、地獄への入口のように思えた。

「あ、あした、ニールに頼んで、最初会った場所へ連れていってもらえばいいわよね?」
暗闇を見つつ、ごくんと唾を飲んで、あたしは、休むためアカラのテントへと向かった。


そして、翌日。
「な、なんでよ、ニール?」
「なんでって・・・どこで会ったかいちいち覚えてるわけないだろ?荒野はどこまでいっても同じような景色なんだし、広いんだぞ?」
「だって、普通、歩いた道順くらい覚えてるんじゃないの?」
「そういうあんたはどうなんだ?」
「あ・・・・」
ほらみろ、というようなニールの小馬鹿にしたような顔に、あたしはくってかかった。
「だ、だって、不意にこんなところへ来ちゃったのよ。気が動転して場所なんて確認していられなかったんだから、しかたないでしょ?」
「じゃ、オレも同じだ。奴らの洞窟を探してあちこち彷徨ってたんでな、途中、ゾンビなどとも闘う。いちいちどう通ったかなんて覚えてねーよ。」
「う・・・」
それもそうだ、と私は、それ以上抗議できなくなって項垂れた。
もう帰れないのかもしれない。たいていこういった場合、帰るには、来たときの状況と同じ状況が必要になるらしいから。ただし、お話の上でだけど。
だから、自然現象の雷はどうしようもないにしても、最低CDが必要だ、とあたしは思ったんだけど。
夢なら夢でいいし、だから、もし、夢じゃなかった場合にそなえて、出来ることはしておきたかったっていうか・・・・藁をも掴む気分。
例え、今しばらくディアブロワールドを楽しむにしても、帰りの道を、つまり、帰る手段は手にして置いたほうが気が楽なのに。


「まー・・なんだ・・・なるべくそれらしき方向へ行ってみてやるよ。」
すっかり項垂れてしまっていたあたしに同乗してくれたんだろうか、ニールは、大きなため息とともに、そう言ってあたしの前から立ち去っていった。


「え?」
そして、しばらくして再び姿をみせたニールはあたしに、ぽん!と袋を投げた。
「そのカッコじゃいくらなんでも防御力なさすぎだ。次のエリアは強敵が多いそうだからな。まー、ウエイポイントで転移するより、血の荒野で少し身体を慣らした方がいいだろう。」
「え?・・こ、これ?」
ガサガサッと袋を開けると、そこには初期装備一式(笑)、レザーアーマーとサッシュとブーツ、そして袋から突き出ているスタッフ。
「ニール・・」
「ったく・・なんでオレがガキの面倒までみなけりゃいけないんだ?」
ちらっとあたしを見て、ニールは本心から面白くないといった表情で呟いた。
そのせいで、お礼を言おうとしたあたしは、言葉が喉まできていたのに、そこで止まってしまった。
「なによ、あたしが頼んだわけじゃないわっ!」
カッと来て思わず口から出た言葉は正反対のそれ。
「なんだ、CDだか、光る皿だか知らんが、もういいのか?」
「あ・・・・・」
「とっとと着替えろ。ぼやぼやしてるとまたアカラがうるさいからな。」
ニールは捨てるようにそう言うと、すたすたと行ってしまった。

言い過ぎた、あたしはそう思いながら、Tシャツの上に、それらを装備した。
「な、なんか・・・いかにも冒険家って感じ?」
レザーアーマーにサッシュ、布製のブーツ。ヘルムはまだないけど、なんとなくわくわくしてしまった。
ロビンフッドかピーターパンの気分〜〜♪
少し浮かれていたあたしは、苦虫を噛み潰したようなニールの目と視線が会い、赤くなってうつむいた。


そして・・・

「あっ!待ってニール!そいつを倒すと血が・・・・」
「ん?何言ってんだ?倒さなけりゃ、いつまでたっても決着がつかないだろ?ここを突破しないと、墓地へ行けないんだぜ?」
「あ・・でも・・・・」
−ブシューーーッ!−
「きゃあっ!!」
そこはコールドプレインの一角。血の荒野でCDは見つからなかったあたしたちは、先に進んでいた。
そして、シャーマンの集団とニールは闘っていた。もちろんあたしは戦うなんてことはできない。少し離れて、シャーマンの飛ばす炎に気を付けながら、様子を見ているだけ。一応、ニールがスケルトンを一人ガードマンとしてつけてくれているけど、あまり離れると、今度は他の魔物に襲われかねないので、適度の距離を保っていた。

「あ・・・・あ・・あ・・・・・・・」
ゲームでは、何度となく見た光景。そこにいる緑色のシャーマン。ユニークモンスターという種類の魔物だけど、それを倒すと、周囲にものすごい勢いで血しぶきが、そして、内臓もろもろが飛び散る。それを知っているからこそ、安全地帯?まで離れてから倒してほしいと言おうとした矢先だった。
−バタッ!−
臨場感満点・・・迫力なんてものじゃない。やっぱりディアブロは、残虐シーンありマークゲーム?・・・ゲームでも、最初は、そのあまりにも見事な血しぶきとバラバラ状態に驚いたくらいだから・・・。
それを現実に目の前にし、あたしは気を失った。
          



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