銀の守護聖
別世界・もう一つの物語
エピローグ(3)
 
 

**恋敵(?)は息子**

 その日は、タイミング悪かったなんていうものではなかった。悔やんでも悔やみきれない失態をオスカーは犯してしまった。

「どこへ行くのかな?茶色の髪のかわいいお嬢ちゃんたち?」
オスカーにとってはいつもの事だった。だから公園でみかけた少女らに気軽に声をかけた。
「あ、・・オ、オスカー様。」
共に17、8歳くらいのその2人の少女はとたんに頬を染め、心をときめかせてオスカーを見つめる。その幸運に感謝して。

ここ聖地には、女王や守護聖らだけでなく、女官や使用人、そして王立研究員の研究員らがその家族と共に暮らしていた。だから、子供もいれば、老人もいる。そして、年頃の少女や女性から絶対的な人気がオスカーにはあった。セクァヌを迎え、ジフィードという息子ができてもその人気は変わらなかった。それはハンサムだということも確かだが、ひとえにオスカーのこのサービス精神の賜物でもあるのだろうと思えた。
セクァヌもそのことは気にはしていないらしい。ただし自分の目の前でそうされるとどうなのかは・・・未だその状況に遭遇したことがないので、分からない。
最も、それもそのはず、ようやく手に入れたセクァヌ。だから、彼女が傍にいるときは、誰も目に入らない状態らしい。

が、その日、その時、セクァヌは女王アンジェリークとロザリアに彼女たちのお茶会に呼ばれ、傍にいなかった。そして、思いもかけない人物にその場面を見られてしまった。
その人物とは誰あろう、ジフィード、オスカーの息子。

「オスカー様・・・あ、あの、こ、これ・・・」
その少女は手にしていたリボンをかけた紙包みをオスカーに差し出す。
「ん?オレにか?」
「は、はい・・・」
中身はクッキーらしかった。
「悪いな、せっかくのお嬢ちゃんたちの気持ちだ。ありがたくもらっておくぜ。」
「きゃーー!」
少女2人は大喜び。公園で待っていたかいがあったと手を取り合って喜ぶ。
「あ、あの・・・もしよろしいのでしたら、お茶をご一緒していただけません?」
はにかみながら、勇気をだして申し出る少女に、オスカーはにっこり笑って答える。
「お嬢ちゃんたちさえよければ、オレは一向に構わないぜ。そうだな、お礼にケーキでもおごろう。」
「ええー?い、いいんですか?」
「勿論。」

とその時、きつい視線が自分に向けられていることに気づき、その方向を見る。
その少女たちの後ろ、そこでオスカーをこれ以上ないというほどきつい視線で睨んでいたのはジフィード、闇の守護聖であり、彼の息子だった。

「お、おい?」
オスカーが声をかけた途端、ジフィードはくるっと向きをかえ走り去っていった。
「なんだ?」
女心はわかるが、たとえ自分の息子でも男心(少年心)は分からないらしい。そうたいしたことはないだろうと判断し、オスカーは少女達とその場を後にした。

そして、夕刻屋敷へ帰る。
「お帰りなさいませ。」
お茶会から先に戻っていたセクァヌが迎えに出る。
「ただいま。」
そう答え、セクァヌにキスをしようとしたときだった。
「かあさまに近づくなっ!」
突然大きな声で怒鳴られ、オスカーはびくっとしてその寸前で止めた。
勿論セクァヌも驚いて声の主を見る。
「ジ、ジフィード?」
彼は剣をオスカーに向け睨みつけていた。
「どうした、ジフィード?」
「聞こえなかったのか?早くかあさまから離れろ!」
「は?」
「どうしたんだ、ジフィード・・」
ジフィードを抱き上げようと手を差し伸べるオスカーに、ジフィードは本気で切りかかった。
「おおっと・・・」
が、そんな剣で切られるオスカーではない。軽くかわしたが、その代わりセクァヌとの間に間ができた。そこにジフィードは立ち、再びオスカーをきっと睨む。
確かに以前からあまりオスカーにはなついていないように思えた。セクァヌがいなかったときは、女官付きで闇の守護聖の屋敷に一人で住んでいたのだし。
「ジフィード!」
ジフィードをたしなめようとするセクァヌに、彼は依然オスカーを睨みながらきっぱりと言った。
「かあさま、こんな奴にだまされちゃだめだ。ぼくと一緒に屋敷へ帰るんだ。」
「え?」
「おいおい、ジフィード。ここがお前の家なんだぞ。お前とかあさまととうさまの。」
にっこりと笑いながら差し出したオスカーの手をぱん!と払うと再びジフィードは言う。
「お前なんかには、絶対かあさまを渡さないぞ!かあさまはぼくのなんだから・・・ぼくのかあさまなんだからな!」
「は?」
「女の子なら誰でもいいお前なんかにはぜったい渡さない!」
ここで初めてオスカーは、公園での事を思い出した。もちろん、セクァヌには容易にそれが想像できた。
「ジフィード、いいの。とうさまはそういうつもりじゃないのよ。」
「かあさまっ!」
そしてセクァヌに飛びつくようにして抱かれる。
「かあさまはぼくが守る。お前なんかには絶対渡さないぞ!」
セクァヌに抱かれた格好で、きっと睨んで剣をオスカーに向けるジフィード。オスカーと同じアイスブルーのその瞳は、子供とはいえ、結構きつい視線を放っていた。
セクァヌとオスカーは思わず目を見合わせて呆然とした。
男の子にはこういう時期があるらしいとは聞いた事があった。だが、これほどだとは思わなかった。
「あ、あのね、ジフィード、よく聞いてちょうだい。」
説得しようとしたセクァヌの頬にキスをすると、いかにもオスカー譲りだと思えるような口調でジフィードは甘く囁くように言った。
「大丈夫、かあさまは何があってもぼくが守ってあげるよ。ぼく、男の子なんだし、女王陛下にお仕えする守護聖なんだよ。だから、心配いらない。一緒に帰ろう。かあさまは、ぼくだけのものだよ。」

その日からジフィードのガードはものすごいものとなった。オスカーが少しでも声をかけようなら飛んできて間に入る。しかも、そのかわいらしいナイトにセクァヌは全く逆らえなかった。
屋敷を移っただけではすまず、夜もジフィードはセクァヌを離そうとしない。執務時間以外はぴったりとくっついている。
「ごめんなさい、オスカー。時期がすぎれば落ち着くと思うんですけど・・・」
セクァヌに頭を下げられてはオスカーもきついことが言えない。

かくして、平穏な聖地、ともすれば特にこれといったニュースもないそこでの守護聖らの間での退屈紛れにちょうどいい、それは面白おかしい話のタネとなった。
「今日もかあさまのガード、がんばれよ、ジフィード!」
「はい!」
ゼフェルから声援も受け、返事も元気一杯に、ジフィードは今日も張り切ってオスカーを蹴散らす。

「そのうちとは一体いつなんだ?」
気に入ってるセクァヌとの遠乗りも、もうずいぶんしていないような気がしていた。当然のごとく、彼女に触れてもいない。
オスカーは、窓から夜空を見上げてため息をつくと、一人ベッドに入った。


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