銀の守護聖
別世界・もう一つの物語
エピローグ(2)
 

**銀の飛翔、再び**

 −カカッ、カカッ、カカッ−
聖地の森を馬で飛ばしながらオスカーは平行して馬を駆っているセクァヌを見つめ、そして思い出していた。


「お嬢ちゃん・・馬も乗れるのか?」
「ええ、剣も使えます。少しですけど。」
オスカーの激情が落ち着いたその日、バルコニーでコーヒーを飲みながら、聖地へ戻ってから初めてゆっくりと2人は話し合っていた。
生まれ変わる前のセクァヌと生まれ変わったセクァヌの記憶は融合し、彼女は以前と少し異なった雰囲気をかもしだしていた。もっともそう感じるのは、彼女が目をしっかりと開けているせいだったのかもしれなかった。光に弱く、閉じていることが多かったその瞳は、本来の健康を取り戻し、そのまま大粒の瞳を輝かせていた。
「生まれ変わりなのかどうか私は実感できませんでしたが、ごく自然に自分自身が求めてました。剣も乗馬も・・それ以外の事も。」
「そうか。だが、その銀の髪は?」
「前のセクァヌは生まれたときは黒髪だったのですが、私はこの銀の髪を持って生まれました。おそらくオスカー様がご存知の私がそうだったから・・ではないでしょうか?」
にっこりと笑って答えるセクァヌのその微笑みは、守護聖であったときと変わらない静かな安らぎをもたらす微笑み。
「が、傷跡はきれいになくなってるな。当たり前といえば当たり前だが。」
生まれ変わりということは、新しい肉体に魂が宿るということ。新しい肉体に傷は受けていない。目と同様に。
「それも結構気に入ってもいたんだが。」
「そ、そうだったんですか?」
オスカーはセクァヌの全身に視線を流した。
ジフィードを生まれ故郷の星で産み育てた期間、時の流れの差で、オスカーとセクァヌの歳の差はなくなったはずだった。が、生まれ変わったおかげでまた元に戻っている。いや、単に年齢差でいけば、前のセクァヌより差は開いている。
「オスカー様?」
オスカーの視線を感じ、セクァヌは頬を染めながら、オスカーの返事を待つ。
「ああ。が、やはり傷跡のない今のお嬢ちゃんが本来の姿なんだろうな。」
たまらなく愛しさを感じ、オスカーは微笑みながら答える。
「オスカー様・・」
「『様』はいらない。」
「・・でも・・・」
「オスカーでいい。」
そっと顔を寄せ、オスカーは唇をセクァヌのそれに近づける。

「かあさまっ!」
と・・・そんな甘いムードのところに、少年の声が飛び込んだ。
ぎょっとして声の方を見る2人。
「ジ・・・フィード?」
「かあさまっ!」
生まれ変わったセクァヌには全く覚えのないことだが、確かにその記憶はある。
「ジフィード!」
「かあさまっ!」
駆け寄り、ぎゅっと抱きしめる。
「お帰り・・なさ・・い、かあさま・・・かあさま・・・・」
首に抱きつき、泣きながら言うジフィードをセクァヌはしっかりと抱きしめた。
「ただいま、ジフィード。もうどこへも行かないわ。」

断腸の思いでジフィードを女王に預け、聖地を去ったあの日のことを、セクァヌは思い出していた。どんなに愛しくどんなに自分の手の中にいれておきたかったか。が、ジフィードは闇の守護聖であり、そして自分は明日の命をも保証のない戦場へ出なければならない。別れを告げたとき、泣き叫ぶことも忘れじっと自分を見つめていた幼いジフィードのアイスブルーの瞳を忘れることはなかった。

そして3人は共に同じ屋敷に住むこととなった。
しかも、セクァヌが聖地に住む名目は、女王直属の近衛長。やはりセクァヌはセクァヌ、何でも控えめに言うセクァヌの言葉は決してそのまま受け止めてはならない。乗馬もその剣の腕も前のセクァヌと少しもひけをとってはいなかった。それはとりもなおさず、彼女が確かにセクァヌ自身であるということを物語っていた。


−カカッ、カカッ、カカッ−
「オレのお嬢ちゃん。・・いや、セクァヌ、オレのレディ。」
彼女を見ながら、オスカーは思わず小さく口にしていた。
以前と変わらぬその銀の瞳と銀の髪。疾走する馬上で踊るその様は、長い間待ち望んでいたもの。再び手にした宝物。・・愛しい女性。


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