銀の守護聖 
別世界・もう一つの物語
エピローグ(1)
 

**夢見の石**

 「陛下、いろいろとご配慮感謝致します。」
セクァヌをその胸に抱き、オスカーは聖地へ戻ってくると、すぐさま女王アンジェリークに面会を求め、丁寧に礼を言った。
アンジェリークは目をとじ首を振ってから、微笑みながら答えた。
「当然のことです。」
「それでは私たちはこれで。」
礼をとり、謁見の間を後にしようとする2人にロザリアが声をかけた。
「オスカー様、申し訳ないのですが、セクァヌと少しお話が。」
「は?」
扉の方に戻りかけていたオスカーが振り向きざま何事かと聞く。
「よろしいでしょう、セクァヌ?」
アンジェリークはセクァヌに聞く。
「ええ、もちろんです、陛下。」
「じゃー、そういうことで、少しの間お借りしていきますね、オスカー。」
「あ・・・しかし・・・」
女王の言葉に逆らえるわけはないし、逆らう理由もない。
すぐにでもその胸に抱きたい気持ちを抑え、まずは挨拶に出向いた。その挨拶も終わりようやく2人になれる・・・と思ったオスカーの期待が音を立てて崩れ去り、オスカーは2人とそこを後にするセクァヌの後ろ姿が廊下を曲がって消えるまで見つめていた。


「実はこれをあなたに差し上げようと。」
別室、共にテーブルにつき、アンジェリークがセクァヌに差し出したのは、蝶のシンメトリーの飾りのついた七色に輝くこぶし大の石。
「これは?」
それを手にし、セクァヌは聞く。
「本当に受け取るかどうかは、あなたが決めてくださいね、セクァヌ。」
「なんなのでしょう?」
ただ綺麗な石だけではないと思われた。
「それは、あなたの前のセクァヌの記憶を封じ込めた石なのよ。」
ロザリアがお茶をすすめながら言った。
「前の・・・セクァヌの?」
「ええ、そうなの。お節介かもしれないとは思ったのだけど、その石は、夢見の石といわれて、夢を見させてくれる作用があるらしいのです。といってもそれ自体はそんな大それた力はありません。その石は特別に私が夢の守護聖オリビエのサクリアを使い封じ込めたものなの。」
じっとセクァヌを見つめながらアンジェリークは話す。
「ただ、彼女の過去を知ると言うことは・・・とてもつらいものがあります。ですから、その記憶を受け取るかどうかは、自分で決めてください。」
「は・・・・い。」
セクァヌはしばらくその石を見つめて考えていた。

そして、決意したかのように話し始めた。
「私はその方の生まれ変わりだと言われ、生まれてすぐ炎の神殿へ預けられました。いえ、その事については別にどうと言うことも感じておりません。でも、そこで私の前世と言われるセクァヌのことはいろいろ聞いたり調べたり致しました。戦の女神、勝利の女神、聖なる巫女、生身のまま神に召され愛された聖少女、いろいろ、呼び名がございました。その生い立ちなども、知識の上だけですが、知っています。それと比べ、神殿の奥深くで育った私にはこれといったことは特になく、ただそのセクァヌのようにと、学問や剣などを学んでおりました・・・」
今一度考えてからセクァヌは、アンジェリークとロザリアに言った。
「もしかしたら、今のままだと私は、前世の私の影の前に卑屈になってしまうか・・・あるいは嫉妬してしまうかもしれません。」
「セクァヌ。」
心配げな2人にセクァヌは微笑んで言った。
「それに、そうすることによって今の私がなくなるわけでもありません。記憶の融合ということですわね。」
「ええ、そうよ。」
セクァヌは丁寧にお辞儀をすると言った。
「女王陛下のお心づくし、ありがたく受けさせていただきます。」


「オリビエ!」
それから3日後。宮殿の中庭でくつろいでいる夢の守護聖、オリビエのところへ何やら険しい表情でオスカーが近づいた。
「どうかしたのかい、オスカー?」
「『どうかしたのか』ではない!」
きつい視線でオスカーはオリビエを睨む。
「なんだっていうのさ、オスカー?」
「もう3日も経っているんだぞ?」
その言葉をしばらく考え、オリビエは、はっとしたようにオスカーを見る。そして、くくっと笑った。
「何がおかしい?」
「そっか・・・眠り姫がいつ起きるか気が気じゃないわけだ?」
「オリビエ!」
笑っているオリビエをオスカーは睨む。
「まさかこのまま眠りっぱなしというわけじゃないだろうな?」
「まさか?!」
少し怒った顔でオリビエはオスカーをにらみ返す。
「この夢の守護聖、オリビエ様の力を封じた石だよ?悪い事には絶対ならないよ!」
「そーかなー・・・もしかして目覚めたらオリビエ様を好きになってたとかだったりして?」
ちょうど側を通り、2人の言い合ってるのを耳にしたゼフェルが意地悪そうに言った。
「おい!」
冗談だとは思いつつも、オスカーはその言葉に反応してゼフェルからオリビエに目を移し睨む。
「な、ないに決まってるってるじゃないのさ!」
オスカーの怒りの顔に、オリビエは焦って弁解する。
「ゼ、ゼフェル・・・ちょっとその冗談きつすぎだよ。ただでさえお姫様がなかなか目覚めなくていらいらしてんだから。」
「あ・・・悪ぃ・・・」
オリビエに小声で言われ、頭をかいてゼフェルも反省する。
「ごめん・・オスカー様。」
「あ、ああ・・・まー・・・オレも・・すまん、オリビエ。」
オスカーはいかにもばつが悪そうにオリビエに謝る。
「ああ、いいって気にしないよ。」
「で、それはいいんだが・・・」
言いにくそうにオスカーが聞く。
「ホントにもう目覚めてもいいはずなんだけどねー・・・起こしてはみた?」
「名を呼んではみたが起きなかった。何か特別な起こし方でもあるのか?」
「ん?・・・起こし方ね〜・・・」
オリビエがにやにやしながらわざと上をむいてとぼける。
「オスカーらしくないね・・そんなこともわからないほど熱くなってんの?」
「オリビエ!」
いらついているオスカーに、オリビエはいたずらっぽく笑いながら答えた。
「昔っから決まってんじゃない?お姫様を目覚めさせるのは、王子様の口づけってさ!」
「!」
オスカーは、オリビエとゼフェルのにやついた顔に、一応平静を装って、急ぎ足でそこを後にした。
オスカーの姿が中庭から消えたとき、オリビエとゼフェルの楽しそうな笑い声がしばらくの間響き渡っていた。


「お嬢ちゃん・・・」
オスカーの優しい口づけを受けて、ベッドの中のセクァヌは静かに目を開ける。
「オスカー様・・・・」
目の前に愛しい人の顔を見、セクァヌの瞳から涙がこぼれ落ちる。
「お嬢ちゃん、何を泣く?ん?」
そっと涙を指でぬぐい、オスカーは頬に手を添え見つめる。
「ありがとうございます、オスカー様。」
「オレの方こそ・・・待たせたな。」
そこにいたのは、確かにセクァヌだった。新しい肉体に以前の記憶も蘇り、確かにオスカーの愛したセクァヌがいた。
「いいえ、勝手な事ばかりして・・」
「そう言えばそうだったな。」
思い出したように悪戯っぽく笑ったオスカーは、セクァヌを抱きしめながら言った。
「お礼はたっぷり払ってもらうことにしよう。」
「え?・・オ、オスカー・・様?・・・・ま、待って・・オス・・カー・・・」

・・・まー・・・とにもかくにも、めでたしめでたし・・・。


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