銀の守護聖 
別世界・もう一つの物語(16)
 

**今度こそ離さない**

 「ここが、お嬢ちゃんの愛した国か・・。」
オスカーは今、一人、見知らぬ星へ降り立っていた。
そこは、セクァヌの生まれた星。彼女が育ち、そして駈けぬけたところ。
町を一眺めにできる小高い丘から、オスカーはその様子を見つめていた。

 国を興し、平和にすぎた年月。が、再び大陸は揺れ、その中の小さな国にすぎなかった彼女の国は、恐怖した。が、そこへ国を興した族長であった姫が帰ってくる。神に愛され、生身のまま神の国へ召された銀の姫、銀の聖少女。近隣諸国は銀の姫の元に集まり、侵攻せんとした大国に対抗した。
そうして、長い戦さの後、勝ち取った勝利。そして、大陸は一つの共和制国家となった。

平和となったその大陸には、女王神殿を中心に、9つの守護聖神殿が建てられていた。その中の一つ、炎の神殿へとオスカーは向かっていた。
そこには、戦の女神とも呼ばれ、平和になった後年、炎の神殿の巫女長として生きた銀の巫女の生まれ変わりだと言われている少女がいるはずだった。

『いつか私はまたこの地へ生まれ変わります。このイヤリングを手にして。そうしたら、炎の神殿へ私を預けてください。そこで私は待つのです。炎の守護聖のお迎えを・・。』
銀の巫女、セクァヌが亡くなってから数十年、アイスブルーの石を抱く銀製のイヤリングを握り締めて生まれてきたその少女は、銀の巫女の残した言葉に従い、生まれるとすぐ炎の神殿へ預けられ、そこで育てられた。

その日、もうすぐ18歳になろうというその少女は、神殿の中庭で花を摘んでいた。
−カツ・・・−
オスカーは少女の姿を見つけると馬を下り、しばらくその後ろ姿を見ていた。
陽の光を浴び、ところどころ黄金色に輝く銀色の髪の少女。その片方の耳にはあのイヤリングがあった。オスカーが自分の左耳につけているものと同じイヤリングが。
「お嬢ちゃん。」
オスカーのその声に少女の肩がびくっと震えた。
ゆっくりと振り向いた少女の瞳は、髪と同じく陽の光をはじき、金色に輝いている。オスカーはその瞳を見て間違いなくセクァヌだと確信する。
そして、オスカーの姿を一目見るなり、少女も確信する。この人が自分の魂の求める人、自分の愛する人だと。

「待たせたな、お嬢ちゃん。迎えに来たぜ。」
最高の笑みをみせオスカーは腕を広げる。
「オ・・スカー・・様・・・・」
消え去っていた記憶から、たった一つ、会ったその瞬間に湧き上がったように思い出した名を少女は呼ぶ。
「お嬢ちゃん。」
−パササッ・・・−
両手で花を抱えていたことも忘れ、少女はオスカーに走り寄り、甘い花の香りの中、オスカーの腕の中へ飛び込む。
「今度こそもう二度と離さない。・・・愛してる、オレのお嬢ちゃん。」
少女の存在を確かめるように、オスカーは彼女をぐっと抱きしめて口づけをした。


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